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【CEDEC 2007現地レポート】

7人のパネリストによって模索される「アドベンチャーゲームの復権」
歴史、技術、シナリオ論……様々な視点によって分析されるゲームの方法論

9月26日~9月28日開催

会場:東京大学



 CEDEC2007、3日目に「アドベンチャーゲームの復権」と題されたセッションが、2回にわたって、行なわれた。このセッションでは、東京大学情報学環特任講師の吉田正高氏、哲学者・批評家である東浩紀氏、ベック所属のゲームデザイナー芝村裕吏氏、アルケミスト代表取締役の浦野重信氏、キャビアでプロデューサーを務める牧野隆氏と、原田真幸氏、ニトロプラスの鋼屋ジン氏の7人が様々な立場からアドベンチャーゲームについての取り組みや分析を語った。

 アドベンチャーゲームは、最も古いゲームジャンルの1つであり、現在でも様々なメーカーが作品を作り続けている。セッションではこのジャンルの作品の変遷や、表現に関する考察などが行なわれた。本稿ではこのセッションでの講演のいくつかをピックアップして紹介したい。


■ 提示されるアドベンチャーゲームの歴史と、改めて問われるアドベンチャーゲームというジャンルの定義

東京大学情報学環特任講師の吉田正高氏。膨大なコレクションを持参して登壇した
哲学者・批評家である東浩紀氏。「泣きゲーブームは当時の極めて不安定な社会情勢があったからで、もうこういったブームは来ないのでは?」など、各講演の後でコメントや解説を行なった
 セッションでは最初に吉田氏によるアドベンチャーゲームの歴史が語られた。アドベンチャーゲームとは、一定のストーリーのもとルートや解答を選択しながら、物語の結末を目指していくゲームであり、ゲーム性以上にストーリーが重要視される傾向にある。テキストゲームとして生まれ、「Zork」などコンピュータゲームの最初期から様々な作品が生まれた。

 コンピュータの機能が向上すると共に、グラフィックと文字でストーリーが語られるようになり、「スターアーサー」や「サラダの国のトマト姫」など、日本でも様々な作品が発売され始める。このころは正解の言葉を探すために色々な言葉を入れていく「言葉探し」の一面を持っていた。この後ファミコンなどコンシューマ機が生まれて行くにつれ、「コマンド選択式」のアドベンチャーゲームが増えていくことになる。

 PCゲームの移植が中心だったコンシューマゲームのアドベンチャーゲームは、徐々にオリジナル作品が増えていく。「ファミコン探偵倶楽部」、「探偵神宮寺三郎」といったホラー・ミステリーの名作が生まれ、「弟切草」、「学校であった恐い話」など、サウンドノベルといわれるジャンルが生まれ始める。同時に「ギャルゲー」、「美少女ゲーム(アダルトゲーム)」といったジャンルも大きくなり始める。

 PCエンジンのCD-ROMから、セガサターンやプレイステーションとハードの進化に合わせ、アニメーションや声優の演技がゲームに積極的に取り入れ始め、物語、世界観を視覚的に表現する動きが加速する。更にゲーム性においても洗練と複雑化していく。

 ここで吉田氏はアドベンチャーゲームの歴史から話題を変え、3つのアドベンチャーゲームの進化形態を上げる。シミュレーションゲームの要素とアドベンチャーゲームの要素を併せ持つ作品として、「高機動幻想ガンパレード・マーチ」を紹介。複雑な世界観と魅力的なキャラクタが、高いゲーム性で表現されているという特徴を紹介する。

 ファミコン時代にも、マンガを題材に、オリジナルストーリーが語られるゲームはあり、「めぞん一刻」などは漫画の世界を歩き回れる感覚を表現し、ファンから高い評価を得た。「ゆみみみっくす」、「だいなあいらん」というメガドライブ、セガサターンで発売されたゲームは、漫画家である竹本泉氏が、選択肢による変化するストーリーと、アニメとも違うテンポの表現によって、独特の雰囲気を持つ作品となった。

 3つめは「女の子の魅力」をテーマにした「ギャルゲー」である。「プリンセスメーカー」や「ときめきメモリアル」といったゲーム性の強い作品が出てきくるが、コミュニケーションとストーリーによって男女のコミュニケーションを表現するにはアドベンチャーの手法がファンから変わらず高い評価を受け続けている。

 吉田氏はその中でも興味深い試みをしている作品として、3つの作品を上げる。日常性を強く打ち出し、女の子との関係を構築していく「リフレインラブ」。プレーヤが少しでも選択を誤ると決定的な悲劇が訪れるため、それを避けるために真剣にゲームを攻略する「慟哭そして……」。女性側で男性を口説けるという「e'tude prologue ~揺れ動く心のかたち~」。どれもアドベンチャーゲームの進化の方向性を模索している作品だ。

 批評家の東氏は、吉田氏のアドベンチャーゲームの歴史の解説の流れを受けた形で、自身の考えを披露した。東氏は文学という観点から、ゲームで物語を語る手法に対して分析をしている人物で、書籍も執筆している。東氏は同人のノベルゲームとして登場し、熱狂的にファンに評価された後、コンシューマゲームや、アニメなどに展開した「ひぐらしのなく頃に」を“非常に特異な例”として上げる。

 「この作品は、読むだけの、選択肢がないデジタルノベルです。私はこれが「ゲーム」と受け取られたところにも注目しています。インターフェースがゲーム風だったために、アドベンチャーゲームと呼ばれた。“ゲーム”というジャンル自体がそういう幅広い認識を得ているというのは、ここ数年で作られた、面白い価値観だと思っています」。

 東氏は批評家らしい、いささかエキセントリックな言い方で「ひぐらしのなく頃に」を分析した。現在この作品は、アルケミストからコンシューマゲーム化されており、コンシューマ版は選択肢などもある、名実共に「ゲーム」である。アルケミストの社長の浦辺氏は、「ひぐらしの鳴くころに」のヒットは、作品そのもののパワーはもちろんだが、多くのユーザーに受けいられたのは、様々なメディアミックスの効果も大きいと、この後の講演で語っている。「現在のアドベンチャーゲーム」の1つサンプルとして、注目していきたいところである。

アドベンチャーゲームの歴史を語りながら、ちょっとうれしそうにコレクションを披露する吉田氏


■ 混沌としたもの、相反するテーマを入れ込むことで生まれた異色の美少女ゲーム「デモンベイン」

ニトロプラスの鋼屋ジン氏。「斬魔大聖デモンベイン」のシナリオライターである。
 ユーザー視点に立った吉田氏の一方で、ニトロプラスの鋼屋ジン氏は完全に作り手側の視点で、作品が生まれた経緯を語った。鋼屋氏は「斬魔大聖デモンベイン」のシナリオライターである。

 「デモンベイン」は美少女ゲームとして登場したが、コンシューマに移植され、アニメ化もされた。「クトゥルー神話(ラグクラフトという作家が生みだした怪奇小説から、後の作家達が形成した架空の神話体系)」、「巨大ロボット」、「ヒーローもの」など様々な要素を取り入れた作品で、ロボットのフィギュアまで発売されるなど、美少女ゲームの枠を越えてヒットした作品である。

 ニトロプラスには、それまで虚淵玄(うろぶちげん)というライターの作品を販売しており、美少女ゲームでありながらハードボイルド的な世界観を打ち出し、独自のファンを獲得していた。鋼屋氏は虚淵氏に声をかけられシナリオライターとなったが、まずどのような作品を作るか悩んだという。

 自ら出した結論は「劣化版虚淵玄では意味がない」ということ。このため、熱い展開やバトル、3DCGを使ったメカニックなど、今までのニトロプラスの作風を受け継ぎながらも、「ライト」で、「派手」で、「雑然」としているという作品を目指して「荒唐無稽スーパーロボットアドベンチャー」というジャンル名をつけ、「デモンベイン」を生みだした。

 「今になって考えてみると、『最適解』を裏切りたかったんだと思うんです。だからこそ色々な相反するもの、矛盾するものをぶち込んで、形にしていった。それが僕が作品を作るテーマだと思うんですよ。混沌に形を与えようとする動きや、技術こそ、創作じゃないですかね」鋼屋氏は、時々、自分自身で「うん」と言葉を確認しながら、熱っぽく手を動かしながら自分の想いを語った。

 受講者から鋼屋氏に、「『泣きゲー』、『ツンデレもの』といったブームがあったが、『燃え(熱血的な展開)』も新しい流行になるのか」という質問が寄せられた。鋼屋氏は「『燃え』はクリエーターの個性ではないか。メイドや、ツンデレのような“記号”とは違い、クリエーターに帰結するもので、誰もが安易に取り入れ模倣できるジャンルや流行の記号にはなり得ないと思う」と語った。


■ 芝村氏が模索する、低予算でその場しのぎのためではない、真のアドベンチャーゲームの復権

ベック所属のゲームデザイナー芝村裕吏氏。「高機動幻想ガンパレード・マーチ」、「式神の城」、「絢爛舞踏祭 」など独自の世界観を持つゲームを手がけ、ファンを獲得しているクリエーターだ
 芝村氏はゲームのシステム面からアドベンチャーゲームの進化を語った。アドベンチャーゲームはテキストのみの作品として生まれ、そこに絵が加えられていった。この当時のエンディングは1つだけだった。ここから、「コマンド入力式でユーザーの選択でエンディングが変化する」、「テキストを放棄して絵と音楽で物語を表現していく」、「RPGやシミュレーション、アクションなどと融合していく」という3つのタイプに分かれていった。

 一方で、アドベンチャーゲームは現在も何故作られ続けているか、ということに関しては、「小規模、低予算でゲームを作るのに、アドベンチャーゲームは優れている」という特徴を指摘する。クリエーターの個性を充分に再現するために、“一番資金がかからない”。恋愛の駆け引きを表現するのに恋愛シミュレーションゲームが登場するまでは、アドベンチャーゲームが使われていたように、アドベンチャーゲームというのは、“過渡的な存在”であり、これからもそうではないかと芝村氏は語る。

 アドベンチャーゲームが昨今、携帯電話コンテンツとしてもてはやされているが、「開発資金が少なくてすむ」、「発展途上の市場である」、「決定打といわれるシステムが登場していない」からではないかと、芝村氏は更に切り込む。では、真の「アドベンチャーゲームの復権」とは何なのか?

 芝村氏は「あくまで私が考える1例です」と断った後に、テキスト入力に代わるコマンド方式、など、アドベンチャーゲームは進化するにあたって切り捨てた可能性がある。しかし、現在の技術で考えてみると、新しい解決方法も見えてくる。テキスト入力のネックだった、キーボードへの忌避感も今は薄れているし、言葉に対する反応や、プログラム的積み重ねもテクニックが蓄積されている。もう少し面白いアドベンチャーゲームという方法も、できるのではないか。

 会場にはモバイル&ゲームスタジオの遠藤雅伸も受講者の一人として加わっていて、芝村氏に「選択肢を常に与えなくてはいけないゲームの『枷』、これがなくてはゲームたり得ないのか」、という質問が寄せられた。芝村氏は、「質問に答えなくても一定時間で進むようなシステムが現在あるが、ここに更に進化する余地があるのではないか」と語る。うまく選択できないからゲームオーバーではなく、これによる話の展開の面白さを、更に技術的にできるのではないか。

 「近くに『ホームズ君』というNPCがいて、プレーヤーは謎解きを彼に頼ることも、全部自分で調べて、ホームズ君をワトソンのように助手や聞き役として扱うことも、ゲームではできると思います。しかし、作業量、プレイ時間の短さといった問題もあります。犯罪のトリックを自動生成するような技術の導入など、対処する方法はあると思います」。芝村氏は「ガンパレードマーチ」など、ユニークなゲームを作り、多くのファンを獲得しているクリエーターだ。彼の技術とシステムへの探求心が、どんな作品を生み出すか期待したい。

芝村裕吏氏が分析するアドベンチャーゲームの手法。次の作品で、彼の思いはどのように昇華するのだろうか

【コンシューマ市場とアドベンチャーゲーム】
キャビアでプロデューサーを務める牧野隆氏は、「コンシューマ市場とアドベンチャーゲーム」として、現在も“安易に”制作されているキャラクタ性を前面に出したアドベンチャー作品について、日本市場に特化した、「ヲタク文化」に注力したコンテンツと分析する。特に美少女ゲームのコンシューマ化は、制作費を抑えられ、ユーザーに共感を得やすく、ある程度成績を見込めるタイトルというわけだ。
 牧野氏はフルボイスやアニメーションだけでなく、DSのタッチペンによる、「ちょっとした介入」で、移植ものタイトルやキャラクタゲームも、新しいゲーム性を獲得し、更にユーザーの想像を掻き立てるような方向性もあるのではないかと語った。

【ひぐらしのなくビジネス論】
アルケミスト代表取締役の浦野重信氏は、読むだけだった同人ソフト「ひぐらしのなく頃に」をコンシューマゲームにするにあたり、選択肢を与え、ゲーム性を付与した。同人ソフトということで販売側の理解が得られず、苦労したと語る。
 「ひぐらしのなく頃に」はアニメ化、コミックス化などビジネス的な成功をおさめるが、これは同人ソフトを強く指示したコアなファン層、そしてある程度原作に自由度を持たせ、アニメ化、ゲーム化、コミックス化に理解を示してくれた原作者の「心の広さ」が大きい、という。

【オーソドックスなアドベンチャースタイル
におけるゲーム構築と挑戦】
キャビアでプロデューサーを務める原田真幸氏は、誰一人としてギャルゲーをプレイしておらず、理解もテクニックもない状況で「e'tude prologue ~揺れ動く心のかたち~」を作ったエピソードを披露。「ドラマ」という共通認識をキーワードに「ユーザーがここを求めてくれるのか」という不安を持ちながらも、「男女視点」という新機軸を盛り込みながらゲーむを制作していった。
 ここで得た経験が「こだわり」の重要性。オーソドックスなスタイルの中にも、システムやストーリー、演出などに細かくこだわっていくことでユーザーの共感が得られる。その手法は、原田氏が手がける他の作品にも活かされているという。

□CESAのホームページ
http://www.cesa.or.jp/
□「CEDEC 2007」の公式ページ
http://cedec.cesa.or.jp/

(2007年9月29日)

[Reported by 勝田哲也]



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