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会場:Moscone Convention Center 「Warcraft」、「StarCraft」、「Diablo」そして「World of Warcraft」……Blizzard Entertainmentは北米のみならず、アジアでも人気の高いゲームを発売し続けるメーカーである。そのゲームの人気の秘密はオンラインでの「マルチプレイ」にある。Blizzardの提供するマルチプレイの楽しさは、世界中の人々を魅了している。 「Diablo」の「Battle.net」でのオンラインプレイが提供されて以降、Blizzard Entertainmentは生み出した作品のマルチプレイに積極的に取り組み、現在もたとえ古いタイトルでもファンが積極的にプレイし続けている。Blizzardにマルチプレイに対する膨大な経験の蓄積とユーザーからのフィードバックがあったからこそ、世界一のMMORPGとなった「World of Warcraft」(以下、「WoW」)を生み出すことができた、と言えるだろう。
GDCでは「Rules of Engagement: Blizzard's Approach to Multiplayer Game Design」として、Blizzard EntertainmentでVP, Game Designを務めるRob Pardo氏によりBlizzardの作品でのマルチプレイにおけるゲームデザインが語られた。Rob Pardo氏は「WoW」のリードデザイナーを務める人物で、他にも多くのヒット作品を生み出している。Pardo氏が提示する世界のユーザーを魅了するマルチプレイゲームデザインとは、どのようなものなのだろうか。
■ 「Game Balance It never Ends」。試行錯誤と経験の蓄積によって模索していくゲームバランス
協力プレイである「Co-Op」ではチャットシステム、音声チャットのようなスムーズな意思疎通ができるシステム、リーダーを設定し、彼の意志がチーム全体に伝わる要素も重要である。プレーヤー達の役割が補完し合い、そこから戦略を練る楽しさもある。協力プレイをいかにうまく機能させるかも様々な点で検討しなくてはならない。 対戦の場合、便利な機能を追求しながらも、プレーヤー達の腕前がわかるシステムが必要だ。「Warcraft」のようなRTSの場合はプレーヤーは戦闘と生産を並行して進めたりと「マルチタスク」が必須で、対戦相手のユニットを把握するなどプレーヤーの力を高めることで、有利に戦うことができる。また絶対的な強力な要素は入れず、カウンターの対策も入れ、バランスを取っていくことが大事だ。 MMORPGである「WoW」の場合は、レベルによるキャラクタの能力の上昇や鉱石などで得られる優秀なアイテムでキャラクタの力が増してしまうため、厳密なプレーヤーテクニックでの戦いではない、という批判もあるが、キャラクタの力を増すために困難なクエストに挑戦する、といった努力もまたプレーヤースキルの要素であると開発側は捉えている。 ゲームバランスは1つのタイトルでの対戦を長く楽しんでもらうのに重要な要素だ。「WoW」ではソロでも最高レベルに達するような要素を入れつつも、レイドやパーティーでもプレーヤーのキャラクタの役割が重要なものになるようにバランスを調節した。グループでの力を増すという要素と、1人でも冒険が楽しめる要素を両立させるようにした。 「StarCraft II」の場合、「WoW」とは全く違うバランスになっている。プレーヤーの能力は万能ではなく、他の役割では当てはまらないようなユニットを持つ場合もある。プレーヤー達は自分の傾向を選びその戦略を洗練させていくようなバランスに意図的にしていった。組み合わせによっては極端に有利不利が決まってしまうことがあるが、その為にもマッチメイクシステムが重要になっていく。 「Warcraft III」ではチーム戦の楽しさを特に体験できるという。1vs1ではうまくいく戦略が複数の対戦では全く機能しなくなる。作品ごとのアプローチを活かしていくのも大切だ。ardo氏はゲーム開発者へのバランスのアドバイスとして「ゲームを実際にプレイすること」を強く薦める。他のプレーヤーのリプレイをいくら見ていてもゲームのバランスの細かいニュアンスは体得できない。戦略の有効性、ユニットのスピード、アルゴリズム、それらは資料だけでは見えない。プレーヤー達の輪にはいることで様々なものが得られるのだ、とPardo氏は語る。 バランスに関してはβテストも重要だ。ゲーム開発はスケジュールとの戦いなため、バランス調節を取る時間が厳しくなる場合がある。Pardo氏は経験で得た知識として、ユニットのバランスへのアプローチを紹介する。βテスト中に1つのユニットが弱いと感じた場合、アップデートするときはオーバーパワーを与えるのだ。こうすると多くのプレーヤーが使ってくれるため、ここからパワーをダウンさせることで現実的なバランスが模索できるという。 「WoW」ではβテストの短い時期だけ、クリックすることで移動し、敵を攻撃できるという「Diablo」の様なプレイ感覚で操作できるシステムも入れてみた。ここからさらに敵をクリックするとその方向までキャラクタが自動的に走って攻撃するシステムを入れた。結果としてプレーヤーの攻撃能力が万能になりすぎ、プレーヤースキルが発揮しづらくなってしまった。この機能はすぐに削られたが、このように様々な試行錯誤を行ない、ユーザーインターフェイスを洗練させていったという。 「ゲームバランスの調節は永遠に続く」とPardo氏は語る。変更を喜ばないプレーヤーは多くいるが、開発者は長期的な視点に立って決断をして行かなくてはならない。プレーヤーのモチベーションを維持するために、何年もゲームをサポートしなくてはならない。Pardo氏はGDCの前にも4年前に発売された「Warcraft III」のバランスパッチの仕様について議論をしていたという。
チートをしようとするプレーヤーへの対応も常にしていくことが、長く遊べるゲームを作るために必須だ。これをしなくてはすぐにゲームがダメになってしまう。しかし開発者がユーザーの大きな声にパニックを起こし、場当たり的な対応をし続けてしまうと、「いずれ直されるから、自分たちの意見を開発側に言わなくてもいいや」とユーザーに思わせてしまいかねない。「ユーザーとメーカーで常にバランスを考えていけるような長期的な視点が必要なのです」と、Pardo氏は自ら得た経験によって得た考え方を強調した。
■ 開発者がカバーしきれないユーザーの欲求にどう応えるか。心理効果を考えてのユーザーへの働きかけ
ゲームプレーヤーはゲームに負けるのが好きではない。40分以上戦ってその結果負ける、それが数回続くような事があればプレーヤーは疲れ果ててしまう。このため、プレーヤーが負けも恩恵が得られるようなシステムも考えていきたい。ランキングシステムはプレーヤーのモチベーションを上げるが、システムによっては上位の人は負けて順位を落としたくないためにプレイをしなくなるといった齟齬が生じる場合もある。 「WoW」には40vs40の戦いが楽しめる「Alterac Valley」という戦場がある。ここでは敵の拠点のNPCを倒すというのが目的だ。開発側は中間地点でプレーヤーが激しくぶつかる状況を考えていたのだが、実際には両陣営のプレーヤーは敵対プレーヤーに見向きもせずにすれ違い、どれだけ早く敵陣営のNPCを倒すかを競う、という展開になってしまった。 また、負けた方にも得られる恩恵を考えていたために、戦場に入った瞬間キャラクタを放置し、全く戦闘に参加しないプレーヤーも現われた。このコンテンツではプレーヤーが必ずしも開発者が考えたプレイをしてくれるわけではない、ということを思い知らされたという。 「WoW」のβテストでは、ライトプレーヤーがコアプレーヤーとレベルが離れすぎるのを回避するために、経験値に関してログイン時間が長いほど経験値を得られる量が少なくなるシステムを採用していた。しかし、「ゲームを長く続けると罰を受けている気がする」という意見に応えて、経験値が減少するシステムを廃止し、ログインしていない時間が長いプレーヤーに経験値ボーナスが与えられる形に変更した。設計的には同じ思想だが、ボーナスを与えるという方向性の方がユーザーに好評だった。 「Warcraft」ではマップによって戦い方が変わってくるため、戦いたいマップを親指を上に向けるサムズアップ、戦いたくないマップをサムズダウンにしてマッチングを行なっていたが、マップを否定しているように見えてしまうため、両者が戦いを望んでいないマップは選択から除外されるように表示方法を変更した。これは受け手の心を反映したものだ。 ユーザーにわかりやすくするためには「グラフィックス」も重要だ。「Team Fortress」ではガトリングガンを構える巨漢、ショットガンを持つやせた男、というようにキャラクタのパラメーターが見た目ではっきりわかるようにしている。「WoW」では上級者はその職業ならではのセット装備を身にまとい、キャラクタの職業を認識できるようにしている。RTSの場合もビジュアルエフェクトの派手さと見やすさのバランスを考えている。このような「わかりやすさ」がプレーヤーをPvPに集中させる大事な要素だ、とPardo氏は語る。 マッチメイキングはマルチプレイを導入するゲームでは非常に重要なシステムだ。どのような戦いをやりたいか、どんなマップで、どのような相手と戦うか、しかしそれを全てプレーヤーが要望を出してしまうと要求が細かすぎて、結局合致する対戦相手は見つからなくなってしまう。「Warcraft III」ではマップをランダムにするなどプレーヤーの選択をある程度幅を持たせるようにした。「WoW」では対戦を望むプレーヤーがどのくらいいるのか、どのくらいで戦いが始まるかをプレーヤーが把握できるようにしている。 最後にPardo氏が説明したのは、Eスポーツに使用されるようなハードコアのマルチプレイゲームに必要な作品の留意点だ。戦いの実況や録画システム、観戦システムなど、一般プレーヤーがコアプレーヤーのテクニックを見ることができるシステムは必須である。一番良いのは対戦プレーヤーに見ることができないキャラクタが戦場を自由に移動できる「スペクターシステム」だろう。お互いの手の内を観客だけが見ることができれば、対戦者が見ることができない試合の流れを観察できる。興奮は倍増するだろう。 Pardo氏の講演からはBlizzardがどれだけマルチプレイに対して考えているかを知ることができた。これは様々な作品から寄せられるユーザーの意見が資産となっているからだろう。受講者の質問では「『WoW』のあのマップのバランスはおかしいのではないか?」という他の講演では見られない開発者という立場を越えた、熱狂的なファンの質問が寄せられたりと、「WoW」に寄せるファンの“情熱”を感じた。
Pardo氏の講演で、改めて「WoW」をはじめとしたBlizzardの作品の世界的ヒットに繋がる理由を知ることができたと思う。「The Lord of the Rings Online」など「WoW」の成功を参考にした上でのMMORPG作品も生まれはじめている中、今回この講演を聞いた受講者達がどのような答えを出し、よりエキサイティングなマルチプレイ空間をどのように作っていくか、期待したい。
□Blizzard Entertainmentのページ (2008年2月25日) [Reported by 勝田哲也]
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