|
会場:幕張メッセ
同社の強味は、冒頭でも触れたように、自社でデータセンターを構えるインターネットサービス事業者というところであり、どちらかといえばニッチな市場でなるコアゲーマー向けの北米産MMORPGを、いかにリスクを少なく、いかに安定的長期的な運営が行なえるかという独自の観点からそろばんを弾き、大勝ちするビジネスではなく、絶対負けないビジネスを行なっている。 MMORPGファンからしてみれば、自分が好きなMMORPGを、長期的かつ安定的に運営してくれることが何よりありがたい。同社はまさにそのことにチャレンジしているメーカーであり、“独立系のオンラインゲームパブリッシャー”として今後の展開が大いに期待されるところである。 今回は、さくらインターネットCEOの笹田氏に、TGSでの発表内容をふまえつつ、今後の事業展開について話をお伺いした。前回のインタビューでもそうだったが、笹田氏自身、強烈な洋ゲーファンであり、インタビュー中、企業トップというより、ひとりのゲームファンに相対している気分にさせられたこともしばしばで、話も大いに膨らんだ。
各タイトルの今後の展開についてはもちろんこと、発表会では明らかにされなかったコンシューマ展開や、ビジネスモデル、ローカライズの方針など、気になる話をまとめて伺ってみた。 ■ 「LOTRO」はPS3、Xbox 360にも展開。コンシューマ参入への抱負について
笹田氏: さくらインターネットは、「ダンジョンズ&ドラゴンズ オンライン ストームリーチ(DDO)」が初めてのゲームですので、当然TGSに出展するのも初めての経験でした。色々なスタッフの方に手伝って頂きながら、なんとかやれました。ウチのブースも思った以上に人が来てくれてよかったです。台風がありましたので出足が悪いのではないかと思っていました。 編: 出展の手ごたえは感じられましたか。 笹田氏: 「DDO」のクライアントDVD枚も1万ほど用意していましたが、全然足りませんでしたね。配布物もわざわざ取りに来てくださる方もいました。このままだと初日で無くなりそうだということになり、途中でパンフレットに切り替えたりしました。「DDO」のイベントでは、チャットイベントなども実施しましたが、比較的好意的な意見が多くてよかったなと思いました。 編: 今回「The Lord of the Rings Online(LOTRO)」を発表されました。オンラインゲームビジネスとしても新しいフェイズに入ってきましたが、まずは獲得の経緯から教えてください。 笹田氏: 「DDO」の契約の時から実は「LOTRO」もよろしくというオファーを頂いていまして、今回のタイミングでやっと発表できたという感じです。「DDO」がPC専用のMMORPGだったのに対して、「LOTRO」はPCだけでなく、PS3とXbox 360とコンシューマにも対応します。ウチとしてもはじめてのコンシューマゲームになります。ユーザーの市場も規模も変わると思いますので、楽しみにしています。 編: PCの前提として、PS3やXbox 360はどういった展開を考えているのでしょうか? 笹田氏: コンシューマへの展開は順調にいけば2007年の秋口ですね。PCが2007年春ぐらいになると思いますので、半年くらい遅れてのスタートになるかと思います。PCではプラットフォームメーカーというものが存在しませんが、コンシューマではプラットフォームメーカーとの連動をどうやってうまくとっていくかというのもビジネスとしては新しいチャレンジです。国内ではすでにコンシューマ向けのオンラインゲームはいくつかありますが、まだそれほど多くなく、世界的にもメジャーなタイトルでやらせていただくというのは大きなチャレンジでもありますし、楽しみでもあります。 編: PCとコンシューマの違いでは、日本では流通からして違いますよね。その辺りはどうなのでしょうか。 笹田氏: 今回の「DDO」も流通自体は私共ではなく、色々な会社にご協力頂いてやらせていただいています。「LOTRO」でも同じような体制を取ろうかなと考えています。 編: それでは、コンシューマの運営もさくらインターネットが自社で展開するということでしょうか。 笹田氏: そうですね。今までと同様、全部私共でやります。 編: PC、Xbox 360、PS 3、それぞれが同じサーバーに接続できるのでしょうか。 笹田氏: そうなると思います。今揺れているのが解像度をどのくらいに対応するのかという部分です。コンシューマゲーム機において悩ましいところです。 編: 北米と日本で解像度が違うということになるのでしょうか。 笹田氏: それは同じになりますが、テレビへの入力だとどうしても解像度が限られてしまいますし、その場合「指輪物語」のグラフィックスのイメージも含めてきちんと伝えられるかどうかと。マスを狙うというのであれば、もちろんそちらをとるべきですが、HD対応だけでやろうかとか、その辺りが悩ましくもあり楽しくもあるところですね。 編: HDだけでやるという選択肢は、グラフィックスだけでなく、テキストをいかに読みやすくするかも狙っているのでしょうか。 笹田氏: そうですね。ビジネスとしてみれば、ターゲットユーザーは多ければ多いほどいいです。しかし、ゲームのバランスやユーザーインターフェイスを壊してまで対応するのはいかがなものかと思っています。最悪HD対応ならHD対応のみ、ユーザーインターフェイスをPCと比べても遜色の無いものを提供できればと考えています。 編: 「LOTRO」は今回映像出展のみでしたが、開発状況をお聞かせください。 笹田氏: 現在クローズドβを北米で行なっています。20万人くらいのユーザーが申し込んだようです。日本に関しては第1弾のテキストを頂いて、翻訳作業にかかっている段階です。アメリカが3月から4月くらいに発売で、日本でも4月くらいにはリリースしたいです。他の国も含めて全世界ほぼ同じタイミングで「LOTRO」は出揃うと思います。 編: 全世界とは現状どこの国を指しているのでしょうか。 笹田氏: 北米、ヨーロッパ、中国、日本。今確定しているのは以上と聞いております。中でも日本はプロジェクト自体はもう動き始めています。実際ユーザーの方に遊んで頂けるクローズドβの募集などは年を明けてからになると思います。 編: 北米のMMORPGですと、最近では「DAOC」が事実上の撤退をされました。 スクウェア・エニックスが「EverQuest II」の自社運営から手を引いたあとも依然として厳しい状況が続いているように思います。しかし、さくらさんは、また新たに北米のMMORPGを展開されるということで、嬉しいと感じる一方で、難しいのではないかと。どのような勝算をお持ちですか? 笹田氏: 「DDO」をやらせて頂いて、そういった意味で自信は持ちました。多くのユーザーさんに遊んで頂ける手ごたえは感じました。グラフィックも「DDO」は本格的なアメリカゲームのグラフィックでしたが、「LOTRO」は日本のコンシューマに近いグラフィックで展開されています。「DDO」はアクション性の高いゲームですが、「LOTRO」は俗に言うMMORPGといえ、ターゲットは広いゲームなのかなと思っています。 編: 「LOTRO」は映画、小説等を通じて知名度の高いコンテンツですが、ゲームとしては非常に濃い印象です。これを日本のライトユーザーにいかに遊ばせるかという計画はお持ちですか。 笹田氏: ライトユーザーが多いといっても、日本では例えば「ファイナルファンタジー」シリーズのように重厚なロールプレイングでも遊んで頂ける市場なのかなと考えています。逆に親しんで頂きやすいタイトルになるのかなと考えています。今回コンシューマも対応できますので、PS 2やXbox 360でRPGを遊んでいるユーザーにも遊んで頂けるのではないかと思います。 編: 今回初のマルチプラットフォームタイトルの提供になりますが、ビジネスモデルはどのようにお考えでしょうか。 笹田氏: 当社としてはQA(品質管理)をするハードが1種類もしくは2種類増えましたという話です。それ以外に大きな当社の対応としては変わりません。もちろんPRの仕方など、マスが相手なので、そうしたコストの面で変わってくるとは思います。 編: 個々のプラットフォーム別にビジネスモデルを変えるお考えは無いのでしょうか? 笹田氏: ありません。ただ、たとえば、今回「DDO」でもクライアントはダウンロードしてゲームされる方が多かったのですが、他のプラットフォームでもそれができるかというのはプラットフォームを提供してくださる会社とのご相談になるかと思います。 編: PS3はそうしたことをやっていきそうですが、その場合PS3ではダウンロード販売とパッケージ販売の両方を行なうのでしょうか。 笹田氏: そうですね。今回「DDO」でもパッケージとダウンロード両方やらせて頂きましたが、できることなら同じような形で進めたいと考えています。 編: コンシューマへの展開というのは結構大きなトピックだと思うのですが、それほど意識していないということでしょうか。 笹田氏: 意識していないといえばウソになりますが、今までやってきたことをより多くのプラットフォームで提供するという感覚で、現状はもっています。 編: PS 3初のMMORPGをさくらインターネットが提供することになるかもしれません。 笹田氏: 色々なお話があるみたいですが、比較的早い段階での提供にはなると思います。家でパソコンを使ってゲームをやるユーザーと、コンシューマでゲームをやるユーザーとでは圧倒的に後者が多いですので、ゲームユーザーという意味では認知度を高められるのではないかと思います。「『DDO』もやらないの?」という話はありますが。 編: ほうほう、「DDO」のコンシューマへの展開ですか。 笹田氏: はい。そうです。CEOのJeffやTurbine自体も日本次第よ、という感じなのですよ。 編: それはつまり、日本でのXbox 360の売れ行き次第という話でしょうか? 笹田氏: いえ(笑)、単純にさくらインターネットがコスト負担するかどうかです。今回イベントでは水谷さくらちゃんをお呼びしました。ゲームパッドでプレイしていただいたのですが、最初キーボードでやってもらおうとしていたときは大変そうでした。しかし、ゲームパッドのプレイではほとんど問題なく、逆にうますぎて他の人が代わりに操作しているのではないかと疑われるぐらいに慣れて頂きました。「DDO」もそこさえ対応できるのであれば、コンシューマゲーム機の対応はできるのではないかと考えています。 編: なるほど。MMORPGをゲームパッドでやることに関しては、笹田さん自身あまり違和感は無いのでしょうか。 笹田氏: 正直なところ、実は厳しいかなと自分では思っていました。しかし実際やってみるとかなりいけるのです。ほとんどゲームとして不便の無いレベルで遊べるので、テキストチャットやコマンドを入れるときくらい以外はキーボードを使わなくて済みます。ボイスチャットをしている分にはほとんどパッドだけでできてしまうので、このレベルで遊べるのであれば色々なユーザーをターゲットできるのかなと思います。コンシューマゲームを遊ばれている方も求められるのかなと思います。 編: 「ファンタシースターオンライン」や「ファイナルファンタジー XI」、「信長の野望 Online」など国産のオンラインゲームは、どれもゲームパッド対応ですよね。そういう意味では日本の方がむしろリーチできそうな雰囲気もありますよね。 笹田氏: そういうイメージは持っていますね。水谷さくらさんがうまいので、なんでそんなにうまいのと尋ねたら、「バイオハザード」をやっていたと。キャラクタをパッドで動かすならいけますと。逆にキーボードのWASDで動かすのは慣れるのに時間がかかると(笑)。慣れてしまえばキーボードでのプレイが効率的だと思うのですが、ゲームパッドも入り口としては非常に良いのではないかと思っています。PC版「LOTRO」もゲームパッドに対応する予定です。
■ 「LOTRO」のビジネスモデルとアップデート計画。北米に翻訳専門会社を設立
笹田氏: 月額のみです。アップデートについては基本的には無料にやりたいと思います。 編: 拡張ディスク等のアップデートについてはどのような計画を立てていますか? 笹田氏: Turbineは、他のゲームメーカーと比べてアップデートに力を入れているメーカーでして、「DDO」も2ヶ月に1回くらい追加のアップデートがされています。僕らが聞いてないよというくらいの勢いでそうした拡張をしてくる会社でして、「LOTRO」も同じようにどんどん拡張パックを追加していくというのを考えているようですね。 編: 月額課金で拡張ディスク的コンテンツを無料で配信するとなりますと、ビジネス的には非常に厳しいのではないかと思ってしまうのですが、その辺りはいかがですか。 笹田氏: さくらインターネットがやっていることは翻訳作業ですから、ゲーム本編と同じくらいテキストが増えるなら別ですが、新しいクラスが導入されたというだけでは翻訳はあまり必要ありません。 編: しかし、「LOTRO」が始まっても「DDO」も継続していくわけですから、翻訳作業も倍になりますよね。 笹田氏: そのためにさくらインターネットUSAという形でゲームの翻訳専門の会社を7月末にアメリカに立ち上げました。「DDO」と「LOTRO」それぞれに専任のヘッドの担当を用意しまして、今後も他のタイトルができれば専任の担当を用意して、1人が全部を総括して見る形を取りたいと思います。 編: 「DDO」の初期に翻訳の内容に関して、一部「おや?」と感じる部分がありました。そのあたりは今後どうなっていくのでしょうか。 笹田氏: 実は今までの翻訳作業は、単語を1個1個翻訳する形でやっていて、文章になっていないのです。しかも、この文章がどこで使われるのかもわからないのです。1つの文章として、対応しているものの単語を1つ変わると、全部が変わってしまいます。英語とドイツ語ならいいのかもしれませんが、日本語は困りますよね。前後の文脈もありますし、男性女性の話し方もありますし、目上の人のしゃべりかたやゴブリンの話し方でも変わります。 しかし、日本では使い分けるのはあたりまえではないですか。あなた、おまえ、おんどれ(笑)と。これがアメリカではYouはYouだろうと。IはIだしと。この違いが分かっていただけなくて、これらを1つ1つTurbineさんと話し合いながら変更を進めてきました。例えばアイテム名だと、英語の対訳表に対してうちが日本語を入れるとゲームに入れてくれます。それが、今度はやっと誰が誰に対してしゃべっているかが分かる形で、全体の翻訳ができるようになりました。今度韓国でも展開されますよね。韓国語も日本語と同じく目上の人とのしゃべり方が変わるということがあります。11月に追加予定のモジュール3からやっと私共が要望していた、どのNPCが誰に向かってしゃべっている言葉なのかというのが分かった上での翻訳ができるようになります。 編: 「Ever Quest 2」などに比べると意外にレガシーな翻訳システムですね。 笹田氏: 2バイト対応は元々していたのですが、単語レベルなので、単純に対訳表通りに翻訳すると、そのまま同一の訳を生成して文章を作ってしまい、文章全体でわけが分からなくなってしまいます。 編: 「LOTRO」では最初からそういった機能が搭載されているということですか。 笹田氏: そうですね。「DDO」はルールブックというお手本がありますが、一方「LOTRO」はトールキン側から、誰がしゃべっているのかというのに対してセリフのチェックが入るらしく、今回はどのクエストで誰が誰にしゃべっているのかがテキストレベルではっきりしています。「指輪物語」ではドワーフやエルフは、同じ地名でも言い方が違うなど、そうしたことを向こう側から指摘されたみたいです。「DDO」もやっと手探りで1個変えてみてゲームに入れてみてということをやっていたのですが、モジュール3からやっと全体を見ながら翻訳ができるようになりました。 編: 「LOTRO」は、原作小説「指輪物語」をベースにしたオンラインゲームですが、魅力は何だと思いますか? 笹田氏: 「Ever Quest」や「ファイナルファンタジー」のような一般的なMMORPGとして想像されるタイトルの中でも、PvP、PvE共に非常によく作りこまれたゲームだと思います。「DAOC」はPvPは面白いのですが、そこにたどり着くまでのPvEの単純作業がつまらない。逆にPvEが面白いけどPvPが無いなどいろいろなオンラインゲームがあります。 今回「LOTRO」は、PvEだけを見ても非常にレベルの高いゲームで、PvPも善側と悪側にわかれて戦うので非常に面白いです。グラフィカルにPvPでの戦力が自分たちのキャラクタに影響してきます。例えば、イビル側が勝っているときはグッド側のキャラクタの画面がたまにぼやけたりですとか、体力がちょっと減ったりとかですね。逆になりますとこちら側が健康になって、イビル側が弱くなったりします。 編: PvEのクォリティが高いというのはパーティプレイが良く作られているということでしょうか。 笹田氏: 例えばパーティのクラス構成によって、特定のクラス同士で連携技が可能といったギミックが実装されています。それから、トールキンの世界を壊さないように気を使っています。トールキンの世界ではWizardは世界に7人しかいない存在です。Wizardという一種の生き物ですから、Wizardという職業は使えない。では他のクラスはこんなものが使えるというのが非常によく考えて作られています。 編: 基本的なゲームデザインはパーティプレイが主体となるのでしょうか? 笹田氏: 今回のゲームはソロでも十分にキャラクタを育てられるシステムになっています。パーティプレイでも遊んでもらいたいとは思いますが、ソロプレイでもレベルが最後まで上げることも不可能ではないと聞いています。ほとんどのクエストも「DDO」のようにソロでの対応もされています。 編: PvPにおける善と悪の構図は、「LOTRO」らしい要素ですよね。 笹田氏: まず善の側に人が多いと思いますが、イビル側は操れるモンスター種族の選択肢の多さだと思いますね。トロール、ウルクハイム、オウガーなど一般的なモンスターに限らず、例えばスパイダーのような非常に多くのイビル側がモンスターを選んでPvPをすることができるというのが面白みの1つだと思います。 編: 映画版の大規模戦闘をある程度期待してもいいのでしょうか。 笹田氏: 何百対何百ではなく、数十対数十の戦いになると思います。なんで映画のような大規模戦闘にしないのということについては、僕も「Planet Side」や「DAOC」をやって思いますが、数百対数百になるとゲームとしてあまり面白くないという状況があります。圧倒的な戦力差がついたりして俗にザーグと呼ばれるような状況になることが多いので、ある程度人数をそろえて戦わせるというフェアなPvPをするためのモデルなのではないかなと僕なりに想像しています。 編: 「LOTRO」というとバトル色の強いMMORPGになりそうですが、それ以外の生産要素なども気になります。 笹田氏: 生産も上位クラスを含めて用意されていますので、戦い以外で生活したいという方にも十分に遊んで頂ける仕組みになっていると思います。ベースの生産クラスを選んで、さらに2つ以上を取得することでさらに上位の生産クラスを選ぶことができます。複数のスキルを組み合わせた一種の複合生産物が作れるようです。 編: 街の風景ではどういった生活が繰り広げられているのでしょうか。 笹田氏: ガンダルフが街頭に立っている街もありますし、単にクエストを受けるだけではなく、人と話をしたり物を売ったり買ったり、オークションハウスもありますので、自分のものを売ったり買ったりと、いろんなプレイスタイルを楽しめるのではないのでしょうか。 編: 善悪いずれでプレイするにしても「LOTRO」の世界はすごく広いですよね。何を指標にプレイすればいいのか、とっかかりがつかめない気がしますが。実際どういうゲームプレイが繰り広げられるのでしょう。 笹田氏: 例えば善のプレーヤーでは、みんながガンダルフになるのではなく、世界を救おうとしている一行を手助けするなど、周りにあるサイドストーリーを楽しむことができます。小説の中でしか出てこないキャラクタや設定集の中にしかないような世界が繰り広げられることもあります。映画は「指輪物語」の最後の数十年を描いているので、歴史としてはそれ以前に数千年のストーリーがあります。古い部分のクエストもできたりします。 編: 時代はかなり過去からスタートするのでしょうか。 笹田氏: 過去から続くところからスタートします。このクエストをやったので、例えばこんなモンスターが実は生まれたのですというバックストーリーを理解しながら、小説をもっと理解できる、映画をもっと理解できるようになります。映画でどうしてこの人がこんなセリフを言ったのかというバックグラウンドを理解しながらクエストを進めていくことになります。 編: ゲーム理解促進のためにも映画や小説はタイアップしておきたいところですよね。 笹田氏: こればっかりはうちがしたいのでよろしくというわけにはいかないので、これからのご相談になりますね。ただ、逆に言うと、このゲームをちゃんとクエストをクリアしながら進めて頂くと、後で小説を読むときや、映画見るときにもっと面白いものになると思います。 小説は賛否両論ありますが、なんというか少ししんどいですよね(笑)。私はしんどいと感じますが、小説でも熱狂していらっしゃる方たちがいますよね。小説をものすごく何回も理解されている方達で、バックストーリー用の資料を読んで、これはこうだったのかと理解しながらやるのですが、それって相当マニアでないとできないですよね。それがゲームで普通にクエストをこなしたり、レベルアップしていったりという生活の中で理解できるとすれば、小説や映画を理解する上でも非常に役立ちますし、ゲームをやっていただいてから小説を読むと、結構読みやすくなると思います。 編: 両方からアプローチをかけたいというところでしょうか。 笹田氏: そうですね。もちろん最初は小説を読んだ人の方が多いと思います。でも、映画全部で12時間くらいあるので見ていない、小説も分厚いので読んでいない、設定資料集なんて見てもいないけど、「指輪物語」という名前だけは知っているよという方は多いと思うのですよね。ゲームのシステムと面白そうだということで入っていただいて、そちらの方にも興味を持って頂くというのも流れとしてはアリかなと思っています。 編: ガンダルフ級の有名NPCがゲーム内に登場し、周辺でかかわりをもっていくということですが、インスタンスで彼らに同行するといったシナリオは無いのでしょうか。 笹田氏: 同行は無いですね。彼らに頼まれて、自分たちがどこどこに行っている間にやってくるだろう人たちを阻止してくれとか、どこどこに行きたいけど通れないので基地を壊してくれ、何々といったアイテムを取ってくれといった部分の協力になります。 編: 時間軸としては物語が進行中の状態なのでしょうか。 笹田氏: 少なくともクローズドβの段階では、歩いている一行の側を一緒に歩くといったことはできないです。 編: MMOでは時間軸を動かすというのは非常に難しいですが、「指輪物語」のライブ感はどのあたりで出していくのでしょう? 笹田氏: レベルがあがっていくことにいける場所も広がっていきます。レベルが上がっていくと、小説の中の中盤のガンダルフに出会えるという形ですね。キャラクタの中で時間が進行していく形になります。僕も聞いたのですが、最後ソロモンと戦ってしまったらどうなるの、指輪を投げ込んでしまったらどうなるのと。そしたら時間軸がもっと前の部分のクエストができたり、数千年の歴史すべてを生きていくことができるので、指輪の創生に携わるようなクエストができたり、時間軸を考えた展開にしていくつもりだと言っていました。 編: それでは時間軸をきっちり設定して、小説通りに進めていくのではなくて、時空を超えて世界を飛び回ってしまうような感じでしょうか。 笹田氏: 小説の世界の時間軸は確実に進んでいきますので、その中で色々なサイドストーリーが楽しめる形だと思います。 編: 例えば新しい拡張データを入れたら、まったくの過去の時代のコンテンツが詰まってたということもありえるということでしょうか? 笹田氏: ありえると思います。 編: 「DDO」とも共通する質問ですが、コアな洋ゲーファンに対するアピールは比較的容易だと思うんですが、それ以外のライトユーザーにアピールする施策としてどのようなことをお考えでしょうか? 笹田氏: 今回の「DDO」はダウンロード型モデルとしてうまくいきました。パッケージを買いに行かなくても2週間遊べるというのは結構ユーザーさんにも評価を得まして、逆にそれで「さくらインターネットお金大丈夫?」といわれたくらいですので、今回コンシューマの方にも、ダウンロードではなくてある一定のレベルまで遊べるパッケージを皆さんにお配りする形ですとか、まずは遊んで頂くところがスタートかなと思っています。
■ 「DDO」の今後の展開について。池田秀一ナレーションを皮切りに、新しい層の獲得を狙う
笹田氏: ハハハハ。忙しくてまだ触ってないですが、おかげさまで今回の「DDO」は海外で評価が高く、日本でこんなモデルやっているというのをTurbineさんが吹いてくれたようで、海外系の会社さんからはかなりのお話を頂きました。向こうからして見れば海外進出がリスク無くできたよと。結構多くのMMOの会社さんからお話を頂いているのは事実ですね。 編: 今後は海外ゲームにこだわったオンラインゲームパブリッシャーとしてやっていくのでしょうか? 笹田氏: 日本の会社さんからもたくさんお話を頂いているのですが、日本のゲーム会社は、パブリッシャーとしては自社でやるから運営をお願いしますという話が多いです。海外のメーカーさんからお話が来るのは、日本語訳してパブリッシャーもやってくださいという内容です。そういう話が来ているのは事実ですね。ですから、海外のゲームをパブリッシングさせていただく場合の方が多くなるのではないかなと思います。 編: ただ、「DDO」の発表会の際、10万人くらいという数字を出されていましたが、現状はまだそれに届いていませんね。 笹田氏: そうですね。このまま順調に推移すれば2、3万人というユーザー数は獲得できるかなという見通しです。10万人はあくまで目標の数字で、元々3万人から5万人ユーザーが取れればというところでしたので、ターゲットラインとしては分岐点を達成して、十分いい形でできたと思います。 編: ビジネスとしては成立しているのでしょうか? 笹田氏: ダウンロードを利用されるユーザーさんが多い中、パッケージも1万本以上出たので、PCゲームとしては売れた方かなと思います。 編: 今後の戦略を聞かせてください。 笹田氏: 1つはローカライズで唯一残っていたナレーションの吹き替えをTurbineから承諾を得まして、日本だけのオリジナルアップデートとして、切り替えで対処することになりました。切り替えにしたのは、英語で楽しみたい人のための配慮です。コンシューマから来た方からすると、逆に「何でここは字幕なの?」となってしまうので、若干クライアントのサイズは大きくなりますが、日本語、英語、両方のナレーションに対応することにしました。 編: 日本語のナレーターに池田秀一さんを登用することで、新しい層のユーザーが入ってきそうですね。新しい層に対する施策はどういったことを考えていますか? 笹田氏: 「DDO」は2週間無料で遊べるのが売りですので、池田秀一さんの声を聞いてみたいだけの方でも、実際に遊んでみて「面白い!!」と思っていただけるかもしれない。我々としてはそこで「面白い」と思っていただける試みをやっていきたいと思います。 あとはやはりブログとか、フォーラムをオープンすることができましたので、それらをうまく使ってユーザーさんに入る前にコミュニケーションをとって貰えるといいと思います。もちろん見ず知らずの人といきなり組むのもありだと思いますし、ゆっくりやろうよというギルドや、ブログでそうしたことを書いている人同士で遊んで頂くのもいいと思います。 またTurbineのほうでも今後は「LFG」や「LFM」のほかにロビーのようなツールを提供して、ユーザー間のグルーピングやコミュニケーションをゲームの中でも取れるようにします。ブログや掲示板はうちが組めるシステムですが、ゲームの中のシステムはうちでは組めないので、そういった機能などもTurbineで考えてくれています。 それから、僕も昨日会場で初めてJeffとユーザー参加型のイベントをやりまして、そこで初めてOKを貰えた話なのですが、ユーザーからもクエストを募集して実装するのはOKという話になりました。皆さんからクエストを皆さんから募集してTurbineにあげて、本当に実装するということが実際にできればなと思っています。 編: D&Dというのは、もともとそういう創作の世界ですから、たくさん応募がありそうですね。 笹田氏: 「DDO」をやっている人にとってみれば、自分が今まで作った奴をゲームでできれば嬉しいですよね。そうした意味でテーブルトーク層も引き込めることだと思います。後は「顔」ですね。エルフの女以外は年齢層が30代から40代になっています。私は構わないのですが、20代前半のユーザーの方にしてみると、キャラクタが自分より年上の感じがする顔だとイマイチ育てる気持ちがわかないわけです。自分より下か同じくらいのキャラクタで、もう少し目元のシワの少ないヒューマンとか用意してよと。これについては前向きに検討していただけるとのことです。また、日本人なら誰もが感じるヘルメットがダサいことですとか。装備しているヘルメットを出さないコマンドは実装されるらしいです。 編: ブログやフォーラムの実装に関してユーザーの反応はいかがですか。 笹田氏: ブログはあり得ないくらい書かれています。既に1万を軽く越えてブログが立ち上がっている状況です。3万人のユーザーの中で、ブログの利用者が1万人を越えているのは通常だとあり得ないですよね。 我々はレンタルサーバーでホームページを提供するサービスの中でもブログサービスを提供しているのですが、そこでも1割いってないですからね。ですから、登録ユーザーの1割くらいがブログを書いてくれれば、大当たりだと思っていました。それが3割4割いましたので、そんなにブログ書く人がいたのかと驚きました。 編: ブログはどういう使われ方をしているのでしょうか。 笹田氏: 1つは攻略系ですね。「DDO」はキャラメイキングが複雑で奥が深いので、「こんなキャラメイクしたのだけどどう?」、という内容が多いですね。後は俗に言うプレイ日記が圧倒的に多いです。 編: 今後の機能拡充はどういったものが予定されているのでしょうか。 笹田氏: モジュール2を21日に導入して、2カ月前後くらいに11月中にモジュール3が実装されます。そこではPvPが実装されます。「DDO」に関してはPvPが非常にマッチした感じです。アクション性が高いですので、PvPが非常にやりやすいです。最大でもパーティ対パーティのトーナメントなのですが、これはイベントに向いてるなと。なんなら笹田を倒してみようといったイベントもいいかなと思ってたりします(笑)。 編: ブログが人気で、かつ今後ロビーが追加されるということですが、コミュニケーション機能が足りないという認識は、ユーザー、開発の双方にあったのですね。 笹田氏: そうですね。今のLFG、LFMのインターフェイスにも修正が入ると言っていました。もっと使いやすいインターフェイスになるとのことです。例えば、LFGでパーティに入りたいと希望を出している人はいるのですが、ここに行きたいのでパーティ募集しますという人があまりいないのです。ですからLFG同士を勝手にマッチングするとか、自分が入れるパーティ一覧、フィルタリングやソートの仕方など、新しい仕組みを導入する必要があるのかなと思います。 編: 最後にユーザーさんにメッセージをお願いします。 笹田氏: さくらインターネットという聞きなじみのない会社がやっているので、不安がられるかもしれませんが、社内一同本気でやっています。無料で遊べますので、まずは試していただいて、色々遊んで頂ければと思います。
編: ありがとうございました。 (2006年9月27日) [Reported by 中村聖司]
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|