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会場:東京大学
このカンファレンスのトップバッターとして26日朝、セガ代表取締役副社長の小口久雄氏が基調講演を行なった。小口氏はセガから分社したヒットメーカーの社長を務め、その後ヒットメーカーがセガに統合されると同時にセガの代表取締役社長に就任。長く経営に携わっていただけに、今回はビジネスよりの話になるのかと思いきや、面白いゲームを作るコツを語るという、開発者に真正面から語りかける内容となった。
■ 衣食住に「遊」を足す
小口氏はまず、「遊ぶ」という言葉の意味を考えるところから話を始めた。人間が生きていくために必要なものとして、まず思い浮かぶのは、衣食住であるが、小口氏はこれを「衣遊食住」にしたいと述べた。遊びというものの重要性については、刑務所を例に説明。「ここでは衣食住は与えられるが、楽しさを奪われる。楽しさを奪われるというのは、相当な刑罰だ」と語った。
ここで小口氏は、「遊ぶ」という言葉を辞書で調べた内容を見せた。この中で、「勉強せずに楽しむ」というものと、「離れた土地に行って勉学する」が並んで書かれていることを示した。また「play」という英語を調べた内容も見せ、こちらはあらゆる楽しいことが書いてあることを示した。この例から、「遊びの本質には快感があり、その意味が何であるかは定義できない。楽しければ何をやっても遊びであり、楽しいと思うことこそが遊びである」と述べた。 ただ、この「楽しさ」というものは実に流動的なものだという。たとえば、空腹時の食べ物は幸せであり楽しさなのだが、満腹になってなお食べ物を出されるのは、逆に苦痛となる。またゲームを例にして、「パックマン」が面白いのは、だんだん動きが早くなるという変化があるためだとし、「変化がないことは苦痛になる。人間には1つの楽しさに慣れる、飽きるという本質がある」と説明した。なお「パックマン」については、「操作が追いつかなくなるほど動きが早くなると、これもまた苦痛になる」とも述べた。
このほか、日本の自殺率が先進国では群を抜いて高いことを例に上げ、「日本ではなぜ『衣食住』に『遊』が入らないのか。自殺率が高いのは、快感に触れるチャンスがないと感じているから。楽しいことに触れれば絶望しない」と、遊びの重要性を説いた。続けて、「安倍前総理が『美しい国』を掲げていたが、私は日本を『楽しい国』にしたほうがいいと思う」と語った。
■ 「欲求」の整理・分析から面白いゲームを考える 「遊ぶ」ことの重要性を一通り説明した後、今度は「楽しいビデオゲームはどう創るか」をテーマに話題が展開された。ここでのキーワードは「欲求」。「楽しいゲームは欲求が満たされるもの。作業になるゲームはクソゲーといわれる」と語った。
「欲求」について小口氏は、「生理的・本能的な欲求」、「主に身体内部の情報に基づいた欲求」、「主に体の外部からの情報に基づいた欲求」、「心理・社会的な欲求」の4つに分類。このうち、生命維持や子孫を残すために必要な「生理的・本能的な欲求」と、呼吸や食欲といった「主に身体内部の情報に基づいた欲求」はゲームでは満たせないので省きつつ、残り2つをゲームに取り込むことが重要であると語った。
実際のゲームの例としては「ポケットモンスター」を挙げ、モンスターを捕まえる「獲得」と戦いにある「逃避」と「闘争」を核に、モンスターの「保存」や「秩序」、「保持」、「構成」といったさまざまな欲求がバランスよく含まれ、さまざまな快感に結びついているとした。 しかし小口氏は「逃避」と「闘争」について、「本能だから面白い、安全パイ。だがこれらがなくてもゲームはできる」とも述べた。例えば「どうぶつの森」は「親和」や「獲得」、「脳を鍛える大人のDSトレーニング」は「求知」や「解明」、「倉庫版」は「秩序」といった欲求を満たすことで、「逃避」や「闘争」なしで楽しさを生み出しているとした。
これらのことから導き出されるゲームの企画を考えるときのコツとして、「『闘争』や『逃避』を外して考えれば、ユニークなゲームができる。どんな欲求を満たすか決め打ちしてもいい。あるいは企画を考えた後で、それがどんな欲求を満たすゲームなのかを整理するといいのではないか」と語った。
■ ゲーム創りは世の中の役に立つ仕事
小口氏は最後に来場した開発者に向け、「我々がやっている仕事は、世の中の役に立って、平和な世界を作るもの。私自身、それを願って二十数年仕事を続けているし、皆さんも同じだと思っている。この業界がますます発展して、遊びを作る皆さん自身も楽しい人生を送れることを願っている」とメッセージを送り、講演を締めくくった。
(2007年9月26日) [Reported by 石田賀津男]
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