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Game Developers Conference 2007現地レポート

“Game God”Raph Koster氏が語るゲームの行方
「愛の曲線」を目指すゲーム開発論「Where Game Meets the Web」

3月5日~9日開催

会場:Moscone Convention Center

Raph Koster氏。通常1時間のセッションでは質疑応答の時間を取るためにスピーカーは30~40分ほどでスピーチを切り上げるのが通例だが、セッションが終わってもまだまだしゃべり足りないという様子で話し続けた。ゲーム業界全体の方向性に非常な危機感を持っていることを伺わせる
 「Playstation 3、Xbox 360、Wiiのようなショーは放り出したらどうだい?」こう話すのは、かつてPC「Ultima Online」のリードデザイナーを務め、北米屈指の“Game Gods”の1人として知られるRaph Koster氏だ。

 3月8日に行なわれたセッション「ゲームとWebはどこで出会うのか?」では、「Google」や「YouTube」といった先進的なWebの進化にゲーム開発を重ねながら、いかにシンプルに、いかにニッチに、いかにユーザーの細やかなニーズに答えていくかを訴えた。

 こうした背景に現在の北米のゲームマーケティングが、かつて人づてにゲームの良さが伝わり徐々に人気を博していたビジネスモデルから、映画のマーケティングのように巨額の制作費や封切り一週間に観客動員何万人達成といった形で短期間での最高数値により人気を煽るような文字通りの「劇場型」ビジネスモデルになっていることへの強い懸念が挙げられる。

 ゲームタイトルのリリースをピークになし崩し的にユーザー数が減っていくのは映画と同じく、北米のMMOタイトルが歩もうとしている最大の誤りだとした。Raph Koster氏はセッション中、一貫してユーザーの立場に立ったシンプルなゲーム開発を繰り返し繰り返し説いていたことは非常に印象深かった。

 Xbox 360やプレイステーション 3、Wiiといった次世代コンソールへの開発は、コンテンツの見せ方の追求に追われ、ひいては制作リソースが大幅に増大し、開発者はユーザーのニーズを見失い、ゲームを店頭に置くことすらできなくなるかもしれない、いったい誰が幸せになるのだという負のスパイラルを指摘し、「そんなショーは捨てて、シンプルなものをサクサク出していこう」と北米に限らず世界のゲーム開発者が抱える不安にハッパをかけるような清清しいセッションだった。


■ 「ゲームは小難しい愛の中にある」ユーザーを意識せよ!

 Raph Koster氏によるWebとゲームの比較の解説の中で、現在の先進的なWebサービスへの評価が面白い。検索サービス「Google」が様々な機能をテスティングし、そのうち80%は捨ててしまうというのだ。また、オンラインフォトマネージャー「frickr」ではほぼ30分間隔でリリースが発行されるという。

 Raph Koster氏はこれらのサービスの、開発したものを素早くリリースし、素早く失敗し、素早くアップデートを繰り返すフットワークの軽さに注目した。同時に最初のリリースも大掛かりにやる必要はなく、プロトタイプを小出しにしながらノウハウを蓄積しつつルーズに入ってくれば良いとした。

 一方で現状のゲームデザインはと言えば「仕様書作りで既にトラブルになっているでしょう」とし、「デザインの仕様書作りは監督のフィルムへのコメントだけで映画を作るようなもの」と、会場の笑いを誘った。

 また、どんなWebサイトも集うユーザーによって工夫され、コアな嗜好をシンプルに表現できており、尚且つユーザー達にとってかけがえのないものになっていると述べ、ゲームがマスを狙えば狙うほどこうした意図から離れていってしまうと指摘する。

 そこから、ゲームでも同じくユーザーを引き立てる工夫をし、User Ganerated Contentに投資すべきという結論を導く。ごく少数のユーザーにとってでさえも、かけがえのない環境を作り、同時にユーザー自身のニーズをユーザー自身でも満たしていけるスキームを作り、これがユーザー数の拡大につながっていくというのだ。さらには、ユーザーに対してもこうしたライフサイクルを価値あるものとして認識させていく思考のフレームワークを作ろうというのが氏のビジョンのようだ。

小さいながらも素早いリリースとフィードバックを繰り返し、ユーザーと共にゲーム開発を行なっていくスタイルを強調した
ゲームタイトルの開発予算やファイル容量が爆発的に増えていることを指摘し、現在マスを狙ったゲーム開発のフレームワークでは開発そのもが成り立たなくなると警鐘を鳴らす


■ 「サービスはプロダクトではない」長期的ビジョンに基づくゲーム作り

「愛の曲線」。リリースを皮切りに徐々にユーザー数が上がっていくものと、リリースをピークにユーザー数が目減りしていく、2枚の対照的な放物線のスライドを見せた。前者のように徐々にユーザーが増えていくユーザー数のカーブを「愛の曲線」と表現しユーザーと共に歩むな理想的なタイトルマーケティングだとした
 こうしたRaph Koster氏の見方が、発売してから4週間のセールスの結果ではなく、利用するユーザーを増やしつつ発売してから5年後10年後の成功を見据えたタイトル作りへの考えにつながっている。

 「開発者はゲームをプレイするユーザーのことはわからないに等しい、プレイするユーザーが見えているか?」と痛烈な疑問を投げかけ、ゲーム業界全体の見通しと共にそのあるべき姿を語った。

 「お店に並べられているような画一的な製品としてのWebサイトなどどこにもない」ゲームがプロダクトとして棚にずらりとパッケージが並べられている現状認識と共に、誰にでも扱え、誰にでも受け入れることのできる「一口サイズ」の開発志向を目指すべきだという。

 Raph Koster氏は無料のFlashゲームを集めたサイトや、「Runescape」に集うユーザー数が月間に数百万ユーザーにも及ぶという実例を示したが、「劇場型」の売り切り型のビジネスでは次々にコンテンツが消耗されていくだけで、実際に遊び続けるのはフリーのゲームという皮肉をあらわしている。

 当然ながら開発者向けのメッセージが多いセッションではあったが、エンドユーザーの側から見れば、劇場型の売り文句で「ゲーム」と名のついた「ショー」を消費し続ける必要はなく、自分の好きな事をやることが自分にとって一番価値あることなのだというメッセージとも受け取れる。

 筆者はRaph Koster氏のセッションは初めて見たが、取材メモを見返しつつ「幸せって何だろう?」と思うほど強烈な存在感を放つセッションであった。ユーザーの幸せなライフスタイルとゲーム業界のビジネスモデルとの乖離が起きていることをずばりと指摘し、厳しさと共に愛をもってゲームの未来を語る非常に面白いセッションだった。

GameGodsの1人、Will Wright氏が取り組む「SPORE」を紹介。ゲームの世界に存在するありとあらゆるものを作れる設計を指し、「ユーザーのわがままをかなえてあげることが有益な副産物の集積につながる」という「Web2.0」論者であるTim O'Reilly氏の発言を重ねた ビジネス面においてはユーザーを引き立てるにはクラブサイトを設けることや、ユーザーサイトへのサポートなど、ユーザーのライフスタイルに価値を付与し、ユーザー間のネットワークを包括していくことが重要だと述べた 「サービスはプロダクトではない。開発者は果たしてコンソールタイトルをどれほど売りたいのか自問自答して欲しい」としつつ、プラットフォームにとらわれないサービスの優位性を指摘した


□Game Developers Conference(英語)のホームページ
http://www.gdconf.com/
□Game Developers Conference(日本語)のホームページ
http://japan.gdconf.com/
□関連情報
【2007年3月】Game Developers Conference 2007 記事リンク集
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070308/gdclink.htm

(2007年3月11日)

[Reported by 三浦尋一]



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