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Game Developers Conference 2007現地レポート

「The Godfather」フランチャイズの制作背景を紹介
一大ゲーム企業EAが取り組む開発チームマネジメント事例

3月5~9日開催

会場:Moscone Convention Center

 Electric Arts(以下、EA)にとって、初の「GTA3」スタイルのアクションである「The Godfather: The Game」。GDC4日目に行なわれたセッション「Survival of The Family: The Saga of Creating and Shipping The Godfather: The Game」では、開発にあたったMaxisのクリエイティブディレクターMichael Perry氏、Phil Campbell DesignのPhil Campbell氏、EAのMike Olsen氏のディレクター陣3人により、本作の開発プランニングや開発日程の遅れをどのように復旧したかの事例が紹介された。北米を代表する一大ゲーム企業であるEAの気鋭の開発者集団により、可視的でシステマティックなチーム運営の大切さが説かれた興味深いセッションだった。

 昨年3月にリリースされたPC「Godfather: The Game」では、マリオ・プーゾ原作、フランシス・コッポラ監督作品の映画「ゴッドファーザー」のPART1をモチーフに作られた。プレーヤーはコルレオーネファミリーに属する無名の青年として、ゲームの世界に飛び込む。半年後にはXbox 360版が、同作にオンラインのランキング機能が盛り込まれた形でリリースされている。

 また本セッション中には、5月に発売される本作のWii版「The Godfather: Blackhand Edition」とプレイステーション 3版「The Godfather: Don’s Edition」2作に関しても、それぞれの特徴あるコントローラーならではの優れた操作性が紹介された。


■ マップルームに広がるマンハッタン。直感的に開発全体を見通すアナログ設計図

登壇したMaxis、EAのクリエイティブディレクターMichael Perry氏、EAのMike Olsen氏、Phil CampbellデザインのPhil Campbell氏
 PC版「The Godfther: The Game」は、「GTA3」に代表される、プレーヤーがオープンな世界の中でストーリーを進めていくスタイルではEAで初の作品である。同時に新しいプラットフォーム、新しいゲームエンジン、壮大なマップ作りといった新しいチャレンジのために、様々な困難があったという。昨年3月に発売された本作については本誌のレビューが詳しいので、併せて見ておくといいだろう。  

 EAといえば北米では押すに押されぬ一大パブリッシャー兼デベロッパーであり、大掛かりなゲーム制作が可能である一方、開発スタジオのスケジューリングやリリースの管理が非常にシビアであるとも言われている。

 ディレクター陣は、映像作品を原作に採用するにあたり、権利関係のこじれなどが思わぬ制作の遅れにつながってしまったと述べた。しかし、しっかりとしたプレプロダクションと指揮系統を確立し、開発環境のシステム化で遅れを大幅に取り戻した、多人数によるディレクション体制の成功例を示した。

スタジオ内のマップルーム シナリオやマップなどのセットがいくつか存在し、チームメンバーがビジョンを共有しやすくなっている
 特に彼らが見せたストーリーテリングの相関図は度肝を抜かれるものがあった。舞台となる'50年代のニューヨークから、ミッションの舞台となる建物の設定、ゲームの章ごとの登場人物の生存状況や相関関係などを可視的に表している。スタジオ内に設けたマップルームでは、映画の制作風景と見まがうほどに大きな方眼紙の上にオブジェクトを配置し、NPCの配置や人物の流れを表す付箋紙が貼り付けられている。

 関わるチームメンバーが多ければ多いほど、肉付けの柱となるシステムをしっかりと作り、今チームがどう動こうとしているのかという直感的な意識付けを行なう設計図が重要になってくるのだろう。

マンハッタンの街並みや章ごとのミッションのプロットが時系列を辿りつつ驚くほど濃密に、丁寧に書き込まれている。ユーザーが古き良きマンハッタンの世界に入り込んでしまうのに整合性を持ったストーリーは不可欠というわけだ



■ 「『The Godfather』は『The Sims』ではない。」Excelベースのスクリプトでニューヨークに暮らすNPCを再現

NPCの動きをBehavior AI任せにしてしまうと'50年代ニューヨークというコンテクストに基づく「予想不能な自然な動き」が失われてしまい、「予想不能な不可解な動き」になってしまう。これでは銃を突きつけられたりしても平気でダンスを踊っていたり、その後ろで明後日の方向を向いて歌を歌っていたりとプレーヤーの没入感が損なわれてしまうというわけだ
 マンハッタンに暮らすNPCの自然な動きにも注目したい。ニューヨークの活気あふれる町並みを再現する上で、そこに暮らすNPCの自然な動きは不可欠だ。Maxisといえば人や生き物などの様々な暮らしを表現した「The Sims」シリーズで知られているが、だからといって「The Sims」の世界でのNPCのBehavior AIを「The Godfather」に盛り込んだかといえば、そうではない。

 NPCが定期的にトイレに行ったり、食事をしたりといった「The Sims」のBehavior AIに基づいた振る舞いではなく、NPCをクラス化し、それらに相応しいリアクション1つ1つにスクリプトを盛り込むことで、コンテクストを持ったNPCの自然な動きを実現したというのだ。

 既にMaxisが持っていたBehavior AIを利用しなかった最大の理由は、ゲーム中に登場するたくさんの種類のNPCには、マフィアの手下や、警官の他、ニューヨークで暮らす実に多くの種類の人々がおり、彼らの行動パターンをAI任せにすると、あまりに恣意的に動かれてしまい、かえって不自然な世界になってしまうというわけだ。

 では数多のNPCをクラス分けし、1つ1つにスクリプトを埋め込んでリアクションを表現するというのも何やら途方もない作業のような気がするが、驚くべきはその方法だ。なんと無数のNPCの行動パターンをExcel上でスクリプト化しているのだ。

 きっかけはプログラマーとの何気ない会話の中で、Excelを用いてスクリプトのフレームワークを作れないかという話になり、このとき開発者自身は馬鹿げていると思ったそうだ。しかし、このフレームワークができると、開発環境のハードルが下がったことで、次々登場するNPCに簡単にかつ細かくクラスを設定し追加できる仕組みが出来上がり、工期を急ぐチームにとっては好都合の結果を生んだというわけだ。

 最後にPhil Campbell氏は多人数でのディレクションにも触れ、知識とゲームの見通しと先見的なビジョンを共有することが重要と述べた。大規模な開発チームのディレクションを、開発事例を交え解説できるスタジオはそう多くはない。また、映画産業などを巻き込んだ大規模プロジェクトというのもそうあるものではない。北米を代表する大企業であるEAの中でスポットライトを浴びる彼らならではの貴重な講義で非常に面白いセッションであった。

予想できないNPCの動きを予想の範疇に収めることで、コンテクストとのバランスを得た Excelによるスクリプト。様々なレイヤーでNPCがクラス分けされ、それらに応じた数多のスクリプトが存在する



■ 次世代コンソールではアクション面でのアナログ性を重視

 また、セッションでは5月に発売されるWii版「The Godfather: Blackhand Edition」並びにプレイステーション 3「The Godfather: Don’s Edition」の操作性についても言及。実機を用いた解説はなかったものの、ムービーとスライドを通じて、両者独特の操作性を活かした設計をアピールした。

 昨年発売のPC版で見せたマウスによるジェスチャーアクションがさらに洗練されており、Wii版のトレーラーではプレーヤーがコントローラとヌンチャクを使い、敵の胸倉を掴み締め上げたり、そのまま壁に叩きつけたりする様子や乗車中のプレイが放映され、アナログ操作により、さらにプレイアビリティが広がった点を強調した。

 プレイステーション 3版の解説では、2つのアナログスティック操作だけで、広場の柵を乗り越え、逃げる敵の頭を壁に押し付け、さらには引き戻して元いた側に放り投げるという一連の動作をスライドで説明した。

 ボタン操作によらない活発なアナログコントローラの動きで、マフィアの主人公と同じくプレーヤーにも活発に動いてもらおうというわけだ。また、さらなる「The Godfather」のフランチャイズの拡張版も準備中とのことで、今後の展開と共に見守りたいところだ。

 Wii版のトレーラーを見ながら、開発者達は「パンチは楽しいけど、放り投げたりするのはもっと楽しいよね」と重厚な大作映画のバックグラウンドがありながらアクション面での面白さを語る際には実に楽しそうに話した。作り手側からも自信ある雰囲気を感じる「The Godfather」のフランチャイズを早く楽しみたいものだ。

敵や一般市民を掴んだり、殴ったり、投げ飛ばしたりといった一連の動作を、アナログ操作主体の操作性でコントロールすることで、マフィアらしいアクティブな体験を得ることができる。こちらのムービーはEAのプレスサイトに登録されてからすぐにYoutubeなどにポストされ大人気になったという
いかに映画の主人公になりきるかに主眼が置かれた結果、映画のシーンにおける人物の動きをコントローラー上に置き換えることで、銃撃のようなアクションの他は極力アナログ操作中心のデザインになったようだ


□Game Developers Conference(英語)のホームページ
http://www.gdconf.com/
□Game Developers Conference(日本語)のホームページ
http://japan.gdconf.com/
□Electronic Artsのホームページ
http://www.ea.com/
□「THE GOD FATHER THE GAME」の公式ページ
http://www.ea.com/official/godfather/godfather/us/home.jsp
□関連情報
【3月8日】Game Developers Conference 2007 記事リンク集
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070308/gdclink.htm
【3月7日】サンフランシスコにてGame Developers Conference 2007が開催
史上最大規模での開催。任天堂とSCEのキーノートに期待
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070306/gdc2007.htm
【2006年4月20日】PCゲームレビュー「The Godfather: The Game」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060420/gfather.htm
【2006年3月22日】Game Developers Conference 2006がサンノゼにて開催
任天堂、SCEの基調講演と日本人セッションに注目
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060322/gdc2006.htm
【2006年3月】Game Developers Conference 2006 記事リンク集
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060324/gdclink.htm

(2007年3月12日)

[Reported by 三浦尋一]



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