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会場:Moscone Convention Center 「Spielberg's BOOM BLOX」は映画監督であるスティーヴン・スピルバーグ氏がE3でWiiを宮本茂氏とプレイをした時に、「自分も子供から大人まで楽しんでもらえるようなゲームを作りたい」という情熱が生まれ、そこからElectronic Arts との共同開発が始まったWii向けのパズルゲームだ。北米で2008年5月発売予定で日本での発売は未定である。 スピルバーグ氏の想いをヒントに生まれた本作のコンセプトは「ものをぶつけて壊す」というものだ。積んであるブロックにポインタを合わせ、ぶつけるポイントを決めてから、Wiiのコントローラを振りかぶり前に投げるように振り下ろすことで、ものをぶつけて、崩す。うまくぶつけることができれば積まれたブロックはバラバラになる。「積み木崩し」のような原初的な楽しさを持つ作品となっている。
Electronic Arts LAのVP of Creative Developmentを務めるLouis Castle氏は、「Spielberg's BOOM BLOX」(以下、「BOOM BLOX」)の制作過程を語った。EAの開発スタッフが、作品のコンセプトをどのようにゲームにもたらしていったか、また開発での困難な点は何だったのか、そしてどのようなゲームになったかを紹介したい。
■ Wiiとスピルバーグ氏、宮本氏の出会いがきっかけで生まれた、原初的な楽しさを持つアクションパズル
EAはスピルバーグ氏と複数のゲームを作るという契約を結んでいる。「BOOM BLOX」はその第一弾のゲームとなる。彼は映画制作をしていない時は毎週開発スタジオを訪れ、「BOOM BLOX」の制作に深く関わっている。「スピルバーグ氏の持つ創造性はゲーム制作においてとても刺激的だった」とCastle氏は語る。 「“ものをぶつけて壊す”というのは、特に子供は大好きだ。『BOOM BLOX』はものをぶつけて壊しても怒られないようなゲームにしたい」というスピルバーグ氏の想いからスタートした本作は、“Wiiのコントローラの特性を活かしたゲームを作りたい”と考えていた開発チームのテーマと合致し、様々な技術的検討が行なわれていった。 「BOOM BLOX」のもう1つのテーマは、「ゲームのテクニックだけを求めるタイプではなく、考えながら進めていくようなゲームにしたい」というものだ。そしてWiiの持つポテンシャルを活かし、家族みんなで解法を考えるような、みんなで楽しめるゲームを目指していった。 まず開発スタッフが行なったのはWiiのコントローラの能力の検討だった。振り下ろす投げるというモーションの場合、立って投げるというモーションでも、プレーヤーが立って行なう場合と、座って行なう場合では全く異なる。また、振り下ろす時にまっすぐおろさなくてはデータに大きなぶれが生まれてしまう。投げるという行為をゲーム内で実現させるためには、Wiiのコントローラのどの能力を使っていくかを詰めていった。 次に行なったのはカメラコントロールである。どこにものをぶつければブロックはバラバラになるか。それを考えるためにはわかりやすいカメラコントロールが必須だ。そしてWiiのコントローラで「投げる」、「ものをつかんで動かす」、「押す・引っ張る」という3つのアクションを実現させることを決定した。「Wiiのコントローラはとても素晴らしいが、“魔法のアイテム”ではない」とCastle氏は語る。アクションを実現させるために様々な検討を重ねたという。
次に受講者に提示されたのはものを壊す物理のシミュレーションだ。物理エンジンにはHavokを使っているという。ものをぶつけた衝撃によって積んでいたものが崩れる。このシミュレーションは非常に楽しい。スタッフはそこから様々な可能性を検討していった。蛇のおもちゃのようにぐねぐねと動く棒でものを押したり崩すアクションはCastle氏がとてもお気に入りだったが、ゲーム内で活かすことができず、今回は採用を見送ったとのことだ。
■ 大きな開発会社ならではの利点と問題点。多くの意見により決められていく全年齢へ向けたゲーム作り
ゲーム開発に当たり、少人数のチームで進めていたため、外部にゲームを説明するための資料や人材が不足していたこともゲーム開発に難航した理由の1つだ。コンセプトだけでなく、現在のゲームに求められるグラフィックスやモデリングなどの人材や、彼らとコミュニケーションする人材、マネージメントを行なうための人材など急にチームの数がふくれあがっていった。 Castle氏は少人数のチームのままゲーム開発を進めたかったが、結局は大きなプロジェクトとなってしまった。もちろん、多くのスタッフが集まったことでのメリットも大きかった。ゲームの雰囲気を盛り上げるかわいらしいキャラクタの創造や、世界全体に暖かな雰囲気を与えてくれるアートワーク、物理演算のアニメーションの詳細な表現やバランスもスタッフの数が実現させてくれた要素だ。フィードバックへの対応もスムーズにできた。 「大がかりなプロジェクトを進めるためには密接なコミュニケーションが必須だ」というのがCastle氏が今回得た大きな教訓だという。少人数からいきなり増えたため、知識の共有などに難航した。数人のスペシャリストのマネージメントにより、この問題は克服されていった。「今後も少人数でゲームを作る時も外部とのコミュニケーションを専門にするスタッフは必須だ」とCastle氏は語る。 スタッフが増えたことでゲームの環境はぐっとリッチになった。ものを壊すというコンセプトに集中しながらも、キャラクタのかわいらしい動き、プレーヤーを応援するようなアニメーションなど、作品世界全体がにぎやかな雰囲気となった。ここにはスピルバーグ氏の「パズルを解くことだけに挑戦していると、孤独感が強くなるね」という意見に応えるための要素だ。画面内のキャラクタはプレーヤーを励まし、うまくものを壊すと一緒に喜んでくれる。プレーヤーのゲームのモチベーションを大きく増してくれる結果となった。この他にも多くの要素がスピルバーグ氏の指摘で改善されていったという。 Castle氏は「BOOM BLOX」の“自由度”も大きなセールスポイントだと語る。本作は細かいゲームルールやキャラクタ、面エディットなど様々なものをプレーヤー自身の手でカスタマイズすることができ、データを他のプレーヤーに渡したりすることもできる。カスタマイズの仕方では全く他のアプローチもできる。子供や年配の人でも自分なりの「ゲーム作り」が楽しめるという。 開発に関しては大きな会社故の混乱もあったが、EAという会社での環境によってこのゲームの開発がスムーズに行った、とCastle氏は語る。EAはタイトルを完成させるためには開発者にちゃんと時間をくれる会社であるという。作品に関して様々な方面から意見をもらうことができるのも大きな会社ならではだ。この作品は単純なパズルでなく、アクションが楽しく、キャラクタ性も強い、独特なユニークな作品になった。Castle氏はゲームのコンセプトと、自由度に強く満足感を感じているという。 講演の終了後にはCastle氏が質問に応えると同時に、スタッフによるデモプレイも行なわれた。多くの来場者がスタッフに教えてもらいながらコントローラを振り、ものを積まれたブロックにぶつけていた。「BOOM BLOX」は見ているだけで思わずプレイしてみたくなる魅力を持っている。それは物理エンジンで崩れるブロックを見ているだけでも引き込まれてしまい、「根源的な楽しさ」がもたらすものだと思う。 ものをぶつけると衝突の力に応じて物体が動き、振動し、全体に影響をおよぼす。丁寧に積まれたブロックがバラバラになったり、当たるところがダメだと、一部分しか崩れない。現在、主にゲームの演出に使われているこの物理エンジンを使った技術を、低年齢層向けにフォーカスすることで子供からお年寄りまで楽しめるような「わかりやすい面白さ」を持ったゲームに仕上げる着眼点は非常に魅力的に感じた。
欧米の低年齢層向け作品は日本人にとってはキャラクタが“濃すぎる”場合もあるが、本作の柔らかいキャラクタデザインは日本でも大いに受けそうである。筆者自身「BOOM BLOX」を早くプレイしてみたいと感じた。残念ながらいまのところ日本の発売は未定だが、ぜひ発売してもらいたい。
□「Spielberg's BOOM BLOX」のページ(英語) (2008年2月24日) [Reported by 勝田哲也]
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