【Watch記事検索】
最新ニュース
【11月30日】
【11月29日】
【11月28日】
【11月27日】
【11月26日】

Game Developers Conference 2008現地レポート

“Game God”、Sid Meierが語る
ゲームデザイン哲学

聴衆を前にして和やかに会話を進めるNoah Falstein氏(左)とSid Meier氏(右)
2月18~22日 開催(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Convention Center

 現地時間の20日、GDC 2008は3日目を迎え、通常セッションが開始された。この日のゲームデザイントラックの中で「Standing the Test of Time: A Q&A with Sid Meier」と題されたセッションが催され、「Civilization」シリーズの生みの親として名高いゲームデザイナーSid Meier氏が登場。開場前の入り口に長蛇の列ができるほどの注目を集めていた。

 このセッションの主役であるSid Meier氏は、日本でも人気の高いストラテジーゲーム「Civilization」シリーズや、「Railroad Tycoon」シリーズ、「Pirates!」シリーズなどの生みの親であり、米国における「Game God」としてゲームデザイナーの頂点に君臨する存在だ。同氏は今回のGDCで「生涯功労賞」を受賞。2006年のRichard Garriot氏、2007年の宮本茂氏に続く受賞者となり、その評価の高さは絶大なものがある。

 このセッションは、Sid Meier氏と同じく業界で四半世紀以上のキャリアを持つゲームデザイナーNoah Falstein氏が、Sid Meier氏に対して質問を投げかけるというインタビュー形式で進行した。


■ 「時の試練」に打ち勝つSid Meier氏のゲームデザイン論に触れる

 まずはSid Meier氏のゲーム業界キャリアを中心に話題が進んだ。子供のころは模型電車で遊んだり、海賊ごっこをして遊んでいたというSid Meier氏が、プロのゲームデザイナーとなったのは四半世紀以上前にさかのぼる。初期のパーソナルコンピュータでプログラムを学んだSid Meier氏は、偶然知り合ったBill Stealey氏と意気投合して'82年にMicroProseを設立する。

 会社の設立に至ったいきさつが面白い。同じ場でATARI 800用のシューティングゲームをプレイする機会があり、そこでBill Stealey氏が元空軍パイロットという経験を生かして3万点を獲得。ところが、ただのプログラマーだったSid Meier氏が5万点をたたき出してしまった。そこで互いに興味を持ってコミュニーケーションするうちに「じゃあ会社でもつくろうか」となる。Bill Stealey氏が経営を、Sid Meier氏がゲーム作りを担当する形で、ゲーム業界のキャリアが始まったのだという。

 そこでSid Meier氏は、フライトシミュレーションからアクションゲーム、ストラテジーゲームまで、ありとあらゆるジャンルのゲームを製作することになる。それから現在に至るまでのSid Meier氏が持つゲームデザイン哲学は明快で、アイディアを大切にするということだ。

 「アイディアの寿命は長い。25年前のアイディアが今でも生きている」とSid Meier氏はいう。コンピュータの処理能力が限られていた時代では実現できなかったアイディアも、テクノロジーの進化によって可能になる時代がやってくる。そのときに、いかに古いアイディアを大事にできるかが重要であるということだ。このことは、代表作「Railroad Tycoon」や「Pirates!」が、近年になって新たな装いで生まれ変わったことで証明されているし、版を重ね続ける「Civilization」シリーズも同じだ。

 また、Sid Meier氏は、ゲームアイディアが進歩していく側面においては、ゲーム業界は競争よりも協力し合う関係の中にあり、努力を分かち合ってゲームを進化させていることがすばらしいと評価した。

 インタビュー役のNoah Falstein氏は、Sid Meier氏が長らくGDCに登場しなかったことに触れ、「10年以上前、30人しか入らないような部屋で講演したときのPowerPoint資料は残っていますか?」と質問。これに対してSid Meier氏は「PowerPointなんてまだありませんでした。資料は紙に書いてコピーして配っていました」と応答、時代を感じる発言に会場が爆笑に包まれた。古い資料をインターネットで公開できるかという質問に対して、Sid Meier氏は可能ならば探し出しましょうと発言した。これにはぜひ期待したい。

 Sid Meier氏によれば、そのときの講演内容は、「興味深い選択、面白い意思決定のための10のルール」といったものだったようだ。Noah Falstein氏はその議論について、現在の認識を問うと、Sid Meier氏がいうには「当時はあまり意識していなかったのですが、10年も経つのに、いまだに多くの人によってものすごい議論が成されている。これにはびっくりしたし、興味深くもあります」。反論も多くあったが、Sid Meier氏自身の方法論としてはいまでも生きているということだ。


■ プログラム、プレイテスト、評価。この繰り返しが優れたゲームを作る

会場には数百名の聴講者が訪れており、話の節々で笑いが起きていた。特に「Civilization」に関する話題に関心が集中していたようだ
 Sid Meier氏がゲームデザイナーとして最も大切にし、常日頃から公に発言しているている方法論が「徹底的なプロトタイピング」である。Noah Fallen氏はこのことについて「朝プログラムして、昼にプレイして、夕方に評価するという方法は今でも続けているのでしょうか?」と質問。これに答えるSid Meier氏は、我が意を得たりとばかりにゲーム製作に傾ける情熱を語った。

 「自分でプログラムをして、遊び、評価するという方法は、もちろん今でも続けています。ゲーム製作は楽しい部分からやるのが一番です。まずプレイしてから研究するということ。私はプログラマーの仕事もやりたいし、ゲームデザインの仕事も、テスターも、ユーザーの役割も全部やりたい。製品を作るとき、本当ならプログラムを誰かに頼みたくはないのです」。

 現在、Firaxis Gamesで実践しているゲームデザイン手法については、長くとも数週間でプロトタイプを作り、プレイして、評価し、改善するというプロセスを、ひたすらに反復していると説明。毎週のように開発メンバーを集めて会議をし、自由に意見を出し合っている。その際、Sid Meier氏は「ゲームの門番にならず、良いアイディアは積極的に取り入れています。現在開発中の『Civilization Revolution』は、そこでのアイディアから生まれたものです」とのことだ。

 プロトタイピングの話題に関連して、来場者のひとりが「SimGolf」のプロトタイプを「Gettysburg!」('97年にリリースされた、南北戦争をテーマとするリアルタイムストラテジーゲーム) のエンジンで作ったという噂について真偽を尋ねたところ、Sid Meier氏は「事実です」と即答。当時、Erectric Artsで仕事をしていたときに、思いついたアイディアのプロトタイピングをするため、一番手近なプログラムを使ったに過ぎないということで、「SimGolf」の初期バージョンには戦争ゲームの名残があり、ゴルファーが倒れたりしていたそうだ。これには会場からも大きな笑いが起こった。

 「ゲームデザイナーはプログラムを学ぶべきか?」という質問に対しては、完全に肯定した。これは自身のゲームデザイン手法に自信を持っているからこそ言える返答であり、一段と重みがある。またカジュアルゲーム市場の拡大に触れ、ガレージで作れるような小規模のゲーム開発では、ゲームデザイナー自身がプログラムスキルを持つことが大いに役立つだろうと示唆した。

 「自分でもカジュアルゲームを作ってみたいか?」という問いに対しては「面白いと思います。しかし、考えてみると、私たちが昔に作ったゲームは、開発規模の面ではカジュアルでしたが、ゲームプレイの面ではゲームコアファン向けの戦略的深みのあるものでした。私は、開発規模がカジュアルであっても、内容としてはそういったゲームを作りたいと思います」と、このあたりはさすが「Civilization」の生みの親といった印象だ。


■ 「Civilization」の話題は「ゲーム中毒論」に発展

話題の節々で、Sid Meier氏は聴衆に語りかけるようにゲームデザインの教訓を話した。多くの若いデザイナーが学ぶことを期待したい
 ゲームデザイン論を経て、いよいよ「Civilization」の話題だ。このゲームのデザインにあたって、Sid Meier氏は、軍事、外交、探索といった、ゲームを楽しくするあらゆる側面を「トレードオフの関係」に落とし込み、なおかつ「制御可能な複雑さ」を持たせることに力を注いだのだという。

 また、もうひとつの力点は、「決まったストーリーを追うのではなく、プレーヤーがそれを作り上げること」である。たとえゲームデザイナーが最高に面白いシナリオを思いついたとしても、それはゲームデザイナーの楽しみであって、プレーヤーの楽しみではない、というのがSid Meier氏の哲学だ。ゆえに「Civilization」は、プレーヤー個々人のプレイによって独自の歴史が作り上げられる、というゲームになっている。

 「Civilization IV」で実現している絶妙なユニットバランスについては、プロトタイピングとプレイ、評価というプロセスを徹底的に行なうことで実現しているとのことだ。何か数学的な理論や公式に頼るのではなく、あくまでもプレーヤーの視点でバランスを取っている点に同氏のこだわりを感じる。

 続いては、インタビュアーを勤めるNoah Falstein氏自身が「Civilization」の熱心なファンということで、シリーズの中毒性について話題が振られた。

 コミュニティでゲームが原因で学校を中退したり、会社を辞めてしまったりという事例が語られる状況については、Sid Meier氏自身はそれほど悲観的に受け止めていないようだ。「多くの時間を掛けるほどの価値が、コンピューターゲームにあるということです。それにはポジティブな面もあると思います。同作のプレーヤーが歴史に関心を持ち、授業でA評価をもらったという話もこともありますし、善悪両面があるでしょうね」といい、シリアスゲーム研究の分野にも言及した。

 「自分ではどんなゲームをプレイしているか?」と問われたSid Meier氏は、現在のゲーム業界の状況を「黄金期」だと評価する。彼自身は「Project Gotham Racing」などのレーシングゲームや、「Halo」シリーズのようなFPSなど、アクション性の高いゲームを好んでプレイしているそうだ。それには理由があって、「1日中『Civilizaton』を作っているから、プライベートでは違うものをプレイしたい」と話していた。


■ 「Civilizaton Revolution」はSid Meier的ゲーム論の集大成

セッションの終盤では聴講者からの質問時間がとられ、マイクの前に大勢の希望者が並んだ
 最後は、現在Firaxis Gamesで開発が進められている「Civilization Revolution」の話題である。Sid Meier氏によれば、このタイトルはこれまでの「Civilization」シリーズで不可能だったこと、やりたくてもやれなかったことを一から再評価するという、ある種の集大成的なプロジェクトであるようだ。

 「Revolution」はプラットフォームがコンシューマーゲーム機となる。PC版よりも広範な種類のユーザーに届くことになり、Sid Meier氏が持つ「楽しい部分を強化し、面倒な部分を排除する」というゲームデザイン論がもっとも強く試される場所。そのために必要な演出、コントロール、ゲームシステムの部分は、テクノロジーの発展があって初めて可能になった事も多く、それゆえにゲームキャリアを通じて溜め込んだアイディアを再評価する機会になっているとのことだ。

 Sid Meier氏は、「追加するよりも、要らないものを排除するほうが重要」と語る。具体的には、最大限に避けるべきものは「マイクロマネージ」と呼ばれる、ゲーム的に楽しくないような細かい作業だ。プレーヤーの意思決定は、楽しい部分に集約されていなければならない。その上で、最大限に深みのある戦略性を実現している必要がある。そのために、頻繁なプレイテストの繰り返しと評価、修正というプロセスを徹底するわけだ。


 セッションの最後には一般参加者からの質問が相次いだ。熱心なプレーヤーからは「Alpha Centauri」の続編を希望する声が飛び出した。これについてSid Meier氏は「私もやりたいですが、まだまだ実現したい新しいアイディアがたくさんあります。ユーザーからの要望としてチェックしておきます」と答えていた。

 何かと比較されることの多いゲームデザイナーWill Wright氏の開発中タイトル「Spore」に関連した話題があった。それは、「Willは自身のゲームキャリアの集大成として“Sim Everything”を作っているが、Sidさんもそういうものを作ってみたいか?」という質問。これに対してSid Meier氏は「いいえ!」と即答。これには会場が大爆笑の渦に包まれた。この返答が、Sid Meier氏自身からにじみ出る「今作りたいものへの集中」を、如実に表現していたからだろう。

大勢のファンの求めに応じてサインをし続けるSid Meier氏。今年は「生涯功労者賞」を受賞し、その名声をますます高めている
 セッション終了直後は突発のサイン会となった。大勢の聴講者が演壇前にごったがえし、順番に「Hi, SID!」と挨拶。Sid Meier氏はにこやかな表情で、ひとりひとりの会話に答えつつサインを記していた。何分経過しても人の波は収まらず、筆者の順番が回ってくるまで相当待たされてしまった。

 ゲーム業界を代表する「Game God」の一人として圧倒的な人気を誇るSid Meier氏のオーラを見た思いだ。このセッションで語られた、同氏のゲームデザイン論が、若いデベロッパーたちに受け継がれ、すばらしいゲームが生まれ続ける予感を感じることができた。

□Game Developers Conference(英語)のホームページ
http://www.gdconf.com/
□Game Developers Conference(日本語)のホームページ
http://japan.gdconf.com/
□関連情報
【2007年3月】Game Developers Conference 2007 記事リンク集
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070308/gdclink.htm

(2008年2月21日)

[Reported by 佐藤“KAF”耕司]



Q&A、ゲームの攻略などに関する質問はお受けしておりません
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします

ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp

Copyright (c)2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.