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【Game Developers Conference 2008 現地レポート】

「ロストオデッセイ」開発のフィールプラス中里氏が講演
開発における成功・失敗談を各方面から分析

2月18~22日(現地時間) 開催

会場:Moscone Center

 Xbox 360用RPG「ロストオデッセイ」は、「ファイナルファンタジー」の生みの親として知られるミストウォーカーの坂口博信氏が総指揮を取り、音楽を同じく「ファイナルファンタジー」などを手がけた植松伸夫氏、キャラクターデザインを「スラムダンク」などで知られる漫画家の井上雄彦氏が担当するという、豪華な開発陣を揃えたことで話題を呼んだ。

 しかし本作には、もう1つユニークな点がある。早期のワールドワイド展開である。日本で2007年12月に発売された後、米国で2月12日に発売、欧州でも2月29日に発売予定となっており、かなり短期間で9カ国語ものバージョンが発売されることになった。そういった経緯もあってか、今年のGDCにおいて、早くも本作のセッションが設けられた。講演者は、フィールプラス代表取締役の中里英一郎氏。

 セッション名は「Looking Back at LOST ODYSSEY - The Challenge of Cross Cultural Development (「ロストオデッセイ」の開発を振り返る - 日本式と欧米式の融合)」ということだったが、中里氏は早々に「あまりワールドワイド展開についての話はありません」とお詫びを入れた。講演の内容は、「ロストオデッセイ」の開発を振り返っての成功・失敗談を語るものとなっている。



■ 「ロストオデッセイ」の開発経緯

マイクロソフト、ミストウォーカー、フィールプラスの3社協業となった「ロストオデッセイ」の開発
スライドで示された開発スケジュール。これはフィールプラスとしてのもので、実際にはこれ以前からマイクロソフト社内で開発が進められていた
 まず「ロストオデッセイ」の開発における経緯から紹介しておきたい。開発当初は、ミストウォーカーとマイクロソフトとの協業という形でマイクロソフト社内で作られていたものが、途中でフィールプラスに開発が移された。

 フィールプラスは、2005年に「ロストオデッセイ」を作るために立ち上げられたスタジオ。アートゥーン、キャビアとともに、AQインタラクティブの傘下となっているスタジオである。現在は100人ほどのスタッフが在籍。「ロストオデッセイ」の開発時は外から人を集めていたのでもう少し多かったそうだ。

 「ロストオデッセイ」の開発に携わる3つの会社の関係を整理すると、マイクロソフトはマネージメントとテスト、日本語と英語以外の言語ローカライズを担当。ミストウォーカーでは、坂口氏と作家の重松清氏がストーリー、井上氏がキャラクタデザイン、植松氏が音楽を担当。そしてフィールプラスは、実際のゲーム開発の全てを担当した。

 2004年から始まった開発は、マイクロソフトブランドの下ではゲーム開発スタッフを集めづらいなどの理由があり、フィールプラスを設立することになる。当時のスタッフはマイクロソフトのスタッフが出向という形になっていたが、現在は純粋にフィールプラスの社員ということになっている。

 開発開始から1年半から2年は、まだXbox 360のハードウェアがない状態で、PC上で手探りで制作していたという。発売の約1年半前となる2006年6月にはプレイアブルデモを制作。これについて中里氏は、「まだ完成度が高くない状態で出してしまった」と反省していた。その後もトレーラーを計7本ほど制作し、時期を見て少しずつ発表しながら、2007年12月に発売。ダウンロードコンテンツの制作も先日終わり、フィールプラスとしての作業はひとまず終了ということになっている。



■ 各開発パートにおける成功・失敗談

開発部隊を大きく3つのパートに分けて管理。スライドの右には、各セクションの最大時の参加人数が書かれており、相当な大規模プロジェクトだったことがわかる
 本作の開発は非常に大規模なものとなったため、全体のパートをゲームディレクター、プロダクションマネージャー、アートディレクターの3つに分けて行なわれた。もちろんその中でも作業は細分化されるが、中里氏はこの大まかなパート分担の中での成功・失敗事例を順に紹介していった。

 まずゲームデザインにおいてよかった点として、日本的なRPGを作りなれている人が集まっていていたので作りやすかったことと、重松氏が書いたストーリーをテキストノベル的な表現にしたことを挙げた。重松氏のシナリオ「千年の夢」は、主人公の過去の記憶を断片的な小さなストーリーとして表現したもの。ゲームの進行とは関係ないが、全体のストーリーやキャラクタの深みを増している。「テキストでやろうといったときはかなり議論があったが、いい方向にいった」と中里氏は語っている。

 逆に悪かった点としては、ハードウェアがないような段階で人数を増やしすぎたため、結局やり直しが発生したこと。また全体のデザインを、バトルとアドベンチャーとカットシーンという3つのシーンを分けて作っていたことも、後で1つに繋ぎ合わせる際に問題が発生したという。中里氏は、「今後はシームレスに作れるよう考えるべきだと感じた」と振り返った。

 次にビジュアル制作について。キャラクタやクリーチャーをすばやく作れたことはよかったが、反面、背景に時間をかけすぎたことを失敗として挙げた。プレーヤーが滅多に行かないようなところや、一瞬で通り過ぎるような場所にも、力を入れて作りすぎたという。

 またレベルデザインと背景デザインのチームのコミュニケーションが複雑で、ミスコミュニケーションや作り直しが発生したという。これについては、「背景を描けてレベルデザインもできる人がいればいいのですが」というに留まり、今もいい解決方法が見つからないようだ。ほかにもコンセプトアートを細かいところまで描きすぎ、時間とコストがかかったことも挙げ、「ディテールまでそろっていて、今見るといいのだけれど、そこまでやる必要があったのかと思う」と語った。

 カットシーンの制作では、映画経験者だがゲーム開発は未経験というディレクターを起用したことがうまく当たり、いいものができたという。またフェイシャル表現を英語にあわせて手付けしたのも、「作業量は増えたがよかったと思う。特に瞳の使い方がよかった」と高評価した。

 反省点はプリレンダリングのカットシーンで、実機処理とビジュアルのトーンが変わってしまうことを気にしていた。「Xbox 360の性能を考えれば必要なかった」と言っていたが、これは開発当初にXbox 360の実機がなかったことが大きく影響している。

 また実機処理の中でも、Aイベント、Bイベントと分けて作ったのも失敗だったという。Aイベントというのは、モーションキャプチャから立てたりして完全に個別に制作したもの。Bイベントはあらかじめ準備したモーションパーツを組み合わせたような作り方のもの。「プレーヤーとしてはどちらも同じイベントシーンなので、クオリティのばらつきが見えたかもしれない。いっそBイベントはなくしてスクリプトイベントにしたほうが全体の統一感を出せたかもしれない」と語った。

 技術的な面では、Unreal3エンジンを採用したことがトピックとなった。ハードがない状態から360がきちんと動くまで、PCで開発を進められたのは大きな利点だったという。しかし、日本の一般的なRPGの作り方と、Unreal3エンジンの手法が相容れなかったのかもしれない、とも語った。

 Xbox 360と、「ロストオデッセイ」というゲームのいずれも開発途上だった上に、さらにUnreal3エンジンという開発途上のものが入ってしまったことも問題になった。「Unreal3エンジンのバージョンアップは、別のプラットフォームに移植するような気分で、毎回4~6週間、すべてのプログラマが作業を止めて対応することになった」という。ドキュメントがすべて英語だったことも日本人の開発者には障壁となり、日本語のサポートもあったがタイムラグがあったという。

 このほかデバッグなどの最後のチューニングも大変だったという。「ユーザーからロードが遅いといわれるが、マスターアップの1カ月前から比べると30%程度短くなっている。それ以上は残念ながらできなかった」と残念そうに語っていた。

 プロジェクトマネジメントでは、マイクロソフトが3カ月ごとに設定したマイルストーンがよかったという。縛りはきつくなるが、次回のマイルストーンが常に見えており、それがメリハリとなって長いプロジェクトの中だるみもなかったという。

 失敗談としては、「これは仕方ないが」と前置きしつつ、初めて集まったチームで、初のプラットフォームでゲームを作るということで、チームの一体感を作るまで時間がかかったという。優秀なスタッフが集まった分、それぞれの考えも強く、やはり途中で脱落していった人もいたのだそうだ。

 ローカライズにおいては前述のとおり、短期間で9カ国語のローカライズに成功した点を評価した。開発においては、英語と日本語をフィールプラスが制作し、その他をマイクロソフトが担当している。これは開発時より大前提とされていたもので、予めゲーム側に仕組みを設け、フィールプラスで使っていたツールをより使いやすくしてマイクロソフトに提供した。これにより、ゲーム上で正しく表示されているかというレベルまでのチェックを、フィールプラスが携わることなく行なえたという。

 悪かった点としては、やはり最後まで細かい変更があったこと。しかし上記のツールを提供したことで、細かい部分まで対応してもらえたとしており、内容的には満足のいくものが仕上がったようだ。

 最後にチューニングとテストについて。バグの報告は、マイクロソフトが日本語に直して上げてくれるため、とても対応しやすかったという。またバグ対応の際には、バグそれぞれにプライオリティを設定し、その優先順位を守って修正を行なった。たとえ一瞬で直せるバグであっても、他への影響が考えられる場合などはプライオリティを落とすなどして、慎重かつ整然と進められたという。このプライオリティの決定は、バグコミュニティを設けることで決めていったそうだ。



■ 途上要素が重なる中、整然と開発が進められた「ロストオデッセイ」

多くの不安要素を抱えつつ、多言語対応を成し遂げられたことには、中里氏も満足しているようだ
 最後にまとめとして、チーム人数を増やしすぎたことと、新しいチームとプラットフォーム、ミドルウェアという3つの発展途上が重なったことでプロジェクトの難易度は非常に高くなったことを反省点とした。

 特によかったのは、マイクロソフトのスタッフが多かったことで、パブリッシャーとデベロッパーの関係はスムーズだったこと、ローカライズとQAが最後までうまくいったこと、30万ワードのゲームをほぼ同時期に9カ国語で出せたこと。特に早期の多言語対応は、「大きな成功だったと思う」と中里氏は語った。

 日本での開発における話題に終始したセッションだったが、逆に言えば、多言語対応やそれにかかるバグフィックスは、極めてスムーズに進んだということだ。元々、マイクロソフト社内で作られるはずだったということもあるが、パートナーシップは極めて良好だったというのがわかる。

 現在、日本の王道的RPGを追求した「ロストオデッセイ」が、世界各国のXbox 360のホームページで前面に押し出されて、ユーザーにアピールされている。果たしてどういった評価を受けることになるのかは今後見えてくることだが、日本式のRPGでもワールドワイド展開ができるということ自体が、何よりも大きなトピックである。この貴重なノウハウを蓄積した3社が、これからどういった戦略を取っていくのかにも注目していきたい。

□Game Developers Conferece 2008のホームページ
http://japan.gdconf.com/
□フィールプラスのホームページ
http://www.feelplus.jp/
□「ロストオデッセイ」のページ
http://lostodyssey.jp/
□関連情報
Game Developers Conference 2008 関連記事リンク集
http://game.watch.impress.co.jp/docs/

(2008年2月24日)

[Reported by 石田賀津男]



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