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会場:Moscone Convention Center
■ 2本の新タイトルを、短いスパンでXbox 360に投入した稲船氏の“戦い”
しかし、多くのメーカーが“臆病”になりがちだ。カプコンも他のメーカーと同じように経営サイドは及び腰だった。稲船氏は2つのタイトルを近いタイミングでXbox 360という新ハードのスタートに合わせて発売することを決心する。そのためにPS2、Xboxの現行ハードでプロトタイプを2チームで制作を開始させたのだ。 2本のゲームをほぼ同時にスタートさせたのは、「ある種の保険」と稲船氏は語る。全く新しいチャレンジは、技術的にも大きな不安だ。そこで2チームで挑戦させることでお互いのチームがフォローし、補うことができるのではないかと考えたという。稲船氏が指示したチームは、3~4カ月をかけてプロトタイプゲームを作り上げた。プロジェクトそのものを進行させることで、いわば「既成事実」を作って、経営側を説得しようと試みたのだ。 それでも経営側はまだGOサインを出さなかった。稲船氏は強引にプロジェクトを推し進める。結局6カ月もの間、会社から正式な許可が下りないままプロジェクトは進行していたという。稲船氏はその間、新ハードで新しいゲームを出すことの意義、新しいハードによって生み出されるゲームの面白さ、そして2本のゲームは日本市場だけではなく、欧米市場も狙えるタイトルであることをアピールし続けた。 稲船氏は「バイオハザード」も、「鬼武者」もそうやって進めていったという。強引に、信念を持って経営者と闘っていった。ゲームでもゾンビや悪と戦うが、製作も経営者と闘うことが必要だ。「ああ、無理だ」と思ってしまったら、新しいゲームは生まれない。カプコンのヒットタイトルは「バイオハザード」に限らず、そうやって生まれたという。 次にCroal氏は「『デッド ライジング』、『ロスト プラネット』は北米でヒットタイトルとなったが、カプコンの経営サイドはそれを予測していたか?」と問うた。「まったくヒットは予測してなかった」と、稲船氏は答えた。2本のタイトルは、開発も、チェックも、評価も日本で行なわれた。稲船氏は、この2本のタイトルは日本で評価されないことは覚悟していた。レーティングの問題で日本で発売できなくてもいい、と考えて、自分の面白いと思う方向性を強調させた。 稲船氏は「日本人はユーモアがわからない」という。ゾンビをむごたらしく攻撃する場面を見ただけで、「これはいけないゲームだ」と思考が固まってしまう。どんな武器を使うと、どんなとんでもないアクションがあるのか。そういった“笑い”が理解されなかった。北米で受け入れられて、実際のヒットを見て経営サイドもあわてて追加のプロモーションを行なった。「ちょっと、ざまあみろ、という感じでした」。 一方、技術的な問題も大きかった。ハードメーカーのツール供給は遅れがちになるし、バグがある場合もある。特に先に発売される「デッド ライジング」にはダイレクトに影響する。開発チームはマイクロソフトと常に密に連絡を取っていたが、それでも手違いや遅れもあったという。 2つのチームにはゲーム開発と共に大きな命題があった。それは、Xbox 360、プレイステーション 3、そしてPCという高性能なハードに向けて新しいゲームエンジンを作っていくことだった。このエンジンの制作は主に「デッド ライジング」チームが進めていたため、「ロスト プラネット」チームからエンジン担当者が責められる場面も出てきてしまった。しかし、エンジンの完成により、「デッド ライジング」から得られたフィードバックを「ロスト プラネット」で活かすことができるようになった。
この新しいエンジンでは、1つの素材を比較的簡単にコンバートすることもできる。現在、「ロスト プラネット」PC版を作ってるし、PS3「デビル メイ クライ4」もこのエンジンを使っている。「難しい、といいながらやり遂げてくれたスタッフには感謝している」と稲船氏は語る。ちなみにこのエンジンはWiiには対応していない。Wii向けのゲームエンジンはGC版「バイオハザード4」で使われたエンジンを改良して使っているという。 ■ クローバースタジオ解散、DS普及の影響……変化していく状況に揺らがない物作りへの想い
日本では子供向けタイトルは子供のもので、大人が夢中になってプレイしていると言うのは恥ずかしいかもしれない。このため、アクション性を持った「mega man」の続編は年少者のユーザーが多いニンテンドーDSで多く展開し、PS3などのハードでは作っていない。しかし稲船氏自身は「マリオ」に勝つためのキャラクタを、そしてタイトルを目指し制作を進めているという。 次の質問はクローバースタジオの解散に関して。「大神」や「ビューティフルジョー」など独特の作品を生み出したカプコンの子会社だが、セールス的な結果には結びつかず、2006年10月に解散が決定された。どうしてクローバースタジオは解散してしまったのか? 稲船氏は「ゲームはあくまで作品ではなく商品だ」と指摘した。芸術作品ならば売れなくてもいいが、商品である以上、プロデューサーが売ることを考えなくてはいけない。ディレクターまでが素晴らしい仕事をしたとしても、そこから先、いかに売ることができるかはプロデューサーの仕事だ。「クローバースタジオにはプロデューサーが不在だった、と僕は思っています」と稲船氏は語った。 欧米市場を視野に入れてゲームを作るというのは、クリエイターにとってプラスなのか、足かせになってしまうのか、という質問には、「クリエイターは最初はお客さんのことを考えてない。自分たちの作りたい物しか考えていない」という。 しかし、それでは作っていく内にお客と自分の中の情熱との乖離を感じ始め、そこではじめてクリエイターはお客を意識する。最初に身近にいる人を考え、また壁に当たり、そこで欧米や世界を意識していく。ここから、日本人だけを相手にしようという人と、そうではなく世界を、という人に分かれる。 ここでPS2の「SHADOW OF ROME」を稲船氏は例に出した。これは稲船氏が欧米のユーザー層を意識して作ったゲームだったが、商業的には失敗だった。“笑い”への追求が足りなかったのだという。この失敗が、「デッド ライジング」の突き抜けた面白さへの追求につながった。「少しだけ欧米層のユーザーも理解できた。これからも失敗は覚悟の上でチャレンジし続けたい」とこれからの展望を続けた。
DSの普及に関して、「1社の独占とも言える市場の広がりに関して、危機感はあるか?」という質問に関して、「正直ここまですごくなるとは思っていなかったが、開発を見直す良いきっかけになっている」と語った。DSの普及によって開発費を以前より抑え、より多くの商品を売ることができる市場が生まれた。結果として、若いクリエイターにゲーム作りを任せることも可能になった。若いプロデューサーが生まれ、チャンスを与えることができるのは、業界的にも、経営側にとっても良いことになった。
その後、Croal氏が受講者からのQ&Aを求めると、たくさんの人が列に並んだ。「ジョージ・ロメロ(映画「ゾンビ」を作った監督)についてどう思うか?」という質問に、稲船氏は「中学生の時に『ゾンビ』を見て衝撃を受けた、大好きです」と答えた。この映画には色々考えさせることもあり、エンターテイメントとしても面白く、「デッド ライジング」開発時には、とにかく見ろ、と様々なゾンビ映画をスタッフに見せたという。 「アメリカはヒーローの国であり、『デッド ライジング』の自分1人しか命が救えないという部分に疑問を感じる。どうしてこういう展開にしたのか?」という質問には、「デッド ライジング」はシミュレーターにしたかった、と答えた。ゾンビに囲まれたらどうするか? 1人で生き残るために努力するのか、全ての人を助けるためにがんばるのか。そこで製作側が「リアリティ」を生み出すために選んだのは、たった1人で生き残る道だった。プレーヤー自身が“その選択を決断した時の気持ち”を味わって欲しかった、と稲船氏はいう。 稲船氏はこのセッションの中で、「僕自身も臆病な部分はある、それでもあきらめずに様々なことにチャレンジしている。会社をやめていった人も多いが、僕自身は20年続けている。上が言うことを聞かないからやめるのではなく、続けていくことで説得し続けていきたい、カプコンでやっていきたいと思っている。部下であるチームとも戦うことはある。僕にたてつけるくらいでなくてはゲームは作れない。それを受け入れられる人間だと僕は思っている」と語っていた。 稲船氏の言葉からはゲームに対する思いや、会社側、作り手側、両方の想いも見えてくる。ゲームを作るとはどういう事か、「商品」であるゲームとは、どういったものか、他の会社の姿勢はどうなのか。20年以上もゲームを世に届け続けてきた稲船氏のセッションから、改めてゲーム制作そして、“続けていくことの意義”というものを考えさせられた。
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□Game Developers Conference(英語)のホームページ (2007年3月9日) [Reported by 勝田哲也]
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