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会場:Los Angeles Convention Center
「ゲーム機はスペックか否か」という議論は常に次世代機登場の折りに話題になるが、少なくとも、PS3はいわゆる次世代機の中では最高スペックを凝縮することを半ば公約にしてきただけに、3Dゲームファン、3Dテクノロジーマニアのいずれの視点から見てもそのスペックの動向は気になるものである。
今回のE3において、幸運にも、SCE、コーポレート・エグゼクティブ、ソフトウェア・プラットフォーム開発本部、本部長、兼ネットワークシステム開発部 部長 川西 泉氏へのインタビューの機会が得られたので、この最終スペック表に関連したことを中心に聞いてみた。
■ 映像出力機能~HDMI端子は上位モデルにしか搭載されない 当初、PS3は「デュアルハイビジョン(HD)画面出力が可能」とされていた。しかし、発表された最終スペックではこの点についての言及が無くなっており、映像出力端子については下位モデルにはHDMI端子はなく、上位モデルにもHDMI端子が1基しか搭載されないことになった。 下位モデルの映像出力はPS2と同じ、AVマルチ端子のみとなってしまっている。下位モデルのHD出力はどうなるのか。結論から言えば、下位モデルではHDMI端子が搭載されないことからデジタルHD出力は行なえない。ただし、AVマルチ端子はアナログのコンポーネントビデオ信号は出力されるのでアナログでのHD出力はサポートされる。いわゆるD3、D4、D5といった解像度のアナログ出力はサポートされるのだ。
上位モデルでは、HDMI端子とAVマルチ端子の両端子が実装されるのでデジタルHD出力とアナログHD出力の両方がサポートされる。なお、上位モデルに搭載されるHDMI端子は「次世代HDMIへの対応も可能」という但し書きがあり、RGB各10ビット以上(10/12/16ビットの規格を予定)のハイダイナミックレンジカラー/ハイデフカラーのサポートをうたうものだ(現行HDMIはRGB各8ビット)。
「ベースシステム」という表現にピンときた読者も少なくないだろう。現時点では、あまり、大きく報道されていないが、実はPS3はこれまでのゲーム機とは違って「PS3」という唯一のハードウェアで終始するのではなくて、「PS3プラットフォーム」という大きな枠組みの中で順次進化していくことになっている。2006年11月に発売されるPS3は、このPS3プラットフォームにおける「2つのコンフィギュレーション」という位置づけに過ぎない。ハードウェア面でバリエーション展開することは「今後あり得る」というわけで、その中でHDMI×2はあり得るというわけだ。 上位モデルの方はHDMIとAVマルチの二系統の画面出力端子を物理的に持つので、上位モデルに限っては、当初の予定通り、デュアルHD画面出力が可能なのだろうか。 「2画面出力は可能です。ただし、今の時点では異なる画面を2つ出すということが、ユーザーにとってどのくらいメリットになるのか不明だったこともあって、現状ではHDMIからとAVマルチからは同じ映像が出力される仕様になっています。ハードウェアスペックと商品仕様とでは違うということになります」(川西氏)
つまり、ハードウェア的には異なる2画面を出力可能だが、現時点では同一画面を出力することしかサポートしないということになる。 ■ ハイデフ実現にPS3のグラフィックスサブシステムは十分なのか 本連載「西川善司の3Dゲームファンのための次世代機ハイデフ講座」にて問題として提起した「次世代ゲーム機でも1,920x1,080ドット(1080p)のフルハイビジョン出力は帯域的に厳しいものがあるのではないか」という点について、SCE側としてはどのように考えているのだろうか。 「全てのゲームスタジオにとってPS3というハードウェアが新しいものでありますし、ハイビジョン(HD)というものも未体験のものになりますから“易しくはない課題”だとは思います。ただし、今回、コンセプト展示している『グランツーリスモHD』は1,080pで出していますし、やってできなくはないと思っていますし、実際にできると思っています。まぁ、帯域は広い方がいいのはわかり切っていますし、この点については今改めて議論しても仕方ないのかなという気はしています。PS2も最初はビデオメモリが少ないと言われましたが、その中で成熟期には素晴らしい映像を出すものが続々出てきましたし、あまり気にしてはいませんね」(川西氏) 筆者的には「グランツーリスモHD」はジオメトリ解像度が上がり、テクスチャ解像度が上がった「GT4」という感じで捉えており、セクシーなシェーダーはほとんど動いている様子もないし、「1,080pの60fpsのコンセプト展示」の、それ以上でもそれ以下でもないという印象を持った。しかし、川西氏の言うように、最終的に登場するだろうPS3における「グランツーリスモ」は、今回のコンセプトバージョンとは比べものにならないくらいのハイクオリティなビジュアルになっているとは思う。それが果たして1,080pでなのか、あるいは720p以下になってのことなのかはわからない。 マイクロソフトは各ゲームスタジオに対し例外を認めつつも「Xbox 360のゲームグラフィックスは720pで2マルチサンプル。アンチエイリアス処理(2×MSAA)で出力されるべきである」というガイドラインを出しているがPS3ではどうなのだろうか。 「レンダリング解像度については1,080p(1,920x1,080ドット)、720p(1,280x720ドット)のいずれかを奨励しています。ガイドラインについては厳格なものはありませんが、いちおう1,080pをお勧めはしています。現時点では1,080p表示が可能なテレビはハイエンド機に限られていますが、いずれ1,080pが主流になるはずです。そうなったときにはやはり1,080pで表示されていないと、なんで1,080pの映像じゃないんだろう、っていうことになってくると思うんです。逆に言えば、どの解像度を選択するかはそのタイトルが登場する時にどの解像度のテレビが主流なのかということと密接に関わってくると思います。」(川西氏) 前回の「西川善司の3Dゲームファンのための次世代機ハイデフ講座」のラストで紹介した、とある開発者が語っていた「無意味な高解像度化よりも、1ピクセルに込める情報量を増やすべき」という方向性の次世代ゲームグラフィックスについてSCEはどう考えているのだろう?
「ええ。その方向性は全然ありだと思います。かつてPS2時代の初期、とかくポリゴン数だけに固執した風潮がありました。これを乗り越えた先に、トータルなビジュアルとして完成度の高いものが登場してきました。これは丁度今回の次世代ゲーム機における“ハイデフへのこだわり”に似ているかもしれません。その意味では、各タイトルが求めるビジュアルが単なる解像度ではなく、別なものであるのであればそれはそれでありだと思います。……ただ、SDだとこまるかなぁ(笑)」(川西氏) ■ ネットワーク機能~ギガビット・イーサネットポートが1系統に? 2005年までのスペックではギガビット・イーサネットは3ポートサポートされる予定であったが、最終スペックでは1ポートに留まることとなった。もともと3ポートは、PS3のCPUであるCELLプロセッサを利用した分散コンピューティング構想実現のために実装される予定であったわけだが、ネットワークポートは上位モデル、下位モデルの双方で1ポートの実装に留まった。 「これもHDMIの話と一緒ですね。2006年に登場する最初のPS3のコンフィギュレーションでは、ギガビットイーサポートは1基です……というだけです。将来モデルで必要なときには必要個数分だけ付けられます(笑)」(川西氏) 無線LAN機能についても、上位モデルのみでサポートされる。5月8日のプレスカンファレンスではF1ゲームのバックミラー映像を無線LANで飛ばし、PSPで表示するというアイディアのデモンストレーションがあったが、ああした遊びは無線LANが搭載されない下位モデルでは提供されないのであろうか。
「PSPとの接続性については、無線LAN経由でもOKですし、USBを利用することでも行なえますが、具体的にどんな活用がなされるかが完全には見えていないので今の時点では何とも言えないです。たとえばPS3側に蓄積した映像コンテンツをPSP側からロケーションフリーのプレーヤー的に再生する場合などは無線LAN経由の方が便利で手軽でしょうね」(川西氏) ■ PS3はゲーム機ではなく汎用コンピュータである
まずはハードスペックではなくコンセプト面において、PS3はこれまでのゲーム機と何がどう違うのかを川西氏に聞いてみた。 「PS2も含めて、これまでのゲーム機は、ゲームディスクにOSからドライバにいたるまでが入れられていました。これはそのゲームプラットフォームが生き続ける間、そのゲーム機のハードウェア仕様を変更しないというコンセプトがあったからです。ところがPS3では、ハードウェア仕様が時代の要求に従って変わることを許容します。つまり、PS3ではOSやドライバがPS3本体側にプリインストールされており、まずはこれが起動して、そのハードウェアの違いを吸収する役割を果たすことになります。つまり、非常に、現在のPCの姿に似ていることになります」(川西氏) ソフトウェアは、ディスク起動だけでなく、SDカードスロットやメモリースティックスロットからもインストールや起動が可能になる。こうしたソフトウェアはゲームスタジオによって制作されたものだけでなく、個人が制作したものの実行も許容される。 「PS3ではLinuxを搭載する予定ですので、Linuxプログラミングの活動が認められます。裾野の広いプログラミング環境を提供する……というのは面白いことだと思うんです。プレイステーションの時にも様々なクリエイターを発掘しましたが、PS3でもいろんな方々がクリエイターとなってデジタルコンテンツを作って頂きたいというのがあります。ライセンス契約をしているゲームスタジオ以外の個人の方でもPS3のコンテンツクリエイションに参加して欲しいと思いますね」(川西氏) PS3というエコシステムを考えたときに、ゲームスタジオはやはりこれまで通りPS3をゲーム機として、ライセンス料を支払ってゲーム開発に参加する。では、そうした個人開発者達はどういった形でPS3のソフトウェア開発に参加すればいいのだろうか。 「そうした個人の開発者に対してライセンス料を要求する……というのはLinuxワールドではちょっとあり得にくいですね(笑)。ライセンス締結したゲームスタジオがPS3のゲーム開発を行なう場合は、SCE側から開発に必要なツールやライブラリといったSDKライブラリが提供されますし、さまざまなテクニカルサポートも行なわれます。これに対して、PS3をLinuxワールドで利用するという場合には、ライセンス料などの要求もされないかわりに、そうしたツールやSDKなどのサポートは最低限になりますから、自分たちでいろんなことを解決していかなければならないという、いろんな意味での制約というのはあると思います」(川西氏) Linuxプログラミングがある程度DIYの世界であることはわかるが、CELLプロセッサに内蔵されるSIMD型ベクトルRISCプロセッサであるSPE(Synergistic Processor Element)の活用などは、システム側のサポートがないと難しいといえるが……。 「Linuxベースでも、CELLプロセッサに関しては、OS側のスーパーバイザーのハードウェアのレイヤーの管理下にはなると思うんですが、SPEなんかも含めて開放できると思っています。ただ、ゲームプラットフォームとしてのPS3のビジネスと、Linuxワールドの中のPS3というのを融合させるようなつもりはないですね」(川西氏) ということは、PS3をかなり強力な汎用コンピュータして活用できることになり、そうなれば、PS3を“プレイステーション”ではなく“ワークステーション”としての価値を見出す使い方も出てくることだろう。 たとえばだが、HDVカメラなどで撮影したHD動画像を編集したり、H.264にトランスコードしたり……といった処理は現在のWindowsベースのPCでも相当ハイスペックなマシンでないと時間が掛かるやっかいな作業だ。PS3であれば、CELLプロセッサのパワーを活用することで、かなりこうした処理を効率よく実行できそうに思える。実際、そういう活用が見出せたときには、6~7万円という本体価格は決して高くないようにも思えてくる。 PS3では「ゲームではないソフトウェアの台頭」……、もっといえば「実用ソフトウェアの台頭」がありうるのだろうか。 「PS3はどこまで行っても“プレイステーション”です。ですが、コンピュータエンターテインメントというくくりで考えれば、PS3に提供されるべきものが必ずしもゲームである必要はないともいえます。そうなったときにはWindows PCに代表されるパソコンと競合してくるんじゃないかな、とは思いますね」(川西氏) 今回はそういったPS3に対するノンゲームソフトウェアの可能性については全く示唆されなかったわけだが、これはどういうことなのだろうか。
「それは、なにしろ、このイベントがE3ですからねぇ(笑)」(川西氏) ■ PS3に必要なもの~それは「Office for PS3」!? 今、既にPS2で満足しているカジュアルゲームユーザー層にとって、“ゲーム機として”見たPS3はとんでもなく高価なものに思えるはずだし、購入したいと思う人は少ないかもしれない。BDプレーヤーとしての価値も見出せるが、現行DVDで大半の一般ユーザーが満足している現状において、その訴求だけでPS3の価値を見出すのは正直、苦しい。 しかし、汎用コンピュータとして活用できる……と認識できたときには、PS3は一瞬にして違ったものに見えてくることだろう。6~7万円という価格も、むしろ安いと思えるようになるかもしれない。 たとえばだが、PS3に表計算ソフトやワープロソフトが同梱されたオフィススイートソフトや、HDV編集ソフトやフォトレタッチソフトのような、実用ソフトがリリースされれば、10万円以上するハイエンドスペックのデスクトップパソコンよりは確実に安く思えてくるだろう。 「何を馬鹿なことを」といわれそうだが、今回の一連の川西氏のコメントを拡大解釈すればその可能性はまったく否定されない。 実際、PS3は実用レベルの1,920x1,080ドットの映像が出せるので、コンピュータとしての使い勝手も平均的なデスクトップPCの同等以上だ。表計算やワープロといった実用ソフトは完全実用レベルで使えるはずだ。もっとも、テレビをディスプレイのように間近で見る習慣がないのでその部分は何かしらの工夫が必要かもしれないが。 今回のPS3のライバルは、Xbox 360でもWiiでもなく、Windows PCということであれば、6万円超の価格もまったく違和感がない。 とはいえ、SCEとしては、「PS3はゲーム機を超えた汎用コンピュータである」というこのメッセージをどうやって伝えるか……ここが最大の課題となりそうな気がする。
一番の早道はマイクロソフトに「Office for PS3」を作ってもらうことだが……、まぁ、それは……「ソニック」や「バーチャファイター」がPS2で動いたあのときよりも実現は難しそうだが……。 (2006年5月11日) [Reported by トライゼット西川善司]
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