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デジハリ大槻氏、駒沢大学山口氏
「Second Life」の最新ユーザー動向と可能性を探る
コンテンツ販売で利益を得ているユーザーは全体の1%以下!?

【アジア オンライン ゲームカンファレンス 2007 東京】
2月22日~23日 開催

会場:ベルサール神田

 AOGC2007の2日目のセッションデジタルハリウッド大学院 Second Life研究室研究員/プロデューサーで、Second Lifeセミナー講師の大槻透世二氏による「Second Life」についての講義が行なわれた。オンラインゲームともオンラインコミュニティとも言われる本作を研究する大槻氏は、「Second Life」の解説を踏まえながら、現在ゲーム内で行なわれているユーザーによるビジネスケースを紹介した。

 続く「仮想世界の『政策』論」では、駒澤大学グローバル・メディアスタディーズ学部助教授の山口浩氏が、2月2日に行なわれた「Second Life」内でのプレAOGCの様子を振り返りながら、RMTやセキュリティなど顕在化する諸問題を現実世界の政策論に置き換える形式で提言した。



■ 「Second Life」は「3次元のインターネットサービス」

デジタルハリウッド大学院 Second Life研究室研究員/プロデューサー Second Lifeセミナー講師の大槻透世二氏。30分という短い講義時間で明快に「Second Life」の現状を解説した
「Second Life」は「探検、売買、創造、つなぐ、遊ぶ、所有する」の6つの要素を持った3次元のインターネットサービスと説明した
 大槻氏はスクリーンショットを多用したスライドで「Second Life」の様々なポイントを紹介した。「Second Life」は米Linden Labが運営するオンラインサービスで、一見オンラインゲームのようにも見えるが、Linden Labが提供するのは土地のみで、ユーザー達は様々なオブジェクトをユーザー自身で構築し、社会を作り上げている。

 ユーザーは探検できるフィールドや、「Second Life」内で楽しめるコンテンツなど、様々なモノを自由に制作している。ユーザーが「Second Life」内で制作した制作物は、著作物とみなされ、販売できることが本作最大の特徴だ。さらにゲーム内通貨は、Linden Labの公式サイトで現実のお金と交換できる。

 「Second Life」のビジネスモデルは、本作中の土地の販売代金と、販売した土地から徴収する月ごとの固定資産税を主な収入にサービスを行なっている。土地を所有したいユーザーは縦256m横256mの一区画を1,625ドル(約195,000円)支払いLinden Labから購入する。さらに土地を所有し続けるために1区画あたり295ドル(約35,400円)を同社に毎月支払う必要がある。また、土地を所有するためには月額9.95ドル(約1,200円)を支払ってプレミアム会員にならなければならない。ユーザーがプレミアム会員になるメリットは、土地の所有が可能になることと、毎週300Lindenドルがボーナスが得られることだ。その他、コンテンツを作成時にも課金される。アイテムはオブジェクトにイメージを貼り付ける形で作成され、1つのイメージをサーバーにアップロードするために10Lindenドル(約6円)がかかる仕組みだ。

 「Second Life」で利益を得ているのはLinden Labばかりではない。制作したコンテンツ販売や土地売買などの経済活動により、ユーザーもお金を稼げる。大槻氏はユーザーが行っているユニークなビジネス例として、「Second Life」内を案内してくれるツアーガイドや、ユーザーのアバター同士による結婚式を請け負うウェディングプランナーを紹介し、「Second Life」にまつわるビジネスの多様性を説明した。

 そして何より今回の講演で興味深かったのは、本作で利益を得ているユーザー数のデータだ。1月31日時点で無料アカウントを含めた全380万アカウントのうち、利益を得ているユーザーは1万人で、現実空間でもユーザーが暮らしていくだけの利益を出しているのは数百人とのこと。最も利益を得たユーザーで1年間に10万~20万ドルほど稼ぎ出した例があったとはいうものの、まとまった利益を得ているユーザーは全体のユーザー数から見れば限りなく0に近い割合でしかない。経済システムの真新しさばかりが強調されている「Second Life」だが、実際にその世界に飛び込んだユーザーが実感した「Second Life」の世界とは少なからず温度差があるようだ。

 大槻氏は最後に、本作のアップデートについて近々Webブラウジングや、ボイスチャット機能が搭載され、よりインターネットサービスのプラットフォームとしての特色を強めるだろうと見通しを述べ、講義を締めくくった。

「Second Life」はオンラインゲームともオンラインコミュニティとも様々な切り口で分析されている。大槻氏は当初オンラインコミュニティという認識をもっていたとのこと
ユーザーによるコンテンツ制作の一例。様々な工程を分担し合い、実際のユーザー同士は遠隔地にいながらでも共同制作が可能だ。しかしLinden Labがサービスを中断、あるいはサーバーが天災等で損なわれてしまえば、なくなってしまう世界でもある
「Second Life」ユーザーの推移。最近1カ月では100万人近い伸びを示している 「Second Life」内での土地売買で「ロックフェラー」の異名を持つ中国の女性ユーザー 土地を利用したいユーザーの多くは、「地主」によって切り売りされた土地をレンタルすることで手に入れるという
美しいオブジェクトを配置した観光名所や、1区画を丸ごと使ってRPG楽しめるところも 「Second Life」内で制作されたパズルゲーム「TRINGO」。2006年4月にはGBAで発売された ロイター通信「Second Life」支局。すでにトヨタ、日産といった大手企業が参入し、今後もこの流れは続くだろうと述べた




■ 仮想世界の諸問題の解決には現実に即した現実的な対応を

オンラインゲームの新しいフェーズをなんと呼ぶべきかという新清士氏の前日の提言を受け山口氏は「Virtual World」か「Online Platform」か、「Immersive Media」(没入型メディア)ではないかとした
RMTに関してSOEのJohn Smedley氏の発現を引用。守れないルールは秩序の崩壊を招くため、運営会社はRMTへのニーズと望まないニーズを住み分ける枠組みをつくり、しっかりとした統計をとった上でユーザーへ説明責任を果たすべきだとした
 続く講演で山口氏はまず、自身の用いる「仮想世界」という言葉を、「実際には存在しない世界」ではなく「事実上存在するのと同じ世界」であると表現。「Second Life」内のコミュニケーションが実際の現実世界でのコミュケーションに近しいことに触れ、ユーザーが自己実現を果たす仮想世界での戦闘や経済活動やチャットなどのコミュニケーションにも現実上の意義を見出せるのではないか、とした。

 さらにゲームの展望について、「ゲームで何ができる?」という問いを発した山口氏は、これまでは作り手側の問題で、技術的追求を作り手側によってされ、ユーザーはそれを消費するだけだったが、これからは使い手側の問題として、ゲームがプラットフォームとして一段高いレイヤーに発展するだろうとした。

 山口氏は次に、オンラインゲームにおける事象を歴史的な経済政策の用語に照らしながら、オンラインゲームの運営会社を広義で仮想世界の「政府」とみなし、直面する諸問題を実際の政府が行なう政策として対処すべきと提言した。

 山口氏は「Second Life」の経済モデルを引き合いに、現実世界の目から見ればオンラインサービス上での活動範囲が広がったことと、仮想世界上での活動に現実の価値の流れを伴う方向に広がったと関係の変化を述べた。そして双方向から人、モノ、通貨の交流が盛んになり、人々にとって実感できる2つの世界の中間領域がますます拡大していると解説した。このことから仮想世界上での諸問題の解決方法が、諸々の矛盾を受け入れながらもユーザーの安全を前提にした現実的な選択肢がフィットしていくだろうとした。

 注目されるRMTについて、現在のオンラインゲームは運営会社という政府により「鎖国」された世界で、外部との「交易」や「外国人」の流入が禁止されている状態だとし、禁止の状態で「抜け荷」が横行しているとした。この状態を問題視し、禁止をするなら実効性のある取締りをしなければならないとした。

 次にCESAの「オンラインゲームガイドライン」を引いた山口氏は不正行為そのものの定義や対処方針が各運営会社に任されているとし、また「Station Exchange」に関する「安全で運営会社公認のRMT市場に明確なニーズがある」というJohn Smedley氏の発現を引用した。運営会社はRMT市場を「楽市楽座」ととらえ、ユーザーの安全に対するニーズに運営会社の判断で答えるケースがあってもよいのではないか、とした。一方「楽市楽座」は実際と同じくすべてのサーバーやサービスに適応される必要はないと述べ、ユーザーの安全に配慮した視点からの提言となった。

 また、山口氏は子供の安全に対する提言を行なった。子供のユーザーが被害者になるよりもRMTの販売側に回るケースや、仮想通貨やIDパスワードの窃盗では子供が加害者になってしまうケースが多いことを問題視した。山口氏は現実世界と同じく大人が子供の遊び場をどんな場所かを確認し、何をしているかを把握すべきだとした。「Second Life」の未成年者向け「Teen Second Life」で、Linden Labが、保護者が子供への関与を積極的に推奨し、子供と一緒に経験して欲しいという保護者向けのアナウンスを紹介、「親子でオンラインゲーム」といったキャンペーンを各運営会社で展開し、ユーザーや保護者の意識向上に向けた取り組みを求め講義を締めくくった。

 現実世界と仮想世界の関係を元にオンラインゲームへ向けた提言を行なっている山口氏だが、今回子供のユーザーに対して保護者の積極的な「内政干渉」を薦めるなど、仮想世界への現実世界からの干渉を危惧したAOGC2006「『ゲーム内経済学」とその意義」から踏み込んだ論調の展開が見られた。山口氏の提言はやや一般的過ぎて運営会社の立場からも開発者側からも距離感があることも多いが、社会全体の動きの中でオンラインゲームを見ていく上で重要な提言が含まれていると思う。

現在のオンラインゲームの経済秩序は「鎖国」の状態で保たれているとし、RMTは「抜け荷」であると表現した。「Station Exchange」は「楽市楽座」と例えられた。こうしてみると古い言葉が多い。今後「維新」や「開化」が訪れるのだろうか


□ブロードバンド推進協議会のホームページ
http://www.bba.or.jp/bba/
□「アジア オンライン ゲームカンファレンス 2007 東京」のページ
http://www.bba.or.jp/AOGC2007/
□関連情報
【1月19日】デジタルハリウッド、「Second Life」の特別セミナーを開催
仮想世界で生まれる新たなライフスタイルとビジネス
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070119/secondl.htm

(2007年2月24日)

[Reported by 三浦尋一]



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