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台湾weblisherは、「Foxy」というP2Pソフトウェアを核にしたサービスを展開している企業。Foxyはいわゆるファイル交換ソフトで、同時接続数は多いときで約60万人、月間ユニークユーザーは1,600万人と公称している。台湾の人口は約2,300万人なので、この数字をそのまま信じるならば、とんでもない大ヒットだ。 日本でP2Pソフトといえば、「Winny」を思い浮かべる人が多いだろう。Foxyもクライアントを束ねるサーバーを持たず、完全にクライアント同士で通信するという仕組みを採用したピュアP2Pソフトである。無料で配布されているクライアントをインストールさえすれば、IDの登録すら不要で、誰でもすぐに利用できる。アップロードしたいファイルを指定すればネットワークに流れていき、ダウンロードしたいファイルは簡単に検索して見つけられる。 交換できるファイルを制限するような機能はなく、事実、違法なファイルも簡単に検索にヒットする。台湾においても、著作権侵害は紛れもなく違法だし、情報漏洩、ウイルスなどの問題も必ず付きまとうものだ。そんな中で、weblisherはどうやってFoxyを生かし、成長させてきているのか。この背景には、同社の戦略と、台湾と日本の法律の感覚のずれがある。
ここまでの前書きでは、ゲームの話は一切出てきていないのだが、実はFoxyはゲームと縁があり、weblisherとしてもゲームに関する新たなプロジェクトを考えているという。同社の総経理(General Manager)を務める張希寧氏に、このあたりの話を聞いてきた。
■ Foxyの成り立ちと、人気を得た理由
張氏 : 会社を立ち上げたのは3年前です。Foxyは最初、オンラインゲームのクライアントを配るためのソフトとして公開しました。オンラインゲームはファイル容量が大きく、回線の負荷もかかりますから、Foxyを使ってもらうことで、公式サイトからダウンロードするよりも早くファイルを受け取れるというメリットを強調しました。 ――何のゲームから展開されたのでしょうか? 張氏 : 最初は非公式でした。当時はユーザーもインフラも持っていませんでしたから。まずは自分でゲーム会社のクライアントを公式サイトからダウンロードして、それをFoxyに流すことで広めていきました。 ――なるほど。そしてある程度ユーザーを増やしていったところで、音楽やビデオのファイルを共有できる機能をつけたということですか? 張氏 : 後からつけたわけではなく、初めから機能はありました。オンラインゲームをダウンロードできる機能があるということは、そこに音楽などのファイルを置いたらどうなるか、ユーザーが判断して使い始めただけです。そこからユーザー数が増えていき、先月は1,600万ユニークユーザーを記録しています。 ――Foxyが人気を得ている理由というのは何だと思われますか? 張氏 : 2006年から2008年にかけて、台湾のインターネット利用者がインターネットで何のサービスを利用しているかを調査したところ、1位は情報検索で80%、2位はメールで75%、そして3位がファイル共有で73%でした。台湾人はファイル共有が好きなのです。これが第1の理由です。 第2に、Foxyが非常に簡単であることです。オンラインゲームを配布するための共有フォルダに、音楽やビデオのファイルを入れれば、そのまま共有できます。他に知られている「BT」や「WinMX」といったソフトよりも簡単で、誰でも使えます。
張氏 : BBS、Flashの無料ゲーム、強力なコミュニティ機能を持ったSNS的なもの、単純なブログ機能があります。いずれもファイル共有と並んで、アプリケーションの中から呼び出せます。現在の接続者数も画面下で見られます。今(平日昼)は30万人くらいですね。 ファイル共有以外のサービスの柱として、音楽配信サービスがあります。これはファイル共有とは別の合法的なもので、他社と提携して有料で配信しているものです。ここで音楽を販売して、インセンティブを得る仕組みです。 ――ちなみに収入の柱となっているのは、やはり広告なのでしょうか。 張氏 : そうです。Foxyを見ていただければ、上にも下にもあちこちに広告があるのがわかると思います。 ――ちなみに収益はどの程度でしょうか。
張氏 : Foxyで広告ビジネスを始めたのが去年なので、収益が出始めたのは去年からです。金額は申し上げられませんが、会社としては昨年は一昨年の2倍の収益を上げています。
■ P2Pを合法的に商売にする仕掛けとは?
張氏 : 台湾の法律上の認識は、違法なファイルを持っていなければ罪は問わないという結論に至っています。ですからアプリケーションの開発には問題ありません。 ――Winnyの開発者が問われている罪は、違法なファイルを配布したという著作権侵害そのものではなく、著作権侵害を幇助したというものです。このアプリケーションが存在する限り、違法なファイルを交換する人間が必ずいるという見方です。台湾ではこのような考え方はされていないということですか? 張氏 : 台湾において問われるのは、違法なファイルを持っているかどうかだけです。 ――ということは、違法なファイルをやり取りしているユーザーだけが責任を問われるということですね。 張氏 : もう1つのポイントになるのは、クライアントが有料であるかどうかです。もし有料であれば、これは罪になります。しかしFoxyは無料なので罪に問われません。この状態であれば、罪に問われるのは違法なファイルをやり取りしたユーザーだけです。この2つの点から、Foxy以外のP2Pサービスでは違法とされたものがいくつもあります。 ――ネットワークを監視して、違法なファイルを見つけた際に、その対処を行なうようなことはあるのでしょうか。 張氏 : やり取りはユーザー同士のものなので、どういうファイルをやり取りしているのかはわかりません。 ――日本ではP2Pソフトでやり取りされるファイルを監視するシステムが置かれたこともありました。Foxyではこういった取り組みはないのでしょうか。 張氏 : そういった組織があるという話は聞いていません。 ――ではFoxyのユーザーが逮捕されたというような話は過去にありますか? 張氏 : 逮捕されたことはありませんが、警察が警告を出すことはあります。 ――日本においてP2Pソフトでもう1つ問題になっているのは、情報漏洩です。社内の機密文書などが、P2Pのネットワークに乗って漏れてしまう。こういった事件や事故はFoxyにおいては発生していませんか? 張氏 : そういった事件もありました。ただそのユーザーは、わざと機密文書をP2Pで共有したのです。なぜそんなことをしたのかは、私にはわかりませんね。新聞や雑誌にも取り上げられました。 ――情報漏洩の問題としては、ウイルスによるものもあります。ダウンロードしたファイルの中にウイルスが紛れ込んでいて、それを使用したユーザーが感染するという仕組みです。PCの中にあるファイルを勝手に流出させるウイルスもあります。こういった被害は発生していますか? 張氏 : 台湾のユーザーは、アンチウイルスやアンチスパイのソフトを導入しています。ダウンロードしたファイルはチェックして、ウイルスがなければ使用し、見つかれば削除します。こういった習慣ができているので、そういった被害のケースはあまり聞きません。 ――ただ被害は0ではないということですよね。日本ではこういったことが起こって、世間的に悪い評判が流れ、現在はP2Pソフトが悪いものとして見られがちです。しかしFoxyはアンダーグラウンドにならず、台湾のユーザーにもポジティブに受け入れられているように見えます。これは何か秘訣があるのでしょうか?
張氏 : 台湾でもある程度の人は、これが悪いものだという認識を持っています。しかしとても便利で使わないと損ですから、使う人はまだまだいます。ユーザーもウイルスのあるファイルを見分けるノウハウを得てきているので、そういった被害はどんどん減ってきています。ですから今はそれほど悪くは見られていません。
■ 次のサービスはメッセンジャーとオンラインゲームパブリッシング ――では、Foxyで今後考えているサービスは何でしょうか。 張氏 : メッセンジャー機能です。既に1,600万のユーザーがいるので、メッセンジャー機能をつければ、とても価値の高いものになると考えています。 ――今はまだメッセージをやり取りする機能はないのですか? 張氏 : 今はありません。メッセンジャーサービスには、巨大なサーバーを用意するなどのコストがかかりますから。 ――メッセンジャーはお金が取れる機能ではないですよね? 張氏 : メッセンジャーの機能は基本的に無料ですが、その上に、例えば出会い広場のようなものを用意して、そこは有料で提供するという形を考えています。 ――では他にどういったサービスを考えられていますか? 核となっているFoxyが無料なので、特にお金を取れるサービスを考えていらっしゃるのではないかと思うのですが。 張氏 : いいところを突いてきますね(笑)。オンラインゲームを考えています。パブリッシャーとして既に動き始めていて、もう少しでお話できるところまで来ています。 ――それはFoxyのP2Pサービスとは全く別の動きですね。そうするとFoxyが1つのポータルサイトとなって、オンラインゲームを提供するような動きを考えておられるのでしょうか。 張氏 : そうです。Foxyとは別の独立したポータルサイトを立ち上げることも考えています。 ――扱うゲームは台湾のものですか? それとも欧米や日本のタイトルでしょうか。 張氏 : 中国や香港、台湾といったアジア系のゲームを提供しようと考えています。 ――Foxyは他の国でサービスされているのでしょうか? 張氏 : 中国と香港ではサービスをしています。 ――今後展開を考えている地域は? 張氏 : 南アメリカですね。理由ですか? 知り合いがいるからです(笑)。 ――日本ではこういったサービスは提供されていないので、持ってきても面白いのではないかと思います。法律的に難しいところはあると思いますが、いかがでしょうか。 張氏 : 日本の法律が厳しいことは認識しています。直接の監視ができないので、日本でどのように運営すればいいのかが難しいですね。今のところ具体的な計画はありません。
――ありがとうございました。
P2Pのサービスが日本と違う受け入れられ方をしているのは、法律の捕らえ方の違いが何よりも大きい。中央になるサーバーもインフラもないため、weblisher自身は違法なファイルを所持もしていないし、やり取りに参加もしていない。よって罪に問うところがない、というのが台湾での法律の見解だという。監視のためのサーバーを持っていないことも、コストの問題ももちろんあるが、「違法なファイルについては、うちは一切ノータッチですよ」という姿勢を見せるためのやり方とも考えられる。 日本でもWinnyの裁判が終わっていないため、最終的にどういう結論がでるのかはわからない。ただ、一度は有罪判決が出ているため、今のところは裁判所は有罪という見解を持っていると考えていい。お国柄の違いというのは確かにあって、インタビューでもちぐはぐなやりとりになってしまったところもある。 もう1つFoxyの持つ強みは、P2Pサービス以外にも手を広げているところだ。クライアントを立ち上げると、最初に出るのはファイル交換のウインドウではなく、ブラウザベースで表示されるFoxyのWEBサイトである。ここにはブログなどのサービスもあり、そこでもユーザーを獲得している。これによって、P2Pに対して悪い印象をもたれても、Foxyの全てが否定されることはない。ポジティブに見られる仕掛けはここにあると感じた。 そして次の手として考えている、オンラインゲームへの参入である。1,600万ユーザーという数を額面どおりに信じるのは難しいが、それでも既に相当な数のユーザーを抱えているのは確か。巨大なブログやSNSまであるポータルサイトで強力なプロモーションを行なえるし、「クライアントのダウンロードはP2Pで」という裏技まで使える。オンラインゲームパブリッシャーを始めるには、これ以上ないほどの環境が整っている。
その環境をうまく生かせるかどうかが今後の鍵を握ることになる。もしかすると来年のTaipei Game Showで、weblisherの姿が見られることになるかもしれない。いずれにしても、今後が楽しみな企業である。
(2008年1月28日) [Reported by 石田賀津男]
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