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会場:昭和女子大学
■ ツールからチート対策まで「ファンタシースターユニバース」はこうしてつくられた
「ファンタシースターユニバース」(以下、「PSU」)はセガのオンラインゲーム「ファンタシースターオンライン」(「PSO」)シリーズの最新作。アクション要素の強いMOタイプのゲームで、他のネットワークゲームとはひと味違うゲーム性を持っているため、シリーズファンの注目度も高い。今作では「ストーリーモード」と「ネットワークモード」の2つのモードを搭載している。 オンラインプレイだけでなく、主人公の少年「イーサン」が宇宙を駆けめぐり成長していくという従来にはないストーリーを楽しめる要素を取り入れている。ネットワークモードもこれまでの4人パーティーから6人パーティーでのプレイが可能になり、自分だけのプライベートエリア(マイルーム)でアイテムの売買が可能になるなど様々な点でパワーアップを果たしている。 両氏は「PSU」の概略を説明した後、最大80名の開発員を必要としたことや、ストーリーモードのボリュームやネットワークモードでのバグに苦しめられたこと、PCとPS2、Xbox 360の3つのハードに対応するために苦労したことなどを語った。また、開発には効率を上げるために様々な手法、ツールを取り入れた事を説明。プロジェクト全体はalien brainを使い、開発用のデータベースに各部署がアクセスできるようにし、デザイナーのアイディアに各部署が気軽に感想を書き込めるようにした。 デザイナーは3D STUDIO MAXで3Dグラフィックスを描き出しモデリング効率をアップ、プログラマーはIncrediBuildでそれぞれのPCをつなげることでコンパイル作業の負荷を分散させた。この他自社ツールなど積極的に使い効率化に努めた。ネットワークの負荷テストには「ダミークライアント」を作成し、10台のPCそれぞれに500人分のアクセスデータを出力させテストを行なったという。 初代「PSO」が発売されてから、「PSU」まで5年、ハード、そして家庭のインフラは驚くべきスピードで進化している。DC向けソフトとして開発された「PSO」はサーバー&クライアント同士はP2Pでデータを交換するというハイブリット型で、セーブデータはクライアント側で対応している。これはナローバンドを想定していたことも大きい。しかしクライアントに依存したデータ管理は多くのチートを許してしまった。その後セガはシリーズをいくつか発売し、「ファンタシースターオンライン ブルーバースト」ではチート対策に重点を置いたシステム構築を行なった。 「PSU」はさらに進化したハード、インフラに対応し、MMOシステムの安定性を重視、ゲーム内での判定をサーバーで処理し、エネミーとプレーヤーの位置判定や行動レスポンスを向上させた。またパブリックエリアではパケットを少なくし、パーティーを組んで冒険をするときはリアルタイム性を追求。ゲームサーバーを分割して処理を軽くさせると共に、ハッキング対策を行なうなど、様々な視点からレスポンスの良さと、システムの堅牢さを実現させるための試みを行なった。 続いて紹介されたのが「チートの手法と、対策」である。コンシューマゲームでのチートツール「プロアクションリプレイ」のメモリ帯域へのチート監視や、チートの検出、今後の法整備への期待などが話された。PCはハッカーも多く、手口も様々だ。プログラムファイルであるEXEファイルを書き換えられないための暗号化は、自社のツールでは難しい、ファイル名そのものにも暗号化が必要、偽中継サーバーを使うことで送受信するデーターを改変するという方式まで開発されている。 また、昨今のMMORPGプレーヤー、開発者を悩ませているBOT、ネットカフェに勝手に機器を接続しキーボードの入力データを盗み出す「キーローガー」、さらに中国や韓国で頻発しているという噂もある「サーバー窃盗」。中国で「PSO」のサービスを行なっていた提携メーカーが倒産した際、ユーザーのデータの入っているサーバーを差し押さえられてしまったこともあるという。 オンラインゲームは常にチートの危険にさらされており、対策には非常に労力がかかる。そしてそれはチートをしようとする人達とのいたちごっこに終始してしまう。制作側はチート対策を考えゲームをデザインし、プログラムを組んでいかなくてはならない。 今回、セガが開発現場のツールや、チートの実例、そしてそれを対策するための手法を紹介したことは、これからオンラインゲームを制作しよう、興味を持っているという受講者に大きな刺激になったように思える。また、情報を公開することで積極的に情報を共有し、対策を行なっていかなくてはゲームそのものを破壊するチート行為に対して対応できない、というような危機感も感じられた。
オンラインゲームはまだ生まれたばかりの新しいジャンルで、行政も対応しきれていない部分がある。そして現在運営されているネットゲームの多くも本当の意味での真偽はまだ明らかになっていないが、BOTなどチート問題に関するユーザーの疑惑、問題意識は強い。問題を積極的に提示してくれたことで、開発者、ユーザーの議論が更に活発になることを期待したい。
■ ファンの心をつかみ、連携コンテンツも盛況の「テイルズ オブ モバイル」
「テイルズ オブ モバイル」は2004年2月よりスタートしたナムコ(現バンダイナムコゲームス)のRPG「テイルズ」シリーズファンサイトである。対応機種がFOMA90Xiシリーズ専用になっており、月額利用料は525円。さまざまなクイズやRPGなどのゲームコンテンツ、待ち受け画像、着メロ、さらにメールマガジンなどをサービスしている。 高性能な端末を対象にしたサービス、比較的高い月額利用料、こういった「ハードル」は従来の「テイルズ」シリーズが想定している高校生などの若年性ユーザーとは相容れない要素である。しかし、郷田氏は“ハイクオリティ”をサイトのセールスポイントにすることで、かつて「テイルズ」シリーズをプレイしていたようなユーザーも視野に入れたサイトとして設定した。 端末の高性能によって、遊びごたえのあるコンテンツを多く取りそろえ、さらに「テイルズ オブ モバイル」専用の主題歌をタイアップによりアピールした。特に力を入れたのがRPGコンテンツである。このコンテンツはコンシューマの移植ではなく、オリジナルで、1作目は従来の「テイルズ」シリーズにはいなかった“女性主人公”を登場させ、2作目の「テイルズ オブ コモンズ」ではオリエンタルな世界観を持たせた。3作目の「テイルズ オブ ヴァールハイト」では、毎月ストーリーが追加される作品としてリリースされた。 ファンサイトとして、ゲーム内に入っていたミニゲームを移植したり、特別な壁紙を用意するなど基本的な要素も多く取りそろえたが、特にオリジナル要素が高く評価された。サイトを運営していく内に「コンシューマゲームと連動したコンテンツが欲しい」、「モバイルオリジナルのキャラクタをコンシューマで登場させて欲しい」など、“連動”を望む声が高くなっていった。そして当時制作中であったシリーズ最新作「テイルズ オブ ジ アビス」において、この要素を実現することになったという。 「テイルズ オブ ジ アビス」(以下、「アビス」)のディレクターをつとめた樋口氏は最初、この連動には消極的な気持ちが強かったという。「アビス」は開発の最初から連動を考えたものではなく、開発中のコンテンツに連動要素を追加しなくてはならなかったからだ。しかしサイトに寄せられるユーザーの声にも応えるために、3つのコンテンツを作り出した。 「テイルズ オブ モバイル」のコンテンツでは、「アビス」のマスコットキャラクタ「ミュウ」を主人公にした。1つ目はミュウが活躍するアクションRPG「ミュウの大冒険」。2つ目がアイテムの検索やゲーム内での“料理”のレシピや材料の組み合わせを実験できる「ミュウのじっけんしつ?」。そして3つ目が、この世界のオリジナルの文字である“ファニック語”を翻訳することができる「ミュウのフォニック語事典」である。 「ミュウの大冒険」ではゲームを進めることで「アビス」のゲーム内アイテムを入手できる。「アビス」の世界のエッセンスを再現するため、ゲームの雰囲気を大事にしたという。樋口氏はキャリア、ハードが限られている本作と「アビス」の関係の上で、影響が大きすぎないことも考えたという。入手できるものをあえてアイテムに限定したり、アプリとの連動回数の上限を設定した。これは少し厳しすぎたかも、という反省もあるようで、携帯コンテンツと何処まで連携するかのバランスは今後も模索していくという。 また、「アビス」のクリアタイムランキングや、ゲーム内のみにゲームのスコアランキングにも「テイルズ オブ モバイル」は対応している。連携コンテンツは2005年12月にスタートしたが、現在でもコンテンツはダウンロードされ、ランキングは更新されている。 2005年のTGSでは「テイルズ オブ モバイル」を出展したNTTドコモブースはかなりの盛況となった。リリース直前の「テイルズ オブ コモンズ」はプレイ待ちの行列ができ、あわてて試遊台を増やしたが、それでも1時間待ちの行列が続いたという。この時、ゲームをプレイするとQRコードが表示され、専用壁紙がゲットできるという「アビス」の体験版も制作されたのだが、バンダイナムコブースには設置されず、ドコモブースに1台だけしか置かれなかった。対応しているハードの少なさ、何よりもモバイルコンテンツの理解が得られなかった事が原因だという。 「私自身、モバイルの仕事をする前は『携帯電話でゲームしても……』という意識がありました」と郷田氏は語る。ゲーム開発者の中にはまだまだ携帯コンテンツの可能性、連携することのメリットに気付いていない開発者も多いという。樋口氏は「アビス」ではパスワードといういささか古い技術でのデータ交換しかできなかったが、今後はデータベースの共有や連携するゲームと目的を同じにするようなゲーム性を持ったコンテンツも作りたいとコメントした。これからの「テイルズ」シリーズには“連携”ははずせない要素になりそうだ。
昨今、携帯電話でゲームをプレイするユーザーは大きく増加している。ハードの進化により、コンテンツの表現力も大きく増した。ファンが訪れ、そしてオリジナルの楽しさを見出す「テイルズ オブ モバイル」はコンシューマゲームの人気にも大きく貢献する可能性を提示した。ゲーム本編とも、PCで接続するwebサイトとはまた違ったファンとの交流を携帯コンテンツは可能にしてくれるのだ。
□CESAのホームページ (2006年8月30日) [Reported by 勝田哲也]
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