|
会場:幕張メッセ
今年は、「ビジネスモデルの多様化が進むオンライン市場~次世代の主流となる収益構造を探る~」と題し、NHN Japan代表取締役社長千良鉉氏、コーエーオンラインゲーム担当執行役員松原健二氏、ガンホー・オンライン・エンターテイメント代表取締役社長森下一喜氏の3名が、明日のオンラインゲーム市場を占って見せた。
■ ガンホーが「北斗の拳 Online」が初公開。「グランディアオンライン」は年内は厳しいか
今年は、タイトルだけで内容を予想すると、「次世代オンラインゲームにおけるビジネスモデルは何か」を語るセッションのような印象を受けるが、実際の話の流れは、オンラインゲームコンテンツそのものではなく、オンラインゲームビジネスにおける新たな収益源として注目されるゲームポータルの次の一手を占う内容だった。 3人のリレートークの後に行なわれたパネルディスカッションでは、国内最大手のゲームポータル「Hangame」を擁するNHN Japanと、それを追撃するコーエー、ガンホーの2社というわかりやすい構図に無理に押し込めようとするあまり、モデレータが期待したほど話が弾まなかった印象があるが、3人の話そのものは大変おもしろかった。日本のゲームポータルビジネスは、累計会員数1,800万人、ユニークユーザー数60万人、同時接続者数12万人を誇るHangameの独走態勢にある。ガンホー(ガンホーゲームズ、150万人)、コーエー(GAMECITY、100万人)を同じ土俵に載せるのはまだ早いというより、やや無理がある。 ワクにぴったりはまり、話に勢いを感じさせたのは、8月よりゲームポータル「ガンホーゲームズ」の正式サービスを開始したガンホーの森下氏ぐらいだろうか。ゲームポータルという自社単独での囲い込みにこだわらず、純粋にコンテンツ一本で勝負し続けているコーエーの松原氏はいささかやりにくそうだったのが印象的だった。 当セッションで発表された大きなトピックとしては、ガンホー森下氏が、「今年は出展していないので、ここで少し宣伝させていただきますが」と切り出した「北斗の拳 Online」と「グランディアオンライン」の2本の新作情報だ。「北斗の拳 Online」は、開発中の画面を初公開し、すでに開発が追い込み段階に入っていることを報告。正式タイトルも確定し、予定通り年内にサービスインを見込んでいることを明らかにした。 「北斗の拳 Online」は、漫画「北斗の拳」をモチーフにしたMMORPG。2005年6月に正式発表され、「北斗の拳」の著作権管理会社であるノース・スターズ・ピクチャーズ(NSP)の監修の元、子会社ゲームアーツで開発が進められている。プレーヤーは、ケンシロウを初めとした「北斗の拳」のヒーロー達と共に、世紀末を生きるひとりの人間として、核戦争によって荒廃した未来世界を生き抜く。 具体的なゲーム内容についてはあらためてプレス発表会で明らかにされる見込みだが、「北斗の拳」の世界観に即した形で、既存のオンラインゲームの文法とは異なる新機軸をいくつか盛り込むという。また、ビジネスモデルも新しいスタイルのハイブリッド課金を想定しているという。 一方、「グランディアオンライン」については、「年内サービス予定」から、「年内サービスを予定しているが、できるだけ早い段階で」と今年冒頭の発表からトーンダウン。「不正対策やビジネスモデル、グラフィックスなどの部分で苦労を重ねているのは事実」ということで、年内サービスインは厳しい状況を暗に示した。 ただ、業界的に年々βテストの実施期間が短縮傾向にあり、発表会から数カ月で正式サービスがスタートするケースも珍しくなくなっている。その意味では、9月までに動きがないから年内は無理と決めつけるのは早計だが、自社で2つのコンテンツを同時にリリースするのは得策とは言えない。予測としては「北斗の拳 Online」が年内に先行リリースされ、「グランディアオンライン」が年明け以降ということになりそうだ。 それでは以下、3人の講演内容の概略をまとめておきたい。
■ 多様化するオンラインゲームのビジネスモデル。大手各社はどう対応していくのか?
NHNのビジネスモデルは非常にシンプルで、ゲームサービス、コミュニティサービス、アバターサービスの3つのコンテンツをシームレスに繋ぎ、自然な循環環境を実現する中で、ユーザーが自発的に付加価値としての部分有料コンテンツに手を出す仕組みを作り上げている。ユーザーは、NHNの各コンテンツサービスを循環する中で、自身の楽しさに比例した部分課金を行なう。仕組みとしては単純だが、このビジネスはいまだに他社がまねすらできない部分でもある。 NHNグループのおもしろさは、韓国、日本、中国、アメリカといった各エリアで、Hangame(国によって多少呼称が異なる)という同じゲームポータルを展開しながら、エリアごとに中身が異なるというビジネスモデルだ。千氏は、ビジネスの成功の秘訣として「国ごとの文化や国民性を研究し、理解した上で、趣味嗜好に合わせたコンテンツサービスを提供すること」を挙げたが、非常に説得力がある発言である。 講演を聴いているとNHNの強さは、千氏個人のリーダーシップに依存する部分が大きいことを実感させられる。日本での生活経験を活かし日本文化の理解した上で、経験実績共に豊富な韓国のオンラインゲームビジネスのノウハウを持ち込み、カルチャライズした上でサービスを展開するところなどはその最たるものだ。 発言の端々には、韓国本社をライバル視しているような雰囲気も伺え、妙な形ながら非常にいいシナジーが生まれている。千氏は次の一手として「ファミスタオンライン」に代表される日本大手とのコラボレーションを強調。ゲームポータルという枠では、「当分NHNの牙城は崩れそうにない」というのが率直な感想である。 2番手に登壇したコーエー松原氏は、オンラインゲームの課金モデルの変化に着目。2004年と2005年のデータを比較し、クライアント無料、アイテム有料のアイテム課金タイトルが300%成長を記録する一方で、従来のクライアント有料、サービス定額の月額課金制も200%近い成長を遂げていることを挙げ、アイテム課金制のカジュアルゲームが新しいトレンドとして急成長を遂げつつある中で、月額制も増えてきており、オンラインゲーム市場全体が順調に成長しつつある状況を報告。 続いて松原氏は、アイテム課金と月額制の客単価が3倍(4,483円と1338円)近い差になっている状況をデータしめしながら紹介した。「実質的にはゼロサムゲームのようなことになっている」と厳しい見解を示しつつ、今後の予測について「ビジネスモデルが変わったからといって、客単価がいきなり3倍になるというのは考えにくい。いくらになるという予測は難しいが、最終的にはフラットになるのではないか」と、アイテム課金の客単価の高騰はあくまで一時的なものという見解を示した。 松原氏は、大事なのはターゲット層に応じた課金バランスが今後重要になってくるとし、具体例としては、ターゲットマーケティングによる少数ユーザーに向けた高額サービスも出てくるのではないかと予測した。 その例の逆を行くのが、コーエーの最新作「真・三國無双BB」で、マスマーケティングによる月額課金+従量課金のハイブリッド課金を採用する。ハイブリッドのため、一見、客単価は跳ね上がりそうだが、月額課金は低額に抑える方針で、従量部分は1セッション(1戦闘)単位となる。逆に言うと、ユーザー間のコミュニケーションだけなら低額に抑えられる。Yahoo!BB限定+ハイスペックPC必須という外部要因のハードルが高いのがネックだが、ビジネスモデルそのものは、NHNと同様、ゲームプレイの循環の中で、自発的な課金を促す性質であり、ユーザーがどう評価するかが注目される。 最後に登壇したガンホー森下氏は、自社コンテンツ「エミル・クロニクル・オンライン(ECO)」を例に、収益構造の多様化と、今後の可能性について言及。ECOの収益モデルは、月額課金収入に加えて、パッケージ、アイテムチケット、キャラクタ商品、携帯版、海外展開のロイヤリティなどが挙げられる。今後はこれらに加え、ECOのゲーム内映画館などを例にゲーム内広告の可能性について言及。ただし、その実装には、「ユーザーが嫌悪感を抱かないかが重要。必然的に広告を出せるセグメントは絞られるのではないか」と慎重な構えを見せた。 次世代のビジネスモデルでは、欧米におけるFPSとMODコミュニティを原型とした、ユーザー主導型の「エリア」ビジネスを提案。FPSのように、コンテンツ制作を促進する開発ツールを無償提供し、メーカーが提供するコンテンツと、ユーザーが提供するコンテンツが共存するオンラインゲームコンテンツの可能性を描いて見せた。 「自社でこれをやるという話ではなく、あくまで可能性として」ということだが、こうした「Second Life」型のRMT前提の“オンラインエンターテインメント”が、日本でも経営者レベルで想定され、そしてセッションの話題に上るような時代になったということが非常に興味深い。日本のオンラインゲーム業界が着実に前進しつつあることが確認できたセッションだった。
□CESAのホームページ (2006年9月22日) [Reported by 中村聖司]
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|