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会場:The Shrine Auditorium
2006年にPS3が発売されてから2年目に突入した今年2008年には、どのようなソニー流の逆転の方程式を見せてくれるのか。今世代機のゲーム機戦争ではやや苦戦を強いられているだけに、今年の動向は世界から注目されている。 ■ プレイステーションファミリーは早咲きは狙わず!?
「この大講堂はエンターテインメント業界でよく利用され、ロバート・デ・ニーロ、ジャック・ニコルソンやジュリア・ロバーツといったハリウッドスターがイベントのホストを詰めたこともある由緒正しい場所です。今年、2008年は、ここにクレイトス、ソリッドスネークといったゲームスターがやってきました」(Tretton氏)と、つかみのジョークで軽く笑いを拾ったあとは早速、本題へと移る。 Tretton氏は、ソニーはゲーム機というエンターテインメントマシンを一般的な3~5年のライフスパンでは考えていないと述べ、PS1、PS2が未だ現役であるように10年以上のスパンで戦略を考えていることを訴えた。これは、現時点でPS3が苦戦していることは、大した問題ではない、我々は未来を見据えている……まだまだ勝負は始まったばかりなのだ……という論旨のようだ。
「PS3は今、2年目です。昔に戻って考えて見ましょう。PS1の2年目は『クラッシュバンディクー』と『鉄拳』が出た頃合いです。『グランツーリスモ』と『ファイナルファンタジーVII』はPS1登場後3年目に登場しました。『グランドセフトオート』は4年目、『トニーホーク』は5年目です。なんだかんだ言われましたが、結局のところ、PS1は世界初の1億台到達ゲーム機という称号を勝ち取ったのです。PS2では『ファイナルファンタジーX』、『ICO』、『GTA3』などは発売後数年で登場しましたが、『ゴッドオブウォー』、『ギターヒーロー』、『ワンダと巨象』はPS2登場後5年目のタイトルです。『ゴッドオブウォーII』はPS2登場後7年目のタイトルでビッグヒットを記録しました。つまり、ビッグヒットタイトルというものはゆっくりと出てくるものなのです。」(Tretton氏)
これは、Xbox 360のスタートダッシュ、Wiiの急進の影にあって「PS3は大丈夫なのか」という声があるが、SCEA(Tretton氏)としては、「むしろそんなに結論は急ぐ必要はない」という、不安がるユーザーに対してなだめるメッセージを送っているわけだ。
PS3の初期戦略の弱点として「価格が高すぎた」、「高性能すぎた」という指摘がある。こうした意見についてもTretton氏はこう反論する。「フォード自動車の創始者、ヘンリー・フォードは言いました。『顧客にそんなに速い車は必要ないと言われて納車しても、もっと速い車が欲しかったと言われるものだ』 2008年はまさしくPS3の高性能が本格始動する年といえるでしょう。あのBlu-rayは結局HD DVDに打ち勝ちました。勝利した次世代ディスクメディアを搭載したゲーム機はPS3だけです。そしてBlu-rayがなければ『METAL GEAR SOLID 4』は実現しなかった……といわれています」(Tretton氏)
「PS3にとって2008年はソフトウェアの年です。人気作が続々と登場してきています。たとえば『Grand Theft Auto 4』です。PS3専用タイトルもどんどん出てきています。『グランツーリスモ5 プロローグ』も登場しましたし、『METAL GEAR SOLID 4』も発売されました。独占ダウンローダブルコンテンツが提供されるのは素晴らしいことですが……その機種専用のソフトの方がユーザーにとっては価値が高いはずですね」(Tretton氏)
業界動向に詳しい方はおわかりだろう。最後の台詞は「Grand Theft Auto 4」のXbox 360専用追加シナリオのことを軽く茶化したユーモアになっている。比較対象が曖昧なので多いか少ないかの判断がよくわからないが、Tretton氏はこれまでに他機種にはないPS3専用タイトルが北米だけで75種あることを強調した。 ■ PS3におけるFPS代表作「Resistance」の正当なる続編が登場。主人公はもちろんガリ髭オヤジのネイサン・ヘイル軍曹!
PS3だけでしか絶対に発売されないタイトルといえばやはりファーストパーティタイトルだ。そのPS3専用タイトルの象徴的タイトルとして最初に紹介されたのが「Resistance 2」だ。PS3の本体発売同時タイトルとして提供され、特に欧米で大人気を博した「Resistance」の続編が早くも登場するのだ。
エイリアンのヨーロッパ侵攻を食い止めた人類の次なる試練はアメリカ合衆国死守の戦闘となるのであった。時代は架空世界の1950年代。人類は1951年にシカゴをエイリアンに占領され、ウイルスをばらまかれ、人間自体のモンスター化も始まっているという状況。プレーヤーは今作でもネイサン・ヘイル軍曹に扮し、この侵略性エイリアンと戦うことになる。舞台がアメリカということで、みんなご存じのアメリカのランドマークを舞台に侵略エイリアン軍と戦うことになる。 今作の目玉は、人類の何千倍の体積を持つ超巨大なエイリアン怪獣。高層ビルをなぎ倒しながら暴れる巨大エイリアン怪獣に対して、人類が銃火器や機械兵器で必死に挑んでいく様は、キングコングやゴジラのような怪獣映画そのものの雰囲気。通常兵器の銃撃ダメージだけではなく、怪獣撃破のためにイベント提供される兵器を使って倒さなければならないあたりにはパズル的ゲーム要素も感じられる。全長1マイルのエイリアン母船も登場し、プレーヤーはその破壊にここにも乗り込んでいくことになる。
8人同時のキャンペーンプレイや、オンラインベースの8人協力プレイ、(16人ではなく)60人の同時ネット対戦など様々なゲームモードが用意されているのも特徴。「今作はとにかく“スケール”がテーマになっている。前作の舞台がイギリス主体だったのが、今作ではアメリカ全土へ“スケール”アップする。高層ビル並みの巨大なボスエイリアンに挑むスケール感の表現。全長1マイルの母船に乗り込んでいくスケール感も今作のウリだ。そしてオンラインプレイの“スケール”も大きくなっている」(Price氏)
■ 「Little Big Planet」は秋発売!~プレゼンツールにもなる「LBP」!? 「今、ユーザーが作成したコンテンツの存在がゲームのあり方を変えようとしています。このユーザー作成コンテンツを積極的にゲームに取り込んだのがPS3専用タイトル『Little Big Planet』(LBP)です。LBPはユーザーがゲームを作っていくことができ、それがソーシャルネットワーキングをも育みます。LBPは6才の娘さんと一緒にプレイしてもいいし、ハードコアゲーマーの仲間と競い合うこともできる全く新しいゲームなんです」(Tretton氏) と、ここでユニークな試みが行なわれた。それはSCEAの2008年前後のビジネス方針のプレゼンテーションに通常のスライドではなくて、LBPを活用したコンテンツで行なわれたのだ。
内容そのものはオーソドックスだったが、見せ方がとても楽しげで、LBPの楽しさが伝わってくるものだったので写真とキャプションでプレゼン内容をフォローしておきたい。なお、「Little Big Planet」そのものは2008年10月に発売が開始される予定となっている。
■ 未だPS2は現役である
PS2には2008年内で130タイトルの新作がリリースされる予定であり、人気プラットフォームであることを強調した。
PS2は129ドルという低価格ぶりが好評を博し、カラオケゲーム「Singstar」、音楽ゲームの「ROCKBAND」、「Guitar Hero」などを遊ぶためのパーティゲーム専用機の感覚で未だに売れ続けているのだという。
PS2人気タイトルといえば2006年より発売され未だ売れ続けているカラオケゲーム「Singstar」だ。PS2版は1,500万本を売り上げ、PS3版も2008年初頭に発売が開始され、オンライン提供される追加楽曲のダウンロードセールスが190万曲にもなったという。SCEとしてはゲーム機の最新ハードを売ることだけに固執せず、すでにあるプラットフォームがフル稼働するようにニーズがあれば前世代機にもゲームをどんどん提供していく姿勢を心がけていくのだそうだ。これは、ゲームユーザーにとっては心強いが、カジュアルゲーマーがPS3にやってこない元凶にもなっているので悩ましい話ではある。
■ PLAYSTATION Network最新事情
2006年の11月のPS3の発売後、PSNユーザー数は400日で500万人、さらにその半分の日数で1,000万人を突破しており、PSNの広がりは爆発的に拡大している。さらに2006年11月のPS3発売以来、PSN上で1億8,000万の有償無償のコンテンツダウンロードがなされたとのことで、コンテンツの提供インフラとしての役割を十分に果たせるとSCEは手応えを感じているようだ。 そこで、SCEはこの夏後半に人気の「ラチェット&クランクFUTURE」の続編「ラチェット&クランクFUTURE~QUEST FOR BOOTY」をPSN上で今夏、14.99ドルにてリリースすることを発表した。
続いてPSN関連では今回の発表では最大のトピックとなったのがPSN上での商業映像コンテンツ配信の本格スタートだ。
映像コンテンツプロバイダはソニーグループのソニーピクチャーズをはじめ、20世紀フォックス、LIONSGATE、MGM、FUNIMATION、ワーナーブラザース、ディズニー、パラマウントなどの主要企業がPSN上での映像配信に参加表明を行なったのだ。
気になる価格だが、意外にもリーズナブルだ。テレビ番組は1エピソードが1.99ドルから、映画はフルレングスのノーカット版が配信され、視聴権期限付きが2.99ドル~5.99ドル、PS3のハードディスク内に保存して繰り返し視聴できる買い取りが9.99ドル~14.99ドルとなる。購入はPLAYSTATION Storeを起動してトップメニューから「VIDEO」を選択すれば、商業映像のショップに簡単に飛ぶことができる。コンテンツによっても違うが、配信映像は基本的にハイビジョン(HD)標準映像(SD)の2タイプが選べる。
「競合と決定的に違うのは、PS3に保存した映像コンテンツは、PSPへ持ち出すことができるという点です。そう、購入/レンタルした映像をPSPへ転送して見ることができるのです。同時に、PS3本体で見ることもできます」(Tretton氏) これは同種のサービスをXbox 360に提供するMicrosoftに対しての大きなアドバンテージとなる。Xbox 360でも商業映像の購入や視聴ができるがMicrosoftのポータブル機……たとえばWindows CEベースのPDAやZUNEなどへの持ち出しはサポートされていないからだ。
映像はダウンロードしてから視聴することもできるが、回線速度が十分高速であればダウンロードしながらのプログレッシブ視聴も行なえる。PLAYSTATION StoreをPCでアクセスした際には、PCに直結したPSPに番組を直接ダウンロードすることもできる。PSPに入れた映像コンテンツは、新型PSPであれば、基本的には制約なく、外部映像出力ケーブルを介してテレビ等に出力して視聴することも許される。
PS HOME内コンテンツのプロバイダにUBI SOFTがβテストから参加すると言うこと。Electronic Arts、ACTIVISION、Lucas Artsなどのパブリッシャー、デベロッパーの参加表明を獲得したことを報告。さらにノンゲーム企業としてナイキがPS HOME内に参加することが決定したとのこと。ただし、今回もPS HOMEのサービス開始時期についてのアナウンスはなく、SCEAがいう「PS3にとって重要な年、2008年」にスタートできないことはとても残念だ。 ■ PSPにはファーストパーティの人気作を続々投入
PSP関連のトピックとして、SCEが力を入れているのは10月に新発売となるPSP専用タイトル「ラチェット&クランク~SIZE MATTERS」の発売を記念して提供されるPSPのスペシャルパッケージの提供だ。シルバー色の新型PSPに、「ラチェット&クランク」のゲーム本編がセットになり、さらに1GBメモリスティックDUO、PSNでの「無限回廊」購入券を全てバンドルして199ドルはかなりのバーゲン・プライスだ。 そして、今回のプレスカンファレンスで初お披露目となるPSP版の「RESISTANCE」の発表も行なわれた。正式タイトルは「RESISTANCE-RETRIBUTION」(RETRIBUTION:報復)で開発はINSOMNIAC GAMESではなく、SCE BEND STUDIOが担当。発売は2009年春を予定している。
PS3版の主人公とは違う元英国軍海兵隊のジェームズ・グレイソンを操り、「RESISTANCE」の直後のヨーロッパを舞台に侵略宇宙人と戦っていくことになる。外伝的ストーリーだが、「RESISTANCE 2」へとつながるエビソートが語られ、また登場エイリアンも「2」からのものもいるとのことで、シリーズファンには見逃せない1本となりそうだ。特徴的なのはPS3版が1人称なのに対して、PSP版の今作は3人称視点となっている点。操作系がどうしてもPS3には劣るPSPで遊びやすくするための照準合わせの補助システムを搭載しているのが特徴。マルチプレーヤー対戦は8人まで対応。
■ PS3の汎用コンピュータ戦略としての次の一手は? Tretton氏は「最後にもう一度PS3の話題をさせて欲しい」として新サービスと目玉タイトルの紹介を行なった。 1つはPS3プラットフォームによるGoogleの本格サポートの構想だ。ゲームプレイを録画するシステムを搭載し、これをYoutubeに直接アップロードする仕組みを実現したいとしている。これはゲームの攻略情報の提供手段として、あるいはスーパープレイの映像投稿でゲームコミュニティを盛り上げることに貢献しそうだ。
もう1つはすでに6月末に発表されている「Life with Playstation」構想について。これは現在の地球を3Dグラフィックスでリアルタイム再現し、最新の天気やニュース情報をこのPS3上の地球にアイコン表示することで、地理情報起点で情報収集が行なえるものだ。これはWiiの「ニュースチャンネル」に似たもの……というとらえ方でよいだろう。
■ PS3、来年以降の期待作は? この他、未来のPS3を盛り上げることになるかもしれない、来年以降登場予定の大作タイトルが3つ紹介された。1つはアメコミ漫画家Jim Lee氏が自ら指揮を執り、現在もソニーオンラインエンターテインメントで3年以上の開発期間を掛けて開発がなされているMMORPG「DC UNIVERSE ONLINE」だ。
アメコミには二大勢力があり1つはスパイダーマン、Xメンなどが属するマーベルコミックで、バットマン、スーパーマンが属するのはDCコミックスになる。「DC UNIVERSE ONLINE」はプレーヤーがDCコミックヒーローの世界でMMO体験が楽しめるゲームになる。発売時期はまだ未定だが、PS3の他、PC版が提供されることが明らかにされている。
欧米では圧倒的な人気を誇る「God of War」シリーズの最新作「3」がPS3に登場することも今回正式にアナウンスされた。まだコンセプトイメージの予告編のみでゲーム内容は全く不明だ。
小隊長は自分の部隊に所属する兵士を従えて行動し、小隊長は作戦指揮官の大局的な戦略に従って行動する……という軍隊としての階層構造もゲーム性に組み入れられているのが特徴。最初は駆け出しの一兵卒でスタートするが、プレイ中活躍することで昇進して隊長となり、さらに活躍すれば指揮官となって軍隊全体を指揮できるようになる。
■ 三者三様の戦略は、今年大きなクライマックスを迎える
新PS3商品はこれまでの40GBモデルのPS3と同じ価格399.99ドルでハードディスクを倍の80GBとしたものだ。 今回のE3のプレスカンファレンスのメッセージは「PS3が苦戦していると決めつけるのはまだ早い」に終始した感がある。今回、SCEとしては「PS3は今回は負ける」という風潮に対し、まだ結論は出ていないし、出すべきではない……むしろ高性能すぎたPS3のポテンシャル、未来を先取りしすぎたスペックが、やっと生き始めるのがPS3誕生後の2年目、今くらいなのだ……という論調を展開したわけだ。 たしかにSCEがPS3に盛り込んだあらゆる先取りハイスペック要素はSCEにとっての正論であった。今回、SCEはPS1、PS2の歴史を強く引き合いに出してきたが、実際、PS3はPS1、PS2の正常進化形であることに疑いの余地はない。SCEならではの勝利の方程式を今回も適用してPS3を出撃させたのだ。 ただ、競合達の任天堂やMicrosoftも手をこまねいているわけではなく、2つの競合は、SCEと同じ戦略で同じ土俵で戦っていては勝てないことが2世代にわたっての「勝てない相撲」を取り続けて学習した。競合2社は今回はいい加減、戦略を変えてきたのだ。具体的に言えば、任天堂はあえてハイスペックを狙わずゲームのあり方を変えるインターフェイス革新戦略をとり、Microsoftは速攻勝負のハイコストパフォーマンス戦略という攻め方を取った。
今世代のプラットフォーム戦争はこの競合2社の勝負の仕方を変えた戦略が、SCE勝利の方程式に強く影響を及ぼしている様が興味深く、そしておもしろい。 (2008年7月16日) [Reported by トライゼット西川善司]
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