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会場:Moscone Convention Center 「Grand Theft Auto」や「ライオットアクト」の作者として知られるスコットランドのゲーム制作会社「Real Time Worlds」のDavid Jones氏は、2月21日「My First MMO」というタイトルでキーノートスピーチを行なった。
このキーノートスピーチではJones氏が次に手がけるタイトル「APB」の構想と、基本的なコンセプトが語られ、デモムービーによってゲームのディテールが紹介された。「APB」は韓国WEBZENとReal Time Worldsが協力して開発しているMMORPGで、現在まだリリース時期、課金方式は未定だが、数百のプレーヤーが1つの街で暮らし、抗争を繰り広げていくという。Jones氏の想いとセンスが活かされた、今までにないユニークな作品となりそうである。
■ 緻密なカスタマイズによる「自分だけのキャラクタ」の模索。作例はゲーム史に名を刻む彼らをギャングに……
Jones氏が「APB」をMMORPGとして設定していった最初の条件は「専用のサーバーでプレーヤー社会を造り出す」ということだ。多くの人が1つの世界を共有するという技術的課題に挑戦しながら、ここにゲーム性を集約させていく。そしてその上で、「自分の好きなゲーム」を模索していく。 Jones氏が好むゲームは「おもちゃを使った遊び」のように、1つの空間の中で、いくつかのツールを使ってプレーヤー自身が考えた楽しさを自由に追求できるような作品だ。そして舞台はSFやファンタジーではなく、「現代」そして、「Cool」なもの、現代人の我々に親しみやすい世界こそが、Jones氏の好きなゲーム世界だ。Jones氏は“ゴーグル”や“クロスボウ”といった「Geek(オタクっぽい)」ものを、レイバンのサングラスやAK-47といった「Chic(かっこいい)」とJones氏が考えるものに置き換えていったという。 その上でJones氏がこだわっていったのは、プレーヤーが個性を主張できるシステムだ。その第一が「外見」である。「APB」では全てのパーツをスケーラブルに設定できる。身長や体型など限界はあるものの、黒人や太った男、東洋人風の顔、髪の毛の長さ決められたパーツの組み合わせではなく、顔や体のパーツを自由に設定し、自分の目指す雰囲気を持ったキャラクタを造り出すことができる。 「APB」に登場するような人物は、前身に入れ墨を施すような思い切ったファッションを選択するものも多くなる。「APB」では様々なパーツを組み合わせて自分たちの「クラン」のマークを作ることができるが、それをそのまま入れ墨として直接体にプリントすることもできる。もちろん服の模様としても設定可能で、プレーヤーは心おきなく自分の求めるキャラクタ像を追求できる。 このこだわりは「GTA」の作者らしくプレーヤーの相棒となる車にも及ぶ。車体の細かいパーツ、色、そしてエンブレム車とキャラクタで自らの“スタイル“を主張できる。もちろん武器なども選択肢を増やし、最終的には「生き方」までも自分だけの物を追求して欲しい、とJones氏は語る。そしてその生き方を追求する中で友人を得て、共感する仲間と共に自分たちなりの価値観と正義を求めていくのだ。 Jones氏はキャラクタ作成の1例として、いきなりピーター・モリニュー氏そっくりのキャラクタモデルを出す。続いてシド・マイヤー氏、リチャード・ギャリオット氏、そして宮本茂氏……GDC参加者ならばピンと来る歴代の「Lifetime achievement」受賞者達だ。宮本氏のモデリングは特に悪ノリ気味でマリオのシャツにキノコの絵がプリントされたパンツをはいているという姿だ。
彼らがバズーカやバットを構えポーズを決めている姿はJones氏のセンスが炸裂した瞬間である。ギャングファッションに身を包んだゲーム業界の功労者達は揃って車に乗り込み、車で走り去っていく。会場はその悪ノリのジョークに爆笑と拍手を贈った。
■ プレーヤー達のアクションがPVPのきっかけに……ユニークなマッチメイク機能を持った「街」の魅力
この街でプレーヤーは最初に対立する2つの勢力のどちらかに所属することになる。警官か犯罪者か、カウボーイとネイティブ・アメリカンか、ギャングと警官か……現在は様々なストーリーを考えているようで最初のストーリーではギャングと警官にわかれるという。カウボーイとネイティブ・アメリカンというのはそれ以外の要素と全く世界観が異なってくるが、“街”によって選択ができるのだろうか。我々の社会的にはギャングと警官というのは善悪がはっきりしているが、ゲーム内、そしてプレーヤーにとってもそれは変化するとのことだ。 Jones氏はMMORPGにつきものの「レベル上げ」を「APB」には持ち込みたくなかった、と語る。単純にクエストをクリアするためにひたすらプレイを続けて、モンスターを殺し続けて、膨大な時間を続けるのがMMORPGの一般的なプレイスタイルだ。一方で「Counter Strike」はプレーヤーがゲームをいくら続けてもキャラクタの性能が上がることはない。Jones氏はプレーヤーにレベルという恩恵を与えずにいつまでもプレーヤーを魅了し、ゲームに参加させ続ける「Counter Strike」を「APB」の模範としたという。 いささか前提と矛盾する部分はあるが、「APB」にも外見のカスタマイズという“成長”の要素はある。プレイを始めたばかりのキャラクタはジーパンにTシャツという簡素な姿だが、プレイを重ねていくことで様々な衣装をまとうことができ、一目で「ベテラン」であることがわかる。「クエスト」は成長を目指すプレーヤーの手段であり、さらにPVPを始めるきっかけとして存在するという。 「APB」のクエストの一例として提示されたのが「テレビ泥棒」だ。プレーヤーは仲間と共に車をハイジャックして目的地に向かう。クエストを受けることで特定のNPCやオブジェクトが生成される。ギャングがテレビを持って自分の車に運ぼうとすると周囲にいる警官側のプレーヤーがそれを関知し、PVPがスタートする。今回の場合は、ギャング側がフラグを立てなければプレーヤー達はそれぞれの目的で動いていたが、ギャングのアクションによってPVPがシームレスに「マッチメイキング」されたのだ。 ここからギャング側のプレーヤーと警官側の戦いが始まる。車に複数プレーヤーが乗っている場合は1人が運転を担当し、他の2人は車から身を乗り出して射撃が可能になる。Jones氏は「2台の車で動いていた場合は片方で追って進路を妨害したり、相手を追いつめることも可能だ」と語る。街の構造を知り尽くしているプレーヤーは大きなアドバンテージを得ることもできるという。プレーヤースキルが駆け引きに大きく影響してくるシステムとなりそうだ マッチメイキングはプレーヤーの熟練度や装備によって自動的に選別されるという。「APB」では街を歩いていると、プレーヤー達の戦いに遭遇することがよくあるとのこと。流れ弾に当たってしまったり、加勢したり、他のプレーヤーの戦いが通行人プレーヤーに影響をおよぼすかは気になるところだ。戦闘シーンは思わずのめり込んでしまう迫力があった。 この他にも「APB」では様々な機能を盛り込んでいく予定だ。現在考えられているのが「撮影」システムだという。プレーヤーが映像を動画で保存し、ニュース中継のように流すことも、映画風に物語として組み立てることも可能だという。他プレーヤーに“演じて”もらう事ができるのもオンラインゲームならば可能だろう。 プレーヤー達が車を道路に並べて通行を封鎖して撮影現場を作ることも可能だ。「作例」として紹介されたのが「ファイナルファンタジーVII」のパロディ。クラウド風のキャラクタやそっくりな戦闘画面、魔法を使うモーションをキャラクタがすると炎のエフェクトが足下から上がる。敵を襲う火の玉の代わりに、炎をまとった車が突っ込み敵を引き倒すと会場は大爆笑。「APB」らしいアレンジで「ファイナルファンタジーVII」をうさんくさく真似しているのが最高だ。 Jones氏はこのような映画的演出を可能にする要素を入れていきたい、と語る。この機能に限らず、プレーヤーがやりたいことを積極的にサポートしていく予定だ。Jones氏は最後に「オンラインゲームはローンチしてからユーザーの声に応えていくか、どう変化していくかを見ていけるのかが一番エキサイティングだと思っています。是非、『APB』の中でお会いしましょう」と語った。
筆者は数年前から様々な国のブースでこの「APB」を見てきたがこれまでは映像出展のみで具体的なゲームの姿が見えてこなかった。しかし今回この講演を聞くことでプレイをしたいという欲求が非常に強まった。無法者として生きるも良し、犯罪者狩りに血眼になるもよし、一般人としてひたすら抗争を繰り広げる人々を写しても良い。さらに本作は非常に細かいアレンジでキャラクタや車をカスタマイズできる。プレーヤー達の創造性も大きく期待したい。どんな“街”ができるか、本当に楽しみだ。
□APB(英語)のホームページ (2008年2月22日) [Reported by 勝田哲也]
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