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会場:Moscone Center
日本人講演者のセッションは、基調講演を含めて13と、全体の数から見るとさほど多くはない。ただ1つ1つの人気は高く、欧米とは異なるセンスを持った日本の作品から学ぼうというクリエイターは少なくないようだ。
ここでは日本人講演者のセッションの中から、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEJ)の河野力氏、イニスの矢野慶一氏、キュー・エンタテインメントの内海州人氏のセッションを順に紹介していく。
■ SCEJ 河野力氏 ~A LocoRoco Postmortem: Making Happiness into Gameplay~
開発のきっかけは、2004年春のふとした思い付きから。河野氏は普段からPDAを持ち歩いていて、思いついたアイデアをその場で書いているそうだ。その時描かれたイラストは、通路で丸い生き物が飛んだり積み重なったりしているというもの。ものの5分ほどで描いたそうだが、PDAがPSPに似ていて、それを見ているだけでアイデアが次々に出てきたという。 2004年末に、手のあいたプログラマがサンプルプログラムを制作してくれた。1週間ほどでできたものだったが、河野氏が本作のコンセプトとした物理演算による動きも、プログラムに取り込まれていた。 そして2005年2月、そのプラグラムを携えて、企画を提出する。しかし2度に渡るプレゼンテーションは、河野氏のこだわりである「AIによる動き」の意味が伝えられず、あえなく却下される。それでも諦めなかった河野氏は、プログラマとデザイナー2人の小さなチームを構え、1カ月でデモ制作に取り掛かり、3度目のプレゼンテーションで企画を通す。「こういうものは動くものを作らなきゃだめだ」と河野氏は反省したそうだ。 開発は、5人くらいの少人数で、低コストに進めるつもりだったという河野氏だが、実際はピーク時で16人になってしまった。ただその中でも、デザイナーがステージのギミックを配置できるシステムなどを開発することで、効率的に作業が進められた。 物理演算やAIによるキャラクタの動きと並ぶ本作の特徴として、音楽がある。6種類のロコロコに、各8曲の歌、さらにムイムイの曲も加わり、全部で60曲程度が用意された。しかもロコロコは20匹が歌う音の差を出すため、歌手に同じ歌を繰り返し何度も歌ってもらったのだという。レコーディングは相当大変だったそうだが、「目の前で曲ができていくのは、一番楽しい作業だった。今後も音楽で新しいことをやっていきたい」と意欲を燃やしていた。
続編の開発も始まっているという河野氏。「詳しいことはまだ何もいえないが、次も新しいことに挑戦している。きっと新しい驚きがあると思うので楽しみにしてください」と挨拶した。
■ イニス 矢野慶一氏 ~From "Ouendan!" to "HELP!": Inside the Elite Beat Agents~
今回のセッションは、「押忍! 闘え! 応援団」と、その海外アレンジ版「Elite Beat Agents」についてのもの。それぞれ、鍵となるキャラクタに応援団やエージェントを選んだ理由が明らかにされた。 まず「押忍! 闘え! 応援団」については、そもそも北米において「応援団」が何かが通じないこともあり、その説明からスタート。黒い詰襟の服と独特な動きは、さぞ珍妙な日本文化として欧米のクリエイターの目に映ったであろうが、ともかく「応援をするグループ」という位置づけは伝わったであろう。 続いてE3でDSに触れたことでハードが決定したことや、絵柄に劇画のタッチを取り入れたこと(劇画も欧米で通じない……なかなか大変なセッションである)などを紹介。また試作版の映像も公開され、「押忍! 闘え! 応援団」がどういったものかが伝えられた。 北米版においては、さすがに応援団のまま出しても意味が通じないので、キャラクタが変更される。結果的にはエージェントに至るわけだが、そこまでのインスピレーションというのがすさまじい。「モトリー・クルー」のイメージから始まり、これに応援団のイメージを足して「ヴィレッジ・ピープル」を導き出したり、「ゴーストバスターズ」と「メン・イン・ブラック」と「ブルースブラザーズ」からエージェントを連想し、これに「オースティン・パワーズ」と「チャーリーズ・エンジェル」を足して世界観を組み立てる……というもの。紹介されたものを羅列してみたが、クールなエージェントに、熱さやバカバカしさを足したことで、「Elite Beat Agents」が完成する。
セッションの最後には、続編となる「燃えろ! 熱血リズム魂 ~押忍! 闘え! 応援団2~」の映像も公開された。今のところインターフェイスに大きな変化は見られないが、新たに青い服でデザインされたライバル応援団が登場するという。発売は2007年内の予定。
■ キュー・エンタテインメント 内海州人氏 ~I, Q: A Progress Report on the Q Entertainment Business Model~
ただし今回の講演者は水口氏ではなく、代表取締役CEOの内海州人氏。「クラッシュ・バンディクー」や「サクラ大戦」のプロデューサーとしても知られている。内海氏は今回のセッションで、キュー・エンタテインメントの取り組みについて語った。 同社は「ルミネス」や「メテオス」といった作品を手がけるかたわら、自社開発・自社運営の「メテオスオンライン」、オンラインゲームパブリッシャーとしての「Angel Love Online」、モバイルコンテンツの「ルミネスモバイル」など、事業の幅を広げてきている。北米ではこれらがあまり知られていないこともあり、事業の内容を1つずつ説明していくという流れになった。 その中で、やはり無視できない存在となるのが水口氏だ。内海氏はセッションの中で、自分から見た水口氏の長所と短所を挙げた。「開発者として優れた閃きを持ち、かつトレンドにも敏感。コミュニケーション能力にも優れ、何よりカリスマ的存在である」と、その天才ぶりを認めた。しかしながら、「クオリティのためなら金と時間を惜しまない。またアイデアはしばしば周囲の人の理解の範疇を超える」と、経営者として頭の痛いところも存在することを明かした。 また水口氏のエピソードとして、同社初のタイトルの開発に取り組む際、「Rez」の結果に失望したことから、「ハリウッド映画のような、極めて大規模なアクションアドベンチャーを作りたい」と語ったという。これに対し内海氏は、「我々の会社はまだ小さい。まずは小規模でも切れのいいものを作ろう」となだめつつ、「『Rez』は素敵なプロジェクトだった。そのコンセプトを残しつつ、ユーザーに半歩歩み寄ってほしい」と、理想的な作品の方向性を示した。そして様々な要素が加味された結果、見事に「ルミネス」が誕生する。
内海氏は今後の同社の展開について、コミュニティやコンシューマゲームを基にしたオンラインコンテンツ、他の国や産業とのコラボレーションを考えていきたいとした。また「私も水口も、音楽を愛している」といい、今後も音楽とゲームのコラボレーションは続けていきたいと語った。
□Game Developers Conferenceのホームページ http://japan.gdconf.com/ □関連情報 Game Developers Conference 2007 記事リンク集 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070308/gdclink.htm (2007年3月11日) [Reported by 石田賀津男]
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