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モバイル&ゲームスタジオ 遠藤雅伸氏インタビュー(前編)
'80年代を代表するクリエイターがモバイルゲームに見る夢

4月5日収録

会場:モバイル&ゲームスタジオ本社

 3月にサンノゼで開催されたGame Developers Conferenceでは、420以上ものセッションを通じてさまざまな「What's Next」が提案され、世界中のクリエイターにとって大きな手応えと少々の課題を実感させる収穫の多いイベントになった。

 GDCの話題の中心はなんといっても次世代機関連の最新テクノロジー動向だが、その派手さゆえ、あまり目立たないものの実は爆発的に伸びているのがモバイルゲーム市場である。既報のようにモバイルゲーム関連のセッション数も年々倍増傾向にあり、Microsoftは今回のGDCで、PCからモバイルまで全プラットフォームにOSとゲームコンテンツ、そして開発環境を提供していく方針を明らかにしている。ゲームデベロッパーも、プラットフォームやインターフェイスレベルから、来るべきモバイルゲーム時代のメインストリームを目指して鎬を削っている状態である。モバイルゲームは、次世代機と並んで非常にホットな市場のひとつといっても過言ではない。

 モバイル関連のホットな話題が続出したGDC期間中、株式会社アイ・エム・ジェイ(IMJ)からモバイルゲームをテーマにしたインタビューの打診を頂いた。インタビューに答えるのは、IMJの子会社モバイル&ゲームスタジオ(MGS)代表取締役会長の遠藤雅伸氏。「ゼビウス」、「ドルアーガの塔」によってゲーム史に不滅の名を刻んだ、日本を代表するゲームデザイナーのひとりである。最近は「ファイナルファンタジー XII」をプレイし、「毎晩オープニングを見て寝る」、「クリアするのが惜しい」というほどの現役ゲーマーでもある。

 メインテーマはMGSが3月16日から正式サービスを開始したモバイルゲームブランド「ゲームの神様」についてだが、モバイルゲーム全体、ゲーム市場全体など、大枠の部分の話も伺っている。また、遠藤氏の圧倒的なパーソナリティに押されて、常時話がわき道にそれがちだが、実はゲーム開発の本道に立ち返る話が多く、特にインターフェイスに直結した手触りレベルでのゲーム開発に常時強い関心を持っていることに強く興味をひかれた。前後編の長いインタビューだが、大胆な提言、見解が盛りだくさんなので、ぜひ最後まで読んでみていただきたい。


■ 携帯電話をゲームに初めて触れる人のためのゲームプラットフォームに

モバイル&ゲームスタジオ代表取締役会長の遠藤雅伸氏
いきなり女声をまねて「ごめーん、待った?」と寸劇を始める遠藤氏。実際にどう使うかを常にリアルに考えているようだ
編: まず、モバイル&ゲームスタジオの業務内容を教えてください。

遠藤氏: モバイル&ゲームスタジオは、僕がナムコを出てから始めたゲームスタジオというゲーム会社と、IMJ、IMJエンタテインメントという3社で始めた会社なんです。

 ゲームスタジオという会社は、アーケードから始めて、コンシューマ系としてファミコン、スーパーファミコン、サターンやプレイステーション向けのタイトルを手がけてきました。少数精鋭で良いゲームを追求していこうという形だったのですが、ある時点で任天堂さんとマリーガルマネージメントで組むようになってから、作家性という部分とビジネスという部分の中で、少数精鋭ではカバーできない部分をどうやって今後様変わりしていくゲーム作りの中でキープしていくかを真面目にやり始めました。

 マリーガルマネージメントでゲームスタジオのマネージャーをやっていたのが今の社長の三木(裕明 代表取締役社長)なんですけれども、その時に一緒にやれればいいよねって言っていました。ゲームスタジオという会社自体は、僕が経営をやっていたのですが、大変経営状態がよろしくなかった。火の車のような状態でした(笑)。しかし、人材は豊富だったので若手に経営を任せて立て直しました。

 2001年からiアプリが始まりますが、「“ゲームを初めてプレイする人”にゲームは楽しいものでなくてはならないということをまじめに考えていくのであれば、その人達が初めて触れるゲーム機というのは携帯電話になるんじゃないか」という考えのもとに、iアプリのサービスが開始する前からモバイルコンテンツの開発を手がけました。

 先行者のメリットもあって、今のところはかなり業界でも上位の方で作品も作れるようになっています。そんな中で、「モバイルだけでもいけるんじゃないかね」ということで、新会社を作ろうかという話になって親会社のIMJの方からも「それ、商売になるんちゃう? もっと大掛かりにやろうや」ということになってMGS(モバイルゲームスタジオ)という会社を始めました。

 形としては“モバイル”がついていますが、携帯向けにこだわらずゲーム全般をやっていく。モバイルに関しては業界でもトップレベルの開発力を持っていますから、その流れでやっていこうかなという感じですね。まあ、ゲームスタジオと名前がかぶっているので、そういう意味で遠藤がやっている会社とわかりやすい部分があるのかなと。

編: なるほど。ただ、遠藤さんのこれまでの実績を考えると、携帯プラットフォームに注力するというのは意外でした。

遠藤氏: '80年代のゲーム作りというのは「自分が作りたいものを作る」という、一部マスターベーション的な作り方をしていたわけなんですが、'90年代には資本を投下して宣伝とかしながら大量に売って回収する“ハリウッド型”ともいえる大きなビジネスモデルでゲームを作ろうというのが出てきます。それが現状のハードの性能の向上によって行き詰まり感がある中で、初めてゲームをプレイする人は、“どこから”ゲームを始めればいいのかよくわからないという状況に繋がる。僕的には作品の作り方の質の転換というのはやっぱりあるわけです。

 たとえば、ゲームというのは“ひな人形”と同じ存在になったかなと。要するに子供が生まれてある一定の年齢になると「そろそろゲームでも」といった感じで、誰でも通過するもの、特殊なものではなくなったという意味で、初めてプレイするゲームというのはどのようなものが良いのか。我々としては今後それを真面目に考えていく必要がある。

 かつて「マイファーストソニー」というのがあったじゃないですか、あれと同じように「マイファーストゲーム」というのを考えるようになって、その時にきちんと遊んでもらえるものを出したいなと思うわけです。その中でライトユーザーなり女性層なりを考えて、「じゃあ女性はどうすればゲームをやってくれるのか」というのをまじめに考えると、“日本の女性は決してゲームをやらない訳じゃなくて、ゲームをやる素養は持っている”というところに気がつくわけです。

 それは、「たまごっち」の大ヒットであったり、女子高生の「ミニテトリス」ブームが証明していますよね。わざわざ家に帰って、変な機械をつないで、暗い中でゲームをやりたくないだけなんですよ。ゲームは嫌いじゃないんだけど、その“わざわざ感”が嫌だったら、ひょっとして携帯にアプリが載ったら、メール打つ時間が終わった時にもう少し時間があったらプレイするような提案ができるんじゃないか。彼女たちが本質的にゲームが嫌いじゃないんだったら、我々としてもアピールできることはあるんじゃないかなと。

 たとえば、待ち合わせの時に「ごめーん、待った?」、「ちょっと待って、今これクリアしちゃうから」、「何やってるの?」、「ゲーム、ゲーム」、「そんなのあるんだ、面白そうだね」となるかもしれないなと(笑)。それは今よりもずっとライトなユーザーだったりという部分に着目して、アプリが始まってからそちらの方向性を掘ってきたわけです。

編: 最初に遠藤さんが携帯コンテンツをやると聞いた時に、それは21世紀の「ドルアーガの塔」だったり、「ゼビウス」なのかな、と思ったのですが。

遠藤氏: 後ろは向かないです。

編: そうではなく、遠藤さんなりの21世紀の「たまごっち」を提案したいということでしょうか。

遠藤氏: そうですね。

編: そうなると携帯の特徴である女性層が多いとか、ワンハンドインターフェイスとか、そういったところも当然意識した上で制作なさっているわけですか?

遠藤氏: そうです。ワンハンドインターフェイスは一番最初に気がついて2002年くらいのCEDECでワンハンドで携帯のゲームは作ろうというテーマで講演をしています。当時auが携帯電話にゲームのコントローラのようなものを取り付けるようなアイデアがあって、私は「こんなのはいけない、絶対そうはならない!」と確信していました。両手で持ちはない、十字キーと下のボタンを使いわけるようなのもないと、そういう判断に当時すでに到達していました。それからMGSでは頑なにワンハンドでやり続けてきています。

 いまでも両手で遊ばせるモバイルゲームはありますが、やっているとだんだんゲームを遊んでいるのが面倒くさくなってくるんですよ。最近だと特にひどいのはPSPですね。電源入れて立ち上がるまで時間がかかって、思わず待っている間に電源を切ってしまう。


■ 「“ゲーム”という言葉に捕らわれないようなインタラクティブなものがやりたい」

編: そういう意味では、現状のニンテンドーDSの大ムーブメントはどう捉えていますか?

DS向けの自信作という「スタイルブック」を見せながら説明する遠藤氏
「スタイルブック」はソフトとポーチが異なる3種類が用意されている
遠藤氏: DSは出た最初から「これ面白いよね」と思っていました。我々もライトユーザーなり初めて遊ぶ人なりを意識しながら企画を練っていて、つい先日3月23日にウチのDS第1作となる「スタイルブック」という作品をバンダイさんを通して出しました。

 これがまたゲームとはほど遠いもので(笑)、小学生女子向けのソフトでどちらかというと“DSのポーチ”にソフトがついてくるみたいな感じのものです。バンダイさんもこちらの意図をわかってくれて、企画を持って行った段階で「これは面白いよ! 売れる売れないじゃなくてこういうものを作らなきゃダメなんだ」と本腰を入れてくれて、3種類出しましょうと。とんとん拍子に話が進みました。

 ソフトと、ポーチです。(ポーチを開けて)この中にDSが入るんです。タッチペンを挟めたりとか、操作しやすくしていたりとか、アドバンス用のポケットもついていたりとか……。

編: これも遠藤さんがプロデュースなさったんですか。

遠藤氏: いえ、これは今までのゲームを作っているプロデューサーじゃ絶対ダメだということで「たまごっち」を作っている女性プロデューサーをつけてくれました。その人が企画書を見た途端に、「これは私も欲しいから」と本腰を入れて、すぐに中国で試作品作ってくれて、それで大ウケでこのまま行きましょうという形になりました。

 3種類というのもバンダイさんの提案でソフト互換で各々通信でデータのやりとりができるというような形で、簡単に言えば、DSを電子手帳として使って、今の若い女の子達がやっているようなSNSやブログだったり、スケジュール帳だったりするようなことを全部DSでやろうと。インターネットではなく自分たちのコミュニティーで日記の交換などを自動ですれ違い通信を使って行なわれます。

 ブログみたいなものにコメントを書いておくとすれ違い通信で相手に伝わって誰かがコメントつけてくれているみたいな感じになるという、非常に擬似的なインターネットの雰囲気を持っています。

 実際には「ジュニアシティ」バージョンが人気が高いんですよ。このナルミヤインターナショナルさんというブランドが単価の非常に高い商売をなさっていて、「ナルミヤのポーチがついて5,800円ってとんでもなく安い! 普通はポーチだけで1万数千円はするよ」という感じで、一番人気なんです。ソフト作っている僕らは全然わからなかったですね。絶対アニメもやっている「ふしぎ星のふたご姫」が一番だと思いましたもの。

編: この「スタイルブック」では遠藤さんはどう関わられたのですか。

遠藤氏: うちの樋口という企画マンが企画をしまして、「それ行けるよね」といって、最初は「シナモロール」というキャラクタを使って何をやろうと考えて、「シナモロールは女の子だよね」というところから始めて一緒にバンダイにプレゼンに行ったんです。

編: DSで受けている部分はタッチペンの部分ですよね。

遠藤氏: そうですね。「スタイルブック」では文字入力をタッチペンでやります。他にも絵を描けたり、DSならではのインターフェイスもちゃんと加味してやっています。

編: 最近はマイクロソフトさんも各種モバイル端末に対して、積極的に動き出しています。21世紀で今のところ見えているのはインターフェイスのパラダイムシフトだと思うのですけれども、それについてどのような考えをお持ちですか。

遠藤氏: インターフェイスに関してはできるだけ簡単に、回数を少なく、そしてわかりやすくしたいという中で取り組んでいるところでは「ユビキタス」という話があります。これは神戸大学の塚本昌彦教授というユビキタスを専門でなさっている方と一緒にいろんな事をやっていこうかなと画策しています。

 ただ、それを何に使うのかという部分が凄く難しくて、じゃあユビキタスになったからといって本当に人は使うのかと。塚本先生自体はずーっとヘッドマウントディスプレイをつけて生活していたりするわけなんですけれども、「普通の人にあの格好はイタいよな」っていう、それは流行らないと思いますっていうね(笑)。

 どうやってあれを流行らせるかというとエンターテインメントで行けばいいわけです。だからといってリアルとヘッドマウントディスプレイが繋がるところはどこなのよと言った時に、もっとも直球は「ドラゴンボール」の「スカウター」を作れと。今、リアル仮面ライダーベルトがあるじゃないですか、あれと同じでリアルスカウターを10万円で買うかどうかというところですね。

 リアルスカウターには、マジな画像解析ソフトが入ってて、その人の方向を向いた時にピッとやると、カメラの方でピピピピッと距離を測ってその人のサイズとか肉の付き具合とか見ながら、パワーいくつとか出るとかね。そんなものを画像解析ソフトを組み込んでそんなものを作れば面白いんじゃないかなと思うんですけれども、試作したところ18万円くらいかかるという話で、そりゃマーケットないわと(笑)。

 とにかく透過型のヘッドマウントディスプレイというのが非常に難しいらしくて。ホログラフィックでこちらから光を当てて結像するというようなそういう技術を使うらしいんですよ。それが大変に難しいらしいんですよ。一朝一夕に行かないねえと。そんなことを考えていたりしています。

編: なるほど(笑) '90年代のハリウッド型の否定というのはよくわかったのですが、では何だというとまだ茫漠としてます。狙っているのはどのあたりになるのでしょうか?

遠藤氏: 狙っているところは、今までの“ゲーム”という言葉に捕らわれないようなインタラクティブなものがやりたいというところですね。それは「どうぶつの森」や「脳を鍛える大人のDSトレーニング」のようなものだったりするかもしれません。DSは端的にそれを表していると思うんですけれども、それ以外の部分では、携帯でツールのように使えるものも結構良いかなと思っています。

 あとは携帯電話のコミュニケーションツールという部分にも結構興味があります。たとえば、岡本吉起さんだったら王様ゲームを携帯電話でできたらそれをパーティーでやればいいじゃんというアイデアがある。それはそれでかまわないですけれども、僕ならもうちょっと生活に密着したインタラクティブに使える遊び方を提案してみたい。

 それとは別にコンシューマのゲームもやりたい訳なんですけれども、そちらに関しては今後は映像がより一層重要になってくるだろうと。僕「FF」好きなので、非常に高いクオリティーの映像とか大好きなんですけれども、なにもあれゲームでやらなくても良いじゃんと思ってしまいます。

 そういう意味ではMGSの親会社にあたるIMJエンタテインメントというのが、映画制作会社です。昨年では「NANA」とかを作ってるわけですけど、やれる環境は整っているわけです。もう一社スタジオスワンという映画制作会社があるんですが、こちらの方がどちらかというとアクション映画とかホラー映画を担当して作っている部署なので、今後一緒にゲームと映画連動コンテンツみたいなものをパッケージものではやっていきたいなあと思っています。

編: それでは、ハリウッド型のゲームもやるということですか。

遠藤氏: そうですね、そちらもやっていきます。ただしそちらはEAがやっているような闇雲にやっていくのではなく、最初からゲームの企画部分もちゃんとした上で、もうちょっと日本向きな形で。

 映画を題材にしたゲームは、ただ単に戦って敵をバカバカやっつければいいやというようなものばかりじゃないですか。そういうのじゃなくて、もうちょっとゲームになるような形で提供したいなと。もちろん世界に売っていけるような形で。映画の方も国内だけじゃなくて世界を相手にできるようなものを今後作って行ければいいかなと言うようなことをまじめに考えていたりするわけですよ。

編: たとえば、ATARIは「マトリックス」のゲームを映画とセットで作って結果として大失敗しましたよね。映画とゲームの収斂というのはなかなかうまくいかないという印象がありますが。

遠藤氏: そうですね。それが闇雲に作るということなわけで、僕らはどちらかというともう少し近いところで、生活に関わりのあるところでゲームとしてまとめたいなと考えているんです。まだ言えないんですけれども、非常にウチが得意とするグッズが映画の中で出てきて、それがゲームになるようなものを企画しています。

編: もう少し具体的に教えてください。

遠藤氏: ウチが最も得意とするハードウェアのジャンルがあるじゃないですか。それがもっとも女性のお財布の中で最も大きな位置を占めている。それを題材とした映画を作って、それが実際遊べるように……みたいな企画があっても良いかなと。

編: つまり、スクウェア・エニックスさんがパナソニックさんと協力してやった、コンテンツの中にパナソニックの携帯を出すような発想ですか?

遠藤氏: そうですね。キャリアと組んだ形で必要なバックアップもらったり、ゲームの中でもというような部分でコラボレーションできると面白いなと。そういう意味では私は後ろ向きじゃなくて。本当に全然後ろを振り向かないので、昔の作品のファンの方達からは批判も多いんですけれどもね(笑)


■ インターフェイス論「使っている姿をイメージするような形でやりたい」

編: ただ、最近では「ドルアーガの塔」のアニメーションだったり、オンラインゲーム化といったプランが発表されています。私も楽しみですが、世間は遠藤さんに対して、まだまだニーズがありますよね?

楽しそうに自身のアイデアを披露する遠藤氏。遠藤氏が将来手がけるかもしれないオンラインゲームは「ボーイミーツガール」になるようだ
遠藤氏: アニメに関してはGDH、GONZOの社長の石川真一郎さんに負けたよ、という所なんです(笑)。むちゃくちゃ「ドルアーガの塔」のファンで、「色々出てくるんじゃなくて遠藤さんの脳内にある『ドルアーガの塔』の精神みたいなものを、ちゃんとした形で世に伝えなければならない!」と。

 「そんなことしても儲からないでしょ」って言ったんですけれども、「儲かる儲からないじゃなく、僕が見たいんです!」って。社長がそれでいいのかよ(笑)、とも思うんですけれども、そういう意志を強く持っているので、だったらお付き合いしましょうかということで。ナムコもそれだったら面白いかな、ということで今進めています。

 ナムコの中村(雅哉 取締役)会長にも、「おい遠藤、なんか面白い企画があったら持って来いよ、何だかんだ言ってもおまえは映画関係の人間だからな」とか言われていますけどね(笑)。

編: オンラインゲームに関してはいかがでしょう。

遠藤氏: オンラインゲームに関してはずっと昔から考え続けています。自分的にこうしたいというものもあるんですけど、技術がそこに追いついていない。回線速度が足りないのでそこまで行けていないというのが実際ですね。'98年に書いた企画書があって、これできると面白いよねというのがあるんですが、未だにちょっと実現が難しいなあ、というところですね。

編: それはたとえばどういったことをやりたいわけですか?

遠藤氏: 回線スピードが足りないですね。バーチャルな世界を作って、その中でみんなして色んな事ができるような。主題は「ボーイミーツガール」です。

 実は「ドルアーガの塔」の2作目の「イシターの復活」から一貫して「ボーイミーツガール」を主題にしているんです。なかなかうまくいかないんですが。ちょっと前に「パーティー右脳クイズ」というゲームをD3パブリッシャーさんから出したのですが、その時にコントローラを2人で1つのコントローラを握るというのを考えて、提案して出したのです。

 このゲームは、「いいかお前達、これで遊ぶ時にはな、2つあるコントローラの1つは隠しておけよ。ロード時間は長めにしてあるから、『あれ、壊れちゃったかな』とか言って女の子を押し倒せ! そのために近い距離になっているし右手空けてあるんだから」というメッセージを入れて作ったんですけれども、数人から「彼女も大満足でした」というメールが来て、まあ良し、と(笑)。

編: 任天堂の宮本茂(専務取締役情報開発本部長)さんは直球のインターフェイス論を語られますが、遠藤さんは同じインターフェイス論でもちょっと横道にそれたところに注目しているようですね。

遠藤氏: 宮本さんの言っていることはもっともで、その通りなんですが、じゃあそれがどういう使われ方をするんだろうというところを僕はどうしても考えたい。使っている姿をイメージするような形でやりたいと言うところですね。

編: レボリューションのコントローラはまた新しくなりますが、あのヌンチャクデバイスをどう使いますか。

遠藤氏: それを思いついたらゲームにしてますよ(笑)。それはこれでやるしかないというものを。通常とは全然違う使い方かもしれませんよ。

編: たとえば携帯電話だったらご自分でインターフェイスを生み出すことも可能ですよね。そういった部分には興味はないわけですか?

遠藤氏: そこでネックになるのは、ちょっとでもお金がかかるとみんなやらない、ということなんです。携帯電話で遊んでいる人の中で最もネックになっているのはやっぱり通信料や課金だったりする部分なんですよ。なのでMGSは一貫してダウンロード型ゲーム、初回の読み込み以外は一切通信しないゲームで頑張りたいというのが根っこにあります。そしてその部分でみんなから支持を得てきているんです。

 たとえばドワンゴが初期にやっていた「サムライロマネスク」が、「クリアするのにこれ結構お金かかるよね、いくらくらい?」って聞いたら「20万円くらい」っていうから、「そりゃねーだろお前って、強要かよそれを」って言ったら「だからみんなクリアできないと思うんですよ」って(笑)。こんなのはダメです。

 ここ最近ではナンバーポータビリティの移行に備えて、パケットのフラットレートサービスがありますよね。あれがもうちょっと進んでマーケットの中で何十パーセントの位置を占めてくれると、ネットワークを使った形のゲームというのもやってみたいなと思ってはいます。

 ただそれは常時接続型でずっと入り浸るものではなくて、「どうぶつの森」みたいな1日15分みたいな、毎日帰りの時に、さて今日はどうなっているかなと確かめて、通信してサーバーとやりとりしてという形で。どちらかというと“行き”じゃなくて“帰り”で毎日1回ずつ遊ぶようなゲームを目指しています。

編: それは当然10分や15分で遊ぶようなものですよね。

遠藤氏: そうですね、1日にそのくらいで、もっと大きな流れの中で何かがもうちょっと変わるような感じでゲーム的には3カ月とか半年とかで楽しめて、なんか面白かったよねという感じで、4カ月くらいでバージョンアップして行ければなと思っています。そういったサービスをやるならばIT系と組んで行ければいいんで、IMJだったらIMJモバイルの方がゲーム会社ではないので仕事がしやすいですね。

編: 日本では携帯電話が1つのゲームプラットフォームとしてようやく認知された段階ですが、世界的に見ればまだ「携帯電話でゲームするものじゃないよね」という印象が強い。遠藤さんがそれを今後どう打破していくかに興味があります。

遠藤氏: そうですね、世界市場はずいぶん頑張っているけれども全体としてはまだまだ。圧倒的なシェアを持つような携帯初のゲームを立ち上げないとダメだというのはわかっているんです。いつまでもプレステの何とかが携帯ゲームになったよ、じゃだめだと思うんです。

 去年の「ウイニングイレブンモバイル」に当てて、サッカーゲームを一本作っています。出来は絶対負けてないと思うんですけれが、セールス的には「ウイニングイレブンモバイル」の方が良かったりするわけです。ブランドネームに引っ張られていて、フックの違うところからかかってくる。じゃあブランドゲームを作っている人たちは本気で作っているかというとそうじゃない場合もある。

 大会社のモバイル部門は、なんか左遷先みたいに思われているような部分もあるわけじゃないですか。モバイルやっている人の中にも「今はモバイルやっているけれども、将来的には絶対PS3のゲームを作ってやるんだ」っていう。ゲームとしてどちらが上か下かというのがその人の価値観ではそうかもしれないけど、世間的に見た場合に「PS3なんかで遊ばねえよ」という価値観もあるはずですよね? 我々としては、携帯は電話だけどゲームもできるよねと思われたい。そういうのは携帯発のビッグヒットがあってこそだと思うんです。

編: スクウェア・エニックスさんの「ファイナルファンタジー」や「ドラゴンクエスト」といったプリインストールベースの携帯コンテンツを別にすれば、携帯電話のゲームでスマッシュヒットのタイトルというのはまだ存在していませんよね。

遠藤氏: ええ。うちのCOOとかとは「ワールドワイドで1億ダウンロードのゲームを目指そうよ」と言ってます。

編: 1億というとそれこそ「テトリス」のような普遍的なゲームデザインが必要となりますね。

遠藤氏: そうですね、だからそういう非常にプリミティブなゲームデザインで、面白くて長く楽しめるもので携帯電話に非常にマッチして、時間つぶしにもなるものを考えていかなければなりません。

編: 遠藤さんの中にはもうそういったアイデアはあるのですか?

遠藤氏: アイデアがあったら今頃は1億の10分の1くらいの数字は出していますよ(笑)。やっぱりなかなか難しいですね。携帯電話でやるっていうところで中々難しさがあると思うので。

(後編に続く)

□モバイルゲームスタジオのホームページ
http://www.mgst.co.jp/

(2006年4月11日)

[Reported by 中村聖司 Photo by 勝田哲也]



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