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Game Developers Conference 2008現地レポート

ものをぶつけて、壊す。原初的な爽快感をもたらす「Spielberg's BOOM BLOX」
映画の巨匠とEAスタッフがWiiで提示する“楽しい破壊”

2月18~22日開催

会場:Moscone Convention Center

 「Spielberg's BOOM BLOX」は映画監督であるスティーヴン・スピルバーグ氏がE3でWiiを宮本茂氏とプレイをした時に、「自分も子供から大人まで楽しんでもらえるようなゲームを作りたい」という情熱が生まれ、そこからElectronic Arts との共同開発が始まったWii向けのパズルゲームだ。北米で2008年5月発売予定で日本での発売は未定である。

 スピルバーグ氏の想いをヒントに生まれた本作のコンセプトは「ものをぶつけて壊す」というものだ。積んであるブロックにポインタを合わせ、ぶつけるポイントを決めてから、Wiiのコントローラを振りかぶり前に投げるように振り下ろすことで、ものをぶつけて、崩す。うまくぶつけることができれば積まれたブロックはバラバラになる。「積み木崩し」のような原初的な楽しさを持つ作品となっている。

 Electronic Arts LAのVP of Creative Developmentを務めるLouis Castle氏は、「Spielberg's BOOM BLOX」(以下、「BOOM BLOX」)の制作過程を語った。EAの開発スタッフが、作品のコンセプトをどのようにゲームにもたらしていったか、また開発での困難な点は何だったのか、そしてどのようなゲームになったかを紹介したい。


■ Wiiとスピルバーグ氏、宮本氏の出会いがきっかけで生まれた、原初的な楽しさを持つアクションパズル

Electronic Arts LAのVP of Creative Developmentを務めるLouis Castle氏。Wiiの作品の紹介では誰もが大きく手を動かす。操作がゲーム性に大きな役割を果たしているのだ
ものを投げつけ、ぶつけるとがらがらと崩れるブロック。周囲の動物たちのリアクションも楽しい。大人から子供まで誰もが楽しめる作品だ
 Castle氏はスピルバーグ氏とコンセプトを話し合い、「ものをぶつけて壊す」という方向性を決めたという。実はスピルバーグ氏は熱心なゲームファンで、カジュアルからコアゲームまで様々なゲームをプレイしている。スピルバーグ氏はWiiと出会い、深い感銘を受けたとのことだ。

 EAはスピルバーグ氏と複数のゲームを作るという契約を結んでいる。「BOOM BLOX」はその第一弾のゲームとなる。彼は映画制作をしていない時は毎週開発スタジオを訪れ、「BOOM BLOX」の制作に深く関わっている。「スピルバーグ氏の持つ創造性はゲーム制作においてとても刺激的だった」とCastle氏は語る。

 「“ものをぶつけて壊す”というのは、特に子供は大好きだ。『BOOM BLOX』はものをぶつけて壊しても怒られないようなゲームにしたい」というスピルバーグ氏の想いからスタートした本作は、“Wiiのコントローラの特性を活かしたゲームを作りたい”と考えていた開発チームのテーマと合致し、様々な技術的検討が行なわれていった。

 「BOOM BLOX」のもう1つのテーマは、「ゲームのテクニックだけを求めるタイプではなく、考えながら進めていくようなゲームにしたい」というものだ。そしてWiiの持つポテンシャルを活かし、家族みんなで解法を考えるような、みんなで楽しめるゲームを目指していった。

 まず開発スタッフが行なったのはWiiのコントローラの能力の検討だった。振り下ろす投げるというモーションの場合、立って投げるというモーションでも、プレーヤーが立って行なう場合と、座って行なう場合では全く異なる。また、振り下ろす時にまっすぐおろさなくてはデータに大きなぶれが生まれてしまう。投げるという行為をゲーム内で実現させるためには、Wiiのコントローラのどの能力を使っていくかを詰めていった。

 次に行なったのはカメラコントロールである。どこにものをぶつければブロックはバラバラになるか。それを考えるためにはわかりやすいカメラコントロールが必須だ。そしてWiiのコントローラで「投げる」、「ものをつかんで動かす」、「押す・引っ張る」という3つのアクションを実現させることを決定した。「Wiiのコントローラはとても素晴らしいが、“魔法のアイテム”ではない」とCastle氏は語る。アクションを実現させるために様々な検討を重ねたという。

 次に受講者に提示されたのはものを壊す物理のシミュレーションだ。物理エンジンにはHavokを使っているという。ものをぶつけた衝撃によって積んでいたものが崩れる。このシミュレーションは非常に楽しい。スタッフはそこから様々な可能性を検討していった。蛇のおもちゃのようにぐねぐねと動く棒でものを押したり崩すアクションはCastle氏がとてもお気に入りだったが、ゲーム内で活かすことができず、今回は採用を見送ったとのことだ。

スピルバーグ氏と宮本茂氏がWiiをプレイ。この体験がゲーム制作のきっかけとなった ホワイトボードでのブレインストーミング。スピルバーグ氏も参加したという 右はWiiのコントローラーからのデータ。ゲーム性を活かすためにはコントローラをどのように使うか検討が重ねられた
Havokを使った物理演算のシミュレーション。ものをぶつけて壊す楽しさはこのシミュレーションからも強く感じられる
蛇のおもちゃのような棒を使ったアクションと、タイルを叩き楽器のように演奏するアクション。検討の結果採用を見送られたアイデアだ


■ 大きな開発会社ならではの利点と問題点。多くの意見により決められていく全年齢へ向けたゲーム作り

アートワークやかわいらしい動物たちのデザイン。多くのスタッフが参加することでより楽しい雰囲気を造り出した
一方で多人数のスタッフの参加や多方面からゲームの意見など大きな会社ならではの混乱もあったという
 次に語られたのが、チーム運営と開発での苦労した点だ。Castle氏はEA社内で「BOOM BLOX」のプレゼンテーションを行なった。「非常に面白い」という評価を受けたが、それと共にあまりに多様な方面から「こうすればいいのではないか」という意見が出てきて混乱させられたという。「ゲームの完成度をもっと上げた時点で皆に見せるべきだったのではないかと思う」とCastle氏は語る。

 ゲーム開発に当たり、少人数のチームで進めていたため、外部にゲームを説明するための資料や人材が不足していたこともゲーム開発に難航した理由の1つだ。コンセプトだけでなく、現在のゲームに求められるグラフィックスやモデリングなどの人材や、彼らとコミュニケーションする人材、マネージメントを行なうための人材など急にチームの数がふくれあがっていった。

 Castle氏は少人数のチームのままゲーム開発を進めたかったが、結局は大きなプロジェクトとなってしまった。もちろん、多くのスタッフが集まったことでのメリットも大きかった。ゲームの雰囲気を盛り上げるかわいらしいキャラクタの創造や、世界全体に暖かな雰囲気を与えてくれるアートワーク、物理演算のアニメーションの詳細な表現やバランスもスタッフの数が実現させてくれた要素だ。フィードバックへの対応もスムーズにできた。

 「大がかりなプロジェクトを進めるためには密接なコミュニケーションが必須だ」というのがCastle氏が今回得た大きな教訓だという。少人数からいきなり増えたため、知識の共有などに難航した。数人のスペシャリストのマネージメントにより、この問題は克服されていった。「今後も少人数でゲームを作る時も外部とのコミュニケーションを専門にするスタッフは必須だ」とCastle氏は語る。

 スタッフが増えたことでゲームの環境はぐっとリッチになった。ものを壊すというコンセプトに集中しながらも、キャラクタのかわいらしい動き、プレーヤーを応援するようなアニメーションなど、作品世界全体がにぎやかな雰囲気となった。ここにはスピルバーグ氏の「パズルを解くことだけに挑戦していると、孤独感が強くなるね」という意見に応えるための要素だ。画面内のキャラクタはプレーヤーを励まし、うまくものを壊すと一緒に喜んでくれる。プレーヤーのゲームのモチベーションを大きく増してくれる結果となった。この他にも多くの要素がスピルバーグ氏の指摘で改善されていったという。

 Castle氏は「BOOM BLOX」の“自由度”も大きなセールスポイントだと語る。本作は細かいゲームルールやキャラクタ、面エディットなど様々なものをプレーヤー自身の手でカスタマイズすることができ、データを他のプレーヤーに渡したりすることもできる。カスタマイズの仕方では全く他のアプローチもできる。子供や年配の人でも自分なりの「ゲーム作り」が楽しめるという。

 開発に関しては大きな会社故の混乱もあったが、EAという会社での環境によってこのゲームの開発がスムーズに行った、とCastle氏は語る。EAはタイトルを完成させるためには開発者にちゃんと時間をくれる会社であるという。作品に関して様々な方面から意見をもらうことができるのも大きな会社ならではだ。この作品は単純なパズルでなく、アクションが楽しく、キャラクタ性も強い、独特なユニークな作品になった。Castle氏はゲームのコンセプトと、自由度に強く満足感を感じているという。

 講演の終了後にはCastle氏が質問に応えると同時に、スタッフによるデモプレイも行なわれた。多くの来場者がスタッフに教えてもらいながらコントローラを振り、ものを積まれたブロックにぶつけていた。「BOOM BLOX」は見ているだけで思わずプレイしてみたくなる魅力を持っている。それは物理エンジンで崩れるブロックを見ているだけでも引き込まれてしまい、「根源的な楽しさ」がもたらすものだと思う。

 ものをぶつけると衝突の力に応じて物体が動き、振動し、全体に影響をおよぼす。丁寧に積まれたブロックがバラバラになったり、当たるところがダメだと、一部分しか崩れない。現在、主にゲームの演出に使われているこの物理エンジンを使った技術を、低年齢層向けにフォーカスすることで子供からお年寄りまで楽しめるような「わかりやすい面白さ」を持ったゲームに仕上げる着眼点は非常に魅力的に感じた。

 欧米の低年齢層向け作品は日本人にとってはキャラクタが“濃すぎる”場合もあるが、本作の柔らかいキャラクタデザインは日本でも大いに受けそうである。筆者自身「BOOM BLOX」を早くプレイしてみたいと感じた。残念ながらいまのところ日本の発売は未定だが、ぜひ発売してもらいたい。

デモムービー。ゲームのコンセプトと、アートワークが生み出す世界観により楽しそうで派手なゲームイメージをアピールしている。低年齢層や女性ユーザーにも受け入れられる雰囲気だ。
会場でのデモプレイ。受講者も実際に触れることができ、プレイ待ちの行列ができた。投げるためにコントローラを振り、結果に一喜一憂する。Wiiのタイトルらしい、プレーヤーを見ているだけで楽しい作品となっている

□「Spielberg's BOOM BLOX」のページ(英語)
http://www.ea.com/boomblox/
□Game Developers Conference(英語)のホームページ
http://www.gdconf.com/
□Game Developers Conference(日本語)のホームページ
http://japan.gdconf.com/

(2008年2月24日)

[Reported by 勝田哲也]



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