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エヌ・シー・ジャパン ネットカフェチームヘッドマネージャー前田幸佑氏インタビュー
ネットカフェビジネスの第一人者に、日本市場のトレンドを聞く

8月6日収録

会場:エヌ・シー・ジャパン本社ビル

 エヌ・シー・ジャパンは、大阪難波のネットカフェ@WAN(アットワン)にて、3年連続となる「リネージュ II」の大規模オフラインイベント「リネージュ II フェスタ」を開催した。

 2005年の福岡、2006年の東京、そして今年は大阪と、同社のオフラインイベントは、毎年開催都市が変わるところに大きな特色があるが、ネットカフェで開催するという基本方針は一度も揺らいでいない。このネットカフェ開催については、特に昨年のネッカ秋葉原店で開催された第2回あたりから、会場のホスピタリティやキャパシティなどの点でユーザーからの批判もある。それでもあえてイベント会場としてネットカフェに固執する理由は、それが韓国メーカーであるエヌ・シー・ジャパンの原点であり、もっとも強みを発揮できるホームグラウンドだからだ。

 同社は、日本市場でもっとも早い段階からネットカフェ展開に乗り出し、以来、ネットカフェでの売り上げのトップシェアを維持し続けている。そのシェアは、横断的な統計データがない現状では正確なところはメーカーしか知り得ないが、公称では約4割と言われている。しかも、テクノブラッドやMK-Styleのような大手代理店を通さず、独自展開を維持し続けているところが大きな強みとなっている。

 そういう意味では、ネットカフェはNCJの牙城といっても過言ではないが、お隣韓国では、すでに昨年あたりからこの牙城が揺らぎ気味なのに比べると、日本での堅調ぶりはまさに驚異的だ。今回は、「リネージュ II フェスタ」の責任者であり、同社のネットカフェビジネスのヘッドマネージャーを務める前田幸佑氏に、同社のネットカフェ事業の強さの秘訣と、最新のネットカフェビジネストレンドを伺った。


■ 「リネージュII フェスタ」大阪開催の理由について

エヌ・シー・ジャパン ネットカフェチームヘッドマネージャー前田幸佑氏
同社の入り口には、過去に実施してきたオフラインイベントの写真が飾られ、オフラインイベントを重視するメーカーであることを伺わせる。前田氏が手がけたものも多い
編: 本日はネットカフェ事業についていろいろ勉強させていただきたいと考えているんですが、まず、「リネージュII」3周年を記念して開催される「リネージュIIフェスタ」の企画意図について教えてください。

前田氏: 今回ネットカフェでのイベントにした意図としましては、大きな会場を使って一般的なオフラインイベントをやることも可能だったんですけれども、やはり私達としてはずっとネットカフェでイベントをやってきていますので、夏の風物詩としてネットカフェでやろうと考えました。

 ただし、ネットカフェは東京だけとは限りませんので、今回は大阪でやってみました。その背景としましては、私たちはこれまでネットカフェ事業者を重視してきておりまして、事業者さんの「リネージュII」の販売コンテストなどを裏で回して、全国で2,200店舗ほどある公認店舗の中で、トップで稼動しましたのが大阪・灘波の@WAN(アットワン)というネットカフェでした。ですので今回はこちらを会場として選定させていただきました。

編: @WANが、「リネージュII」稼働率全国ナンバーワンの理由は何ですか?

前田氏: そうですね。まず大阪という土地柄が考えられます。東京では多様な属性のお客様が混在しているというのもありますし、他のゲームメーカーさんの目がいきわたっているということもありまして、一定以上のシェアを確保するのが結構難しかったりするんです。そこで私たちは4、5年前から地方を重要視して足で稼いできましたので、そこが実ったのかなと思います。結果的に日本第2の都市である大阪、その中でも灘波にあるネットカフェがよく稼動しているという状況です。

編: ネットカフェは地方が強いということはよく聞く話ですが、実際のところ大阪が一番強いのでしょうか。

前田氏: ここ数年そのような傾向が出ていますね、もちろんネットカフェ自体は東京、大阪、福岡といった大都市圏では盛り上がっています。その中でも私達がやってきました差別化戦略がようやく実ってきたかなというところです。

編: 大阪は地方ではなく、大都市だと思いますが、大阪で高いシェアを確保した背景には、重点的に営業をかけるといった努力があったんですか?

前田氏: 地方にも十分に目を向けサービスの拡充を行なってきましたが、その中で特に跳ね返りが強かったのが大阪だったとでもいいましょうか、あとは2006年の4月に大阪に支社ができましたし、そこにネットカフェの営業担当がいます。彼らが足で稼いで営業をかけていますので、それが実っているということになります。

編: 現在のNCJさんの、ネットカフェにおけるオンラインゲームのシェアはどれくらいですか?

前田氏: これは色々な測り方があるのですが、一般的に言われているのが全体の3.5から4割ぐらいです。これはオンラインゲームの時間のシェアです。ネットカフェで稼動しているオンラインゲームの時間のうち、3.5から4割が「リネージュII」で占められているということになります。

編: 2番手3番手については、どのあたりになりますか。

前田氏: 2番手は、大手オンラインゲームパブリッシャーさんのメジャータイトルですね。3番手は「リネージュ」という傾向のようです。

編: NCJさんは、ラインナップ的には限られていますが、それでもいまだにネットカフェでトップシェアを握れている理由は何だと思いますか?

前田氏: 2002年からネットカフェへの普及活動をしてきた先行者メリットもあると思うんですけれども、かつ、「リネージュII」のタイトル特性として常習性が高く、滞在時間も長いという面があります。それが積み重なってきたということだと思います。

 もちろんユーザーさんもずっと「リネージュII」だけというわけではなくて、他のカジュアルゲームなども平行してプレイするという傾向はあるんですけれども、他のMMOと平行して遊ぶというのはなかなかないみたいで、MMORPGは「リネージュII」という状態になっているようです。

編: 前田さんに聞く質問ではないかもしれませんが、なぜ「リネージュII」だと思いますか?

前田氏: まずは商品力でしょうね。あとは時期。ネットカフェへの普及が早かったのが「リネージュ」です。それも運が良かったと思いますけれど、「リネージュII」ではそこに輪をかけて営業したということになります。先ほどもお話いたしましたが、地方を特に中心に回っていって、そのときはほとんど他のメーカーさんが営業されていなかったと思いますので、運がよかったのかと思いますね。

編: 最近元気がいいなと考えているメーカーさん、ライバルと考えているメーカーさんは、どのあたりがありますか。

前田氏: 突っ込んできますね(笑)。難しい質問ですが、やはり全社がライバルですよ。ウカウカしていると全部持っていかれちゃうんじゃないかなという意識でやっていますよ。

【@WAN千日前店】
@WAN千日前店の店内には、過去に獲得した賞が掲げられている。NCJでは春と夏に2回コンテストを行なっているが、夏は3連覇という偉業を達成している


■ ここ最近のネットカフェビジネスの変化。ネットカフェからの売り上げは全体で400億円規模に

韓国のように、日本にはネットカフェの全店舗を対象にしたデータは存在しないが、テクノブラッドが対象店舗から月間ランキングを発表している。7月は「リネージュ II」、「リネージュ」が1位、2位という結果になっている
編: 前田さんにインタビューするのは福岡のイベント以来2年ぶりですが、この2年間に、国内ネットカフェビジネスにはどういった変化がありましたか。

前田氏: ネットカフェの市場規模としてはここ最近成長が鈍化してきていますし、店舗数の伸びも芳しくなくなってきているという側面があります。私たちとしましては、やはりタイトルが限られていますのでしっかりと定着させていこうということで、2年間ずっと啓蒙活動をしてきているんです。

 ただ、その側面ではタイトルの選択と収集というところで、あれもこれもと導入することはできなくなっていますので、そういったところで私たちの強みをなるべく定着させようという努力をしてきました。そこが今、合致しているんじゃないかと思います。ですが、事業者さんも、市場としては新規タイトルのリリース速度が加速度的になることは当初想定していなかったと思いますので、あれもこれもと新規タイトルを導入するような状態ではないのではないかと思います。

編: なるほど。ちなみにネットカフェの市場規模は、どれくらいだと見ていますか。

前田氏: 物販などの全体的な売り上げも含めてですけれども、だいたい2,000億円くらいと言われてますね。

編: その中でいわゆる、オンラインゲームのロイヤリティとして支払われる額は?

前田氏: これも推計ですが、全体の2割程度と言われていますね。

編: 現在、日本のオンラインゲーム市場は1,000億くらいだろうというボンヤリとした数字がありますが、それでは結構な割合がネットカフェで占められているということになりますね。それは手応えとしてありますか?

前田氏: あります。

編: ではNCJさんの強みというのは、そのままネットカフェの強みというふうに言っていいわけですね。

前田氏: そうですね。これはもう、今も昔もずっと変わらず、ということになります。

編: なるほど。ちなみに私はアジア圏のネットカフェを定点観測してますけど、どんどん遊び方が変わっています。トップシェアのゲームもころころ変わっているという印象がある。ところが日本ではここ数年「リネージュII」がトップシェアを維持し続けているわけですか。

前田氏: そうですね。たとえば韓国ではFPS系ゲームが上位に上がってきてますが、日本では、インターフェイス・操作性の部分でなかなか馴染まない部分があると思っています。一般的になり、より定着化する方向なら可能性はあると思いますが、傾向としてはなかなか一般化しないですよね。

 日本では、マウスでキャラクタを操作して、アタックするときはクリックするという、単純作業が今の限界なのかなと。それがたとえばWSADといったキーボード操作は、なかなか馴染んでないのかなと思いますけれどもね。

編: しかし、韓国や台湾ではカジュアルゲームが7割、8割くらい、残りの数割を「World of Warcraft」や「リネージュII」といったMMORPGが占めていて、大勢としては完全にアクション性の高いカジュアルゲームに移ってきてます。しかし、前田さんは日本ではそうはならないのではないかと?

前田氏: 一般的にパズルゲームとかボードゲームといった単純なカジュアルゲームは、普及してきていると思いますよ。ただ「それだけ」のユーザーはなかなか増えてないんじゃないですかね。やはり何かしらMMORPGに所属しているユーザーが、暇つぶしにやっているという傾向になります。ですので、カジュアルゲームに特化したメーカーさんなどは、新規ユーザーの獲得で悩んでいらっしゃるんじゃないかなと思いますね。

編: なるほど。では、仮にですが、NCJさんがカジュアルゲームをネットカフェで展開する場合、何から手を付けていきますか?

前田氏: まずは、ネットカフェ事業者様との連動と既存タイトルとの連動を図っていきたいですね。

編: メーカーと事業者の連動は、韓国でごく普通に行なわれていますよね。ネットカフェでのみ買えるアイテムですとか。

前田氏: ありますね。私たちが独自に4、5年前からやっている独自のビリングシステムと絡めて、そういう動きはやっていきたい。一般的には「IPスルーシステム」と呼ばれていますが、これならどこから誰がどのようなプロフィールで接続しているかというのを全部情報が取れますので、そことのインタラクティブ性を図り、そこで特典を設けていきたいなと思っています。

 在宅でやっても面白いんだけれども、ネットカフェでやるとさらに面白いという。そこで、カジュアルゲームにしてもネットカフェでプレイするというシーンを作って、プレイするユーザーをデモにしてどんどん新規を開拓していったり。またコミュニティを強化していって、新規を巻き込んでいくということが必要なんじゃないかと思います。

編: 今お話に出てきました「IPスルーシステム」についてですが、韓国や台湾では昔からそうでしたが、日本ではようやく最近になってIPスルーが全社的に普及してきた印象があります。日本だけ普及が遅れた理由は何だと思いますか。

前田氏: NCJとしては前からやっていましたよね。他社さんについては、非常に難しいのですけれども、BtoBのビジネスとして、だいたいの理解として“IPスルー=従量課金”という形に結びついていたんです。それで、IPスルーがとれない店舗では定量課金と言う形で大きく2分されていたんですね。

 従量課金の場合、ネットカフェ事業者様の売り上げは、オンラインゲームに接続する時間とイコールになります。私たちのゲームの稼動時間がブレークイーブンラインを越えた場合は、店の収入も大きいんですけれど支出も大きくなるという。ただ、定量制であればそれ以上繋がれてもネットカフェ側の支出は増えないということになります。コンテンツがどれだけ稼動するかという予測が立て辛かった時期というのは、やはり定量課金というのがネットカフェ側のビジネスとして安全だったんですね。

編: そういう意味では、ネットカフェ事業者さんも、オンラインゲームを理解し、いよいよオンラインゲーム事業に本腰をいれてきたと言えるわけでしょうか。

前田氏: そうですね、おっしゃるとおりです。

編: 7月に上海に行ってきたばかりなんですけれども、現地のネットカフェではほとんどのお客さんがゲームをやっていないことに驚きました。その昔アジア圏でネットカフェといえばゲームセンターのような状態でしたが、今はストリーミング映像をひたすら見ているんですよね。日本ではそういった質的な変化を感じは何か感じていますか。7

前田氏: いまは特に変化というのは感じていませんが、これから出てくると思いますよ。ゲームだけではなくて、ブログや、個人製作の動画などのユーザージェネレーテッドコンテンツ(UGC)などもあると思います。

 要するに、現在ネットカフェはゲームポータルというくくりのひとつになっていますけれども、将来的にはゲームだけでなく色々なアミューズメントのポータルという形に進化しつつあるんじゃないかなと。そういったUGC的なものを他社さんも導入してくるんじゃないかなと思いますけれどもね。


■ 地方がネットカフェが強い理由は「人情」

大阪が強い理由は“人情”ではないかという前田氏。やはり最終的には店とユーザーとのコミュニケーションの深さということなのかもしれない
編: そうした2年間の中で、NCJは具体的にどのような取り組みを行なってきたのですか?

前田氏: とにかく私達としては、ユーザー定着化を図っていくという基本線は変わっていません。それはつまりアカウントであり、確固たるアカウントをネットカフェにおけるNCJ会員のネットカフェ事業者さんという形で定着させつつ、「リネージュ」だけではなく違う属性のゲームをご提供するなどの形で、私たちのNC会員のアカウントのロイヤリティを上げていく準備を、この2年間やってきました。これからはタイトルを増やしたりポータル化をして、いろんな遊びの要素や、UGC、幅広いツール類なども開放しながら、広げていけるんじゃないかなと考えています。

編: ネットカフェ事業者が、「リネージュII」あるいはNCさんと組むメリットはどのあたりにあるんでしょう?

前田氏: ネットカフェ事業者さんとのBtoBのフェーズとしては、様々な動機でネットカフェを利用をしに来たお客さんに対して、ゲームに誘導していって、滞在時間を延ばして事業者さんの利益につなげていく。また在宅のユーザーさんに対してもネットカフェへの誘導を図り、ネットカフェ事業者さんの売り上げを伸ばしていくわけです。

 ユーザーさんとのフェーズで言うと、ネットカフェに足を運ぶことによって、ゲーム内で利益を得られるような仕組みを提示するわけです。貢献度がそのままゲーム内に反映されるようなスクリプトも組んでいますので、そういったもので私達は事業者さんにもユーザーさんにもメリットを与えていると考えています。

 最近マインドが変わってきていると思うのは、ネットカフェでのゲームユーザーに対する環境が凄く整備されてきたことです。あとはスタッフさんがお客さんを巻き込んで、お店としてのコミュニティを作ってゲーム内に参加しているという例もあります。それで友達を増やしたりとか、ゲームをレクチャーして楽しみを深めていくということができています。

編: しかし、都内だけを見ても、Necca秋葉原さんですとかバトルトップさんですとか、ゲームに特化したネットカフェがいくつか閉店するというケースが出てきていますよね。これは何故だと思いますか?

前田氏: 非常に難しいご質問ですね。一概には言えないんですけれども、東京都内というのは娯楽の選択肢が多いというのも、ひとつの要因なのではないかと思います。

 そういった中で、色々な商材や選択肢を用意できるネットカフェは強かったりするんですが、ゲーム特化となるとコミックもありませんし、メールチェックするような雰囲気でもありませんよね。ですからゲームをやらない人は最初から入りませんので、きっかけ作りといった面では相当難しいのではないかと思いますね。

 でも、地方に行くとゲームに特化したネットカフェがものすごく稼動している。複合カフェというのは色々選択肢がある反面、ある意味での自由度を狭めているので、ゲームに特化したほうが強いという側面もあります。しかし東京の傾向としては、娯楽が溢れすぎている中で限られた選択肢というビジネスというのは難しいのでしょう。

 また、東京は秋葉や渋谷など街によってユーザーの属性が全然違うという特性があります。私の印象ですけれども、たとえば「リネージュ」の稼動でいうと、20代から30代のサラリーマンの方が多いという傾向があって、都内では池袋などの交通の要衝が強かったりという傾向があるんです。逆に渋谷などですと、いわゆる若者もサラリーマン的な人たちも融合した他民族な感じで、逆にタイトルが伸び悩んでいたりという傾向がありますし、秋葉はまた別ですよね。

編: そうなると疑問なのは、大阪もまた東京に並ぶ大都市で、娯楽も沢山あるわけです。前田さんの理屈でいうと大阪も難しいのではないかと思うんですけれども、東京に比べて大阪や福岡といった都市を見るとそうじゃないですよね。このからくりは何だと思いますか?

前田氏: 東京と大阪というのは全く同じではないと思うんですね。たとえば、大阪の灘波などは東京と変わらないくらい娯楽もありますけれども、やはり「人情」といいますか、大阪の場合、地元同士の繋がり合いがあるのか、スタッフとお客さんがよりうまく付き合えているところも多いですよね。まさにオンラインゲームのように、共通点があるところに喜びがあり、そこからいわゆる「人情」が生まれるという流れもあるかもしれません。

編: 人情ですか。

前田氏: そのようなものですかね。今回のイベントの会場となります店舗ですが、結構面積も大きいですし、利用者の方も多いんですけれど、常連さんがとても多いと聞きます。そこもひとつの要素なのではないかと思いますね。

編: そういう意味では東京という街自体が特殊なのかもしれませんね。たとえばソウルや台北には、きれいで大きなネットカフェがあって繁盛しています。ところが日本の場合、そのような店舗は東京ではなく、その他の地方に点在している。

前田氏: わかります。ソウルのネットカフェですと、土曜日など昼過ぎになるとゾロゾロと小さい子達が遊びに来るんですよ。それを、店主がお菓子を与えたりしながら慰労しているんですね(笑)。そして一緒に「今日はどうだ」とかゲームの話をしているんです。これはなかなか東京のネットカフェでは見られない光景で、そういう人情みたいなものがある。大阪もまたその傾向が強いですから、結構、大阪と韓国は属性として近いものを持っているんじゃないかと、私はそういう風に見ています。

編: なるほど。人情というキーワードは面白いですね。

前田氏: 地方の場合、たとえば店主が「リネージュ」の血盟などを作って、お客さんと一緒にやっていたりするんです。韓国では、昔のインベーダーゲーム現象のように店単位でコミュニティを作っていたわけじゃないですか。ああいうのっていうのは、東京ではなかなか見れないですよね。大阪とか九州とか、あちらのほうに行けば見れることもありますけれども。

編: 東京は、アーケードメーカーの直営店舗も多く、ネットワークゲームやカード系のゲームでアーケード市場が再活性化しつつある中で、既存のネットカフェの客がゲームセンターに取られているのかな、とも思ったんですが。

前田氏: アーケードの市場規模というのは状況として伸び悩んでいますね。カード型のゲームの普及が進んでいるという傾向はあると思いますけれども、全体として人口が増えているという情報は聞いておりませんね。

編: ここ数年の流れとして、オンラインサービスやアーケードに特化したコンテンツ開発など、コンシューマ市場とは一線を画す形で、アーケード業界の質的再編が起こりつつありますよね。それと少し関連しているのかなと。

前田氏: おっしゃる通りですね。それは確かに関連しているかもしれません。当初はネットカフェの市場規模というのも、年々増えていくという傾向で計算されていた時期があったわけなんですけれども、それが一気に伸び悩む時期に入っているという事実もあります。

 私が2、3年前に考えていたことなのですが、ここ5年間のうちに、ネットカフェの市場規模というのは必ず伸びどまりになって、特に都内ですが、他のアミューズメント施設との食い合いが起こるだろうと思っていたことは確かにあります。そこでやはり出てきたのはゲームセンターということになりますね。

 ですので、一般的なネットカフェは時間制を取っていて、リクライニングがあったりゲームがあったりという形がありますが、ここ最近は形を代えながら複合カフェという方向で色んなアミューズメント、ビリヤードやゴルフでも、またゲームセンターも含めてひとつになっちゃうんじゃないかと。そういう風には感じています。特に都内では確かにそういう傾向が出てきていますね。

編: そういう意味では、東京は、日本のちょっとした「未来の姿」が見えているのではと?

前田氏: かもしれないですね。ただし、現在の東京のスタイルが必ず地方にも反映されるという話にはならないと思います。やはり土地土地によって特徴は出ると思います。


■ ネットカフェでオンラインゲームの決済が可能になる!?

@WANのオープン席は、ハイエンドPCが並ぶゲーマーのためのゾーン。ボックス以外のさまざまなタイプの座席があるのがユニークだ
編: ネットカフェ市場が伸び悩んでいるという話ですが、その理由は何だと思いますか?

前田氏: たとえば都内ではもうそんなに作れませんからね。これまで都内では年に40から60店舗くらい増えてきたんですけれども、それが今完全に止まっている状況です。一時期は年に100店舗増ですとか、そういった時期もあったと思いますけれども、現在では本当に40以下ですとか、そういう数字になってきていると思います。

編: なるほど。ただ、日本のオンラインゲーム市場そのものは、まだまだ伸びしろがあって、安定成長が見込めるというのが業界の共通認識になっていますよね。

前田氏: はい。ネットカフェの店舗数が伸び止まるとは言っても、ネットカフェにおけるオンラインゲームの市場規模も伸び止まるかというと、私はそうは思いません。確かに箱の数は限られてくるのかもしれませんけれども、ネットカフェの事業者側にしてもビジネスの形態はどんどん多様化しています。多分、オンラインゲームの提供を、PCに接続してお客さんにプレイしてもらうだけでは無くなってくると考えているんです。

 たとえば今進んでいるのが、ネットカフェ事業者がオンラインゲーム会費の決済代行をしたり、物販を行なうといったアプローチです。そうなると、たとえばネットカフェ特典といったものにシステム上のものを絡めていきますと、今度は在宅のユーザーさんが、お店でプレイはしなくても、ゲームの決済をしに来るという時代が来ると思います。

編: それはNCJさんの取り組みというわけでなく、あくまでもネットカフェ事業者さんの取り組みとして?

前田氏: ええ。ただ、おそらくオンラインゲームメーカーとしてもそういうトレンドになってくると思います。

編: 市場規模が伸び悩む中での、NCJ独自の工夫みたいなものはありますか。

前田氏: 既に実行していることですが、「プラチナネットカフェ」という企画を今動かしています。それは何かというと、今2,200店舗くらい「リネージュ」の対応店舗がありますが、その中でさらにワンランク上のサービスを提供できる店舗を募るという企画です。

編: ワンランク上と言いますと?

前田氏: たとえば、アップデートが行き渡っている。ハイスペックなPCで提供できる。スタッフが「リネージュ」のことについて何かしら教えることができる、といった条件を満たした業者さんです。

 具体的には「アイテムゲットキャンペーン」では、普通の枠に加えて、別途プラチナの枠も設けて、プラチナの店舗でプレイするとさらにプラスアルファが付いていくるわけです。そういうものがIPスルーのシステムと連動してできますので、今後も引き続きチャレンジしていきたいですね。そういったことを通じてネットカフェ全体の競争を煽ることで、ネットカフェ全体のオンラインゲームのレベルも底上げできるのではないかと思っております。

編: ターゲットとなるユーザーさんは、在宅、ネットカフェ、新規と大別して3つのセグメントにわかれていますが、そのどこに最力していますか?

前田氏: 私は主にネットカフェの担当ですのでネットカフェのユーザーさんに注力しておりますが、ネットカフェにおける新規ユーザーさんもいらっしゃいますのでこちらも重要視しております。また、在宅のユーザーさんにもネットカフェを知っていただきたいと思いますので、イベントやキャンペーンを張り、誘導も図ったりしています。

 自宅ではなくネットカフェではもっとお得ですよという誘導の仕方は既存ユーザーさん向けのアプローチです。ゲームのレクチャーなど新規ユーザーさん向けの動きもプラチナネットカフェなどの企画で取り組んでいます。

編: 自宅でプレイしているユーザーのネットカフェ利用率はどれくらいだと見ていますか。

前田氏: 1割2割程度だと思います。まだまだ少ないです。

編: つまり、現状はまだ、在宅ユーザーとネットカフェユーザーがわかれてますよね。それは、やはりお互いを交差させたいと。

前田氏: そうです。やはり自宅だけではつまんないじゃないですか。ネットカフェなら色んな特典もありますからね。まず快適な環境でプレイできる。課金登録を行なわずに無料で接続できますから、新規のお客様や久々にプレイしてみたくなったお客様も気軽にインしてみることができる。ネットカフェユーザー限定のゲーム内特典も用意していますし、ネットカフェというのはリアルコミュニティが作れて、攻城戦でもボス狩りでもなんでも、横で実際にお客さんとパーティを組んでプレイすることができます。

編: ネットカフェが課金不要で遊べると言っても、長時間やれば月額課金を上回る支出になるわけですが、自宅のPCで遊ばずに、ずっとネットカフェで遊ぶユーザーさんというのは、なぜそういった遊び方を選ぶのでしょう。

前田氏: コミュニティとか、そういう「情」の部分といいますか。他のお客さんとか、お店のスタッフの方たちとのつながりだと思うんですよね。

編: しかし、日本のネットカフェはプライベート性を重視してコンパートメントに区切られた形の店舗が普通になりつつありますよね。

前田氏: わかります。ネットカフェ自体もあまり良く思われていない部分もありますしね。ただ、ネットカフェが部屋を仕切ってプライバシーを重視するようになったのは、おそらく、ネットカフェのブランディングに要因があるのではないかと思います。

 ネットカフェもやはり新規ユーザーの獲得を目指すうえで、イメージアップを図りたいという意図があると思います。そこでやはり女性ユーザーということになるわけですけれども、女性はどうしてもプライバシー、個室の環境を作りたいという意識がありますので、そうしたニーズに応えたという背景もあるかと思います。

編: それは、ネットカフェにおけるリアルコミュニティの形成という観点からするとちょっと微妙な部分ですよね。

前田氏: 確かに個室化を嫌がるユーザーの方もいらっしゃいますからね。ですから、私たちがお勧めしているのは、個室は個室でやりつつ、別のフロアにはオープン席を用意したり、オンラインゲーム専用ブースを用意したりといったことです。複数のオープン席の部屋を仕切ってもいいですよね。そこでは音を出してもOKですとか。そういう形にしていただければいいなあと思いますので、事業者さんからの相談の折には、そのようなことをお伝えすることもあります。


■ ネットカフェビジネスの今後と、NCの次期戦略について

動画と音声でやりかたを教えてくれるサービス「バーチャルティーチャー」。オンラインゲームで最初に発生する躓きを回避するサービスだ
編: 最近はカプコンさんですとか、ネットカフェ展開に力を入れる大手メーカーさんも増えてきましたが、意識することはありますか。

前田氏: あります。カプコンさんはネットカフェ特典を凄く充実させてやっていると思いますし、ネットカフェ導入の時期が後になっただけに、当然過去事例を元に取捨選択をされます。それから、カプコンさんって販促物のレベルが高いんですよね。その部分ではやはりコンシューマ市場で培われたノウハウを十分にお持ちだと思いますので、そういうものがネットカフェで陳列されるようになったら、さらにネットカフェの販促物陳列のレベルが上がり、ネットカフェの印象がまた変わっていくんじゃないかという。

編: ひとつわからないのは、日本の大手メーカーでオンラインゲームを展開しているところは沢山ありますが、ネットカフェに全面投球されているメーカーさんは意外と少ない。これは何故だと思いますか?

前田氏: 難しいご質問ですね、他社さんのことですからね……。一例としては、ある国内大型MMORPGタイトルで、かなり前からネットカフェ導入を始めていた時期がありましたが、ネットカフェのPCスペックとなかなか合わなくてうまくいかなかった経緯があります。

 そのメーカーさんはトライしたいという気持ちがあったんだと思います。ただ、ネットカフェはネットカフェで先行投資が必要ですので、用意できても専用台が1台2台という。それでは露出効果もありませんし、利用率が低く閑散とした時期があったんですよ。でもそのメーカーさん的には撤退ラインの見極めが早く、「もうネットカフェはいいや」と、そういう形になったんじゃないかなと思います。

編: 「リネージュII」は、リリース時期とその当時のPCのスペックが、丁度タイミングが良かったんでしょうか。

前田氏: 良かったかもしれないですね。ただ、2004年の「リネージュII」導入期というのは、非常にストレスありましたよ。保険として1台導入というものばっかりでしたので、どうなるのかなという心配はしました。

編: ということは、スタート地点ではあまり変わらなかったわけですよね。その後の成功に繋がった要因は何だったのでしょうか。

前田氏: 難しいご質問ですけれども、私たちは韓国系の企業ですので、PC房で爆発した「リネージュ」をローカライズして、こちらでジョイントベンチャーとして展開していますので、「まずはネットカフェ」という意識があったんですよ。

 コンシューマー出身の他社さんにとっては、そういう意識は薄かったんだろうなと思いますね。ネットカフェって新規の市場ですし、例の大型MMORPGのメーカーさんは見極めが非常に早いという風に言われますので、撤退はされていませんけれども、そんなに力をかけることができないんじゃないかなと。

編: 今後のネットカフェ事業についてですが、前田さんとしては日本のネットカフェは今後どのような風景になっていくと見ていますか。

前田氏: ひとつは、先ほどお話した決済代行的なやり方があると思いますし、あとは、これはもう始まっている傾向なのですが、タイトルを絞り込んでいくのではないかという観測があります。

編: と言いますと?

前田氏: ネットカフェ業者さんが扱うタイトルを絞るということです。これはPCハードの問題もありますし、アップデート、更新の問題があります。今これがものすごく煩雑なんです。何十タイトル、何百タイトルもある中で、全部アップデートのスケジュールが違っていたりしますので、全部対応していこうとすると大変な負担になる。ですから、あれもこれもと入れることができないと思われます。

編: ユーザーさんが遊ぶ意志があっても、業者さんが絞ってしまうと?

前田氏: そうです。ある程度定着してきたタイトルを優先するという気持ちもわからないでもないです。ただ、店舗としてもお客さんひとりでもそのゲームが目的で来店されることを考えると、タイトルを絞りにくい状況ですよね。現状が複数タイトルの運営の負荷をどう軽減するかという問題もありますので、店舗の大きな悩みどころかと思います。

編: 新しいネットカフェならではのコンテンツサービスは何か考えていらっしゃいますか。

前田氏: 色々考えております。ひとつは映像デモやプロモーションムービーを流したり、といったことですね。「リネージュ」といってもポスターがおいてあったり、ポップが展示されているだけですので、数分間でも1分でもゲームの中身を見せる機会を設けたいですので、全PCで、カウンターでもどんどん流していきたいという考えがあります。

 あとは、今も進めていることになりますが、イストさんという会社と提携してやっていることがあります。「バーチャルティーチャー」というサービスで、昨年から無料サービスとしてスタートさせました。

 対応しているのは「リネージュII」だけなんですけれども、新規のアカウント作成者用に、動画でガイダンスを流すんですよ。音声もありますので、それを見ていればそのままアカウントが作れて、ゲームに参加できる、という流れをシステム化して作っているんですよ。これの普及を推進しているところです。

編: 現在の「バーチャルティーチャー」の導入店舗数は?

前田氏: 今、全体で550店舗くらいです。導入店舗では基本的に全PCで利用できます。オンラインゲームは、実際にゲームを始めるまでに色々ハードルがあると思うんですが、特にアカウント作成というのは大きな手間なんですよね。それを短時間でやっていただけるプロセスにしていきたいですね。

編: アジアではネットカフェのプレイ料金は凄く安いんですが、ユーザーが課金アイテムをドカドカ買うので、その部分のロイヤリティ収入でビジネスとしては綺麗に回っているという話も聞きます。日本でもここ数年でアイテム課金制のカジュアルゲームが激増しました。NCJさんとして今後、有料アイテムをネットカフェで販売していく、というのは考えてらっしゃるのでしょうか。

前田氏: いつでも市場の傾向は視野に入れ、慎重に検討していますので、考えていることは考えていますが、やるかどうかはノーコメントでお願いします。傾向としては、人気の定着したタイトルを除いては、従量制から完全にアイテム販売になってきていますので、そこにネットカフェ特典の専用アイテムを展開していくわけですよね。特典を設けて在宅ユーザーを誘導してくるという部分にも合致しますので、策としては非常に有効な施策だと思います。

編: それでは、今後NCJのタイトルにもアイテム販売的な部分は導入されるだろうと?

前田氏: そうですね、ノーコメントでお願いします(笑)。ビジネスとしては凄くいいと思いますし、私たちも可能性があってチャンスがあるんだったらやれないことはないかなと。やぶさかではないかなと思いますけれども。現時点でやるとは明言できません(笑)

編: なるほど、わかりました。では最後に、NCJさんのユーザーさん、それから新規のユーザーさんに向けてメッセージをお願いいたします。

前田氏: 私たちはまだまだ発展途上で、これから色々至らない部分もあって恐縮なんですけれども、私たちはNCJとしてのやり方を貫いていきますし、タイトルはまだまだ少ないですけれども、それなりにちゃんとした、深いサービスを提供していくべく努力して参りますので、応援よろしくお願いいたします。

 ネットカフェ関係の担当者としては、ネットカフェのメリットというのを設けていって、どれだけネットカフェでプレイすることが楽しいかといったことを啓蒙していきたいなと思っております。お店で他のお客さんやスタッフの方たちと仲良くなって、ひとつの団体としてイベントなど参加して頂ければありがたいかなと思います。

編: ありがとうございました。

□エヌ・シー・ジャパンのホームページ
http://www.ncjapan.co.jp/
□「リネージュ II」のホームページ
http://lineage2.plaync.jp/
□「リネージュ II フェスタ」のホームページ
http://lineage2.plaync.jp/event/_item1001_10963.aspx
□関連情報
【2007年7月3日】NCジャパン、MMORPG「リネージュ II」
賞金総額50万円のトーナメント大会を開催
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070625/line2.htm
【2006年8月7日】NCJ、「リネージュII フェスタ in Tokyo 2006」を開催
200名のファンが盛りだくさんのアトラクションを体験
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060807/lineage2.htm

(2007年8月26日)

[Reported by 中村聖司]



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