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会場:Moscone Convention Center
ただし、SCEが何らかの理由からGDCから手を引いたわけではまったくなく、今年もGDC2008におけるメジャースポンサーの一社として、20近くのセッションをスポンサードしており、プラットフォーマーとしてのサードパーティーへの働きかけは、むしろ例年以上に積極的だ。 スポンサーセッションは、もともと開発者に対する自社製品の紹介、参入への働きかけが中心であり、正直言って本誌で取り上げる価値のあるセッションはなかなかないのだが、その中でも例外と言えそうなのが21日の午後に行なわれたSCE主催のスポンサーセッションである。昨年のGDCのSCEのキーノートのメインテーマとなった「Playstation Home」の開発環境が初公開されたのだ。
2007年の土壇場でのサービス延期決定以降、なかなか具体的な姿が見えてこない「Playstation Home」だが、同サービスの爆発力を意味するサードパーティー向けの開発環境はすくすくと育っており、決してプロジェクト自体がペンディングになっているわけではない。開発環境の内容を知ることで、「Playstation Home」の正確なポテンシャルを測ることができる。なぜなら、作れないものはエンドユーザーに提供しようがないし、作れるものがわかれば、何が楽しめるのかがある程度想像できるからだ。それではさっそく「Playstation Home Developers Kit」の概要をご紹介していきたい。 ■ 開発ツールをサードパーティーに公開し、「セカンドライフ」的な無限膨張を狙う「Playstation Home」
今回のスポンサーセッションでは、「Home」のサードパーティー向けの開発キット「Home Development Kit(HDK)」の基本仕様の紹介が行なわれた。バージョンはすでに1.4まで上がっており、開発環境レベルではすでにゴーサインが出せる状態になっていることが伺える。もっとも、クライアントのバージョンはまだ1.0に達していないため、まずはユーザー向けのβテストからということになるだろう。いずれにしても「Home」は、SCEのPS3ビジネスにおいて決定的に重要な戦略的ソフトウェアコンテンツであり、完成度うんぬんより、経営判断のほうに重きが置かれている印象が強い。 だからなのかどうかは不明だが、「Home」に関しては、まだ日本でも極めて限定的にしか情報が公開されていない。「Home」が理解できなければ、「HDK」の存在意義を理解しようがないので、まずは「Home」について簡単に概要を説明しておきたい。 「Home」は、SCEが提供しているオンラインサービスPlaystation Network上に展開されるバーチャルワールドである。ネットワークレディプラットフォームのPS3における待望のオンライン専用サービスであり、ユーザーはPlaystation Networkアカウントに紐付けされたリアルな3Dアバターを操作して、フレンドとコミュニケーションを取ったり、バーチャルワールド内の各種エンターテインメントコンテンツを楽しむことができる。 クライアントはハードディスクにインストールされるため、バーチャルワールドの中から直接PS3タイトルを起動したり、Blu-Rayディスクを鑑賞することも可能で、やや乱暴な言い方をすれば、PS3の起動時の無機質なXMB(クロスメディアバー)の2D世界が、すべてフル3D世界に置き換わると考えるとわかりやすいかもしれない。実際にはXMBと「Home」はまったく別レイヤーのサービスであり、またインターフェイスであるため、両者は併存し続けることになる。 バーチャルワールドには、自宅をはじめとしたプライベートスペースと、シアターやゲームスペースといったパブリックスペースが存在する。それらはホームスクエアと呼ばれるターミナルから行き来することができる。このホームスクエアの存在が「Home」の一大特徴であり、このビジュアルロビーがあるために、サードパーティーが入る余地が残されているわけだ。つまり、ホームスクエアは、パブリックスペースやプライベートスペースを第三社(者)がいくつ足したとしてもバーチャルワールド全体の整合性は保たれる。また、全ユーザーが交差するホームスクエアは、メディア的な情報掲示やアドバタイジングの格好の拠点になりえるだろう。 「ホームスクエアの外を自由に構築してあなたのビジネスにお役立てください」というのが、サードパーティーに対する「Home」ビジネスであり、その開発ツールが「HDK」ということになる。アプローチとしては日本でも一時流行った「セカンドライフ」における電通の働きかけによる企業誘致に近い。「Home」が「セカンドライフ」と比べて決定的に異なるのは、ゲームプラットフォームであるPS3のいわば玄関口に配置されたオンラインエンターテインメントサービスであり、なおかつSCEが「Home」内にエンターテインメントを提供する意志を強く持っているところだ。つまり、「Home」にはプレーヤーがバーチャルワールドに赴く、強烈な動機付けが存在するのだ。
また、SCEは「HDK」で作成したコンテンツのサーバー実装に際して、事前に独自のQAサーバーにデータをアップロードさせてQAを行なう方針を明らかにしている。このプロセスは、「HDK」開発フロー上で明確化されており、このためSCEのポリシーに違反したコンテンツはQAではねられ、実装できない。「セカンドライフ」のように、エンドユーザーがレーティングに抵触するようなコンテンツを自由に実装したり、無限にアップロードしてサーバーを不安定にさせるような状態にはならないわけだ。SCEの完全管理下のもとで行なわれるフル3Dのソーシャルネットワークサービスが「Home」であり、「Home」によってSCEはまったく新しいビジネスに参入を果たすことになる。
■ 徐々に機能拡充が行なわれている充実した開発環境。ゲーム開発言語は「Lua」を採用
上記はHDK1.0に相当する基本セットの内容であり、その後のバージョンアップでインタラクティブアイテムの開発ツールやアーケードゲーム/ミニゲーム用のLua Scripting APIの実装、Lua側からのサーバーおよびHDDへのデータ書き込み、Maya2008や3ds Max2008のサポート、アバターの顔のカスタマイズ、アバターのアニメーション、足音の設定、衝突判定などなど、徐々に機能が充実してきている。 中でもアップデートに力を注いでいるのが「Lua」関連だろう。「Lua」はオープンソースの組み込み型のスクリプト言語であり、「Home」内のミニゲームやアーケードゲームの開発言語として正式採用されている。最新バージョンの1.4では、Lua APIによって、「Home」サーバーのアクセスやクライアントのHDDへの読み書きに対応しており、継続性のあるゲームプレイも可能のようだ。 過去の発表例で言うと、ボーリングやビリヤード、チェスなど、アバター自身が操作するものをミニゲーム、アーケード筐体の前まで足を運んで、アプリケーションを切り替えてプレイするのがアーケードゲームという定義になる。サードパーティーは、「Lua」を駆使して自由にミニゲームやアーケードゲームを開発し、シーンに設置した状態で実装することができる。ただし、いずれの場合においても、「Lua」はあくまでも組み込み型の言語であり、そのポテンシャルはSCEが提供するAPIに依存するため、「HDK」のアップデートにおいて順次「Lua」において利用できるAPIが強化されているわけだ。 「HDK」のメイン環境となるのはパブリックスペースを丸ごと作成できるScene Editorだ。Mayaや3dsでマップをエディットする感覚でシーンを作成し、そのデータを「HDK」が提供するScene Editorにエクスポートする。あとはScene Editor上で、シーン上のマテリアルやライティング、コリジョンを設定して、オブジェクトを配置すれば準備は完了となる。オフラインでのテスト、SCEのオンラインQAをくぐり抜ければ、あとはサーバーに実装され、ユーザーに利用して貰うのを待つだけとなる。 ソーシャルネットワークツールとしては、インタラクティブアイテムが様々な可能性を備えた存在だ。サッカーボールやリモコンマシンなどアイデア次第で無数のムービングオブジェクトが作成できる。ひょっとするとこのインタラクティブアイテムだけを販売するというビジネスも成立するかもしれない。 今回のデモではバブルマシーンとカメラが紹介された。バブルマシーンは設置すると泡をはき続けるだけのシンプルなインタラクティブアイテムだが、これをまとめて配置すると、楽しくなってついつい踊りたくなる、という寸法だ。
カメラは、広々としたテラスに三脚付きのカメラを置き、タイマーを掛けて撮影者も一緒にカメラに写るという一連のデモが披露された。タイマーを掛ける際にファインダーを覗いてフォーカスと角度を調整するというこだわりぶりで、撮影後は、リモート操作で微調整できる。このあたりはゲーム的だ。
■ 「HDK」の開発は順調ながら、依然として不明な「Home」の全容。SCEの動きに期待
一番気になるのはサービス開始時期とビジネスモデルだが、それ以外にもたとえばリージョン設定はどうなるのかが気になるところだろう。「Home」のサーバーは日本と海外でサーバーがわかれるのか。わかれるとすれば、「Home」はリージョンごとにサードパーティーの参入によってまったく違った風景が現出される可能性がある。 セッションの内容を根底からひっくり返すようだが、現状の「Home」の情報公開量では、いくら「HDK」が優秀であろうともサードパーティーが「Home」に本格参入するメリットがない。パブリックスペースである自宅と、SCEが「Home」のメインコンテンツとして提供するシアター(映画館)やゲームスペース(ゲームセンター)、そして両者を繋ぐ接点であるホームスクエアの3点で、「Home」が想定するソーシャルネットワークサービスは綺麗に成立してしまう。 ユーザーを第三者が作成したパブリックスペースに誘導するためには、強烈なモチベーションが必要となるが、それが何に相当するのかが現時点ではわからない。また、人を集め得たとしても、現時点ではそれがどのようにビジネスに転換できるのか、つまりお金に換えられるのかが不明確なため、体力的に余力のないメーカーはなかなか参入できないというのが現実だろう。この点においては、Xbox 360における「Xbox Live Arcade」のように、コンテンツの利用率でロイヤリティを分け合うシステムのような、中小メーカーでも勝負できる民主的なアプローチが必要不可欠だろう。 ゲーム産業の中で、同じことを考えているメーカーはSCEだけではない。サードパーティーレベルでも、バーチャルワールドによる大規模な囲い込みを模索する動きは依然としてあり、プラットフォーマーとしての立場から新サービスを押し売りするだけでは、PS2で失敗した「PlayStation BB Navigator」の二の舞になるだけだろう。
「Home」が開発環境をサードパーティーに提供し、パブリックスペースを一定のガイドラインに沿って自由に作ってもらうという構想は、現在主流のバーチャルワールドのトレンドに沿ったものであり、大きく評価できるところだ。あとは戦略的なビジネスモデルを設定し、いかにエンターテインメントスペースとしての機能を強化して、ゲーマーたちが集うラウンジにするか。また、PS3のGUIとしてPS3の機能をどれだけ多く、かつシームレスに「Home」に持ち込めるかがカギとなるだろう。いずれにしてもまずはSCEドリブンのビジネスと言える。今後の発表に期待したいところだ。
□Game Developers Conference(英語)のホームページ (2008年2月23日) [Reported by 中村聖司]
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