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価格:5,040円
CEROレーティング:A (全年齢対象)
これまで音楽館と言えばMacintoshで「Train Simulator」を開発し、以降は最新ハードを中心に実写を使ったリアルな電車の運転をシミュレートするソフトを発表し続けてきた。プレイステーション 3が発売されて以降は、海外の路線として初めてシカゴのブラウンラインを収録した「Railfan」や、台湾の新幹線を収録した「Railfan 台湾高鉄」などブルーレイディスクの大容量を惜しみなく使用したタイトルを連発。このほかにも昨年オープンした「鉄道博物館」の「D51シミュレータ」の作成など常にチャレンジし続けている。
その音楽館の新作は、ニンテンドーDSの鉄道をテーマとしたこれまでのタイトルとは趣の異なったソフトだった。今回はタイトーの津田洋介プロデューサー、そして制作を手がけた音楽館の向谷実氏へのインタビューを行なった。「鉄道ゼミナール」の制作に至るお話などを伺っていたが、話は次第に脱線し、様々なアイディアが披露されることになった。 ■ ニンテンドーDSで音楽をきちんと鳴らすために苦労しました
向谷実氏(以下:向谷氏) まずはタイトーの津田さんから制作依頼の話があったんです。そこで制作することになったのですが、元々は株式会社ネコ・パブリッシングさんから毎年「JR全車輌ハンドブック」という本が出版されているんです。僕は昔からその編集長を知ってるので、「なぜできるのかな?」と凄く不思議に思ってたんです。そこで「(リリース) できてるという既成事実を逆に調べて行けば、我々にも制作できるだろうと思ったわけです。 通常ルートですとJRというのは貨物も含めて許諾をひとつひとつ取らなければならず、話が進みにくいんですよ。そこをまず、ネコ・パブリッシングさんの書籍を切り口に、これが販売できているっていう既成事実の延長線として、「本をもう少し進化させたというか、本として楽しんでもらっているものを補完するものとして、今度はDSのゲームにしたら良いんじゃないでしょうか」と言ったところからスタートし、「本なら出せますよね。これDSにしてもいいですか?」みたいな事で、最初にJR東日本さんにお訪ねしたんです。 JR東日本がいいから全部いいということには当然いきませんから、「JR東日本でまずこういうのどうですか?」という事で承諾をお願いできるような感触を得て、じゃあそれを全社に伺っていきました。そこで今度はJR北海道からJR九州、JR貨物までを1社1社、タイトーさんにお願いしてお話しを通してもらったんです。“承諾”してもらうために。許諾をもらうことでできる事が色々あるんですね。ゲーム内でJRのロゴ使わせてもらったりとか、写真ですとか。殆ど99%我々の作った物にOKをいただきました。 ―― 目指していたものはほぼ達成できたという感じでしょうか? 向谷氏 少し間違いがあったり、問題があったところも1個か2個ありましたけど、それ以外は出しても良いと許諾をいただきました。僕はこのゲームソフトを自分でも使って遊んでるのですが、JRって乗る機会が多いじゃないですか? 電車に乗ったそばから使えるソフトも結構珍しと思うんです。 ありとあらゆる設問が収録されていたり車両に対するデータベースが充実しているので、JRを利用している限りは、今乗ってる電車の形式から検索してもらっても構わないし、色や形や路線や会社名とか、ありとあらゆる所で車両のことが調べられるんですよ。そうやって遊んでいる間に、あっという間に目的地についてしまいますよ。乗りながら使うには最高ですね。 津田洋介氏(以下:津田氏) 「鉄道検定」をクリアして終わりではなくて、図鑑としてずっと使えるというのは、やっぱり便利なソフトとしていいんじゃないでしょうか。 向谷氏 許諾を取りたかった理由というのは、我々がきちんとした情報を取り扱って制作している事の証にもなるし、やはり突っ込んだ形の物が作れると言うことなんです。「これは鉄道会社の許諾がないとできないな」といったものでも、許諾を取れば勿論出せますし。きちんと許諾を取って出せたことは前例として良かったと思います。 ―― まず最初のソフトとして「JR」を選んだ理由というのはどういったところでしょうか? 向谷氏 先ほどの話であったとおり、ネコ・パブリッシングさんの書籍があったという事ですね。だから今後、仮に「私鉄編」を制作するとなったらこれは大変ですよ。 ―― 素材も初めから集めなければならないと言うことですね。 向谷氏 ただ、「JR編」を制作したので、作り方のノウハウは身に付きましたね。「JR編」は書籍のデータベースや写真を使ったりしたのですが、次は「鉄道会社さんにこういうお願いをすればこうなるな」と言うのが大体わかりましたので。 大変ではありますが、当然1作目の財産を使えるので、乗り越えられない壁が立ちはだかる様な感じでもないかなという気はしていますけどね。 ―― 私鉄ですと数も多いですから、どういった切り口で制作するかという点でも難しいですね。 向谷氏 数が膨大ですから。最低でも大手私鉄のかなりの部分を網羅するようなソフトを作らなければ駄目じゃないかなと思ってますけどね。全国・民鉄編なんて制作したら死にますよね。 津田氏 今回の「JR編」のボリュームも膨大でしたけどね。JRの現行車両の殆どが収録されているソフトになりました。 向谷氏 すごく内輪の話ですけど、ニンテンドーDS用ソフトの制作コストを考えなければ、やはり容量の多いROMを使わないと駄目なんですよ。コンテンツの内容がこれだけ多くなると、容量とかコストも掛かってしまうので、そこはコストと容量のせめぎ合いになってしまいます。 ただ、やはり潤沢な内容であればあるほどお客さんには支持されると思うので。これは「Railfan」の時から我々の癖なのですが、提供される容量を目一杯に使う。だから音楽も結構真面目に入ってるんですよね。普通MIDIで鳴らしたりするゲームが多い中で、プログラムも凄く頑張ったのですが、基本的にはちゃんと僕の演奏した普通の音楽が聴けるという事はまったく手を抜きたくないなと思ったんです。 ―― 音楽の話でいうと、以前お聞きした話では「検索の時は軽いストレス状態にあるので、それに見合った音楽にする」など色々おっしゃってたじゃないですか。精神状態まで考えて音楽を作られているというのが凄いなと感じました。 向谷氏 いやでも、それは基本的なことでしょう。ロールプレイングゲームと「鉄道ゼミナール JR編」のようなソフトではどう違うのかといったら、ゲームというくくりでいうと同じだと思うんですよね。自分自身がゾクッとしたりする時にタイミングよく音楽が耳に届くと流石だなと思うんです。いいゲームソフトや売れているソフトはそうだと思うんですよ。それが全然考えられてないソフトは、ダメだと思うんです。極端な事を言えば、プレイするのをやめちゃうみたいな。そこは結構気を遣わなければいけないところではないかと思っています。 検索もそうですが、「鉄道検定」などの時の音楽の、少し焦らした感じ……良い意味での緊張感を与えるなどそういう部分も必要だと思いますし、そこから抜け出た所はやっぱりゲームの中での大草原みたいな雰囲気が欲しいんですよ。フッと緊張感から抜け出た時にまたガチャガチャした音楽が流れるよりも、少しホッとした空気が欲しいなとか。オプションなどのコーナーでは、存在感が強い音楽よりも逆にメロウな曲で包み込みたいといった感じですね。そういうのは自分の得意なジャンルなので。やっぱり必要だと思うんですよね。 ―― 一番気を遣った音楽というのは、どのシーンですか? 向谷氏 やは検定でしょうね。むかしPCの頃に、「クイズトレインショック」というソフトを作ったことがあるんですよ。僕が問題を出してたんですけどね。そのソフトの音楽が、クイズを答えるときの焦らした感じで凄く気に入っているんです。 ただニンテンドーDSでの問題は、曲が一分間も入らないんですよ。ループを入れてしまうと。30秒で繰り返しても繰り返したと思われないような曲を作るのは結構難しいんですよ。丁度ループする手前の所で、気持ちよくちょっとだけ変化があると。戻った瞬間にまだ続いてるんじゃないかって聞こえるようにしてます。 全部の曲に気を遣ってますが、「鉄道検定」とか、ちゃんとした3分くらいの音楽で作りたいなと思ったオープニングも結構気に入ってるんですよね。電車の雰囲気が伝わってくる感じが。 津田氏 最初「鉄道検定」の所で、色んなアイデアでやられてましたよね。だんだん転調していくような感じにするとか。テンポアップしていくとか。 向谷氏 ニンテンドーDSだと無理なんですよね。 津田氏 ストリーミングだと無理ですからね。 向谷氏 ただ、それも勉強で今うちの社内で検討してるのですが、オリジナル波形セットをちゃんと持てば、今度はMIDIでもきちんと音楽が出せるのです。その方法も次から考えてみようかなと思いますね。 津田氏 そうですね。できると思います。 向谷氏 ただ、オリジナルの良い波形をどれだけ持つか。容量にも限りがあるじゃないですか。それを上手く使って、ボイスの制約も受けつつも作り上げなくてはならない。その方が読み込みも早いので。ただ今回はそれはやらないで、通常のPSPやプレイステーション 3などでやっているような、メモリ容量をギリギリまで使った実音レベルをかなりいいクオリティで入れてみました。 ―― 音楽は非常にクリアな音で収録されていますね。 向谷氏 そこがこのソフトで一番苦労した所ですね。「こんな所でプログラマを苦労させちゃっていいのかな?」という位。 津田氏 プログラムサイズですとかね。 ―― それは技術的な方で難しかったんですね。 向谷氏 そうですね、例えばDSの開発環境の中で「こうやって作りましょう」と全て詳しく書かれてる訳じゃないじゃないですか。基本は提供されているミドルウェアがありますが、それをどう解釈してどう使うかというのは我々の仕事な訳ですよ。で、デザイナー側はデザイナー側でやりたいことがあるし、プログラマは「向谷さん、それをやると音が途切れますよ」とか言うんですよ。「そこを何とか」というのが社内で大変な所なんですね。申し訳なかったけども、僕は一歩も譲らなかったので。最後の最後まで問題になってたけど、何とかなりましたから。 津田氏 しばらくの間、開発の作業がサウンドだけになって止まったことがありましたね。 ―― でもその位、音楽は重要だと言うこと事ですよね。 向谷氏 そうですね。先月行なわれたイベントでも来てくださったお客さんは皆「おー」って聞いてましたから。そこはやはり作る側のこだわりだし、プレイしていただく皆さんに対する最低限のマナーだと思っているので。それはやらなきゃいけないなと思います。自分自信が制作のサイドに絶えず携わっていられるから、これは自分としても幸せな事だと思うんですよね。誰々さんが作ったものとか言って、ハンコだけを押してる訳にもいかないので。それが逆にスタッフには煩わしく思われてるかもしれないんですけど。そこは良いんじゃないかなと思ってるんですけどね(笑)。 ―― クオリティを上げるという事ですね。 向谷氏 そうですね。普通仕事をもらった立場でいうとそこまでやらなくていいところなんですけどね。「タイトーさん、できました~」みたいな感じで提出すれば。 津田氏 しかし、そういったまじめに制作していただけるといった点も音楽館さんにお願いした1つの理由ではあるんですけどね。鉄道の知識が全くない会社にやっていただくのとでは、まったく違ってくる。良かったと思います。 向谷氏 まあ、結果が出ていますから。売り上げやユーザーからの評価など。これは良かったかなと思います。
■ プレーヤーの本当の知識が反映されるのが面白い「おためし検定」
向谷氏 これは僕のよく知っている鉄道ライターの方と音楽館の社内、そしてタイトーの社員の方で色々とやって頂いた阿部さんと、その辺で出し合いました。そこから、それらの問題に変化を付けたり演出したり考えました。もちろん僕も何問か書いてますし……それとコラムが全部担当だったんですよね、僕は。 津田氏 文章関係はそうですね。向谷さんは軽く引き受けてくださったんですが、細分化されたコラムで大変でしたね。 向谷氏 文章量が結構あって、「大変じゃん! わかったよ書いてやるよ!」みたいな (笑)。コラムとあと何だっけな。コラムとあと文章系を結構書きましたね。 津田氏 コラムも、北海道コラムだったり、JR北海道コラムだったり。 向谷氏 これもね、北海道という地域コラムと、JR北海道のコラムは別なんですよ。「どう変えるんだよ!」みたいな。関東コラムとJR東日本とかね、もう大変でしたよ。 ―― 読み物だけでかなりの分量が収録されていますよね。私はメインのコンテンツを最後にとっておくみたいな癖があって、まず最初に「鉄道検定」に行く前に読み物を読んだのですが、分量がもの凄く多かったんですね。わらない言葉があるとリンクで解説されていますから、そちらを調べると、もう延々と読み続けているといった感じでしたね。 津田氏 深いですよね。 向谷氏 さりげなく読んだほうがいいですよ、あそこは。読み出すとすごく大変だなと思いますよ。そうですね、「鉄道検定」も結構書いたな。何問書いたかな。 津田氏 問題もそうですし、解説もそうですし。 向谷氏 問題の解説ですが最後はみんな疲れてきて、適当に2行くらいしかなかったりして、パッと見て「これは駄目だろう」という話になりました。そこで「じゃあ書くよ」ということで自分で解説を書きましたね。結局、最後の最後は僕がだいぶやってたのかもしれない。 勿論、僕なんかが作った問題の比じゃないくらい問題を作ってくれたり、「鉄道用語辞典」なんかやったスタッフは死にそうになってたと思うんですけど。それに比べたら大したことはないのですが、ただそれくらい、私も含めて関係する人間が全力でやらないと、とても「鉄道ゼミナール JR編」は作り上げられなかったと思いますね。 ―― 問題の作成も大変ですが、難易度の設定も悩ましいところだと思うんです。問題の分量のバランスをどうとるのか? 難しさのバランス、そういった点はどうやって決められたのでしょうか。 向谷氏 それは問題を全て作成しリストアップして、一回プレイしてみて、「やはりこれは違うな」と話し合って直していきました。でもそこで気付いたのは、永遠に解決しない問題だなとわかりました。基本的に鉄道の初級といっても、鉄道に興味ない人にとっては上級以上に難しかったりするんですよ。我々作ってる側の常識で判断すると、(プレーヤーにとっては) 初級の問題でも難しい物もあるし、凄く簡単なのもある。そのばらつきを細かく厳密に査定するのは、最後は止めちゃいました。 というのはですね、結局鉄道というカテゴリの中から鉄道を好きだと思ってたり鉄道に興味がある人間が制作スタッフの中の大半を占めてやっていて、変な初級の問題を作ると失礼な問題になってしまいますし、ある程度は自分たちの尺度で決めていかないと、たぶんこれは永久に結論が出ないなと思ったんです。「もういいや、これは初級!」と言った感じで決めていきました。だから正直、幾分難しい初級はあります。え? これが初級なの?? とか。 津田氏 これが常識だと言われても、鉄道に詳しくない人は知らないんですよね。 向谷氏 そこはご勘弁頂きたい。それで意外と面白いのは「おためし検定」なんです。あれは未だに自分でもプレイしていてドキドキするんですけど、問題がランダムに出てくるので、プレイしていてシビアな点数が出てみんな相当落ち込むと思うんですよ。 津田氏 「おためし検定」のバランス取りというのが、最初は中級の問題が出題されるんです。ジャンルがいくつかある中で、中級の問題が出て、正解すると「鉄道検定」に含まれる上級が出る。間違えると初級になる。というのを各ジャンルでプログラム的に繰り返していて、その答えたポイント数によって点数に反映されるんです。間違えても、難しい問題を間違えると99点。簡単な問題を間違えると、もっと低い点数になる場合がある。「おためし検定」では、そういうバランスの取り方をしています。 向谷氏 「おためし検定」は良くできてるのですが、大抵、僕等ですと中級くらいで合格するじゃないですか。そうすると、「えぇ~??」って言う人が出てくるんですよ。なかなか面白いですよ。 「おためし検定」はよく考えたなと思うのは、基本的にその人の持っている結構リアルな鉄道知識度というのが出るんですよ。 ―― 「鉄道検定」の初級編からやるよりは、「おためし検定」をやった方がオススメと言うことですか? 向谷氏 そのほうが全然いいと思いますよ。難しい問題を出された後に簡単な問題が出て、簡単なのを答えていくと「あれ俺は6問正解か」と思っても点数が低かったりします。 津田氏 答えてる問題が簡単だと点数は低いんです。 向谷氏 何で? ちょっとおかしいな?? と悩むところが面白いんですよ。 津田氏 社内にも鉄道好きから全然興味ない人までいるのですが、そういう人にテストしてもらって、鉄道に興味のない人が食いつく問題というのもあるんですよ。「新幹線ひかり号はどれでしょう?」みたいな問題ですね。「あ、これ知ってるよ」というとまた難易度が戻ってくる。全く知らない人が全く楽しめないんじゃなくて、知らない人でも「おためし検定」をやってもらうとある程度は何となくわかる。さすがに“0点”というのはなかなかいないんですよ。「発車待ち級」というんですけど、あんまり見たことがない。クラスで言えばその次がトロッコ級。トロッコ級は多いですね。JRにもトロッコ級の方がおられましたよ。 向谷氏 JRの人も? やばいなそれ(笑)。 ―― 鉄道好きって凄く細分化されてるので、みんな詳しいところは凄く詳しいけど、詳しくない分野についてはそうでもないことが多いですよね。 向谷氏 イベントで「キハ65系の運用がなかった急行はどれ?」みたいな4択の問題を出したところ、1人しかわらなかったんですね。他の人は自信がなくて手を上げなかったのが、1人だけバシッと手を上げて答えたんです。その解説までご存じで。その方以外にももの凄い鉄道ファンがイベントに集まってたと思うんですよ。その中で1人しかわらなかったのだから、かなり難しい問題だったということですね。 津田氏 そこに優越感があるんですよね。 向谷氏 その答えを聞いて、「そーだったよな」と頷いて客席がざわざわざわってなる。答えた人は素晴らしいという感じになり、称えられる。たぶんあの方、相当気分が良かったんじゃないかな。 津田氏 問題のバランスでやはり気を付けるのが、全く知らないんじゃなくて、「あれ、なんだっけな?」という所の線をキープするというのが、各級で選んだ問題の基準にはなりましたね。 向谷氏 JRには膨大な歴史的背景があるんです。問題を作ろうと思ったら本当に幅が広いんですよね。各地域で細かく分かれたことで、各社とも特徴があるし大変なんです。1,500問以上も収録されているのですが、本当に色んなバリエーションができると。「鉄道ゼミナール JR編2」を作れてしまうくらい。 ―― まだまだ物足りないということですね。 津田氏 いくらでも入るでしょうね。 向谷氏 ちょっと残念なのは、「鉄道ゼミナール」では“何月何日付”という日付を区切る形で作らざるを得なかったので、まだ「銀河」が載ってしまっているんですよ。そういった点はスケジュールの都合でちょっと間に合わなかったところがあるのですが、今後はこういったソフトを作る時は、やはり「2008年度版」みたいな感じで作った方が良いなと思いますね。 ―― 毎年、更新されていきますしね。 向谷氏 そうですね。駅だってなくなっちゃった駅もあるから。それとあと改良されちゃったりとか。だから例えば、2008年何月の時点の情報という事で。 ―― 話は元に戻りますが、これまで音楽館では「Train Simulator」や「Railfan」など最先端ハードでソフトをリリースするという傾向が強かったと思います。今回はニンテンドーDSと言うことですが、なぜニンテンドーDSなのでしょうか? 向谷氏 「Railfan」も「Railfan 台湾高鉄」も音楽館のロゴが付いてますが、鉄道ゼミナールのポスターはタイトーのロゴですよね。だから今回は、我々はいわゆるプログラムを請け負ったという形なんです。我々の原盤ではないから、今回の件は僕らにとってはある意味新しいトライなんですよ。タイトーさんの依頼を受けて制作して、それで販売をするという。だからそういう点では、勉強をさせて頂いてるという部分が強いですね。自分たちがDSのソフトを作るという風になってたら、またちょっと違った答え方ができるんですけど、我々にとってはDSは全くの新天地だった訳ですよ。コンシューマ機でこれだけ世の中に出回っているDSというハードに対して、何ができるんだろうというのは、正直我々にとっては全く考えの及ばなかった分野な訳です。そういう点で良い機会を提供されたから、逆に頑張ってみようと思いました。 そういう流れでいったら、今回僕らにとっては新デバイスというか、新しい物に対するチャレンジですね。初めて「Train Simulator」を作った時と同じような気持ちがありましたね。僕自身が経験がなかったから。だからチャレンジという感じかな。
■ 鉄道がエンターテイメントとして進化した
向谷氏 僕はこれまで、実はああいうイベントってあんまりやったことないんですよ。鉄道の好きな人って普通はあまり集まらないじゃないですか。昔は集まらなかったんですよ、こういったイベントをやっても。集まってもなんか、ぼそぼそって感じで。 「鉄道」自体がエンターテインメントとしてお互いのユーザーを意識してないんです。いわゆる個の集合というのが強く強調されすぎていて。収集欲とか、今回の「鉄道ゼミナール」でもそういう要素がありますが、検索欲とかですね。そうやって自分を自分で整理する。イコール個の自分という。何人か集まっても小さい単位で。それがまた横に繋がるかどうかというのは、雑誌とか色々な媒体を通じて……昔で言うNIFTYのフォーラム系というのはあったと思うんですけど。 「鉄道ゼミナール」のようなソフトを出せる市場というのは、恐らく鉄道が既にエンターテインメントのコンテンツとして十分認識されてきたのかなという気がします。だから僕としては、この間のイベントも盛り上がったのは、作り手と買い手に温度差がないというのをあの瞬間に証明できるんですよ。 僕と、お客さんていうのかな。まさに同じなんです。それは今まで僕がやってきた、「Train Simulator」とか「Railfan」とかという作品自体もそうなんですけど、プレイする側と制作側というのが同じ目線なんです。 僕もこのソフトのユーザで在りたいと。僕も、鉄道をエンターテインメントとして盛り上げたい。そういう所が夢っていうか、ずっと追い求めて来たんです。それが実現した瞬間なんですよ、ああいうイベントの場というのは。「あ、やった!」みたいな。たまんないわけ。どんな専門用語でもオッケーみたいな。 ―― お客さんの反応もダイレクトですしね。 向谷氏 それを一番最近大きく感じたのは、小田急さんの主催しているイベントが去年あったんです。その時に何千人もお客さんがいらっしゃったんですよ、向谷実ショーに。無料だったんですけど。千人どころじゃないですよ、向かいのビルの階段とか全部人で一杯で。数千人いらっしゃったんですよ。カシオペアファン、鉄道ファンが半分くらいずついて。演奏すればウケるし、鉄道ネタをすればウケる。これはもう最高。夢のようなステージですよ。その時に「SUPER BELL''Z」の野月貴弘君がちょっと来てて。それが縁でアルバムを作ったりもした訳です。 そういった鉄道をね……ブームっていうとなくなっちゃうのが嫌なんですが、我々“鉄道好き”が進化したのかな。鉄道というものに関する遊び方や、楽しみ方が。それがこの「鉄道ゼミナール」が鉄道好きの一番コアな所を掴んでる作品になったんじゃないかなというのが率直な所で。それを仕掛けたのがここにいる津田さんだという話です。 津田氏 そもそものきっかけ自体は、DSがある程度コモディティというか、商品として幅広い年齢層に所持されてる状態になったときに、色々教育系のソフトなどがリリースされてきました。そういったところで、タイトーがやるとしたら何だろう? という所からスタートしました。 実は私自身は鉄道に関しては殆ど知らないんです。子供の頃誰もが一度は経てくるであろう「鉄道ファン」の洗礼を経ずにきた人間でお恥ずかしいんですが、そんな中でもうちの社内リソースを一番有効に生かすコンテンツというのは、恐らく鉄道じゃないかと。「電車でGO!」もあり、社内にも鉄道に詳しい人間がいて、広報の方でも鉄道関係とのおつき合いが未だに続いているような状態だったので、鉄道がテーマとして一番良いだろうと。醒めた見方ではあるんですが。 そういった時に、音楽館さんであれば更にまた深いネットワークが広がっていく。その話をちょっと向谷さんにしたときに「JRの方をまとめることもできるかもしれませんね」、という話が出たところから「できそうだ」となったんです。だったらこれはもうバッチリじゃないかなと。進めるべきだなと思ってこのソフトの制作をスタートさせたんです。
■ 次回作は「鉄道ゼミナール 駅編」?? 向谷氏 今回「鉄道ゼミナール JR編」でほとんど車両を入れたのも凄いけど、今度は駅ばっか特集するとかどうかな。全駅入れたら凄いよこれ。 津田氏 全部写真入りで。 向谷氏 さらにホームとかもわかるようになっていて。「札幌駅の何番線には何が来るでしょう?」みたいな問題も収録されていたり。絶対わからないじゃないですか。“乗り鉄”の人にやってもらいたいから「駅編」を作りましょうよ。 津田氏 白地図を塗りつぶしていく感じで。 向谷氏 「鉄道ゼミナール、JR駅編」。 ―― “旅好き”な人も巻き込めるかもしれませんね。 向谷氏 取材するのが凄く大変。全駅写真付きだから。駅構内図の写真も入ってる。最寄りの道路とかトイレの場所とか、駅前旅館とか。昔なくなっちゃたのとか……。 津田氏 それ常にWEBにリンクしてる状態じゃないと、1ゲームに入らないですよ。 向谷氏 凄く面白いと思うよ。ばっと駅が出て、「これ何駅?」とか4択で出るんだけど、絶対にわからない。あと、それとは全然関係ないミニゲームを作るんですよ。 津田氏 全然関係ないんですか? 向谷氏 いやいや、鉄道ゲーム。面白いの一杯考えてあるんですよ。車両がぱんぱんぱん ! と表示されて、「形式を足したらいくつ?」みたいな。「80系、60系、48系、正解は?」みたいな。 津田氏 ライトの形とかもちゃんと見とかないとね。 向谷氏 683系と681系が微妙に違うとか。 津田氏 濃いなぁ。 向谷氏 これ、何が良いかっていうと、JRの許諾を取ってあるじゃないですか。忘れないうちに「ありがとうございます。お陰様で大変凄い良い結果が出たので、今度は『駅編』をやりたいんですけど」っていくわけですよ。車両データは殆ど要らないんですよ、今回は。もうやっちゃったから。今のJRの全ての駅が載ってますとか。俺、これ売れると思うよ。どう思う? ―― 昔「Train Simulator」をMacなどでリリースされていた頃、売店や階段の位置など駅の情報が収録されてましたよね。 向谷氏 あれは好評でしたよ。当時のそば屋とキヨスクとトイレの情報を収録していたんですよ。ああ違う、出口に通じる階段だ。ムービーなんですよ。7号車、4番目の扉の前だと出口が近いとか。全駅QuickTimeでムービーを入れて。そういうアイディア一杯あったよな、そういえば。やりましょうよそれ。やろう。 津田氏 やりますか。先ずはマーケティング面から検討させて頂いて。 向谷氏 あ、そう言えばほかにもアイディアがあった。「あなたも鉄道カメラマン」というモードがあって、列車がびゅーって突っ込んできて、好きなタイミングでカシャっと撮影すると写真が撮れる。これDSだったら面白くない? 流し撮りなんかも撮れたり。 津田氏 鉄道をテーマにすると色んなミニゲームが出て、面白いの出そうですね。これは。 ―― “撮り鉄”としては堪らないですね。それは。 向谷氏 それもすごくひなびた鉄橋の、ここに登るのに丸一日かかるような所から望遠でちゃんと追っかけているというね。自分のプロファイルの所に、自分の撮った好きな写真を貯めておいて、好きなときにぴゅって出すとか。いいじゃん、それやろうよ。 津田氏 それはそれで楽しそうですね。あと観光スポットとか入ってたら、女性の方にも興味を持っていただけるかもしれないですね。 向谷氏 あと必要なのは駅弁だね。それにしても、駅全部紹介して、全部の駅弁紹介したらもう満腹だなそりゃ。 正直、次は私鉄かなと思ってたんですけど、ちょっと今思いついた「駅企画」は本当に面白いや。というか、これこそ正にDSの機動性を活かしている。「よくやったな!」って言われるよねこれ。今回の「JR車両編」にしておけばよかったなと思ったんだけどね。だからJRの隣に駅を入れてね。「JR駅編」とかね。PSPとかもアリかなと思うんですけどね。 津田氏 PSPの機能を生かした方法も色々あるでしょうからね。映像入れるとか。 向谷氏 そうですね、容量も大きいし映像も多いから。それこそさっき話題に上がった、「あなたも鉄道カメラマン」とか。 津田氏 それはできますね。瞬間ぱしって撮るのは。 向谷氏 PSPだったらGPSと連動させるとか。人影まばらな「本当にこんな所に駅があるの?」みたいな所で、GPSで場所のデータをぴこっと出してくれたら、凄く格好良くない? それ。人がいない駅あるんだ本当に。民家も何もない駅が。 津田氏 GPS使ってその駅に行って、GPSセットすると、行ったことが証明されるスタンプみたいなのが押されるとか。全国本当に乗って回ってこないといけない。 向谷氏 凄いね。友達と「どこまで行ったの?」ってばっと見ると、「お前そんなに行ってんのかー! 真っ赤っかだなこれ」みたいな。スタンプラリーがある事を考えたら、それのデジタル版と考えれば全然ありですね。需要はある。 津田氏 なるほどね。夢が広がりますね。 向谷氏 結局、「鉄道ゼミナール」というのを作ったことでJRの許諾も取れましたし、こういった括りでこれまでの鉄道ソフトとはちょっと違ったソフトも制作できました。なんかこうやって鉄道も、根詰めて作ると面白いものができるなというので、新しいコンテンツの作り方をちょっと学んだかなって感じがするんですよ。だから今ちょっとずっと話してたように、その学んだ気持ちがね、まだ暖かい内に次の作品を考えると、また色々できるんじゃないかな。 津田氏 いや、できますよ。 向谷氏 うん。今そういうのはちょっと思ってるところです。正直な所。 ―― でも一番初めにあったように、ユーザ視点というのはどこでも貫かれているという事ですよね。 向谷氏 そうですね。結局僕が鉄道に全く興味のない経営者で会社を運営している人間だったら、そういう事もあるのかもしれないですけど、僕自身が元々鉄道が好きということで音楽館をここまで大きく広げてきたので。僕が万が一、納期や予算の関係で「いや (開発は) ここまでにしないと駄目だ」と言ったら、たぶん社内で僕がクビになってしまうと思いますね。それくらいうちの社内も同じなんですね。まあ僕以上にマニアなんですよ。だから、中途半端なものは社内的な稟議が通らないというかね。 津田氏 こんなんじゃ駄目だと。 向谷氏 こんなんじゃ駄目だと。「恥ずかしいと思わないんですか?」みたいな話になってしまう。だから今、社内を通過させる方が難しいかもしれないですね。 ―― そんな形で、次回作に繋がればいいなという事ですね。 向谷氏 そうですね。 ―― では最後に一言頂けますでしょうか? 向谷氏 このソフトを持って、JRに乗って下さい。それがもう、本当に心の底から言えるソフトです、これは。電車に乗って……JRですよ、JR以外は意味ないですからね。JRに乗るときには必ずこのソフトを片手に楽しんでください。あなたの人生が変わります。 津田氏 検定で楽しんだ後は、ディープな情報満載の車両図鑑でもじっくり楽しんで欲しいですね。「食材を知らずして料理を語るべからず」といいますが、「車両を知らずして鉄道を語るべからず」であると。車両を知ることで、より深く鉄道を楽しめるようになると思います。やったら終わり、というソフトでは無く、末永く楽しめる内容になっていますので、宜しくお願いします。 ―― ありがとうございました
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□タイトーのホームページ (2008年5月8日) [Reported by 船津稔]
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