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【CEDEC 2007現地レポート】

ジー・モード宮路社長が明かす、モバイルで勝ち続ける秘訣
ターゲットは「ゲーム機を持っていない全ての携帯ユーザー」

9月26~28日 開催

会場:東京大学

 ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2007」では、2日目から昨今成長がめざましい携帯アプリ関連のセッションが行なわれた。本稿はその中から、株式会社ジー・モード代表取締役社長の宮路武氏によるセッション「モバイルミニゲームサイトランキングで1位を取り続けている秘策とは」をレポートする。

ジー・モード代表取締役社長の宮路武氏。携帯とゲーム機の違いをユーザーの視点から突いていった
 宮路氏は、兄の宮路洋一氏とともに株式会社ゲームアーツを立ち上げた人物。しかし「グランディア」などの大作を手がける中で、自分がヘビーなゲームをプレイしていないことに気づき、「ゲームはこのままでいいのか、ゲーム業界として別のことをしたほうがいいのでは」と自問して、出した結論がモバイルゲームだったという。そして現在は、NTTドコモのミニゲームサイトランキングにおいて、トップの地位を守り続けている。

 セッションでは、宮路氏とジー・モードがこれまでに通ってきた道筋をたどりながら、いかにして同社がモバイルゲームで成功し、その地位を維持し続けているのかという秘密が語られた。



■ ゲーム機と携帯に同じゲームを投入していてはいけない

携帯ゲーム市場ができる前からその特性を予見し、勝利を確信したという
 宮路氏がモバイルゲームに着手したのは、'98年のこと。当時はまだiアプリもない時代だったが、携帯電話のテクノロジは必ず進化し、モバイルゲーム市場ができることを予見して、ジー・モードを設立した。当時は周囲がモバイルゲームに対して懐疑的で、「ゲームはゲーム機でやる」、「ゲーム資産や技術者を大量に抱える大手に勝てない」とさんざん言われたそうだ。

 それを聞いた宮路氏は、「勝ったと思った」という。その理由として、「ゲーム機は一家に1台あろうとも、実際に使っているのは若年男性に偏った、規模の大きなニッチマーケット商品。携帯電話は、1人1台、老若男女が持つ。これぞマスマーケット商品。ユーザー属性は全く違う」とした。他にも、「ゲーム機を買う必要がない」、「初めから通信ができる」といった携帯電話ならではの利点も挙げた。

 携帯ゲーム機との住み分けについては、「携帯電話は常に持ち歩くもの。ゲームをするために持ち出すのではなく、暇だったらゲームする。発想が逆だから、住み分けができる」とした。

 次に、「他企業が追随できないワケ」として、モバイルゲームの開発における問題点をいくつか提示した。この中には、「ゲーム機も携帯も同じ商品でいいと考えていないか」というものがあった。これは先ほどの説明にあったとおり、家庭用ゲームはニッチマーケット商品なので、マスマーケットを狙うモバイルゲームとはターゲットが違うことを認識しなければならないという。

 またゲーム会社としてのブランド力も期待できないという。「30代から40代の女性などにゲーム会社の名前を聞いてもでてこない」といい、マーケットが違う以上、実際は無名同然で、固定客もそれほどいないことを認識すべきだと語った。

 さらにゲームの開発方法についても、ゲーム機と同じではいけないという。「ゲーム機での商売は、ホームランを狙って打ち続けるようなもの。お金をかけているゲーム機でさえ難しいのに、携帯でできるわけがない。ヒットを積み重ねていくやり方が重要」とした。しかしお金をかけないというのは前提ではなく、「携帯でも本気でやるなら、最も優秀な人材を割り当てるべき」とも語った。

大手ゲームメーカーが携帯ゲーム開発に乗り出し、結果としてうまくいかない流れをスライドで説明。「このように軽く考えていては我々には勝てないぞ」というメッセージも感じ取れる



■ ゲーム機で遊ばないユーザーをターゲットにしたゲームを、真面目に作る

 その次はさらに踏み込んで、「モバイルゲームでナンバー1を実現するための取り組み」として、問題点をクリアしていく6つのポイントが述べられた。

目から鱗が落ちる1枚のスライド。大手ゲーム会社が携帯で伸び悩む中、ジー・モードが勝ち続けられる最大の理由がここにある
 この中で最も注目したいのが、「ターゲットはライトユーザー層」という部分。競合他社がターゲットとしているユーザーは、家庭用ゲームやPCゲームでプレイしている、既存のゲームプレーヤーである。宮路氏は、「そこで戦っても勝てない」と言い切り、そのほか全てのゲームをプレイしていないライトユーザー層をターゲットにするという。

 先に出てきた人材の問題については、実際に同社は、ゲーム業界全体でも数十人という「伝説級」の現役クリエイターを5人招き、携帯アプリの開発を行なっているという。20年以上の経験を持つ現役クリエイターを招くのは容易なことではないが、宮路氏は「携帯はやれることは少ないが、こちらのほうが新しい未来があるでしょう?」といって説得したのだそうだ。

 ゲームの開発においては、カジュアルユーザーをターゲットにしていることを踏まえ、「いつでも、どこでも、短時間で楽しめる」というコンセプトを設定。さらに、「ダウンロード5分、対戦15分+いつでもセーブが可能」という細かい条件もつけ、これに合わないものは出さないという。

 さらに開発者の意識改革にも手をつけている。家庭用ゲーム偏重の志向から脱却させ、「プロなのだから、面白いゲームを作るのは当たり前。さまざまな条件に合わせて面白いゲームを作ることこそがプロの仕事だ」と指導しているという。

 「ヒットを積み重ねる」という方法については、「カジュアルユーザーは趣味趣向がばらばらで、1つのゲームで全てを満たす(ホームラン志向)のは無理。あらゆるジャンルに投入し、数で対応するしかない」とした。

 このほか、ドミノピザやゴルフトーナメントのANA Openとのコラボレーション企画も紹介。これを見ながら、「普通のゲームを作るのと同じように、真面目にやればいい」と語り、携帯ゲームだからと軽く見ていては成功はないということを強調した。

カジュアルゲームであることを念頭に、厳密な条件を設定している 「プロなんだから面白いものを作るのは当たり前」という宮路氏。ドキッとした開発者も多いことだろう



■ 他社を引き離せる理由は、戦略とノウハウの差

ユーザーの幅広さは驚くばかり。ゲーム機では夢物語のような状況を、160万ものユーザーを抱えて実現してしまっている
 次は視点をジー・モードの現状に向け、同社の最新データが示された、2007年6月時点で会員数は160万人。男女比はほぼ半々で、年齢は20代が多いものの、30代が25%、40代以降も30%程度と、利用者は老若男女を問わない。これは「ライトユーザー層に特化した戦略が功を奏した証」という。

 コンテンツの数は、1,300タイトルを越えている。気軽に遊べるミニゲームが中心ではあるが、RPGやアドベンチャーなど、高額なコンテンツも取り揃えている。しかし宮路氏は、「ラインナップは他社と大して変わらない」という。その上でなぜ勝ち続けられるのかという理由を、「戦略の差。我々がカジュアルユーザーを狙うことを考え、実行した結果。仮説を用意し、結果を伴うところまで持ち込めた」と説明した。

 とはいえタイトル数はかなり膨大なものがある。宮路氏は、多数のタイトルを出すことには意味があるという。最も大切なことは、ユーザーを飽きさせないため。「ゲームは飽きるもの。飽きても結構だが、また次に新しいものがあるという状況を作り、サイト全体として飽きさせないようにする」という。またタイトルを数多く作ることで、ノウハウが蓄積される。月産30本ペースで作っていれば、その分多くのノウハウが蓄積され、それ自体が次に繋がっていく。

 またユーザーに対する対応の迅速さも重要だという。全キャリア・全機種対応のため、最新機種にも迅速に対応する。テストは膨大な数になるが、それをやることに価値があるという。その上でカスタマーサポートも充実させ、ユーザーのクレームやニーズを拾い上げ、開発と連携させていくことも重要だとした。

 最後に、同社の今後の展開について述べられ、「ゲームの枠組みをさらに広げていきたい。インタラクティブで面白いものは全てゲーム。この観点からゲームの可能性を広げたい。次はコミュニケーションを中心にした、インターネット・エンターテインメントを考えていきたい」とした。

数多くのタイトルを配信し続けることが、いくつものメリットを生み出す。「ゲームは飽きるもの」という前提に立った戦略だ ユーザーのコミュニケーション促進が次の課題であり、インターネットビジネスの将来形と捉えているようだ



 講演の後の質疑応答の中でも、面白い話題があった。携帯コンテンツの制作について、「ハードウェアを持っていることを前提に話ができる。プレイステーションで女子中学生向けといってもピンとこないと思うが、我々が携帯でやるときには、ゲームが好きだということを除いて、『女子中学生だったらこういうものが好きだろう』という形で考えられる」という。プラットフォームを所有していること、という前提を取っ払って考えられるというのは、携帯電話とゲーム機の明確な差だといえるだろう。

 また携帯電話のインターフェイスについて尋ねられると、「確かに悪い」と認めつつも、「それしかないという環境ならば、それでやる。状況が違うので気にしていない」と答えた。インターフェイスの悪さは、ゲーム機を知っているから、ゲーム機と並べるから見えるもの。使う状況やターゲットが違う以上、対等に比較する必要がないということだ。

 「携帯電話で面白いゲームを作るにはどうすればいいか」という発想からスタートする時点で、既にボタンを掛け違えているのかもしれない。携帯電話はゲームのプラットフォームではないことを認め、その上でもっと大きな可能性を秘めていることを、ポジティブに見直す必要があるのではないだろうか。

□CESAのホームページ
http://www.cesa.or.jp/
□「CEDEC 2007」のページ
http://cedec.cesa.or.jp/
□ジー・モードのホームページ
http://www.g-mode.co.jp/

(2007年9月29日)

[Reported by 石田賀津男]



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