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会場:東京大学
この2つのセッションで扱われる「アニメーション」は、バンダイナムコゲームスにおける3Dアニメーションへの取り組み」同様、キャラクタのモーションから、ムービーシーン全般まで昨今のゲームでは特に注力されている、グラフィックス表現全般を指す。3Dモデルにいかに自然な動きをさせていくかは、多くの開発者が模索しているテーマだ。2つのセッションでは、「現場」の様々な意見が話し合われた。
■ よりリアルな、「本物」が求められる次世代の表現。「本物の役者でなければリアルなシーンは作れない」
ギャビン氏はメガドライブやスーパーファミコン時代からイギリスでゲーム制作に参加していて、「The Getaway」のアニメーションを手がけた。2003年からは日本で仕事をしていて、現在は「SIREN」チームに所属している。流暢に日本語を話すクリエーターだ。 岩田氏は山路氏曰く、「'98年頃に日本で一番モーションキャプチャーをしていた人物」。山路氏とは「シェンムー」で一緒に仕事をしており、現在もモーションを中心にセガのタイトルに関わっている。ルーク氏はHAVOKの実際の使用に関して、クリエーター達のサポートをしているという。 最初に出されたのは、「PS3も登場している今の時期に、“次”とはなんだろう」というテーマだ。ハードが進化していくことで、グラフィックス表現が上がり、キャラクタを更にリアルに表現できるようになった。ゲームにおけるアニメーターの仕事量はどんどん増大していく。「次世代機」という進化をし続けていくが、表現が上がっていくと結局ハードの性能が不足になり、更なる新世代期を待ち望むようになる。 ギャビン氏は「メガドライブの時は半年くらい、5人くらいでゲームを作っていました。グラフィッカーは2人くらい。PSやサターンからグラフィックスが3Dになり、キャラクタをよりリアル表現できるようになりましたが、メモリ不足に悩まされました。PS2になり、グラフィックスは格段に進歩し、メモリも増えましたが、光の表現や顔の表情の変化など表現できることも増えて、結局メモリは足りないままです。 PS3、Xbox360になってメモリはものすごく増えましたが、髪の動き、服の動き、筋肉の表現……結局メモリは足りないんですよね」と、語った。ギャビン氏の言葉に、会場からは同意の意味を込めた笑いが起こった。ゲームでのチーム内でのメモリの取り合いは、開発チームが常に直面している課題だという。 モーションキャプチャをテーマにした課題では、岩田氏が現在の状況を語った。「モーションキャプチャーはゲームやセールスの時期から逆算されて決まるので、重要性はタイトルによって変わるのですが、PS3などの場合は、表現力が上がったため不自然さが際立つようになってしまった。モーションデザイナーに負荷がかかるようになっていますね」。 ここで「GENJI」のモーション撮影風景が流された。「GENJI-神威奏乱-」では、カメラやキャラクタの立ち位置、台詞回しなどすべてを絵コンテを切り、実際の映画を撮影しているかのような手法でモーションを撮影する。キャプチャ機器の仕掛けられたステージで、役者はセンサーをつけているが、ゲーム内と同じような大きな武器を振りかぶるなど、実写に近い雰囲気でモーションデータが収録されている。 この映像を見ながら、ギャビン氏は「モーションキャプチャーは本物の役者を使わないとダメだ」と語る。アクターも専門家でなくては、リアルなデータは取れない。欧米では、本物のアクターを使っている。さらにモーションキャプチャーと同時に「声」も収録する。ムービーシーンでは、実際の演技がそのままゲーム内で再現されるような手法を採っている。 一方で日本のモーションアクターをギャビン氏は絶賛する。特にJAC(ジャパンアクションクラブ)などの、日本のスタントマン(アクション俳優)が作るモーションが素晴らしいという。海外でもアクションはスタントマンを使うが、その中でも日本のスタントマンはぬきんでている。ただし、特撮モノなどの経験が多いためか、日本のスタントマンは「決めポーズ」をとる傾向があり、少し「固い」というところもあるという。 岩田氏は、センサーをつけた光学式のモーションキャプチャではなく、画像処理を使って、布の動きなどもデータとして取り出せるような「次世代のモーションキャプチャ」の登場を待っているのだが、現在はまだ実用化までには至ってないと語った。 また、コミカルなキャラとリアルなキャラが画面に出る所などは、役者にきちんとシーンを把握してもらうのが大変だ、というような苦労話も披露した。声に関しては、日本のアクターは基本的に演技中収録するが、後で声優が別に当てる。これはアニメーションの技術の蓄積がある日本ならではで、役者の息つぎにも合わせた声優のテクニックにいつも現場で驚かされるという。 HAVOKの技術導入に関しては、やはり何ができるか、日本ではそのメリットの検討が充分でないところが問題となっているようだ。ムーア氏は「PS3の開発キットにはHAVOKのエンジンが組み込まれている。Xbox360やWiiソフトに関しても、相談してくれればサポートする」とアピールした。
今回はキャプチャーが話題の中心となってしまったため、コンピュータ内で開発が望んだ状況を作り上げ、シミュレーションをデータとして「収録」し、ゲーム内で使うという実例が紹介されなかったのは残念なところだ。船の沈没や惑星の崩壊など、現実には収録不可能な状況がゲームでは頻繁に出てくる。こちらのテクニックに関しての現場の話なども、今後聞いてみたいところだ。
■ 様々な開発会社の現状が語られた、ラウンドテーブル。開発者の最大の関心は「自分と社内のスキルアップ」
テーブルには20人ほどの座席が用意されていたが、30人以上の希望者が集まり、立って受講する人も多かった。集まった受講者の多くは実際にゲーム会社でモーションやアニメーションを担当する開発者であり、「現場」の情報交換に対する強い熱意が伺えた。金久保氏と柴田氏は社内でアンケートを取った質問を元に議題を作成し、更に積極的に社内の現状を紹介することで、参加者達により突っ込んだ話をしやすいような空気を作っていた。 アンケートを取って今回の議題は「スキルアップ」と、「3Dアニメーターの実情」となった。現場からとったアンケートには様々な疑問が書いてあり、それぞれ聞いてみたいものばかりだったが、受講者の多くがやはり「よりテクニックを学ぶには」という欲求を持っていると感じさせられた。金久保氏が提示したのは、「社内でのアニメーターの教育について」。バンダイナムコゲームスでは新人用にボーン(骨格)の動きや、基本的な人物の動作についての資料が作られている。 受講者からはそれぞれの会社の例が出された。多くは「社内教育は行なっているが体系化した資料がない」、「どうしても感覚中心の伝え方で、実際に体を動かしてみて伝えるが、そこに対して“鈍い”人もいて、共感を得るのが難しい」、「トレーナーが2人いる場合教えることが食い違ってしまう」といった、問題点を指摘する人が多かった。中には、「格闘技のモーションなどはビデオなどもたくさん見させられるが、実際殴られてみて、痛みもモーションの表現に活かす」といった、ちょっとびっくりさせられるような意見もあった。 「資料は、業務の範囲で作ったのか? 自分の会社ではそんな時間が取れない」という意見もあった。バンダイナムコゲームスは業務で新人用の資料を作っているという。そういったカリキュラムを持っていない会社も多いようだ。「とにかくまずデッサン、それから誇張表現。とにかく動きを見ていく」という基礎的なことを教え込み、共有していくことが大事だという意見も出た。柴田氏は、「体の骨格を服の上からテープを貼って見られるようにして、実際に歩いて骨の線を確認するビデオを撮る人もいた」というエピソードを披露した。 どんな資料があるか? という話も議題に上がった。「国内では、ディズニーの本しか結局アニメーションに関して書かれているものがなかった」という意見に、専門学校に向けて3Dアニメーションの教科書を作っているという人も、「ディズニーの本を使って、用語もそのままで教科書を作った」と語った。「先輩の中には、この人はテクニックを本にすれば売れると思う、という人がいるんですけどね」という柴田氏の言葉に頷く受講者も多かった。 「モーションを制作するのにどのくらい期間がかかるか」というのも現場の人には重要な問題だ。「1つの技に1日くらい、投げだと2~3日、1週間かかる場合もある」というのが大体の意見だった。柴田氏はどうしてもOKが出ず、数ヶ月も悩んだ技もあったという。「その凝ったモーションが、本当にゲームの価値に必要なのか、ゲーム性において無駄にならないか、それも考えなくてはいけない」という意見も出た。 最後に話題になったのは、「この仕事は何年続けられるか」という問題。駆け出しの若いクリエーターから、ベテランまで様々な人にマイクが回されたが、ほとんどの人が「体が動くまで」という答えだった。明確なビジョンを持つと言うよりも、とにかく今の仕事に全力を、という姿勢は、共感させられるところもあった。 全体として自分から意見を言う人は少なく、金久保氏、柴田氏は自分たちの例を出したり、同じバンダイナムコゲームスのスタッフに話を振ったり、マイクをとにかく渡してみたりと、議論ができる場を作るために努力をしていた。現場にいる人達はやはり何らかの想いは持っている。確かに積極的に話す人は少なかったが、マイクを渡されれば話すことはきちんとあり、彼等の言葉を自分の立場に置き換え、受講者は様々なことを考えていると感じた。 金久保氏とセッション終了後話をしてみると、「GDCでは歩いているだけで『君もアニメーションやってるのか!』と話しかけてくれる人は多い。GDCの様な活発な議論ができるように努力してみましたが、やはりもう少しでしたかね」と語った。筆者は個人的には、おずおずと手を挙げ、出た意見にはにかみながら空気を共有するような、こういうラウンジテーブルは日本の開発者らしいのではないか、とも思えた。意見を積極的に言い合うのではなく、マイクを向けられて話すからこそ共感できる。司会は大変だが、同じテーマを求めている「連帯感」の様な雰囲気を確かに感じることができた。 「会社が違うが同じような仕事をしている人」が意見を言い合えるような今回の集まりは、議論が活発にならなかったとしても、とても有意義だったと思う。テーマを追い求めている以上、社内や、知人だけでは相談できない部分も出てくる。他の会社の状況も知りたいし、自分の環境を改善するヒントも欲しい。積極的な人達は繋がりを持ち、飲み会なども開いているが、そういった繋がりを作るにはチャンスが少なすぎるし、何よりも業務に追われている人がほとんどだろう。
GDC、CEDECに限らず、会社の枠を越え、かつ気軽に参加できる「開発者の集い」といったような場はもっともっと必要ではないか、という感想を強く持った。また、資料に関しての話は、出版関係者の1人として考えさせられた。日本は世界でもトップに立つ「ゲームの国」でありながら、ゲーム作りに関する本や、開発者の資料になるべき書籍はまだ少ない。ゲーム産業に貢献するためにどう働きかけていくかは、自分もできることがまだまだあると改めて気付かされた。
□CESAのホームページ (2007年9月29日) [Reported by 勝田哲也] また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
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