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会場:東京大学
セッションでは、宮路氏とジー・モードがこれまでに通ってきた道筋をたどりながら、いかにして同社がモバイルゲームで成功し、その地位を維持し続けているのかという秘密が語られた。
■ ゲーム機と携帯に同じゲームを投入していてはいけない
それを聞いた宮路氏は、「勝ったと思った」という。その理由として、「ゲーム機は一家に1台あろうとも、実際に使っているのは若年男性に偏った、規模の大きなニッチマーケット商品。携帯電話は、1人1台、老若男女が持つ。これぞマスマーケット商品。ユーザー属性は全く違う」とした。他にも、「ゲーム機を買う必要がない」、「初めから通信ができる」といった携帯電話ならではの利点も挙げた。 携帯ゲーム機との住み分けについては、「携帯電話は常に持ち歩くもの。ゲームをするために持ち出すのではなく、暇だったらゲームする。発想が逆だから、住み分けができる」とした。 次に、「他企業が追随できないワケ」として、モバイルゲームの開発における問題点をいくつか提示した。この中には、「ゲーム機も携帯も同じ商品でいいと考えていないか」というものがあった。これは先ほどの説明にあったとおり、家庭用ゲームはニッチマーケット商品なので、マスマーケットを狙うモバイルゲームとはターゲットが違うことを認識しなければならないという。 またゲーム会社としてのブランド力も期待できないという。「30代から40代の女性などにゲーム会社の名前を聞いてもでてこない」といい、マーケットが違う以上、実際は無名同然で、固定客もそれほどいないことを認識すべきだと語った。
さらにゲームの開発方法についても、ゲーム機と同じではいけないという。「ゲーム機での商売は、ホームランを狙って打ち続けるようなもの。お金をかけているゲーム機でさえ難しいのに、携帯でできるわけがない。ヒットを積み重ねていくやり方が重要」とした。しかしお金をかけないというのは前提ではなく、「携帯でも本気でやるなら、最も優秀な人材を割り当てるべき」とも語った。
■ ゲーム機で遊ばないユーザーをターゲットにしたゲームを、真面目に作る その次はさらに踏み込んで、「モバイルゲームでナンバー1を実現するための取り組み」として、問題点をクリアしていく6つのポイントが述べられた。
先に出てきた人材の問題については、実際に同社は、ゲーム業界全体でも数十人という「伝説級」の現役クリエイターを5人招き、携帯アプリの開発を行なっているという。20年以上の経験を持つ現役クリエイターを招くのは容易なことではないが、宮路氏は「携帯はやれることは少ないが、こちらのほうが新しい未来があるでしょう?」といって説得したのだそうだ。 ゲームの開発においては、カジュアルユーザーをターゲットにしていることを踏まえ、「いつでも、どこでも、短時間で楽しめる」というコンセプトを設定。さらに、「ダウンロード5分、対戦15分+いつでもセーブが可能」という細かい条件もつけ、これに合わないものは出さないという。 さらに開発者の意識改革にも手をつけている。家庭用ゲーム偏重の志向から脱却させ、「プロなのだから、面白いゲームを作るのは当たり前。さまざまな条件に合わせて面白いゲームを作ることこそがプロの仕事だ」と指導しているという。 「ヒットを積み重ねる」という方法については、「カジュアルユーザーは趣味趣向がばらばらで、1つのゲームで全てを満たす(ホームラン志向)のは無理。あらゆるジャンルに投入し、数で対応するしかない」とした。
このほか、ドミノピザやゴルフトーナメントのANA Openとのコラボレーション企画も紹介。これを見ながら、「普通のゲームを作るのと同じように、真面目にやればいい」と語り、携帯ゲームだからと軽く見ていては成功はないということを強調した。
■ 他社を引き離せる理由は、戦略とノウハウの差
コンテンツの数は、1,300タイトルを越えている。気軽に遊べるミニゲームが中心ではあるが、RPGやアドベンチャーなど、高額なコンテンツも取り揃えている。しかし宮路氏は、「ラインナップは他社と大して変わらない」という。その上でなぜ勝ち続けられるのかという理由を、「戦略の差。我々がカジュアルユーザーを狙うことを考え、実行した結果。仮説を用意し、結果を伴うところまで持ち込めた」と説明した。 とはいえタイトル数はかなり膨大なものがある。宮路氏は、多数のタイトルを出すことには意味があるという。最も大切なことは、ユーザーを飽きさせないため。「ゲームは飽きるもの。飽きても結構だが、また次に新しいものがあるという状況を作り、サイト全体として飽きさせないようにする」という。またタイトルを数多く作ることで、ノウハウが蓄積される。月産30本ペースで作っていれば、その分多くのノウハウが蓄積され、それ自体が次に繋がっていく。 またユーザーに対する対応の迅速さも重要だという。全キャリア・全機種対応のため、最新機種にも迅速に対応する。テストは膨大な数になるが、それをやることに価値があるという。その上でカスタマーサポートも充実させ、ユーザーのクレームやニーズを拾い上げ、開発と連携させていくことも重要だとした。
最後に、同社の今後の展開について述べられ、「ゲームの枠組みをさらに広げていきたい。インタラクティブで面白いものは全てゲーム。この観点からゲームの可能性を広げたい。次はコミュニケーションを中心にした、インターネット・エンターテインメントを考えていきたい」とした。
講演の後の質疑応答の中でも、面白い話題があった。携帯コンテンツの制作について、「ハードウェアを持っていることを前提に話ができる。プレイステーションで女子中学生向けといってもピンとこないと思うが、我々が携帯でやるときには、ゲームが好きだということを除いて、『女子中学生だったらこういうものが好きだろう』という形で考えられる」という。プラットフォームを所有していること、という前提を取っ払って考えられるというのは、携帯電話とゲーム機の明確な差だといえるだろう。 また携帯電話のインターフェイスについて尋ねられると、「確かに悪い」と認めつつも、「それしかないという環境ならば、それでやる。状況が違うので気にしていない」と答えた。インターフェイスの悪さは、ゲーム機を知っているから、ゲーム機と並べるから見えるもの。使う状況やターゲットが違う以上、対等に比較する必要がないということだ。
「携帯電話で面白いゲームを作るにはどうすればいいか」という発想からスタートする時点で、既にボタンを掛け違えているのかもしれない。携帯電話はゲームのプラットフォームではないことを認め、その上でもっと大きな可能性を秘めていることを、ポジティブに見直す必要があるのではないだろうか。
(2007年9月29日) [Reported by 石田賀津男]
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