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会場:昭和女子大学
遠藤氏は2002年にCEDECで「携帯アプリとゲームデザインについて」という講演を行なっている。今回の講演はそれから4年たった現在のハードの進化、そしてそれに合わせ遠藤氏が制作したタイトルを説明していくスタイルとなった。遠藤氏の発想力のすごさ、そしてゲームに対する取り組みが伝わる講演となった。
■ ハードの進化に合わせてチャレンジをし続ける、遠藤氏のアイデアと“想い”
また、携帯電話でゲームをプレイする“インターフェイス”は様々な方法が試みられてきた。片手で操作するもの、両手で操作するもの、ボタンの配置を工夫しよりよいプレイスタイルを模索してきた。「未だに携帯電話のことをわかっていないゲームクリエーターの中には、“携帯電話を横にしてプレイすればいいじゃないか”という人がいますが、携帯は普通に縦にもつのが一番プレイしやすいですよ」と遠藤氏は語る。 海外では両手持ち、国内では片手持ちが主流だ。片手持ちだともう一方の手で吊革につかまりながらゲームをプレイすることも可能だ。また、片手操作に合わせてシューティングなら攻撃が自動化されるなど、独自のアレンジも発達してきた。レトロゲームやコンシューマのゲームの移植やオリジナルゲームが人気だが、ゲームを買って満足してしまい、ほとんど遊ばないというユーザーもいる。携帯電話のゲームユーザーは、コンシューマや携帯ゲームとはまた違ったライトなユーザーに拡大しつつあるという。 ここから遠藤氏は実際に手がけたタイトルを1つ1つ説明していく。画像データをリアルタイムに生成するパズル「CreateImage」。表示能力の向上により文字を読ませることが可能になり、ストーリー性を高くしたRPG「DTシリーズ」。ネット対戦によりカードを奪い合う“アンティ戦”を取り入れたカードゲーム「どーぶつパズル5」。このゲームは「レアカードを使って自慢したい、だけど取られたくない」というジレンマが楽しい。ただ、アンティ戦はシビアすぎるとのことで最新作ではこの機能は削除されているそうだ。 3Dグラフィックスへのチャレンジも行なっている。「スノーボード」ではボードのみをポリゴンで表現、スクロールしていくハーフパイプでぐりぐりとボードを動かすのが楽しい作品だ。アクションとしての楽しさの追求は「サーフィンスピリット」そしてフルポリゴンとなった「ハーフパイプR」へと受け継がれていく。 この他にも遠藤氏は様々な試みを積極的に行なっていく。ボタンのみで操作できるシューティングゲーム「占いバキューン」では、レアモンスターを出すといったアイデアもプラスしている。流行を先取りした知育ゲーム「右脳パラダイス」。より美しいグラフィックスや、サウンド機能を得た携帯電話向けに、自宅で音楽を聴きながらプレイする「Ride on beat」。「愛と労働の日々」、「ラブナックル」はユニークな感性を持ったクリエーターを発掘したタイトルだ。 「携帯電話のゲームを作ってると、キャバクラでもてるんです。その場で、俺、ゲーム作ってるんだといって見せられる。中には『やったことあるー』なんていう娘もいて……」遠藤氏はジョークを交えながら様々なタイトルを語っていく。その豊富なアイデアには驚かされる。すべてのタイトルでアイデア的、技術的に新しいチャレンジをしていくのだ。
■ 新しいゲーム人口の獲得を。より広いジャンルへ発展していくコンテンツ
「ケシタイル」は遠藤氏の自信作のパズルゲーム。落ちものパズルゲームでありながら、制限時間をなくし、タイルを消すことで上からタイルが降ってくるようになっている。ゲームをやめられず電車を乗り過ごすことがないように、いつでもゲームを中断し、また再開できるようにしたのだ。 ライトユーザーを意識したタイトルを出す一方、ゲームをたっぷり遊ぶヘビーユーザーに向けて本格的なタイトルも制作している。「ウィザードリー」を彷彿とさせる3Dダンジョンを探索するRPG「ネザードメイン」。携帯電話で本格的なサッカーゲームが楽しめる「レインボーストライカー」。モノポリー系のボードゲーム「ケータイ社長」。そしてハイエンド機を対象にした地形を含めてすべてを3D化した「パラグライダー」。水しぶきを美しく再現した「スプラッシュレーサー」。 特にレインボーストライカーは開発に1年をかけて制作したこだわりのタイトルで、あえて2Dグラフィックスを採用し、広い範囲を見渡せるようにした。キャラクタがボールに追いついたとき右に蹴るか、左に蹴るかを支持するという大胆な操作性を採用し、チャンスになるとセンタリングかシュートを行なうことができる。携帯アプリで1年をかけるというのは非常に贅沢なことで、遠藤氏は「それが許される環境にあること」に感謝しているという。一般のメーカーでは2~3カ月でタイトルを作り発表しなくては、開発とのコストが折り合わないという。 ゲームエンジンを流用することで制作費を安くすることも可能だ。この場合は、訴求力のあるキャラクタを被せることでヒットすることもある。しかし、安易にデータを流用しては、キャラクタとの整合性に齟齬が生じる場合もある。キャラクタをどう活かすか、それを突き詰めるゲームデザインも必要になる。 質疑応答では、遠藤氏は「なぜ携帯電話にこだわっているのか」、という質問に「別にこだわっていない」と答えた。力を入れている理由は、携帯電話は「新しいゲームハードになる」という予感、そして何よりも「携帯電話で初めてゲームに触れる」というユーザーが誕生する可能性だという。世界を見渡してみても、ゲームをプレイする女性は少ない。しかし日本では、小さい頃にお兄ちゃんとゲームをしたことがあったり、「たまごっち」を遊んでいたというような女性も多い。携帯電話は、そういった女性が手軽に遊ぶことができるゲームハードだ。「少しでもゲーム人口そのものを増やしたいんです」と熱を込めて遠藤氏は語った。 「自分の子供に自分のゲームを遊んでもらうのは特別なことだ」と遠藤氏は付け加える。「自分のゲームを遊んでいる自分の子供の顔が、どれほど自分にクリエィティビリティーをもたらすかを体験して欲しい」という開発者へのメッセージで遠藤氏は講演を終えた。 遠藤氏は、ゲーム創生期からの「第一世代」のゲームクリエーターだということを強く感じた。ゲームが好きで、あこがれてゲームを作る第2世代のクリエーターにはない「枠」を越えた発想が遠藤氏にはあると思う。筆者自身はゲームであることにこだわり、ゲームの持つ面白さを突き詰めるような作品が好きだし、高評価を与えたがるが、遠藤氏のような自由な発想を持ったクリエーターが変わらず自由な方向性を提示してくれていることはとても心強いと思う。
今回CEDECのいくつもの講演を受講してみて感じたことは、「ゲームを作るには、ユーザーを楽しませるにはどうすればいいか」を追求し続けるクリエーターの強い信念である。けっして内面の問いにとどまらず、エンターテイメントを追求し、実験し続けている人々が、知識を共有すべくその経験を語ってくれるカンファレンスはメディアとしても非常に勉強になった。現場にいる開発者はなおのことだと思う。様々な異なる開発者の言葉に触れた開発者達が、それをどう受け止め、発展させていくかは興味がある。こういった場はこれからもどんどん発展していって欲しいと強く感じた。
□CESAのホームページ (2006年9月2日) [Reported by 勝田哲也]
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