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西川善司のE3ゲームグラフィックス講座(前編)
物理シミュレーションの活用トレンド「ノンリニア破壊」

7月14~17日 開催(現地時間)

会場:Los Angeles Convention Center

 開催そのものが危ぶまれていたE3だったが、無事閉幕した。

 関連イベントの併催や周辺業界や関連業者の参加などが相次ぎふくれあがりすぎたE3は、昨年(2007年)より意図的に規模を縮小させ、サンタモニカ市内のホテルと飛行場倉庫跡のような場所で開催した。しかし、来場者や出展者からの要望もあって、今年はE3にとって古巣ともいえるロサンゼルスへと帰ってきた。ただし、規模は昨年のサンタモニカと同程度。華やかさは全くなく、通常の商談イベントとなってしまった感はあるが、これまでの長いE3の中で最も取材自体はしやすかったように思う。

E3開催中にしてロサンゼルスコンベンションセンターの広告横断幕は皆無!
参考までに大規模開催E3としては最後の年となった2006年のE3のコンベンションセンターの様子

 さて、余談はこれくらいにして、毎回、大型ゲーム関連イベントのあとでは恒例の、筆者の独断と偏見に満ちたE3ゲームグラフィックス・ツアーをお届けしたいと思う。


■ ノンリニア破壊の波、来たる
  物理シミュレーションのわかりやすい見せ方

 個人的に、今年のE3で出展された3Dゲーム関連技術で流行のテーマと感じたのは「ノンリニア破壊」だ。

 ゲームにおいて何かを撃破したとき、爆炎と爆煙が表示されて敵がバラバラに飛散するアニメーションに移行する光景を目の当たりにするが、どの部位にどんな角度から攻撃を命中させても破壊アニメーションは代わり映えがしないものは多い。これはあらかじめ仕込んでおいた破壊アニメーションを再生しているだけだからだ。こうした、決まり切った破壊の展開は「リニア破壊」と呼ばれる。

 一方、対象オブジェクトへの攻撃が部位を破壊し、最終的にはそのオブジェクトがその構造を維持できなくなって破壊してしまうような仕組みを実装した破壊モデルは「ノンリニア破壊」と呼ばれる。

 現実世界での破壊は言うまでもなくノンリニア破壊だ。このノンリニア破壊をコンピュータゲームに実装しようとしている動きが最近強くなってきているのだ。このノンリニア破壊をゲームで再現するためにはリアルタイム物理シミュレーションが必要になる。

 3Dゲーム内での物理シミュレーションは多様な処理方法があるが、衝突を取って力学計算をして次の運動を算出するというのが基本的な流れになる。3Dゲームの場合は、衝突モデルをどう取るかによって負荷は変わるが、いずれにせよ、衝突判定計算の最小単位は3D座標単位とするのが一般的だ。あるオブジェクトの運動が他者に及ぼす影響についての計算は、(もっとも何も考えない実装だと)そのシーンに登場する衝突モデル同士の総当たり計算となるため計算量は膨大だ。この膨大な同時多発的な計算をするのに向いているとされているのがマルチコアCPUなのだ。

 Wiiを除く今世代のゲーム機のPS3、Xbox 360のCPUはどれもマルチコアCPUであり、今やパソコンはノートPCですらマルチコアCPUが搭載されるのが当たり前になっているほど。こうしたハードウェア動向もあり、各ゲームスタジオの実力派達は、この物理シミュレーションを使った面白い表現について積極的に取り組み始めたようなのだ。

 その「面白い表現」として開発者達が盛んに取り組み始めているのが「ノンリニア破壊」というわけなのである。

 実際の実装は、本当のノンリニア破壊ではないものが多く、事前に仕込みを必要とする。多くの実装では、事前にそのオブジェクトを構成するパーツをできるだけ理にかなった形で分解して作成し、それをゲームエンジン側でダメージパラメータを持った仮想的な接着剤でくっつけて登場させる。中にはそのオブジェクトの破壊レベルごとに複数モデルを用意したり、破壊される部位を限定したりといった負荷低減のための手抜きを併用する場合があるが、いずれにせよ完全なノンリニア破壊ではない。しかし、見せ方を工夫することでプレーヤーにノンリニア破壊を感じさせるビジュアルとしているタイトルが今回のE3ではいくつか登場していたのだ。


■ 「Red Faction: Guerrilla」
  現状、最上級のノンリニア破壊表現

 今回のE3出典タイトルで、このノンリニア破壊を、かなりの本気でゲームに実装してきたと感じたのはTHQ傘下のVolitionが開発した「Red Faction: Guerrilla」だ。

 「Red Faction: Guerrilla」では登場するほぼ全ての3Dオブジェクトが破壊可能で、それは木箱や机のような大道具オブジェクトレベルではなく、家屋、基地、橋、地形といった、いわばゲーム世界そのものの破壊に対応している。まずは、こちらのムービーを見て欲しい。

【プロモーションムービー】
[WMV形式: 52.7MB 2分20秒] ZIP圧縮
※クリックするとダウンロードが始まります

 3Dオブジェクトの分割粒度がかなり細かいことがまず直感的にわかる事実。そして、ムービー中の解説でも言っているように、重量と重心に配慮して崩壊するシステムになっているところも興味深い。つまり、ある部位を破壊したとしても、その他の部位が3Dオブシェクト全体の重量を支えられたり、あるいは重量バランスを崩さずに状態維持ができるならば、そのまま静止していられるということだ。逆に重量バランスを崩すような部位破壊を行なうと最低限の破壊活動で対象物の破壊を発動できるということでもある。

 ゲームの舞台は22世紀の火星で、主人公は反体制側のゲリラ、テロリスト。ゲームシステム的には「Grand Theft Auto 3 (GTA3)」タイプの、オープンフィールドを動き回ってミッションを遂行していくタイプになる。ミッションとはゲリラ活動……具体的には破壊活動で地球連合軍の重要施設などを破壊していく内容になる。

ノンリニア破壊を爽快感だけでなくゲーム性に結びつけた「Red Faction: Guerrilla」

 注目すべきは、ゲームシステムが実装しているノンリニア破壊システムが、この作品のゲーム性に深く関わっている点で、敵を建物ごと押しつぶしたり、敵部隊が渡っている橋を敵部隊もろとも破壊したり……といったことができる。破壊目標や撃退対象物は指示されるが、その破壊方法や作戦はプレーヤーに委ねられるているのだ。

物理シミュレーション部分だけでなく3Dゲームグラフィックスのレベルも高い

 3Dゲームと物理シミュレーションの関係において、最初期はエフェクトとして物理を利用していた。飛び散る破片が跳ね飛んだり、吹っ飛んだ敵が背景オブジェクトにぶつかったり……といった類の活用だ。続いて出てきたのが、物理シミュレーションをゲーム性に取り込んだ作品だ。このタイプの初期作品といえば「Half-Life2」(2004年、VALVE) が思い起こされる。あの頃は静止している複数オブジェクトに連鎖破壊を起こさせたり、重りでバランスを揃えたりする天秤シーソーパズルだったり……と今から思うとテーマは地味だった。当時はあれはあれで楽しかったのだが、「Red Faction: Guerrilla」では、この時よりもう少し進んだものになっているといえる。

 「Red Faction: Guerrilla」のノンリニア破壊システムは、Volition自らが約4年の月日をかけて開発したゲームエンジン「BLAST TECHエンジン」によって提供されているとのこと。ただし、破片となった瓦礫の挙動などを司る基礎の剛体物理シミュレーションには「Havok4.5」を採用している。受けたダメージによる破片への分解や、建造物のバランスや耐久力計算といった、上層のノンリニア破壊制御は「BLAST TECHエンジン」の方で行なわれている。

 その3Dオブジェクト構造を……あるいはゲーム世界そのものを大規模に破壊するといったド派手なテーマの実装は、技術とハードウェアの進化を直接、視覚体験に置き換えてユーザーに届けられるため、やり甲斐もある。

 「Red Faction: Guerrilla」が成し遂げたノンリニア破壊のゲーム性への結びつけは今後、流行するかもしれない。

「Red Faction: Guerrilla」はPS3、Xbox 360、PC向けに2009年前半発売予定


■ 「Empire Total War」
  RTSの戦闘にノンリニア破壊を?

 まじめなノンリニア破壊に取り組んでいる好例として「Empire Total War」も忘れることができない。今回のE3では、海戦のプレイデモのみが公開されただけであったが、そこにはノンリニア破壊とゲーム性の新しい融合の形を垣間見ることができたからだ。

海面の波、船の浮き沈みまでリアルタイム物理で
 「Empire Total War」は大航海時代から産業革命時代までの世界を描いたリアルタイムストラテジー(RTS)ゲーム。というと、「Age of Empires」系の、よくあるRTSに思えるが、「Empire Total War」では他のRTSのように戦闘が単純な攻撃と防御のパラメータ計算だけでは決定されない。船の材質、搭載武器、乗っている船員などの戦闘パラメータは持つが、実際の戦闘計算はなんとリアルタイムの物理シミュレーションベースで実行されるというのだ。

 まず、海面の波の制御は水深の深い海洋波動シミュレーションを実行して生成し、その波によって船は揺れ、風に従って船は進む。そして、各軍船の搭載兵器から撃ち出された砲弾は敵船に命中すれば、実際にその船体に穴を開ける。海面の波がその穴よりも高いときには、その穴から船体に浸水する。船体も簡単にだが船倉が再現されており、浸水度は船倉単位で計算される。船体の浮力は、船体の喫水下表面に掛かる水の圧力と船体質量との差で算出されるが、これを船体の浸水度に配慮してリアルタイムでちゃんと計算しているのだという。つまり、軍船ユニットが攻撃によってノンリニアに穴があき、ノンリニアに破壊され、ノンリニアに沈没する様を目の当たりにできるというわけだ。

船体の壊れ方、沈み方はそれぞれダメージの受け方によって変わってくる

 実際に行なわれたデモでは砲弾が開けた穴から浸水しそれぞれの軍船が異なる壊れ方で破壊され、また沈み方もそれぞれ違っている様が示された。また、帆に穴があき、マストが折れるといった表現も見られ、さらには火炎弾の場合はマストや帆に火が付き船体が燃え落ちて沈んでいく様子も公開された。

 そして、「Empire Total War」での戦闘における軍事ユニットのノンリニア破壊の多様性にさらに大きな影響を与えているのが、その戦闘が「軍事ユニット単位」でなく、「人間ユニット単位」で行なわれるという点だ。

 敵味方の軍船ユニット同士が近づくと互いの船にハシゴやロープをかけて互いの船に乗り込み、船上の船乗り同士が戦闘を開始するのだ。「パイレーツ・オブ・カリビアン」の映画のクライマックスの船上での戦いを思い浮かべればイメージしやすいだろう。敵船に乗り込んだ船員は、敵船員を殺したり、または敵船の破壊活動も行なったりする。いうなれば「Empire Total War」では、船体の破壊だけではなく、戦闘システムそのものも、単純な軍事ユニットの戦力だけでは割り切れないノンリニアシステムを実装しているという感じだ。

海戦でも「人対人」が戦闘処理の最小単位

この時代、船が燃えたら絶体絶命
 「RTSというジャンルではやりすぎなのでは?」というくらいのこだわりが「Empire Total War」の戦闘システムには見られるわけだが、これはグラフィックスだけがリアル3D系になったのにゲームシステムは長らく2D時代と変わらぬRTSゲームへの、開発元The Creative Assemblyスタジオなりの問題提起といったところだろうか。

 プラットフォームはPCのみを予定。発売は2009年2月ということでまだ先だが、完成が待ち遠しい。


■ 「Mercenaries 2: WORLD IN FLAMES」
  今世代、このくらいのノンリニア破壊は欲しくなる?

 この他、Electronic Artsの「Mercenaries 2: WORLD IN FLAMES」も先進的なノンリニア破壊システムを実装したタイトルの1つだ。

グラフィックス設計はDirectX 9世代プログラマブルシェーダ3.0ベース
パーティクルはソフトパーティクルベースの実装
ゲームは3人称視点で進行。リアルタイム影生成、法線マップディテール、HDRレンダリング……今世代のスタンダード技術で創造されるグラフィックスそのものも見どころ

 ゲームは都市を題材にしたミッション遂行型で3人称システムとなっている。与えられた条件を満たすために広大なオープンフィールドを右往左往することになるので、ゲームタイプとしては「GTA3」タイプなのだが、主人公達は車だけではなく船舶、戦車、ヘリと何でも乗ることができ、マップ内を縦横無尽に走り回り飛び回れるのが特徴。

 これに加えて、オープンフィールドで表現された都市を破壊してまわれるのだ。その破壊表現にノンリニア破壊システムが採用されているのである。ビルの下層階に対してミサイルを撃ち込めば下層階が潰れるようにして上層階がグズグズと崩れ落ちるし、鉄塔の柱を攻撃すればボキリと倒れ落ちる。海上の石油採取基地の足を攻撃すれば海上施設を支えきれなくなってズブズブと斜めに沈んでいく。

 このように、「Mercenaries 2」もゲームの主な目的が破壊活動なので、ゲーム性的には「Red Faction: Guerrilla」とよく似ているといえる。

 なお、「Mercenaries 2」のこのノンリニア破壊システムを支える物理シミュレーションエンジンにはHavokを採用している。

会場石油採取基地を戦闘ヘリで攻撃しているところ。鉄塔が崩れ、基地施設が海に飲まれていく
破壊の限りを尽くせる爽快感は、やはり壊れ方に説得力がなければ出せない

 「Mercenaries 2」は、「破壊」だけでなく、先進的な3Dグラフィックスエンジンそのものも注目してあげたい。プレーヤーが操る主人公は徒歩だけでなく、陸海空と立体的に移動が可能であるため、シームレスに超広域に地形描画をこなす必要がある。そこで「Mercenaries 2」では8km四方の超遠景領域まで描画境界なしで描き出すエピックスケールなオープン・フィールド・地形システムを開発して実装しているのだという。

 開発はPandemic Studios。発売は8月31日を予定している。

超遠景までが描き出されるパノラマ地形表現にも注目
プラットフォームはPS3、Xbox 360、PCの他、PS2も予定されている。PS2版は別開発であり、仕様的にPS3、Xbox 360、PCとは別物になるそうだ


■ 「DEAD SPACE」
  天地無用の宇宙ノンリニアスプラッターグラフィックス

 2008年10月21日発売予定のEAの「DEAD SPACE」は「ノンリニア破壊を実装している」というには少々誉めすぎだが、事前仕込みノンリニア破壊の最もシンプルな形が、ゲーム性に結びついた恒例として紹介しておこう。

舞台となるのは日本船籍の鉱石採取宇宙船「石村号」 日本での発売は未定。かなりの良作なので発売して欲しいが……

無重力シーンでは独特なゲーム性が!
 「DEAD SPACE」は、日本船籍の鉱石採取宇宙船に定時メンテナンスに訪れた主人公ISAAC CLARKEが、船内に蠢く得体の知れない生物の恐怖に慄きながら生き延びるための戦いを強いられるいわゆるサバイバルホラー的なアクション3Dゲームだ。テーマ的には「DOOM III」に似ているが、日本人も大好きな3人称視点システムを採用していたり、ただ「銃弾を命中させてぶっ殺せ」ゲームとなってはおらず、このゲーム特有の切断レーザーガンで、敵の部位を戦略的に切り落として敵を撃破していかなければならないという独特なゲーム性にきらめくオリジナリティを感じさせてくれる。天地無用の無重力シーンもあり、これがパズル性を高めており、新感覚のゲームプレイ体験へと結びつけている。

HDRレンダリングを採用。わざとらしいまでのライトブルーム表現はSF映画的なゲーム世界観にはマッチしている?
影生成はデプスシャドウ技法を採用しており、基本的に屋内シーンで構成されるため特別な改良版技法を使用していない模様。けっこう影輪郭には強いエイリアシング(ジャギー)が出ているので、できればPC版だけでもソフトシャドウ処理は欲しいところではある
影のジャギーはけっこう強く出てしまっている。ここは要改良? 正体不明のモンスター達のグチョグチョ、ヌルヌル感は環境マップ+バンプマッピングで

 このゲームで表現的に面白いのはやはり、切断ビームで敵モンスターの部位がその発射軌道で切断されていくところ。

 ユニークなのは「このゲームの敵は、頭部や体の中心に銃弾を撃ち込んでもなかなか倒せません」というのが基本ルールとして設定されている点。倒すには、例えば移動を司る部位である足をまずは切り落として動きを封じたり、振りかざされる鎌状の腕を切り落として攻撃を封じたり……といった戦略的な部位切断が必要になるのだ(ムービー参照)。ノンリニア破壊(?)に、戦略性と必然性を持たせて独特かつ爽快なゲーム性に結びついているのが本作の面白さということになる。

 実際には切断単位は基本的にはけっこう大ざっぱな事前仕込みのようであり、完璧なノンリニア破壊ではないが、プレイレスポンスとしては十分なカタルシスが得られるものになっている。

 ただ、モンスターであっても生き物が切断されるという表現が日本では重く受け止められているようで、日本版の発売が危ぶまれていると聞く。単なる残虐表現ではなく、ゲームテクノロジーとゲーム性がうまく結びついた好例なのでこのまま発売して欲しいが………。

 この作品で、もう1点、注目しておきたいのがアニメーション(モーション、アクション)だ。欧米のSF系タイトルというと大作といわれるタイトルでもこの部分には手が抜かれている作品が多いが、「DEAD SPACE」ではモンスターの動きがとても凝っているのだ。例えば、部位が切断されてからは、その部位を失ってからの動きに自然と移行する。ただ、グチャとバラバラに潰れるのではなく、例えば足を切り落とされたモンスターならば、今度は動体を引きずりながら腕で移動するようなアニメーションを開始するのだ。これはなかなか死なないしぶとい生き物のノンリニア破壊(部位切断)を実装する際には重要なテーマだといえる。ゲーム性本質には関係ないのかもしれないが、プレイ中の臨場感を盛り上げることに貢献しており、本作ではこれが他の「エイリアンぶっ殺せゲーム」とはひと味違った手応えにもなっている。

アニメーションが地味に凄い「DEAD SPACE」。部位を切断されたモンスター達は別の動きを始める 生身の人間キャラクタも数少ないものの登場する。しかし、その表現にはスペシャルなスキン表現もなく、ちょっと冷血的に人形っぽいのだが、このホラータッチの世界観には妙にマッチしているので不満はない

 開発はEA Redwood Shoresスタジオが担当。ゲームエンジンは自社開発の内製エンジンで名称未決定とのこと。その開発には約3年が費やされているとスタッフは告白している。物理シミュレーションエンジンについては内製ではなく、Havokを実装したとのこと。

1シーン内の動的光源数についてスタッフに聞いたところ「3~4個程度」とのこと パーティクルは他ポリゴンからの切り取られエッジを低減処理するソフトパーティクル処理が施されている

こだわりのアニメーションと独特なホラーグラフィックスが見どころの「DEAD SPACE」
今世代は残虐表現として部位切断が流行しているが、ゲーム性としてこれを取り込んだのが「DEAD SPACE」


■ ノンリニア破壊の次なるテーマは「曲がって壊れる」

 現在の事前に仕込みを入れたノンリニア破壊でも十分だとは思うが、現実世界の破壊とはやはり違う部分が目に付くのも確かだ。

 壊れる最小単位が、事前分解した「壊れパーツ単位」となることは目をつぶるとしても、やはり不自然なのは「曲がって壊れる」ことがない点。

 例えば現実世界ならば、架かっている橋の支柱を1本破壊して、その橋桁が残った支柱で支えるには重すぎたとき、固い鉄の支柱であってもグニュッと曲がってしまう。そして支柱が曲がったことでバランスが崩れてそこから崩壊が始まることだろう。しかし、「Red Faction」にしろ「Mercenaries 2」にしろ、現状の3Dゲームのノンリニア破壊では、まるでプラモデルの接着が不十分だったみたいなパーツがパラリパラリと剥がれ落ちていくように壊れていく。

 これはオブジェクトの構成パーツに適用している物理シミュレーションを剛体物理に限定していることが理由の1つ。今後、将来的には剛体物理シミュレーションに塑性体(そせいたい:曲がるもの)物理シミュレーションを組み合わせることが課題となるだろう。

 なお、実は仮に塑性体物理シミュレーションをしてもそう簡単に3Dグラフィックスとして表示できない。「3Dオブジェクトが曲がる」ということは頂点が増えるということであり、これには頂点を動的に増加させる処理系が必要になる。この処理はグラフィックスエンジンとしてはけっこうヘビーで複雑な処理系になる。なお、この頂点増加処理をハードウェアでアクセラレーションするためには「ジオメトリシェーダ」のパイプラインが必要になる。この仕組みを持っているのはDirectX 10/プログラマブルシェーダ4.0(SM4.0)世代のPC向けGPUだけ。PS3およびXbox 360のGPUにこの機能は無い。

 ただ、PS3、Xbox360、DirectX 9/SM3.0以前のGPUにも打つ手がないわけではない。事前にどう曲がってしまうのかを想定して、あらかじめパーツ・オブジェクトに折れ曲がり表現用の頂点を仕込んでおくのだ。

 いずれにせよ、事前分解したパーツが変形までして壊れる表現を行なうには物理シミュレーションとグラフィックスエンジンは専用設計しなければならず敷居は低くはない。

 今後は、「バラバラに壊れるノンリニア破壊」から、「曲がってバラバラにも壊れるノンリニア破壊」が次なる目標と言うことになるのかもしれない。

□E3 Media and Business Summit(英語)のホームページ
http://www.e3summit08.com/
□関連情報
【2008年7月】「E3 Media and Business Summit 2008」記事リンク集
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20080716/e3link.htm
3Dゲームファンのためのグラフィックス講座のバックナンバー
http://game.watch.impress.co.jp/docs/backno/rensai/3dg.htm

(2008年7月31日)

[Reported by トライゼット西川善司]



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