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会場:Moscone Convention Center 「群衆を飼い慣らす:ASSASSIN'S CREEDにおける信頼できる群衆の作成」というタイトルで「ASSASSIN'S CREED」でのNPCのプログラムと演出を語ったのは、開発元であるUbisoft MontrealのAnimation Directorを務めるSylvain Bernard氏と、Technical Lead for crowd gameplayを担当したJames Therien氏である。 「ASSASSIN'S CREED」は「群衆に紛れ、ターゲットに近づく暗殺者」というコンセプトになっている。ゲームは12世紀のエルサレムなど多くの人々が行き交う“街”が舞台となっている。プレーヤーであるアサシン教団の暗殺者アルタイルは街を探索し情報を収集しながら、警備の隙をつきターゲットを暗殺する。
ゲームをプレイして驚かされるのは街の人々の反応である。1人1人が目的を持っているように歩き、プレーヤーが道の真ん中で立ち止まると迷惑そうによける。壁をよじ登れば、「あいつは何をやっているんだ?」とうわさ話をする。乱闘の時には距離を取って警戒したり、殺人が起きれば驚いて逃げまどう。今までの作品では実現できなかったレベルの“生きている群衆”が本作に独特の臨場感を与えているのだ。彼らはいかにして生み出されていったのだろうか。
■ 群衆1人1人にしっかりとした表現を。主人公に引けを取らない情報量と多彩なアニメーションを持つNPC
「ASSASSIN'S CREED」では「リッチなNPC」を目指した。NPCは主人公と同じボーン(骨格)を持ち、アニメーション部分でも多彩な要素が詰め込まれている。アニメーションに関しては「ASSASSIN'S CREED」の場合は、モーションキャプチャーで動きを作ってから、動きのタイミングをずらしたり、キーフレームをアレンジをさせることでより開発者のセンスが感じられるアニメーションを可能としている。 NPCの動きは基本的には同じモーションだ。そこから老人や若い男、若い女の子や老婆など、キャラクタに合わせたアレンジを行なっていく。NPCのボーンはこれまでのタイトルよりも多めにしており、服や刀などの装備品にも細かく動きを制御するデータが入っている。ハトですら多くのボーンで制御されているという。 「頭」、「体」、「目」がそれぞれ注目する方向に合わせて動く「ルックアットシステム」を使うことで、目標に対して方向を決めるリアルな人の動きが可能になったという。上を向いたときはより目を見開くというようなまぶたの設定や、唇を動かすリップシンクなど従来のNPCを超えるデータ量がつぎ込まれている。 Bernard氏はボックスが細かく線に繋がれ分岐していくフローチャートを提示する。「細かすぎてわからないかもしれませんがNPCでもこれだけの動きをするということをこの資料をもとにプログラマーと話をしていくのです、これはアニメーターとプログラマーがどういう事を考えていくかが見えるフローチャートなんです」とBernard氏は語る。 多くのデータをキャラクタに詰め込んでいく中で、歩き出すパターンを減らした方が現実的になるなどアレンジを行なっていく。「重さ」をモーションの基準にして、姿勢によってどちらの脚に体重が掛かっていくかなど実際の人体のパターンを観察することで何が必要かを見極めていった。 地面を滑る様に歩く3Dアニメーションによくある場面を避けるため、歩幅による地面のポイントを設定しそこに足が置かれるようにした。ユニークなテクニックとしては「Crowd swiming」というシステムがある。群衆が主人公をよけるとき肩を振り、体を傾かせてぶつかることを避けるのだ。少しだけ横によける時、顔と頭が進行方向を向いているとよりリアルに見える。現実の人々の行動を観察しつつ、ゲームにフィードバックを行なっていったという。 地形に関しては「ASSASSIN'S CREED」は非常に広大な空間があり、建物が密集している。この世界全てに現実と同じような物理法則をもたらしてしまったらその作業量だけで膨大になってしまう。このため、登ることができるような「地点」を設定し、そこを使うと建物の屋根の方にアクセスできる、といった方法で表現している。主人公が使うことができる足場は追っ手も使うことができ、建物の屋根に逃れるときなどは同じ場所をジャンプして追いかけたりしてくる。これを利用して狭い足場に敵を誘導して迎撃すると言うことも可能だ。
地形はNPCの目標値点なども設定している。意味のない遠回りしたり、若い女の子が壁に飛び乗るなど不自然な動きをしないようにしていく。マップのデザインからプログラマーは現実的な群衆の移動方向を設定し、そこからさらにデザイナーがよりリアルにアレンジを加えていくのだ。
■ 人々の流れが生み出す街の息吹と、プレーヤーによるNPCの反応の連鎖、個が全体に波及する群衆のリアリティ
キリスト教徒やイスラム教徒、貧しい男、裕福な男、兵士に老婆、若い男など、キャラクタによって歩く速度や歩き方そのものも異なっていく。人の密度が濃い場所では自然に全ての人の歩みが遅くなる。ここからさらに、物乞いをしている者や、建物を見張っている者、演説をしている人や商店を開いている人、それを見ている観客など歩くだけでない人々もいる。 開発チームは最初、水を探す人や物を買う人などもっと多くの目的を持った人をゲームに入れようと思ったという。しかし群衆の動きが複雑に絡みすぎて制御しづらくなった。このためあえて目的を持つ人々の数を絞ったところ、結果としてリアルな雰囲気を持つ町並みになった。さらにここに金槌の音や犬の吠え声、うわさ話など“音”の演出を入れることで目に見える以外の世界の広がりが生まれたという。 リアルな町並みを作ると同時に、開発チームは「群衆のリアクション」にたっぷり時間をかけていったという。最初に説明されたのはプレーヤーが起こしたアクシデントの情報が放射状に広がることで群衆が反応するシミュレーションで、NPCの行動はAIによって制御される。プレーヤーのアクションに近くの人は悲鳴を上げて逃げたり、座り込んだりと大きな反応を示すが、離れた人はちらりと見るのみ、そしてそれよりさらに外の人には何が起きているかわからない。 プレーヤーとNPCが戦い始めた場合、素手の時は迷惑そうに避けるだけだが、刀を抜くと距離を取り、さらに人が斬り殺されたりすれば悲鳴を上げる。プレーヤーが追われているときなどは追っ手が大きな声を上げて牽制するため、通行人は追っ手から遠ざかろうとし、うろたえてプレーヤーの前に出てきてしまったりする。事態を認識していない者はプレーヤーにぶつかり突き飛ばされてしまうこともある。 Therien氏はプレーヤーが戦っているときはむやみに間にキャラクタが割り込まないように注意したと語る。またNPCはプレーヤーにはない「後ずさる」というアニメーションを入れたという。戦いが始まるとNPCはこれに警戒して距離を取る。またパニックに襲われているときなどは、警戒しているものに体を向けてとびすさる。走るときも首だけは後ろに向けて注意しながら逃げるなど、脅威に対してしっかりとした反応を描くことで、プレーヤーは自分がいかに群衆に影響をおよぼしているかを知る。プレーヤーは本来は暗殺者で、一般の人々の興味を惹いてはいけない。彼らが自分に反応するときは、危機的状況なのだ。 この他、反応の一例として壁によじ登るプレーヤーを奇異の目で見るNPCの姿が紹介された。道を歩いているNPCは主人公を見かけると立ち止まり、同じように立ち止まったNPCと会話をする。プレーヤーがそのまま動かないとやがて興味をなくして去ってしまうこともある。敵兵士の場合はいらない注意を惹いてしまうことにもなりかねない。「あいつ、何やっているんだ?」といったNPCの声がプレーヤーに聞こえてくるのも臨場感を増すのに一役かっている。音声とキャラクタのリアクションは極力近づけるために何度もテストしたという。 Therien氏はこれら膨大なNPC制御を標準的なゲームスピード内でどうやっていくかということに関して、様々な施策を行なったという。大きな要素が距離である。プレーヤーの遠くにいるキャラクタのモデルはボーンが少なくし、壁などに隠れるキャラクタには設定しなくした。離れているキャラクタには服や装備の動きは行なわず、スキンのままにする。NPCの目標そのものも動きを極力シンプルにした。これにより警戒をしている兵士と群衆ははっきりと差別化された。 開発チームはこの街と群衆のリアルな表現と品質に対して非常に満足している。優秀なスタッフが集められ、マネージメントチームからも充分なサポートがあったことで良い結果が得られているという実感を得たという。「しかし、この群衆がゲームプレイに関して充分活かせていたか、ここが少し足りなかった。群衆とプレーヤーの関係でまだ何かができたのではないかと思っている」とBernard氏は語り、講演を終えた。 その後、受講者からはたくさんの質問が寄せられた。「群衆とゲームプレイの関係は」という質問にTherien氏は「まだわからない」と答えた。また、「続編はこの群衆システムを使うのか」という質問には「まだ続編は発表されていないが、今回のものがベースになる」という答えだった。ソフトエンジニアや多すぎたかもしれない、という開発環境の反省点も語られた。 今後群衆を扱ったゲーム開発の特に群衆の“数”に関してBernard氏は、最初は群衆の人数を多くしてから始めることを薦めるという。人数が多くなるほど群衆の統制はとれなくなり、そこから最適な人数は導き出される。しかし少人数から始めるよりも、多くの人数をまず設定してから、そこからバランスを取る方が良い、とのことだ。 この講演は特に日本のゲーム開発者の姿が目立った。「ASSASSIN'S CREED」は実際に街を歩き、序盤のミッションをクリアしていくとその可能性と、群衆の息吹に誰もが興奮させられる。この街で何が起きるのか、何ができるのか。提示される未来を夢想し、作品にぐっとのめり込んでいくのだ。 しかし、筆者の場合、プレイを続けている内に小さな失望感があった。講演で語られているように、「ゲームプレイ」へのフィードバックが足りないのだ。前半に提示された新しいゲームプレイの要素、群衆が秘めているポテンシャルはバリエーションも自由度も大きく広がらない。開発のパワーが世界の構築に全力を注いだあまり、「そこから先の飛翔」が行なわれなかった、という印象がある。
質問でも出たように、だからこそ「ASSASSIN'S CREED」の続編への期待は高い。リアルで魅力的な群衆、時代を感じさせる町並みを造り出すスタッフの力量、そしてストーリー、この可能性を秘めた基盤がどのようにブレイクスルーし、エキサイティングなゲームプレイが体験できるかとても楽しみである。
□「ASSASSIN'S CREED」のページ (2008年2月22日) [Reported by 勝田哲也]
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