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会場:Moscone Convention Center
PCゲーム向けゲームエンジンとしては比較的歴史のある「NetImmerse」エンジンの遺伝子を汲むゲームエンジンが「Gamebryo」だ。NetImmerseエンジンは2003年にメジャーバージョンアップと供に「Gamebryo」に改称し、その後、2005年にNetImmerseエンジンの開発元NDLはEmergent Game Technologiesと合併し、現在に至っている。 Gamebryoは「Dark Age of Camelot」、「Star Trek:Bridge Commander」、「Freedom Force」といった著名PCゲームに採用されて名を馳せ始め、最近では欧米で爆質的ヒットシリーズとなっているRPG「The Elder Scrolls」シリーズ(Bethesda Softworks)の「III」と「IV」のゲームエンジンに採用されたことでゲームエンジン業界では一定の地位を確立している。
最新版のGamebryoはバージョン2.2となり、新しいシーンエディタが提供されることとなった。この新エディタでは、面倒なインポート処理などを行なわずとも、直接、Gamebryoのランタイムエンジン上でのレンダリング結果を確認しながら、シーンやステージの制作が行なえるようになっている。もちろん従来通り、3ds maxやMayaなどのプラグインサポートも行なわれる。
最新版2.2はPCとXbox 360だけでなく、PS3にも対応。特に今回、前面に押し出してアピールしているのが「Floodgate」と呼ばれるストリーミング・プロセッシング・エンジンだ。グラフィックス前処理、AI、サウンド処理、物理シミュレーションなどのゲーム進行に必要になる各種ゲーム処理ジョブをこのFloodgateに流し込めば、PC、Xbox 360、PS3の各プラットフォームで最適なマルチスレッド処理に置き換えて実行してくれる。PCやXbox 360では対称型コアやハードウェアマルチスレッディングを効果的に活かしたインプリメントになっており、PS3ではCELLプロセッサのSPE(Synergistic Processor Element:CELLに7基ある128ビット型RISCベクトルプロセッサ)を積極活用した実装になっているという。
グラフィックスエンジンも強力なものになり、デフォルトで法線マップ、ディフューズ、スペキュラといったピクセルシェーダベースのピクセル単位の基本ライティングシェーダーを提供しているほか、ローカルな遮蔽構造までを配慮した微細凹凸表現を実現する法線マップの発展形「視差マッピング」もサポート。ハイダイナミックレンジ(HDR)レンダリングは、浮動小数点バッファにも対応した“リアル”HDRをサポート。HDRレンダリングの醍醐味であるライトブルームエフェクトも、かけ方を事細かくチューニングできる設計になっている。
影生成技法はシャドウマップ(Depth Shadow)ベースだが、隣接近傍フィルタ(PCF)タイプのソフトシャドウ化オプションも持っている。また、Unreal Engine3.0でも採用されている、異なる解像度のシャドウマップを用いてフィルタリングを行なうVariant Shadow Maps技法にも対応。現在、開発チームはカスケード・シャドウマップ技法の実装も進めているという。
現在、シェーダそのもののオーサリングシステムはないがFXファイルのインポートや、カスタムシェーダの組み込みは行なうことができ、プリセットシェーダと組み合わせて、独自のビジュアル表現は可能だという。こうしたエンジンベースでは起こりがちな、グラフィックスが似たり寄ったりしてしまわないように気を使っているようだ。 物理シミュレーションはAGEIAのPhysXライブラリを採用しており、PC版はPhysX PPUのアクセラレーションにも対応できるとしている。プレゼンを担当してくれた担当者は、「HalfLife2(Source)エンジンやUnreal Engine3.0よりも大部安価だし、できることに大きな違いはないし、自信がある」とかなり力強い口調でGamebryoエンジンの優位性を訴えていた。
最近の著名なGamebryo採用作品としては「Sid Meier's Pirtates!」(Firaxis Games)、「Sid Meier's Civilization IV」(Firaxis Games)、「The Elder Scrolls IV:Oblivion」(Bathesda Softworks)などがある。主に欧米のPCゲーム作品が中心だが、日本でもGamebryo導入事例があるとのことだ。
■ Big World Technology「Big Wolrd Technology」エンジン~MMOタイプゲーム専用エンジン
BWTエンジンはMMOタイプのゲーム制作に特化しているのが特徴。MMOタイプのゲーム制作の際に最大の課題となるサーバープログラムも提供され、運営までをスムーズに行なえる。 BWTサーバーシステムは動的な負荷分散が可能な仕組みを採用しており、大規模なゲーム運用までに対応している。何百万人ものプレーヤーのアクセス管理とサービス提供を実現でき、各プレーヤーごとに個別のスペースを動的に割り当てて、そのプレーヤー専用の独立したクエストの進行の管理までが可能。
単一のサーバークラスターにおいても複数のゲームシステムを動かすこともでき、負荷が高まれば処理を他のサーバーに自動分散させることも可能。また、ハードウェアのトラブルで、とあるサーバーが停止しても、そのサーバーのタスクを他サーバーに引き継がせる処理が行なわれ、シームレスに故障サーバーの交換も行なえるという。
BWTクライアントの方は、ユーザー環境で動くゲームエンジンになるわけだが、こちらは、いわゆる最近のモダンゲームエンジンで採用されているトレンド技術を一通り盛り込んだものになる。地形システムはハイトマップから生成できるようになっており、超広範囲な地形を取り扱うことができる。地形の読み込みは動的に行なわれるのでローディングでゲームが進行するということはないとのこと。
昼夜の概念もサポートされており、ゲーム内時間進行がゲーム参加者に共通して及ぶようになっている。ライティングも現実世界の昼夜の概念に近いものになっており、太陽が昇れば空は明るくなり、日が暮れれば暗くなり、影も太陽の位置にちゃんとつじつまがあった形でキャストされる。気候のシミュレーションも動的に行なわれ、雨、嵐、風、霧、雪……といった気象現象が再現される。雨や雪は動的に地形にインタラクトする設計になっており、ちゃんと地形形状に従って積もったりする。雲はゲーム世界で書き割りではなく、動的なオブジェクトとして存在しており、風によって動いたり密度が変わったりもすると言う。
キャラクタアニメーションのシステムもかなり力が入っている。複数のアニメーションをブレンドしての再生が可能で、例えば「銃を抜く」と「走る」というアニメーションがあった場合、この2つをブレンドして「走りながら銃を抜く」というアクションの再生が行なえる。モーフィングプレンディングにも対応しており、ある状態からある状態への遷移アニメーションの生成を動的に行なえる。ある表情からある表情へのフェイシャルアニメーションなども比較的容易に行なえるようだ。キャラクタとゲーム世界とのインタラクトにはちゃんと動的なIKエンジンを実装して対応している。斜面があればこれに足は追従するし、ゲーム世界側の障害物に当たればちゃんとキャラクタの姿勢変形が行なわれる。
3Dグラフィックスのエフェクトもトレンドとなっているものは一通りインプリメントされているという。ブース上でのデモでも、多ポリゴンモデル生成したディテールを法線マップ化して“見かけ上”、多ポリゴンモデルにするテクニックや、ブルームエフェクト付きのHDRレンダリング表現などを見ることができた。
BWTエンジンには、様々な制作支援ツールが付属してくる。1つはゲーム世界を作り込むためのレベル(ワールド)エディタ。ダンジョンの制作ができるのはもちろんのこと、屋外シーンの植物の植え込みをパラメトリックに指定できるのがユニークであった。このエリアにはどの植物をどのくらいの密度で生成する……などと設定すれば、ランタイム時にちゃんと動的に植え込まれてシーンが生成されるのだ。この植物生成は植物ミドルウェアとして著名な「speedtree」のライセンスを受けて実装しているとのこと。
グラフィックス周りのツールとして専用の3Dモデルエディタ、パーティクルエディタも付属してくる。パーティクルエディタは爆風や魔法などのパーティクルエフェクトのアニメーションを作り込むためのツール。ゲームシーンへのインタラクション具合も設定でき、例えば、ゲームシーン側の風からの影響や障害物との衝突を配慮する度合いなどを設定しつつ制作が行なえる。さらに制作ツールだけでなく、ゲーム運営開始後のツールも付属する。具体的にはクラスタコントロール用ツール、システムパフォーマンスモニタ、などサーバーの運用支援ツールが用意されている。
BWTエンジンを採用し、そのことを公表しているタイトルとしては以下のようなものがある。
・「Tien Xia 2」(NetEase.com Inc.)
主に、中国、台湾、韓国での採用が多いが、BWT自体は日本語でのサポートの用意があるとのことだ。BWTエンジンはベースはPC向けであるが、現在は、Xbox 360版の開発も進行中とのこと。将来的にはPC版とXbox 360版のシームレスプレイも可能になるというので期待したい。
■ Silicon Studio「Motion Portrait」
GDC 2007会期最終日、閉幕までの余った1時間で展示ブースを駆け足で見ていたところ、大勢の列ができているブースを発見。列に並んでみると、その先には「Motion Portrait」と呼ばれるフェイシャルアニメーションシステムのデモコーナーだった。
Motion Portraitは、正面からの顔写真だけから自動的に顔を認識し、顔の中の目、鼻、口までも自動認識してそのまま3Dモデル化までを行なえてしまうシステム。目、鼻、顔を認識したあとは任意の方向に顔を向けたり、様々な表情をその立体化した顔に合成することができる。 正面写真からのみの生成になるので、実際には顔の正面側だけの立体化になるのだが(後頭部は適当)、目、鼻、口の認識精度は高く、また、その表情合成品質もかなり高い。リップシンク機能もあり、音声信号に合わせて口パク・アニメーションも行なえる。老若男女、人種や肌の色は問わず、自動認識が行なえるが、認識精度に不満があった場合は手作業で認識領域の修正をすることも可能。 ほぼ正面写真になっていれば、システム上で動作させることができるため、歴史上の人物や絵画の人物などまでを立体的に動かすことができる。ブースでは来場者達からキャプチャした顔に加え、モナリザやアニメの美少女のような実在しない顔にまで、このシステムに認識させ、様々な表情を適用させるデモを行なっていた。 撮影に用いるカメラは通常のデジタルカメラでOK。これをシステムに入力すると、ほとんど待たされることなく認識フェーズを終えることができる。ブースでは、このシステムに来場者の顔を認識させ、そのデータの入ったランタイムデモをCD-Rに焼いて一人一人に手渡してくれるサービスを行なっていた。混雑していたのはこのためだ。 用途としては、ゲームなどのキャラクタメイキング向けや、映像作品用のアニメーションシステムなどが考えられているが、使い方は特に限定していないという。口を閉じた状態で撮影した写真であっても、合成後の表情で大きな口を開けた場合にはちゃんとプリセットで用意された歯が自動的に適用される。眼球も自在に動き、ちゃんと3Dグラフィックスの眼球として処理されるため、光源が動くと目の中のハイライトも動く。かなりリアルだが、どことなく不自然な感じも残っていて、そこが微妙な面白さをかもしだしていてユニークだ。プレイステーション 3の「HOME」などのようなSNS用のアバターに、このシステムが利用できたりしたらかなり面白そうだ。
認識工程はともかく、ランタイムに載ってしまうと比較的負荷は軽く、3DアクセラレーションのないノートPCでも動作できてしまう。現在、PSP、PS2などのほか、一部の携帯電話で動作できるバージョンが完成しているという。撮影禁止となっていたが、ブースでは携帯電話で動作するバージョンも公開していた。元々の根幹技術の開発はソニーが行なっており、ミドルウェアの形として実装するにあたりSilicon Studioと共同開発になったのだという。
(1) zipファイルをダウンロード後、適当なフォルダに展開 (2) [motiport]フォルダ階層下の「motiport.exe」を実行することでデモが開始される。 (3) マウス左ボタンで視線を移動可能。[h]でくしゃみ、[g]で咳、[6]で虫の登場、[a]で虫を食べる、[Esc]で終了。
なお、Pentium-M/900MHz、855GMチップセット内蔵グラフィックスでもリアルタイムに表示することができたので、実行にハイスペックなPCは必要ない。 (2007年3月12日) [Reported by トライゼット西川善司]
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