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会場:Moscone Center
Gameloftは、フランスに本社を置くモバイルゲームメーカーである。Guillemot氏は世界的なゲームメーカーとして知られるUbisoftの創設者の1人で、その後モバイルゲームを手がけるGameloftを設立した。 GameloftはUbisoftとの太いパイプを生かして、Ubisoftのライセンスタイトルをモバイルで提供しつつ、平行してオリジナルコンテンツも制作。欧米で急激にシェアを伸ばし、2007年第4四半期には、米Electronic Artsの牙城を崩してモバイルゲームの売り上げ世界一を達成したと発表している。日本にも支社を持っており、欧米タイトルのローカライズのみならず、独自の開発部隊を持ってオリジナルタイトルを制作するなど、かなり日本市場にも力を入れてきている。
Guillemot氏の講演はGDC Mobileの最初のセッションということで、世界のモバイルゲーム市場に関する話題から展開。同社のこれまでの歩みと比較しながら、今後のモバイルゲーム市場がどうなっていくのか、成長のためには何が必要かということを分析していった。
■ モバイルゲーム先進地域である日本市場に学ぶ
次に世界の市場について、地域ごとの現状を述べた。中国やインドはまだモバイルゲームが注目されておらず、南米は始まったところ。欧米は人口の5~7%の利用に停滞しており、日本と韓国は人口の10~15%に到達した成熟した市場だとした。ただ流れとしては、世界全体で日本や韓国のように市場が拡大してきており、いずれはマスマーケットになるという考えを述べた。 続いて、モバイルゲームのサービスの現状について説明。現在、モバイルゲームに対応する端末は世界に1,000種類以上あり、毎年400以上の新端末が登場するという。ゲームロフトは世界の200以上のキャリア、15以上の言語に対応するモバイルゲームを配信している。各キャリアは平均200種類の端末があるので、それぞれに対応する製品版モバイルゲームは40,000通り存在することになる。月に5タイトル出せば、20万以上の製品版が必要になるという計算だ。 ここでGuillemot氏は、モバイルゲーム配信における問題について触れた。日本では、コンテンツプロバイダ(CP)が自らモバイルサイトを運営し、モバイルゲームを配信するスタイルを取っており、キャリアはそこへの繋ぎこみだけを行なっている。しかし欧米では、キャリアがモバイルゲームの配信を管理している。CPは配信のタイミングを自分で設定できないため、新作の提供や新端末への対応などをコンスタントに行なえないという。20万の製品版を用意しても、ダイナミックに提供できないというわけだ。Guillemot氏は欧米のスタイルを、日本式、あるいはiTunesのようなベンダーが直接配信するスタイルに切り替えるべきだと主張した。 もう1つ問題として挙げたのが、通信料金について。端末の高性能化に合わせて、モバイルゲームの大容量化が進んでいる。ゲームの販売価格は数年前から変わっていないものの、ダウンロードに必要な通信料金は膨大になっている。ゲーム本体よりも通信料金のほうが高かったり、通信料金規制によってオンライン経由のマルチプレーヤーゲームにも制限がかかってしまうといった問題を抱えている。これらの問題を解決するため、マスマーケット向けの通信料金設定を提供する必要があると述べた。 また特に北米市場においては、2007年に成長のスローダウンが見られたという。この原因としては、経済全体の停滞に加え、iPhone初期のゲーム非対応、Nokiaのオンラインサービス「Ovi」の遅れといった問題が重なったとしている。この影響が世界中に波及し、2007年の成長が鈍化したと考えられるとした。
Guillemot氏が挙げた問題点は、いずれも日本では解決されているものだ。日本のモバイルゲーム市場が欧米よりも進んでいる理由を分析したところ、これらの点が問題として浮かび上がったということなのかもしれない。
■ よりリッチなコンテンツが市場の成長を加速させる
特にモバイルゲームは、2002年は'80年代のコンシューマゲームレベルだったものが、今はコンシューマゲームに追いつくほどの進化を見せている。Guillemot氏は、「iPhoneやNokia N-Gage、Google Androidといった次世代端末の登場によって、モバイルゲームも第2の成長期に入るだろう」というポジティブな見方を示した。 ここで1つの例として、同社が2004年から2005年にかけて手がけたリアルタイムマルチプレーヤーゲーム「Asphalt Urban GT RealTime Multiplayer Version」を挙げた。このタイトルは、米国のキャリア、Verizon Wirelessが提供するVerizon's advanced EDVO networkを使った、リアルタイム通信対戦が可能なレースゲームである。 当時としては画期的なゲームだったが、キャリアとの連携がうまく取れなかったことや、ネットワークシステムが不十分だったこと、Verizon Wirelessだけでサービスされ、他のネットワークと接続できなかったことなど、問題点もあったという。これを踏まえて、モバイルゲームが今度成長していくためには、データ通信プランの充実と、高速なネットワークの構築、大容量端末、キャリア間の相互接続が必要だとした。 続いてGuillemot氏は、2008年の展望について述べ、「モバイルゲームは未だに潜在的な能力の表面が見えたに過ぎない」と強気の見方を示した。そのブレイクスルーとして考えているのが、3Dゲームだという。2008年内には最高品質のマルチプレーヤー3Dゲームの提供が可能になり、年内にも全世界で展開したいとしている。これによって、モバイルゲーム市場はさらに急成長を見せると語った。ただしそのためには、データ通信料金プランや、CP主導によるゲーム配信、モバイルインターネット環境の発展が必要だと付け加えた。 業界では、モバイルゲームは長期にわたり停滞するのではないかという見方もあるが、「それは一時的なもので、一部のアナリストによる憶測に過ぎない。これからも数年間は成長を続ける」とした。またモバイルゲームはマスマーケットにならないのではないかという話題については、「価格やネットワーク環境などが変わる必要はあるが、即時性やスピード感といったほかにはない特徴もあり、市場は現在の2倍から3倍に成長する可能性を秘めている」と、ここでもポジティブな姿勢を貫いた。 直近の見通しとしては、2008年前半は2007年第4四半期と同等の成長を見込み、2008年の後半には次世代端末の登場に合わせて、急激な成長を見せるとした。これは業界の動きというよりも、Gameloftの決意表明に近い。業界第1位となったGameloft自身が市場を牽引することを示しつつ、今後は最新の端末で最高品質のゲームを届けることで、さらに業績を伸ばせると考えているようだ。
Guillemot氏は講演のまとめとして、「市場は革新が必要。納得のいく価格で、最高品質のゲームを届けられる市場になる必要がある」と述べた。最後に「Gameloftはこれらの要素を実現し、2007年には40%の成長を実現した」と付け加え、モバイルゲーム市場は停滞しておらず、可能性はまだまだあるということを強調した。
話を通して聞いていると、日本市場が先進的であることを認め、それをモデルケースにして欧米の市場も変えていかなければならない、という考えが伝わってくる。逆に言えば、日本市場であれだけ伸びているのだから、環境さえ整えば欧米でも同レベルのユーザー利用率に達する可能性は十分ありえるということだろう。 ただ、日本と欧米が異なる部分の全てが、今回の講演で語られたわけではない。まず日本は電車を使って移動する人の割合が多く、ユーザーが携帯電話を利用しやすい状況が多い。またコンテンツも、欧米で人気のタイトルをそのまま持ってきても売れるわけではなく、その逆も同様だ。ユーザーの利用環境と趣向の違いというのは、コンシューマゲームで見るよりも隔たりが大きいはず。
果たしてGuillemot氏の狙いは来年の今頃に達せられているのか。そして欧米と日本の市場の差異はどう変化していくのか。期待感を込めつつ、ぜひまた来年も話を伺いたいところだ。
(2008年2月19日) [Reported by 石田賀津男]
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