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会場:Moscone Center
本作は、2003年8月に発売されたニンテンドーゲームキューブ用RPG「ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル」の数年後の世界を描いたもの。プレーヤーは国を失った若き国王レオとなり、辺境の地で冒険者たちと協力して新たな国を築き上げていく。しかし立場はあくまで国王であり、激しい冒険の物語は繰り広げられず、クリスタルから授けられた「建築術(アーキテクト)」という力で建物を作っていくという、一風変わったRPG作品である。
GDC4日目の21日に開かれたセッション「Wii Ware Project Lifecycle: FINAL FANTASY CRYSTAL CHRONICLES, THE LITTLE KING (Wiiウェアのライフサイクル:「小さな王様と約束の国 ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル」研究事例)」では、Wiiウェア開発の1つのモデルケースとして、また大作志向のスクウェア・エニックスが小規模チームによる開発を行なった事例として、本作の開発経緯が語られた。
しかしWiiウェアは容量が限られており、多数のCGを使うのには不向き。またバーチャルコンソールで配信される過去の名作が相手となり、低価格での提供が前提となるため、多くの開発人員を割くのには向かない。「それ自体がスクウェア・エニックスとしては新たな挑戦となった」と語り、その挑戦の内容を紹介していった。
■ 大規模ゲーム開発会社による、小規模ゲーム開発への挑戦
開発を始める際、世界観をイメージさせるビジュアルからではなく、ゲームコンセプトから作り始めたという。そのため本作では街の外のビジュアルがなく、冒険の様子は想像に任されている。これについて白石氏は、「説得力があるものでなければ、想像力に任せたほうがいい」と考えを述べた。もちろんここには、絶対的なデータ量を減らすという目的を同時に果たせるというメリットもある。 開発ツールには、スクリプト言語のSquirrelと、任天堂提供のミドルウェアであるNintendoWareを使用している。スクウェア・エニックスでは通常、開発ツールは自社で作ったものを使用するため、他社のツールを使うことがないが、「短期で作るにはこれがいいと判断した」という。 Squirrelについては、「メモリの消費量は増してしまうが、それだけの価値がある」という白石氏。プログラムの7割はSquirrelを使用しているという。またNintendoWareについても「すばらしいツール」といい、「中規模のプロジェクトにはいいコンビネーションだと思う」と高く評価した。 ただ開発が順調だったかというと、いくつかの問題点もあったという。まずゲームデザインにおいては、バトルシステムを作るのに数カ月の時間を費やしてしまい、結果として開発初期の半年が調整ばかりで終わってしまったという。 また開発の中で、目標とする品質を切り替え、「バーチャルコンソールよりもいいもの」とし、グラフィックスなどの見た目は、他のWii用ゲームに見劣りしないこととした。そしてその上で、「これは『ファイナルファンタジー』シリーズだ」ということを意識して、最大限の努力をすることも付け加えた。 開発期間は、当初よりもかなり長くなったが、これは「Wiiウェアのローンチが伸びたため、意図的に伸ばした」と語った。実際、Wiiウェアのローンチは当初よりも半年以上先送りされている格好で、そのローンチタイトルとなる本作も、その時間を有意義に使って作りこんでいるというわけだ。
白石氏は最後に本作について、「従来型の『スクウェア・エニックス ゲーム』を狙って作ってはいません。しかし、紛れもなくスクウェア・エニックスのゲームとして終わります」と語った。
■ プロデューサー視点からのアプローチ
当初、白石氏が提示した少人数のプロジェクト構想に対しては、土田氏は「夢のような小規模プロジェクトを提示されたが、それはあまり信用していなかった」という。開発に入った後も、画面の表現手法やCGリソースの作りこみは、ゲームの全体像が見えるまではさせないことを条件としたという。 その代わりに、土田氏はGC用「ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル」のプロデューサーの下に赴き、試作品を作る際に使うCGリソースを借りる許可を取り付けた。試作にCGを作らせないことで、コストを最小限に止め、挑戦的な商品開発に取り組める環境を作った。 次にゲームが形になって、商品化する際に考えたこととして、「バーチャルコンソールとの差別化」を挙げた。「Wiiウェアは、ユーザー全員がオンラインに繋いでいることを前提にしたゲームを設計できる。そういった要素を盛り込むことで、バーチャルコンソールのタイトルにはない魅力を生み出せる」と、Wiiウェアならではの強みを分析した。 差別化という点では、グラフィックスにおいても優位性はある。しかし、「それを意識しすぎて、パッケージタイトルの表現を目指すと容量やコストが増すため、そこは避けたいと思った」という。必要なのはWiiウェアの中での差別化であり、独特なキャラクタや世界観を盛り込むことは当然だが、パッケージ商品と張り合うようなことは意識させないよう注意したという。 開発費については、GC版のスピンオフという形を選ぶことで、世界観の構築などにかかる作業を圧縮。その他の部分でも、先のようにCGリソースを借りるだけでなく、試作品を認めてもらうことで、その後も継続して協力が得られたという。 シナリオはその後から作成にかかった。担当には若手スタッフを使い、ベテランスタッフの助言を依頼。シナリオと演出では、「ファイナルファンタジーXIII」でディレクターを務めている鳥山求氏にお願いできたそうだ。 キャラクタは、GC版から可能なものを再利用する形で進められた。これには作業コストを減らすということに加え、新規とオリジナルのCGを混ぜて使うことで、違和感がないレベルまでオリジナルのクオリティを引き上げることを狙った。スタッフはこちらも若手を使い、ベテランのサポートを受けたという。 これ以外にも、社内のこれまでのプロジェクトから情報を得て、極力無駄を減らす形で開発が進められていった。土田氏は今回のやり方を振り返り、「10年以上スクエニにいる私だからできたという属人的なものではなく、社内でシステムとしてできるようなものが今後必要だ」と述べた。 コスト低減策としては、グラフィックス面の切り詰めも行なっている。街の外の絵は地図と文字だけで、モンスターCGはイベントにでてくる1体だけ。街にいる冒険者は武器も持たず、キャラクタのモデルは少なくしている。これはゲームデザインの中で、キャラクタの名前やデータを意識させるよう仕向けることで隠蔽を図っている。 土田氏は今回の開発経験によって、「クリエイティブスタッフが新たな選択肢を得た」という。同社は「ファイナルファンタジー7」でCGを大量に生み出す方法を成功させ、それを仕組みを洗練して今に至っているのだが、その副作用として、内容や試みにかかわらず、そのやり方をしてしまうという問題を抱えてしまった。そういったハイエンドゲームの制作は、長ければ4年に渡って開発をするので経験やキャリアになる。しかし最大200人ものスタッフによる分業では、個人が作品の全体像を把握するのが難しくなってしまう。 Wiiウェアでは、開発は1年と短く、少人数ゆえに広い範囲のスキルが求められ、身につけられる。作品に対する深い理解も求められ、その分だけ責任が増し、発言力も増す。 土田氏は最後に、「クリエイターの幸せは、自分の能力に自信を持ち、それを生かす場所を選べることだと思う。そして作品が正当な評価を受けること。大作を作れるのは我々の強みだが、そのビジネスモデルへの依存がスタイルを縛るのは、開発会社としては問題がある。クリエイターの選択肢を広げるきっかけになる、よいプロジェクトにしたい」と語った。
素人考えでは、「大は小を兼ねる」という感覚で、大きな作品が作れるなら小さなものも当然作れると思ってしまう。しかしWiiウェアのような比較的小規模な仕組みにパッケージタイトルと同量のリソースを割いていては、ビジネスとしては成立しない。Wiiウェアという存在によって刺激を受けたスクウェア・エニックスが、大作主義とは別の新たな方向性を見出せるのか。この1本だけでなく、次がどうなってくるのかも楽しみなところだ。
□Game Developers Conferece 2008のホームページ http://japan.gdconf.com/ □スクウェア・エニックスのホームページ http://www.square-enix.com/jp/ □スクウェア・エニックスのホームページ http://www.square-enix.co.jp/littleking/ □関連情報 【2月21日】スクエニ、Wiiウェア「小さな王様と約束の国 FFCC」 国民の「幸せ度」や新たな登場キャラクタなどを公開 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20080221/ffcc.htm Game Developers Conference 2008 記事リンク集 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20080221/gdclink.htm (2008年2月24日) [Reported by 石田賀津男]
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