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会場:Moscone Convention Center
GDC初日は、北米におけるオンラインサービスの伝道師的な存在であるRaph Koster氏の講演からスタートし、各回ごとに立ち見(とGDC恒例の座り見)が出るほどの盛況ぶりだった。そこでGDC2日目は特に意識して「Worlds in Motion Summit」に参加してみたところ、人気が示すとおり実に収穫が多かった。 チュートリアルは、ゲームデザイン、グラフィックス、サウンド、モバイルといった各分野ごとに、それぞれの担当を務める開発者たちに対して概論を提示するものであり、もともとの狙いがGDCの各セッションの前座に相当するため、クリティカルな内容がなかなか出てこない。どうしても座学的な内容に終始する傾向があり、結果として消化不良に終わりやすい。 その点、「Worlds in Motion Summit」は、バーチャルワールド関連の一般セッションの増大に対応して設定された、言わば時代の流れを受けてのものであるため、鮮度の高い情報が次々に飛び出し、刺激的な内容の講義が目立った。本講では「Worlds in Motion Summit」2日目から、興味深かったセッションをいくつか取り上げたい。
■ バーチャルワールド全盛時代を受けてオンラインゲームが取るべき道筋とは? 「Gaming's Future via Online Worlds」
Steefel氏のメッセージは非常に明確だった。大前提として各種オンラインコミュニティサービスの最上位としてMMORPGを位置づけ、コミュニティの観点から続々と生まれつつある洗煉されたコミュニティサービスをゲームに貪欲に取り込み、ゲームとコミュニティサービスの境目を無くし、その上で統一感のあるオンリーワンの世界観を構築することがMMORPGの生き残る道だと解く。これほど力強く水際だったMMORPG論を聞いたのは久々で、さすがは元祖MMORPG大国だという印象がある。 Steefel氏は、まず今回のテーマとなっているソーシャルネットワーク、バーチャルワールド、MMOタイプのオンラインゲームの3つの要素を総括して「Persistent(永続的な) Entertainment」と定義付けた。また、ソーシャルネットワークを「お友達クラブ」、バーチャルワールドを「サンドボックス」、MMOタイプのオンラインゲームを「テーマパーク」と位置づけ、いずれもコミュニティベースのエンターテインメントながら、コミュニティのモチベーションはそれぞれ異なるとした。 それぞれのモチベーションは、ソーシャルネットワークはアクセシビリティ、バーチャルワールドはインスピレーション、オンラインゲームはエクスペリエンスであり、これが自由度の高いゲームプレイを通じて楽しさを生む。その楽しさがまた新たなモチベーションのサイクルを生み出すという正のスパイラル構造が、バーチャルワールドの本質というわけだ。 MMORPGの屋台骨を支えるプランとして、固有の舞台、統一された世界観などを挙げ、それらにユーザーを引きつける施策として、マルチプラットフォーム展開、メインストリームプラットフォームへの対応、素早い対応とフィードバック、ユーザーツールの強化、ビジネスモデルの多様化などを取り上げた。 さらに今後の研究課題としては、Webテクノロジーの進化への対応、ハードウェアや接続性の壁の除去、モバイルライフスタイルとの協調、ゲーム世界へのシームレスな接続性の確保などを挙げた。いずれも具体的な提案であり、分野を問わずに最新技術をキャッチアップするという貪欲な姿勢が、日本にはなかなかないものを感じさせる。 最後にSteefel氏は、自社の代表作である「LORD OF THE RINGS ONLINE」での実装事例を取り上げた。「LORD OF THE RINGS ONLINE」の公式サイトでは、ゲームの公式サイトに、ほぼパーフェクトな形でSNSがビルトインされており、すべて無料でユーザーに提供されている。さくらインターネットが展開している日本運営では残念ながら未実装であるため、初めて見知ったものが多く、そのサービスの充実ぶりに驚かされた。 具体的には、公式ブラウザ上に、wikiのエンジンを使ったSNSサービスと、Google Mapのエンジンを採用したマップサーチのサービスが用意され、ユーザーは自由にゲーム内データを活用してコミュニケーションに役立てることができる。かつてテクモのLievoが実装を予定していた要素だが、すでに「LOTRO」にゲームデータに直結した形で実装済みだった。
講演は、SNSやバーチャルワールドとのシステム的、技術的な融合を訴えて終わったが、本公演には飽和期を迎えたMMORPG市場における成功のヒントが隠されているような気がする。自分がプレイしているオンラインゲームは、コミュニティサービスを大事にしているかどうか。ゲームの外でどのようなサービスが利用できるのか。今後は、そういった側面からオンラインゲームを評価する時代がやってきそうだ。
■ 汎用のメーカー公認RMTサービスがついに登場!! 「Learning to Love Virtual Item Sales」
もう一社のスピーカーを務めたPing0は、HanbitとFlagship Studiosが共同で設立した子会社で「Hellgate London」のワールドワイドパブリッシャーであり、かつ「Live Gamer Exchange」の賛同メーカーの一社である。「Hellgate London」も同サイトを通じてメーカー公認の形でRMTが行なわれることになる。すなわち、北米市場では、今年の3月末から、Live Gamerというメーカーを旗頭に、RMTが大手を振ってスタートする状況が構築されているのだ。 セッションの骨子は、要するにLive Gamer Exchangeの正統性をアピールする論拠を我田引水的に並べ立てるというものだ。具体的には、北米には現在推計18億ドルにも上るRMTのブラックマーケットが存在し、パブリッシャーやデベロッパーにはまったく還元されない状態が続いている。RMT市場は今後も拡大する見込みで、2012年にはその市場規模は50億ドルにも達する。 RMTは、メーカーにとっては、ありとあらゆるネガティブなリスクを増大させるやっかいな存在だが、その一方でMMORPGを筆頭としたオンラインゲームにはRMTを誘発させるさまざまなモチベーションが存在する。「EverQuest II」で試験的に導入された「Station Exchange」の結果も(メーカーに取っては)ポジティブであり、Live Gamerが「Live Gamer Exchange」を導入することで、ファーマーの居ないクリーンかつ安全なRMT取引を提供する、というものだ。 しかし講演を聴いていて「ちょっとまってほしい」と思うことが多々あり、中でもユーザーの利益に関する捉え方が、日本と北米でまったく異なることに衝撃を受けた。日本におけるRMTの問題は、ゲームデザインの崩壊であり、ゲームプレイの崩壊が根っこにある。ゲームの外は問題ではなく、あくまでゲーム内の地殻変動が問題なわけだ。 ところが北米では、というよりLive Gamerの見解では、RMTの是非はすでに問題ではなく、本来メーカーに入るべき利益の一部がゴールドファーマーらに吸い上げられていることを問題にしている。つまり、保護対象が、日本はゲームそのものであるのに対し、北米はメーカーの利権にすり替わってしまっているのだ。 ここでRMT禁止論を展開するのは本旨から外れるので、言及したい箇所は無数にあるがここで止めておきたい。ただ、衝撃の内容を理解して貰うために、今年1月に筆者が記した日本市場のRMT禁止の論拠について再度掲載しておきたい。 「メーカーが本来求めるゲームデザインと、ユーザーが望むゲームデザインが、RMT利用者という外的圧力によって破壊されるのはおかしいということに尽きる。この性質は、世界のRMT市場の偏在状況を見る限りでは、ゲームに対して高度なカタルシスを求める比較的長いゲーム史を擁した地域であるほど強く、浅い地域であるほど弱い」 つまり、筆者の個人的な理解では、北米市場もまた日本市場と同様にRMTは禁止の方向性に向かうはずだという確信を抱いていたのだが、この予測が脆くも外れかねない情勢にショックを抱いたわけである。
ただ、その一方でメーカー関係者からは、「RMT市場は、北米大手メーカーから見れば誤差のようなもので、本気で取り組むほどの規模ではない。だったら第三社に委託してファーマーの駆除と利益確保を図った方が良い」という意見も聞かれた。このあたりが意外とメーカーの本音なのかもしれない。「Live Gamer Exchange」は3月31日よりサービスを開始する予定となっている。このサービスがどのように推移するか、また公認タイトルがバーチャルワールドにどのような影響をもたらすのか。GDC09での事後検証に注目したい。
□Game Developers Conference(英語)のホームページ (2008年2月20日) [Reported by 中村聖司]
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