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会場:San Jose McEnery Convention Center
「Next Generation Challenge for NEED FOR SPEED MOST WANTED on the Xbox360」では、「マスク」、「パーフェクトストーム」といったハリウッド映画のビジュアルエフェクトを手がけ、「Most Wanted」ではシニアアートディレクターを務めたHabib Zargapor氏が、HD時代のグラフィックスデザインの難しさを語った。
■ 豪華なグラフィックスエフェクトを詰め込んだ「Need for Speed Most Wanted」
Zargarpour氏はまず最初にリアルタイムレンダリングで実現したインゲームムービーを流し、「Most Wanted」のグラフィックス上の特徴を紹介した。ノーマルマップの全面採用や時間によって自在に雰囲気を変えるビジュアルフィルター、スピード感を倍加させるモーションブラー、高解像度で描いた車、高精細なサンプリングデータ、メタリック感の再現、ラジオシティライティングなどなど。 前作「Underground」、前々作「Underground 2」は夜間だったが、「Most Wanted」では舞台を昼間に戻し、太陽光線による世界の変化を忠実に再現したことを大きなウリとしている。しかし、開発当初は性能がよくわからず、企画を立てているうちにどんどん内容が膨らみリアルタイムライティングやノーマルマップが必要になったりしてきて、「しまった」と思ったことも多かったという。 Zargarpour氏は過去に昼間を描いた作品として「Need for Speed Hot Pursuit 2」を取り上げた。「Hot Pursuit 2」はビジュアルターゲットとして「静止画時のフォトリアリティを追求した作品」だが、「Most Wanted」はプレイ時のリアリティを追求したという。そのためにハリウッド映画や車メーカーのCM、走行時の建物の美しさを論じた雑誌「Carchitecture」などから徹底的にリサーチし、格好良く見える風景について検討を行なったという。 特にこだわった部分はライティング。Zargarpour氏は、デバッグモードで上空視点から太陽を動かし、時間帯に応じて縦横に雰囲気を変える光と陰が織りなすリアリティ抜群のゲーム世界を映し出して見せた。
また「Most Wanted」では、Rosewoodという架空の都市を丸ごと再現している。HD時代のステージ構築としてZargarpour氏は、「単にSD(Standard Definition)をHDに置き換えただけでは空っぽになる」という見解を示し、都市全域と細部をデザイナーが描き起こし、それをテクスチャ化した段階で、再度街の細部をデザイナーが描き起こすという工程を経て、街全体が構築されている。まさに北米のビジュアルエフェクトの粋が集められたゲームであることがわかる。
■ 次世代のグラフィックスデザインのハードル
中でもハッキリとした課題となったのは、超高解像度テクスチャを擬似的に利用するノーマルマップのテクニック。「Most Wanted」の世界観のリアリティを構築する上で、ノーマルマップは欠かせない存在となっているが、擬似的な解像度が高すぎるためにテクスチャの境界線がくっきりと浮き出てしまっている。また草地も原因不明の黒い線が表示されたり、ノーマルマップを駆使してもなお不自然に見えてしまう木など、ノーマルマップだけでは、新たな違和感を残してしまうという課題を報告した。 比較的愉快なトラブルとしては、画面を埋め尽くすほどのパトカーに周囲を囲まれたり、なぜか見えないパトカーに追い回されたり、HDRブルーミングで光があふれすぎてしまったりといった例が報告された。また、HD(1,280、4×AA)とSD(1024、2×AA)では、グラフィックスデザイン上、埋めがたいギャップがあるという見解も示された。 これについては、異論反論もありそうだが、Zargarpour氏が伝えたいメッセージは、次世代機世代のHDグラフィックスと現行のSDグラフィックスを同時サポートするという開発スタイルは、結局二度手間になるケースが多く、必ずしも効率的ではない、つまり、次世代を含むゲーム開発はこれまでのマルチプラットフォーム展開とは違った開発工程になるということが言いたいようだ。 最後にZargarpour氏は、Xbox360とワイヤレスコントローラを使った実演デモを行なった。街道をひとしきり走らせた後、デバッグモードに変え、「CGでこれを実現するのに10年かかった」といいながら“太陽”を動かして見せ、太陽の位置によるビジュアルエフェクトの変化を実演して見せた。それと同時に、太陽を直視した際やトンネルを抜けた際のブルーミング効果の実演、そして空で自動発生するハトを、HD世代の違和感のひとつとして紹介。また、HD対応は、ゲーム物理にも影響を与えており、たとえば、HDとSDではジオメトリの解像度が異なるため、物理判定も変えている。このため、縁石に乗った際などの細かい部分でリアクションが違うケースがあるようだ。 デモの最後に「Most Wanted」の魅力のひとつであるカメラエディターを実演した。カメラエディターは、要するにリプレイ機能だが、いつでもどこでもリプレイを採ることができるだけでなく、強力な編集機能を備えており、かつ編集をコントローラのみで簡単に行なうことができるというもの。Zargarpour氏は、特にこのカメラエディターのインターフェイスの革新性を絶賛し、「私は3Dツールをよく使うが、MAYAでもコントローラで簡単に編集できるようにならないか」とコメントし、場内を沸かせた。 実際にZargarpour氏は、視点変更をはじめ、レンズエフェクト、ライティング、望遠レンズ、被写界深度などをワイヤレスコントローラを使ってテンポよく調整していき、わずか数分で15秒ほどのデモ映像を作成。デモを再生すると、冒頭で見せたような見事なデモ映像(ただし、止まるところで看板を跳ね飛ばすというオチ付き)ができあがっており、拍手喝采に包まれた。
セッション終了後の質疑応答では、多数の開発者がマイクに列をなしたが、大半はグラフィックスデザイン上の技術的な質問が中心となった。興味深かったのは開発期間についての質問で、「Most Wanted」は、Xbox360のローンチに間に合わせるために、Xbox360、PC、PS2、GCの4プラットフォームへの開発をわずか9カ月で行なったという。人員は把握している限りで120人前後、予算は未公表とのことだが、EAならでは力業である。
□Game Developers Conference(英語)のホームページ (2006年3月26日) [Reported by 中村聖司]
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