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会場:Moscone Convention Center
GDC2008では、日本での大ヒットを受けて欧米未発売の「Wii Fit」をテーマにした任天堂のセッション「Wii Fit: Creating a Brand New Interface for the Home Console」が行なわれた。我々メディアとしては、大ヒットコンテンツの開発秘話が、岩田聡社長や宮本茂氏の発言を交えつつ紹介されたのが収穫だった。もうひとつの意義として、任天堂がバランスWiiボードを「Wii」における標準的なインターフェイスの一部として位置づけはじめていたのが印象的だった。その実現のための開発者に対する最初の働きかけと言えるセッションだった。 ■ 「Wii Fit」はWiiの初期構想に含まれていた!! 秘蔵の「宮本メモ」が公開
澤野氏は冒頭で、「『Wii Fit』はWiiのコンセプトに沿う新しい入力機器であり、最初から必要なものだったと思われるかも知れませんが、実はそのような理想的な過程を経て生まれたものではありません」と切り出した。つまり、決してイージーな仕事ではなかったと言いたいわけだ。 そもそもの企画は、宮本茂氏が「毎日、体重測定をしているだけで楽しい。このアイデアをゲームに活かせないだろうか?」という任天堂の新規プロジェクトの定番である宮本氏の“お告げ”からスタートした。 時期的には、Wii本体の発売前であり、その証明として、宮本氏から特に許可をもらって借りてきたという「宮本メモ」が公開された。このメモは残念ながら公開不可ということなので掲載できないが、「Rev PACK ゲームデザイン」というタイトルで、Wii独自のインターフェイスを活かしたパッケージのゲームデザインが簡潔にまとめられている。泡のように無数のフラッシュアイデアが記され、いくつかのブロックに分け、「○○パック」という形でカテゴライズしている。そのほとんどは、ローンチタイトルあるいは2007年のタイトルとして製品化されており、宮本氏のその凄まじい企画力に今更ながらに驚かざるを得ない。 いくつか具体例を挙げると、ファミリーパックと書かれたブロックには釣リモコン、シューティング、エアホッケー、ダーツなどと記され、「はじめてのWii」として製品化されている。そのほかにもスポーツパック、レースパック、ニンテンドール、脳トレ、やわらか頭塾、指揮/リズムモノなどといった記載がある。 その「宮本メモ」の中で、中央部分に特に念入りにアイデアが記入されているのが「ヘルスパック」である。健康、体重量り、カロリー管理、体重指導、やわらかからだ塾といったぐあいにフラッシュアイデアが記され、別カラーで大きく「体重計」とある。すでに宮本氏の脳内には、Wiiの発売前、Wiiのブレイク前から、現在の「Wii Fit」に繋がるカッチリした企画ができあがっていたことを伺わせる。ただ、現在の「Wii Fit」は体重計ではなく、その発展系のバランスボードである。体重移動を計測し、それを入力に変換するというアイデアは、ここでは出ていない。
実際にプロジェクトが決定し、宮本氏から指令を受けた澤野氏は、「すでにバスルームに体重計があるのに、わざわざリビングで毎日体重を量るだろうか、それも服を着たまま」と疑念を抱く。しかし、宮本氏は、「自分が楽しいからおもしろいものができるに決まっている」という凄まじい論拠で、現場の不安を一蹴。澤野氏は、「ボスがやると決めたら止めるものがいない」ので、とりあえずプロジェクトを進めることにしたものの、自分自身整理が付かずヒットにはほど遠いものになるのではないかと思ったという。宮本氏の楽天主義と、澤野氏の悲観主義の対比は漫画的なほどにユニークだ。 ■ 試行錯誤の末にたどり着いたバランスWiiボード。ブレイクスルーは相撲の力士
澤野氏は、色々な体重計を分解して調べてみたところ、すでに体重計は限界までコストダウンを突き詰められていた。そこで急遽ニンテンドー64の部品を代用することでコストダウンを量るプランを採用。しかし澤野氏は、プロトタイプができあがるまでの間も、「これで仮にコストダウンが量れて製品化できたとしても、リビングで電源を入れて体重を量るだろうか」という疑問が頭から離れず、最悪のケースとしてペンディングになることも予想したという。 コスト以前に「体重計そのものを何とかしなければならない」と考えた澤野氏は、相撲からひとつの着想を得る。といっても競技そのものではなく力士がヒントだった。力士は体重を量る際、1台の体重計では最大荷重を超えるため2つの体重計を使用する。この際、力士が体を一方に傾けると体重計の重量に差が生まれてくる。 これはひょっとしておもしろいかも知れないと思った澤野氏は、さっそく体重計を2台並べ、PCに接続してテストしてみた。しかし、一般の体重計ではサンプリングスピードが遅すぎてゲームには耐えない。そこで毎秒60回のサンプリングレートを確保した体重計を開発し、さらに2つの体重計が変化がバーで表示されるソフトウェアを用意した。これがからだ測定モードで行なうバランステストの原形となっている。
完成したものを宮本氏に体験してもらったところ「この動きは遊びとしての素性の良さを感じる」と、宮本氏らしい台詞でこれを褒め、体重計の企画は捨て、バランスボードとして再企画されることになった。ここで初めてバランスWiiボードの企画が完成したわけだ。
■ 任天堂伝統の“ちゃぶ台返し”はやはりあった。岩田氏「Wiiリモコンを繋ぐなんてブサイクですね」
2つの体重計がひとつになったバランスWiiボードは、かなり後期の段階まで正方形だったが、これは宮本氏が「運動をするならやはり肩幅ではないか」との一言で現在の長方形に仕様変更され、コスト計算や強度計算を一からやりなおすハメになったという。 また、バランスWiiボードは、コストを抑えるために、最終段階に至るまでWiiリモコンを繋いでWii本体への接続を行なっていた。結果として足下から声が出るというギミックがあったというが、踏む危険性を考慮に入れて、バランスボードの表面上に収納口まで用意されていた。 この状態で、任天堂の最終関門である岩田氏に見せたところ「Wiiリモコンを繋ぐなんてブサイクですね」という無慈悲な一言で不可が出て、大慌てで無線機器を加え、単独で認識させる工夫を取り入れたという。この2度のちゃぶ台返しを経て、ようやく現在の形のバランスWiiボードが完成したわけだ。続いて「Wii Fit」の製品の特徴について紹介されたが、すでに日本では発売済みなので割愛したい。 最終的なバランスWiiボードの仕様は毎秒60回のサンプリングレート、4方4カ所に 体重を感知するストレインゲージを備える。計測可能重量は0kg~150kgで、ハードウェアとしての最大耐重量は300kg。Wiiとの連動機能については、Wii側からのパワーオフ機能、ソフトウェア側からのバッテリ残量計測機能、ブルートゥースによる常時接続状態の維持などをサポートしている。 澤野氏は、バランスWiiボードを、体全体の動きを高い精度でゲーム世界に反映できる「史上初の足のコントローラ」と定義。さらに日本では140万台を超えるヒットとなっていることをふまえ、すでに日本では「バランスWiiボードの所有を前提にゲームを作ることも可能になった」と自信たっぷりに語った。 最後に澤野氏は、開発者に向けて「皆さんのインスピレーションに期待したい」とサードパーティーによるバランスWiiボード向けのソフトウェアの開発に期待を寄せて講演を終えた。これらの発言から任天堂が、バランスWiiボードを、Wiiのポテンシャルを底上げする新しいインターフェイスとして定義し、一種のプラットフォームとしてWiiファミリの一派生として、新作が登場するのは間違いなさそうだ。
肝心のサードパーティーから専用タイトルが生まれるかどうかは、まさに欧米市場での反応次第であり、ミリオンはおろか、ダブル、トリプルという事態になれば、おもしろい事態になってくるかもしれない。「Wii Fit」が欧米市場でどのような反応を受けるのか楽しみだ。
□Game Developers Conference(英語)のホームページ (2008年2月22日) [Reported by 中村聖司]
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