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Game Developers Conference 2008現地レポート

懐かしの「ポン」から「Halo 3」まで、ゲーム音楽をオーケストラで楽しむ
「Video Games Live @ GDC」

指揮をとるJack Wall氏。壇上を走り回ってはタクトを振り回し会場を盛り上げる。しかし格好がユルい
2月22日 開催(現地時間)

会場:Nob Hill Masonic Center

 今週月曜日から5日間に渡って行なわれたGame Developers Conferenceの最後を飾るのが「Video Games Live @ GDC」だ。「Video Games Live」とはTommy Tallarico氏とJack Wall氏の2人が始めた、ゲームミュージックをオーケストラで聴いてしまおうというイベント。

 Tommy Tallarico氏は17年の間、「メトロイドプライム」などのビデオゲーム音楽の制作に携わってきた。氏が関わったゲームタイトルは300以上といわれ、その間に25のビデオゲーム音楽の賞を受賞している。次に相棒とも言えるJack Wall氏は、アドベンチャーゲームの名作「Myst」シリーズやXbox 360のアクションSFRPG「Mass Effect」の音楽を担当している。2人とも世界最大級のゲームオーディオ・コミュニティ「The Game Audio Network Guild (G.A.N.G)」の主催者だ。「G.A.N.G」は毎年、ドルビーなどがスポンサーとなってGDCでビデオゲーム音楽にG.A.N.G. Awardsを贈っている。

 「Video Games Live」は2005年7月6日、ハリウッドのハリウッドボウルで最初のコンサートが行なわれ、それ以後、ヨーロッパや韓国など世界25都市を回っている。韓国のオリンピック公園で行なわれた講演では12,000人もの人が集まったと言うから、人気の高さがうかがえるというものだ。GDCにおける「Video Games Live」は昨年より、GDCの会期終了日の夜に会場付近のコンサートホールで行なわれるようになっている。今回は会場から徒歩20分のNob Hill Masonic Centerで講演が行なわれた。


■ ここはポップコンサートの会場かと錯覚するぐらい砕けた会場

 通常、クラシックのコンサートというと開場のベルとアナウンスがあり、オーケストラが入場して音程を合わせ、最後に指揮者が拍手とともに入場してスタートというのが通例だが、さすがビデオゲーム音楽のコンサートと言うことで、オーケストラも指揮者も観客も、その場にいる全員の雰囲気がユルい。

 開演時間の20時を前に、観客もブラブラと会場に入り、すでに壇上にはオーケストラの面々と指揮をとるJack Wall氏がスタンバイしている。その出で立ちも、タキシードは着ているものの、ノータイでシャツもズボンの外に出しているというユルさ。そして、だいたいの観客が席に着いたところでタクトを会場に向けてヴワッっと振ると、開場から割れんばかりの反応が起きる。そのまま氏は壇上を飛び回り全部の観客にタクトを振り続け、スタート前から開場は一気にヒートアップ。演奏開始前にもかかわらず、会場の盛り上がりが最高潮に達しているのが印象的だ。

 日本でゲーム音楽のコンサートというと、東京交響楽団が行なっている「ドラゴンクエスト」や、スクウェア・エニックスが主催する「ファイナルファンタジー」のコンサートなどがあるが、これらは“クラシックでゲーム音楽を聴く”という側面が強く、オーケストラに軸足を置いたコンサートで、観客や演奏者もまじめにやっている部分が大きい。しかし、「Video Games Live」はゲームの方に軸足を置いているようで、通常のオーケストラにあるような堅苦しさは微塵も感じられないのが印象的だ。さらに、「Video Games Live」もスタートからもうすぐ4年ということで、多くの固定ファンがついていることもあり、会場のボルテージも上がりやすいのかもしれない。これならば、初めてのファンもすんなりと入っていけるだろう。


■ ゲームキャラクタも登場して一曲ごとに会場は大盛り上がり!

スタートはゲームの歴史をふまえて「ポン」から。BGMが無いビデオゲーム初期のタイトルにもかかわらず、効果音だけで楽しませる
 一通り、Jack Wall氏が会場を盛り上げて演奏がスタート。「Video Games Live」最大の特徴は、オーケストラのバックに設置されたスクリーンだ。「Video Games Live」ではこのスクリーンに映し出されたゲームにあわせてオーケストラが演奏する。ここに真っ先に映し出されたのは'72年に発表されたビデオゲームの元祖とも言える「ポン」。「ポン」自体に音楽はないのだが、ラケットで打ち返す際の“ポン”という音をコントラバスが弦をはじいて奏でる。「ドンキーコング」では、ステージ前にドンキーコングが鉄骨を傾ける効果音をティンパニが演じ、会場の笑いを誘っていた。

 「ポン」の後は、「スペースインベーダー」、「ミサイルコマンドー」、「フロントライン」、「ドンキーコング」、「エレベーターアクション」、「魔界村」、「ガントレット」という具合に、内容は懐かしのレトロゲームの音楽のアレンジメドレーへと移っていった。初期のレトロゲームは「ワルキューレの騎行」など、クラシックの名曲を利用した曲が多く、オーケストラとも相性がいい。オーケストラとゲーム音楽の融合という意味で、一発目にレトロゲームのアレンジを持ってきているのは上手いなと感じた。

 ちなみにレトロゲームアレンジメドレーに登場したゲームは以下の通り。

 「ポン」→「スペースインベーダー」→「ミサイルコマンド」→「ディフェンダー」→「テンペスト」→「センチスピー」→「ドロボトロン2084」→「ジャウスト」→「Satan's Hollow」→「フロントライン」→「ドンキーコング」→「フロッガー」→「エレベーターアクション」→「ドラゴンズレア」→「スペースエース」→「ダックハント」→「パンチアウト」→「魔界村」→「ガントレット」→「ラスタンサーガ」→「アウトラン」→「テトリス」

レトロゲームメドレーの様子。ゲーム画面がスクリーンに映し出されることで、単に聞くよりも曲への没入感というものは格段に高まってくる

「Video Games Live」のプロデューサーTommy Tallarico氏。冒頭のコメントからはゲーム、そしてゲーム音楽に対する愛がヒシヒシと感じられる
 レトロゲームアレンジメドレーが終わったところで、Tommy Tallarico氏が登場。氏は観客に「ゲームは子供の物だとかゲームは暴力行為を助長するという人がいるが、本当にそうか?」と問いかけ、開場からはブーイング。続けて「そんなことはない、ゲームは21世紀を代表するエンターテインメントだ!」と観客に振って、これまた会場のボルテージを上げた。ゲーム制作者、それも音楽担当からのアプローチとしてこういったイベントで意見を伝えていくというのは重要なことだろう。

 続けてTallarico氏は日本のクリエイターからのスペシャルメッセージということで、メタルギアシリーズの小島秀夫監督からのビデオメッセージを紹介しオープニングから始まるメタルギアメドレーへ。しかし、これでただの演奏に終わらないのがVideo Games Liveだ。演奏途中にダンボールをかぶって歩く人物とメタルギアシリーズではおなじみのゲノム兵が登場。ゲノム兵は明らかに違和感のあるダンボールには目もくれず、会場内を走り回り巡回へと戻っていった。こういうジョーク的な演出が見られるのもVideo Games Liveの面白いところだ。

小島監督は「メタルギア」シリーズの音楽を「Video Games Live」で演奏することに謝意を表した 「メタルギアメドレー」では突如、ダンボールに隠れた誰かとゲノム兵が登場。会場が一気に涌いた
中裕司氏は「ゲームミュージックが多くの人に楽しまれていることに喜びを感じ、今後も良質なゲームを作り続けていく」とコメント 「SEGA」のロゴのコールはバックコーラスが生で「セーガー」。各曲ごとにこういった細かいジョーク演出が仕込まれる

 「メタルギアソリッド」のあとは「ソニック」シリーズの中裕司氏のビデオメッセージに続き、「ソニック」シリーズのメドレー演奏となったのだが、壇上には「メタルギア」の演出で使われたダンボールが置かれたまま。「ソニック」シリーズの演奏の間、ずっとダンボールの中で息を潜めている様子だ。「ソニック」シリーズの演奏が終了し、Tallarico氏が登場。Tallarico氏は今日の演奏を担当したSkywalker Symphony Orchestraを紹介し、続けてピアノ奏者の紹介に入ったところで、「ところでこのダンボールはなんでまだいるんだろうね?」と観客に振ると、観客からは「中にジョージ・ルーカスがいるんだ!」などと声が飛ぶ。ダンボールに入っていたのは、「Video Games Live」でピアノ演奏を担当するMartin Leung氏。

 Martin Leung氏は“Video Game Pianist”を自称するピアニストで、「Video Games Live」初期から参加している。Leung氏は「ファイナルファンタジー」メドレーをピアノソロで披露。ここで驚いたのは海外での「ファイナルファンタジー」人気のすごさだ。歓声は「メタルギア」シリーズを上回るぐらいの勢いで起こり、改めて北米での「ファイナルファンタジー」のすごさを感じさせられた。

Martin Leung氏。日本では「マリオブラザーズ」のピアノメドレーを引いている人ということで知っている人も多いだろう Martin Leung氏の得意技である目隠し演奏。ただ目隠しをして演奏するだけでなく早引きまでするのだから、感心してしまう

観客が参加してインベーダーゲームにチャレンジ。やられた瞬間に演奏がピタリと止まる名人芸には脱帽
 その後も演奏は続いたのだが、面白かったのは観客参加型のステージだ。今回の講演ではタイトーの「インベーダーゲーム」と、KONAMIの「フロッガー」を行なったのだが、ゲーム中のBGMをバックのオーケストラがすべて行なった。当然ゲームなので、プレイしている観客のキャラクタがやられてしまえばBGMは最初からやり直し。そしていつそのキャラクタがやられるかはプレーヤー本人にもわからない。しかし、Jack Wall氏率いるオーケストラは完璧なタイミングですべてをやり通した。1回キャラがやられて復活した直後にまたやられるというフェイント的な場面でも、Jack Wall氏のタクトにあわせてビタッと演奏を止め、何事もなかったかのようにBGMを頭から再開する。これはある意味大道芸といっても過言ではないものだった。また、本編の演奏もバックスクリーンに流れるゲーム画面の演出と曲の盛り上がりがピタリと一致しているため、まったく違和感を感じさせない。むしろオーケストラが演奏する分、その音は重厚で、ゲーム中に聞くよりも観客にBGMを印象づけている。

 ちなみに、今回演奏された曲目リストは以下の通り。

「メタルギア ソリッド」シリーズメドレー → 「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」メドレー → 「ファイナルファンタジー」ピアノソロメドレー → 「BIOSHOCK」メインテーマ → 「Civlization IV」メインテーマ → 「Mass Effect」メドレー → 「メトロイド」シリーズメドレー → 「ゼルダの伝説」シリーズメドレー → 「キングダムハーツ」“光”オーケストラアレンジ → 「LAIR」メインテーマ → 「クロノクロス」ピアノアレンジ → 「World of Warcraft」メドレー → 「Starcraft II」スペシャルピース → 「アウトラン2」ジャズアレンジ → 「スーパーマリオブラザーズ」シリーズメドレー → 「Halo」シリーズメドレー → 「キャッスルバニア」シリーズメドレー(アンコール)

「BIOSHOCK」のMusic Composer、Garry Schyman氏。「『BIOSHOCK』の音楽は'60年代の雰囲気を持つゲーム内デザインに基づき、20世紀後半の曲からヒントを得た」とコメント 「Civilization IV」。この曲はアフリカンミュージックの雰囲気を持つ。特徴的なコーラス部分はすべて生声でコーラスが演じていた 任天堂で「マリオブラザーズ」や「ゼルダ」シリーズの音楽を手がける近藤浩治氏。昨年はGDCでの講演があることもあって、生出演していた
「ゼルダの伝説」の演奏ではリンクが壇上に登場。もともとキャラクタが白人ということもあるがコスチュームが似合っている 「キングダムハーツ」の映像はすべてオリジナルフィルムから。動画使用の許諾が降りていないらしいが、もったいないと感じた PS3の「LAIR (邦題:RISE FROM LAIR)」のミュージックコンポーザーであるJohn Debney氏。「LAIR」メインテーマで自らタクトを振った
Bllizard Entertainmentで音楽を手がけるJason Hayes氏。今回は昨年5月に韓国で先行して演奏されていた「StarCraft II」のスペシャル曲を演奏した 「StarCraft II」では、すでに発表済みのトレイラー動画やデザインイラストがスクリーンに映し出された 「Halo」シリーズの音楽を手がけるMarty O'Donnell氏。「Halo」のオープングに入る「あーあ、ああ、あ、あ、あ、あー」という声は彼自身の声だが、会場でも生で披露していた
最後の「Halo」では、Tommy Tallarico氏自らギターを持って登場。ロックスターのようなパフォーマンスを連発していた 「Halo」では最後にマスターチーフが登場。登場した瞬間に観客から地割れのような歓声が起こり、アメリカでの「Halo」の人気を痛感させられた


■ 観客が最大限に楽しみ、終了後には寂しさを感じさせる感動的演奏会

 「Video Games Live」が終わってみて感じるのは、クラシックの演奏ということをまったく感じさせないという点だ。それは通常のクラシックの演奏会と比べて、観客と壇上の距離が非常に近いからと言えるだろう。会場の雰囲気は非常に砕けており、観客も常に笑い声を上げ、知っている曲が多いのでニヤニヤしっぱなしという有様だ。そこにはクラシックの堅さは全くなく、ゲームを楽しむのと同じようにゲームミュージックを観客が楽しんでいる。筆者も仕事抜きで楽しませてもらい、アンコールが終わった後には寂しささえ感じてしまう、心底面白い公演であった。こういったコンサートなら日本のゲームファンもクラシックと言うことを意識することなく、最大限楽しめることだろう。昨年「Video Games Live」は韓国での公演を行なっており、現在も世界中を回って精力的に活動を続けている。ぜひ日本でも公演して欲しいものだ。

会場にはコスプレをした観客たちも。クラシックのコンサートにもかかわらずこういう姿が見られるのもアメリカならではだろう


□Game Developers Conference(英語)のホームページ
http://www.gdconf.com/
□Game Developers Conference(日本語)のホームページ
http://japan.gdconf.com/
□関連情報
【2008年2月】Game Developers Conference 2008 記事リンク集
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20080221/gdclink.htm

(2008年2月24日)

[Reported by 戸塚直太郎]



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