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会場:Moscone Center
グラスホッパーの作品は、その特異な方向性から、日本国内よりも海外にコアなファンが多い。昨年のGDCでは、代表取締役でディレクター・シナリオライターなどを務める須田剛一氏が「Punk's Not Dead」というタイトルで講演しており、今年はそのサウンドを担当した高田氏ということで、グラスホッパーとしては2年連続の講演となる。 講演では、高田氏がサウンドを担当した、Wii用「Resident Evil: The Umbrella Chronicles (邦題: バイオハザード アンブレラ・クロニクルズ、カプコン)」、プレイステーション 2用「GOD HAND (カプコン)」、PS2/ニンテンドーゲームキューブ用「killer7 (カプコン)」、Wii用「NO MORE HEROES (マーベラスエンターテイメント)」について、それぞれの楽曲で何を狙って制作したかを語った。またセッション後半はインタビュー形式で、高田氏に質問をぶつけていく形で進められた。
高田氏は最初に、キーワードとして「トランスレーション (Translation)」という単語を挙げた。直訳すれば「翻訳」といったところだが、その意味は各タイトルの話題の中で語られた。
■ リズムアレンジで新タイプのゲームを表現した「バイオハザード アンブレラ・クロニクルズ」
しかし本作はガンシューティングゲームで、過去のシリーズとはゲーム進行のテンポが異なる。ゲーム画面を見て、「テンポを上げるだけでは、この画面の音楽へのトランスレーションは完了しない」と思った高田氏は、リズムアレンジでテンポ感を吸収する方法を思いついたという。リズム帯を増やし、その上に原曲の特徴的なフレーズを乗せて、全体的なスケール感を大きくする、という方法で楽曲が作られていった。これによって、本作のテンポ感のある画面を、原作の雰囲気を残しつつトランスレーションできたという。
また本作では、エレキギターなどの一見ミスマッチな楽器も、テンポ感を上げられるのではないかという発想から使われている。
■ 「GOD HAND」は三上氏を音楽化?
「肩の力が抜ける音楽」というのは高田氏にとって初めてのアプローチで、1曲目でなかなかOKが出なかったという。特に、三上氏は大阪、高田氏は東京という離れた場所での仕事だっただけに、三上氏のイメージする音楽がつかみきれず、煮詰まってしまったという。 そこで三上氏が、高田氏を大阪に呼んで一緒に仕事をしようと話を持ちかけた。「ゲームの空気を掴みとって作るのが私のスタイル」という高田氏は、同じくサウンドチームの福田淳氏とともに、三上氏のもとへと赴いた。 実際に三上氏と一緒に仕事をしてみて、その人柄に惹かれた高田氏は、「三上さんを音楽に例えるとどうか?」と考えた。三上さんそのものを高田氏自身というフィルターを通して音楽で表現するという、いわば三上氏の音楽へのトランスレーションである。実際、その後はすんなり曲を作れたのだそうだ。 楽曲の方向性としては、特徴的で癖になるフレーズの繰り返しと、どこか懐かしさを感じさせるメロディ、期待を裏切らないコード進行という3つのポイントを押さえたという。
中でもボス戦においては、一度出てきたボスが悪魔化して再び出てくることがあるので、初戦時のBGMを原曲としてアレンジしたものを作っている。原曲は強烈なキャラクタに負けないようインパクトがあり、耳になじむフレーズをくどいほど繰り返すようにしたという。これによって、ボスと音楽のイメージを繋げ、悪魔化して再登場しても同じフレーズがあることでイメージを繋ぎなおしている。この手法はシャノン戦がわかりやすいので聞き比べていただきたい。
■ カオスの中に一貫したサウンドを乗せた「killer7」
そのため、開発初期はどんな曲にすればいいのかもイメージできず、作ってみてゲームに合うならOK、駄目なら作り直しという、クラッシュ&ビルドで制作。「シナリオ、キャラクタ、ゲーム展開をそのままゲームに。プレイしながら、その画面を音楽にトランスレーションした」という。
このやり方で楽曲を作っていく中で、「これでは音の収拾がつかない。カオスに身をゆだねてはゲームの面白さを損なう」という心配が高田氏にあったという。そこで、作品全体に一貫した効果音をつけ、メロディもそれに合わせて丁寧につけるという手法を考えた。「killer7」はグラスホッパーで制作された作品で、「サウンド担当が演出に口を出すことも許される雰囲気がある」という。実際、効果音の鳴るタイミングもプログラマと相談し、気持ちよさを求めていったそうだ。
■ 1つのフレーズを使って世界を感じさせた「NO MORE HEROES」
高田氏の最初の仕事は、E3用トレーラームービー用の音楽の制作だった。「制作期間は、確か1日しかなかった」というタイトどころではない状況で、トレーラームービーを見ながら音楽を考え、ピアノを弾いていたら、1つのフレーズが浮かんだという。このフレーズで1曲作ってトレーラーに乗せてE3で発表したところ、手ごたえを感じたため、これをメインフレーズとして使うことにしたという。 実際に音楽を聞いてみると、確かにベースとなっているフレーズが同じものであることがすぐにわかる。「1つの曲を使いまわすといっても一本調子にならないよう、またボスではキャラクタの個性を引き立たせる音楽へとトランスレートした。音楽によって、『NO MORE HEROES』の世界を記憶に残るようにした」と高田氏は語った。
本作においてもう1つ面白い試みとして、Wiiリモコンのスピーカーを使ったというものがある。何に使うかを考えたときに、Wiiリモコンを携帯電話に見立てることを思いつき、電話をしているような擬似的な雰囲気を出すことを狙ったという。高田氏は「効果音も我々の仕事。『killer7』でのノウハウが生きた」と話していた。
■ 高田氏の言う「トランスレーション」とは何か? 高田氏はそのほかの活動についてもいくつか語った。まずグラスホッパーでは、「NO MORE HEROES」のリミックスサントラを制作中で、ゲームとは別の手法と制作による「再トランスレーション」を行なっているという。 KONAMIの「Beatmania IIDX」にも楽曲を提供している。音楽そのものが題材になっているゲームだけに、「自分の作りたい曲を一番に考えて作った」という。ほかにも「大乱闘スマッシュブラザーズX」では、アレンジャーとして参加している。演奏活動もしており、「HOPPERS」というイベントでライブ活動も欠かさずやっていきたい、とも語っていた。 高田氏は最後に、「私はゲーム音楽が大好きです。ゲーム音楽を作ることがライフワークといっても過言ではありません。今後もさまざまなゲームを音楽にトランスレーションしていきたいと思います」と語った。
高田氏の言う「トランスレーション」というのは、「何かを音楽という形に翻訳する」という意味のようだ。アレンジというと、既にある音楽を別の形にするということになるが、高田氏の「トランスレーション」では、元を音楽に限定していない。あるゲームがあって、そのクリエイターがいて、そこで何を伝えようとしているのかを読み取り、音楽という形に出力する。それが高田氏のゲーム音楽の作曲スタイル、ということなのだろう。
■ 高田氏の人となりも見えた? Q&A 講演後に長めの時間を取って行なわれたQ&Aでは、欧米と日本のサウンドクリエイターの差などについての質問が多く寄せられた。中には高田氏の人となりが見える質問もあったので、いくつか紹介しておこう。 ――日本でゲームの作曲家というのは、開発チームの方々は同じくらいのレベルで尊敬されていますか? 「他社のことはわかりませんが、グラスホッパーでの地位はとても高いと思います。演出にも口を出させてもらえます。ユーザーがどうしたら楽しんでもらえるかということを考えているので、グラフィッカーやプログラマー、ディレクターとはよく話をして、こうしたほうが楽しいと思えることをやっています。サウンドの地位が低いと感じたことは、グラスホッパーではありません」 ――ここ数年、サウンドクリエイターは会社を去って独立する傾向があるようです。日本では植松さんなどもそうですが、会社を出るというのは日本でも多いのですか? 「僕の周りで独立する人は比較的少ないです。サウンドを外注に出す会社が割と多いので、しばらくは日本でも食べていけると思います。ただ、僕は作っている現場にいたいと思っているので、独立しようと考えたことはありません」 ――PCはMacを使うのですか? 「はい。僕は昔、Macを使いたくて音楽をやっていたところもあります。Macを普及させたいという想いがあるので(笑)。会社にはWindowsマシンもありますが、Excelやメールでしか使っていません」 ――作曲のときに一番大変なことは? 「グラスホッパーのスローガンはクラッシュ&ビルドで、面白くなければ壊して作り直すというのがあります。音楽的も計算して時間をかけて作ったものが、一夜にして使われなくなることもある。世に出ない曲があることがつらい時もありますが、ここだけの話、ストックという曲が結構あります。いろんな仕事が来て、前回ほかのプロジェクトで使われなかった曲を、別のタイトルやプロジェクトで使うことがあります。それが新しいプロジェクトに合わなければならないので、アレンジをします。それをやっていたら、とてもアレンジの能力が身につきました」 ――ミュージシャンからゲーム作曲家になったきっかけは? 「物心ついたころからエレクトーンやピアノをやっていて、漠然として音楽の仕事をやっていくんだと思っていました。ナムコさんのゼビウスやマッピーが好きだったので、そういうところからやりたくなったのだと思います」 ――作曲家として、ゲームに合わせて音が変化するダイナミックなものなど、これまでにないような音楽の作り方に興味がありますか?
「今まで聴いたことのないような音楽を作りたいとは常に思っています。でもそれが全てのゲームに合うとは思いません。ゲームの画面をいかに音楽にトランスレートできるかに力を注いでいます」
「飽きっぽい性格なので。作曲を始めたのは小学生のころからなので、ロックっぽいもの、とかを作ると1曲で飽きてしまうんです。それを繰り返しているうち、こうなってしまいました」 ――得意、不得意なジャンルはあるのですか?
「ジャズ的アプローチを習得したいと思って音楽の学校に行きましたが、あまり勉強できないうちに卒業してしまいました。ジャズっぽい音楽を使うときには、フィーリングではできず、頭で考えて作っています」
(2008年2月24日) [Reported by 石田賀津男]
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