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ローンチタイトルを出し続けるためのコツは?
「パネルトーク PS3『リッジレーサー7』の開発を通して」

【アジア オンライン ゲームカンファレンス 2007 東京】
2月22日~23日 開催

会場:ベルサール神田

バンダイナムコゲームス コンテンツ制作本部 第4制作ユニット ユニットリーダー プロデューサーの中村 勲氏
 AOGC2日目の最後を締めくくるセッションの1つ、「PS3『リッジレーサー7』の開発を通して」。株式会社バンダイナムコゲームス コンテンツ制作本部 第4制作ユニット ユニットリーダー プロデューサーの中村 勲氏が登壇。トークセッション形式で、新氏のリードで進行した。

 「オンラインで遊んで総合的に世界を目指そう」という仕掛けを取り入れた「RR7」。「リッジレーサー」シリーズとしては、PSP「リッジレーサーズ(RRs)」、Xbox 360「リッジレーサー6(RR6)」と続いて、プレイステーション 3のローンチに「RR7」をリリースした、ネットワーク対応(『RRs』はアドホックのみではあるが)対戦機能を搭載したレースゲームだ。「RR7」では、フルHD、かつ1/60描画(PS3同時発売タイトルで唯一)で、最大14人での対戦を実現している。

 「RR7」では、メインメニューにグローバルタイムアタックのランキングが表示されるほか、「名声ランキング」など各種ランキングが表示され、メニュー画面下部では、グローバルタイムアタックのランキングや、ヒーローインタビューのコメントが常に流れている。オンライン接続することでこのデータがアップデートされ、対戦とタイムアタックへの興味をそそるようにできている。オンライン対応ゲームでも、メインメニューにオンラインでやりとりしたデータが反映されているのは、世界中のユーザーがまさに今プレイしている、というライブ感覚が感じられるうえ、オンラインゲームであることをあまり意識させないという、うまい作りになっている。

 また、「RR6」での経験から、ユーザーコミュニティを促進するアイデアとして、14台がバラバラで勝敗を競うスタンダードレースのほかに、チームバトル/ペアバトルといった協力プレイのルール設定を取り入れた。また、タイムアタックにおいても、ペアタイムアタックを取り入れ、ユーザー同士の結びつきを狙った仕掛けがなされている。

■ 「8人対戦」から始まった旧ナムコレースゲームの系譜

「ファイナルラップ2」
 中村氏は、自身が関わった最初のメジャータイトルとして、旧ナムコの「ファイナルラップ2」を紹介した。このタイトルから、「RR7」まで脈々と息づく、ナムコレースゲームのノウハウがここで披露された。

 当時は8台同時プレイが話題となったが、この通信周りは自社開発。この基板同士の通信スピードは「1Mbps程度だったんじゃないか(中村氏)」という。LANでループ接続し、すべてのローカルマシンを等価に扱う形式を採用。特徴的なのはその接続ケーブル。ゲームセンター用の接続ケーブルということで、メンテナンス関連も統一されていない環境で開発スタッフがセレクトしたのが、オーディオケーブル。ステレオの赤、白に分かれているもので、現在もアナログ音声接続用に使われているものだ。このケーブルを2本使って基板同士を接続したという。

 このケーブルを採用したのは、「もし壊れても電気屋に行けばすぐ買える」ということ。特殊ケーブルにして故障が発生した場合、部品を発注してから修理が完了するまで、その筐体は営業に使えなくなってしまう。これはゲームセンターを経営するオペレータにとっても、プレイするユーザーにとっても損失になるから、という理由から。

 当時の開発チームは、ソフト周りで5、6人だったという。レースゲームとしてヒットした「ファイナルラップ」の続編ということで、企画は中村氏が1人で、コース設計、プログラムも中村氏が手伝うといった形で、1人が何役もこなす、という状況だったそうだ。コース設計はアクセルを何回踏ませるか、ブレーキを何回踏ませるか、見た目や実際に走った感触を元に、リズムを整える、という作業の繰り返しだった。

 前作である「ファイナルラップ」は続編開発中も場所によっては稼働率100%という人気ゲームだったが、コースが1つしかなかった。それゆえ、腕の差が出やすかったという側面もあった。

 「ファイナルラップ2」では新しいコースを投入することで、一度プレーヤーの習熟度にリセットをかけた。その効果は抜群で、「2」も大ヒットしたわけだが、そこには「偶然の要素を入れないと」ということで、順位が下がるごとに、マシンの最高速度を少しずつ上げていくアシスト調整も入っていた。このおかげで、さほど遊びこんでいない人もなんとなくはついていける、でもそれだけで逆転できるほどではないといった調整になっていた。このハンディキャップは、「RR7」においても選択できる、レースゲームのデッドヒートを演出する要素として今も息づいている。

 また、これは特許に絡むことのようだが、コースを複数にしたことで、「通信プレイするときにコースをどれにするか」という決定作業が新たに発生し、中村氏も悩んだという。前述のとおり、通信はすべて相互に等価に接続されているので、ホスト、ローカルの差はない。最終的には、「多数決」を採用した。4コースそれぞれの投票が同じ場合は、ランダムで決定するという仕様になっている。

 このコース選択プロセスにより、プレーヤーの間にちょっとしたコミュニケーションが生まれたという。「このコース遊びたいから選んでくれ」とユーザー同士が声をかけるようになって、ちょっと面白かったという。ゲームセンターに通う動機を、通信プレイができることで共有するという初めての事例が「ファイナルラップ2」だったそうだ。

 この経験が、オンライン対応でゲームを成立させる、ということに集中した「RR6」を経て、「何か別な面白さを与えたい、コミュニケーションの部分で進化させたい」と開発した「RR7」で「協力」という要素を導入することに発展しているという。レースゲームでオンライン、というと、周りはすべて敵というものが多いが、オンラインでハンドルネームしか見えない相手と、チャットを使ってチームを作って遊んで欲しい、という願いから、「RR7」は現在の仕様になったのだ。

 実際に協力プレイを行なっているユーザーの数に関しては、中村氏は把握していないといいつつ、会場で実際に「RR7」をネットワークに接続し、オンラインバトルモードをのぞいてみたところ、ペアバトルのレースを立ち上げているチームが1組あった。

 レース数のピークはやはり夜10時前後だという。コンソールマシンのオンラインソフトとしては、購入動機がパッケージであることはまだ変わっていない。「RR7」でオンラインに接続しているユーザーは、中村氏の感触では購入者の1/3ぐらいじゃないか、ということのようだ。「RR6」よりも「RR7」のほうが若干多い程度と予想しているという。

■ ピーク時は80~90人程度! 多数のスタッフをまとめるには?

オンラインであることを意識させないようにし、不慣れなユーザーにも抵抗感なくプレイしてもらえるように気を配ったという
 「RR7」の開発は「RR6」終了直後からスタートし、開発スタッフはピーク時には80~90人程度になったと中村氏。やはりグラフィックスタッフが5~6割と一番多くなったそうだ。「ファイナルラップ2」のころからすると10倍を超えるところまで大きくなっている。プログラマは全スタッフの3割で、中村氏の開発生活の中でもこの数の多さは初めての経験だったという。毎週進捗報告をさせていたそうだが、1職種だけでも集まる人数が相当数になり、情報を吸い上げて整え、指示を出すというプロセスには気を配ったそうだ。

 「ファイナルラップ」の時は、少人数で同じフロアに全スタッフがいるため、毎日の進捗がお互いにわかりやすかった。しかもイメージの共有もしやすかったと中村氏は言う。

 仕様の決定は基本的に企画スタッフに依頼された。情報は基本的にWebで共有される形式なので、その全容は見えにくかったが、完成後に確認したところ、仕様書は全部で1,000枚を超えていたそうだ(版型はばらばらだったそうだが)。それを1~2カ月で企画スタッフが提出したのだとか。ローンチタイトルとしてスケジュールはタイトなので、要素に応じて取捨選択していき、最終仕様へと煮詰めていった。

 仕様の決定前には、掲示板を作り、仕様としてやりたいことを忌憚なくスタッフに書き込んでもらったそうだが、その数は5,000文字程度になったそうだ。その中での採用率は、製品になったもので1/3程度。まだ残り2/3は実現していないという。今後、そのストックされた企画が日の目を見ることはあるかもしれない。「3作作ってきて、すべてローンチに間に合わせるために、かなりの部分を涙を呑んであきらめている部分がある。この次があるとすれば、スタッフ同士も完成型が共有しやすいし、すばやく取りかかれるだろう」と中村氏は述べた。

 多人数になると難しいのが、「完成型のイメージの共有」だろう。「RR7」チームでは、「可能な限り具体的なものをイメージとして起こし、スタッフに見てもらう」ということと、主要スタッフを集めて定例ミーティングをきちんと行なうといったことを定期的に行なった」という。

 ローンチタイトルということで、やはり付きまとうのは「本当に発売日に間に合うのか?」ということ。「リッジレーサー」シリーズで過去にも2作経験してきた中村氏だが、「RR7」でもやはりドキドキしたそうだ。「ローンチが達成できるかできないか」という結論に達するまでの道のりは無数にある。そこから外れそうになったとき、その原因を攻めるのではなく、気楽にその対応について話し合う余地を残していたそうだ。

■ 「フルHD、1/60描画」をオンラインで実現したのは「CPUパワー」

ダウンロード配信されている追加要素は現在のところは無料
 「RR7」が「フルHD、1/60描画」ということにこだわっていたのは、2006年5月に行なった寺本氏のインタビューでも明らかなとおり。今作はこれをオンラインで、14台同時というレベルで実現した。中村氏も「画面の更新レートは、操作感に大きな影響を及ぼす。フルHDを実現するためにかかるコストと1/60描画を実現するためにかかるコストは相容れないものがある。開発当初は1秒1枚といったレベルからスタートしたが、レンダリングサイズの見直しによるレートの更新があったり、デザイナーからの頂点数の追加要望で逆に描画負担が増えるといったせめぎあいが起こったという。

 その最終的なハンドリングは中村氏によって行なわれたそうだ。それに対して現場のリーダークラスがあきらめないで取り組む、ということが繰り返された。「ローンチを守るなら、(フルHD、1/60描画を守らず)安全な道を行くのがある意味賢い選択かもしれない。それは開発者としては賢い道かもしれないが、ユーザーからみたらそうではない。最終的にフルHD、1/60描画が実現できたのは、東京ゲームショウ2006の1週前ぐらいのことだという(実際にTGS会場でスタッフの方々に聞いたときもそう言っていた)。

 それを実現したのがプログラムリーダーのセンスというか、勘のようなものだったという。「抜け道はあるよ」といった彼の言葉を信じて任せる、最終的にはこれしかない。「実現できて本当によかった」と胸をなでおろしたはいいものの、実はこれだけでは終わらなかった。ある日動いていたものが、作りこみで状況が変化すると動かなくなったりする。「これにはドキドキした」そうだ。

 だからといって、直接鍵を握っているスタッフに「なんで?」と現場に行って聞く、といったやり方はうまくないという。スタッフもがんばっているのだから、責任者に進捗を確認するぐらいでちょうどいいのだそうだ。「信用してるから、任せきる」ということが大事だという。また、「(役職の違いなどあれ)ある視点からはみんなを平等に扱う」ということも重要なのだとか。

 「RR7」チームには、経験豊富なベテランスタッフから、経験の浅い元気なスタッフまで幅広い人材がそろっている。「集中力と瞬発力は若いときにはあったりしますよね。でも、瞬間的な集中力はベテランスタッフのほうがあったりする。そこは幅広くスタッフをバランスよく入れておいたほうがいいと思う」と、独自の理論を述べていた。

 また、冒頭に述べた「オンラインを意識させない作り」として、フルHD、1/60描画をオンラインでも実現することも大切な要素だった。その解決には「PS3のCPUパワー」が重要な鍵を握っていたという。ユーザーの接続環境はまちまち。ゆえに、回線スピードに頼ったネットワーク接続設計ではあっというまにフレームレートが落ちてしまう。このあたりにも昔からローカルとはいえ通信ゲームを手がけてきた旧ナムコの伝統が生きているようで、「通信速度には最初から期待しない」環境を実現することが大事だ、と中村氏は述べた。これに必要なのが「PS3のCPUパワー」というのだが、その具体的なところは企業秘密なのが残念なところだ。

 ネットワークに関する話題としては、現状「ステッカー」や「スペシャルイベント」を無料配信しているが、そのダウンロード数はそれなりの数に上っているようだ。「もうそろそろユーザーさんにお金をいただくシステムも1カ月以内には発表できると思います」というコメントがあったが、これはおそらく、以前から発表のあった「BGMダウンロード配信」だと思われる。どんな楽曲がダウンロードできるのか、楽しみにしたい。

RIDGE RACERTM 7 (C)2006 NAMCO BANDAI Games Inc.

□ブロードバンド推進協議会のホームページ
http://www.bba.or.jp/bba/
□「アジア オンライン ゲームカンファレンス 2007 東京」のページ
http://www.bba.or.jp/AOGC2007/
□バンダイナムコゲームスのホームページ
http://www.bandainamcogames.co.jp/
□関連情報
【1月17日】バンダイナムコゲームス、PS3「リッジレーサー7」
ゲームやアニメとのコラボレーションステッカーを配信
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070117/rr7.htm

(2007年2月23日)

[Reported by 佐伯憲司]



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