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会場:San Jose McEnery Convention Center
日本を含むアジア圏では、オンラインゲームの分野において当たり前のようにデジタル流通が行なわれ、違和感なくとけ込んでしまっているため、なかなかピンと来ないところがあるが、実はゲームビジネスの仕組みを一変させるクリティカルな話題である。中でも「Counter-Strike」、「Half-Life」シリーズを擁するValve Softwareが、2003年からスタートした「Steam」プラットフォームによるコンテンツ配信は、「Half-Life 2」の発売と重なったこともあり、ゲーム業界に激震をもたらした。2005年11月には、業界最大手Electronic Artsもコンテンツダウンロードサービス「EA Downloader」を開始しており、2006年はより多くのメーカーがダウンロード販売を開始してくるものと見られる。 24日に行なわれたセッション「What's Next in Digital Distribution & Mainstream Games」では、実際に北米市場でデジタル流通を行なっているメーカーの代表者が集まり、それぞれの立場からデジタル流通についてディスカッションが行なわれた。参加者は以下のとおり。
Valve Software President Gave Newell
■ 先駆者たちがデジタル流通の絶大なメリットをアピール
懸念される小売業界との兼ね合いについてはBioWare Joint CEO Ray Muzyka氏とMicrosoft Xbox Live Arcade General Maneger Greg Canessa氏がコメント。 Muzyka氏は、デジタル流通は単にWebサイトを介してコンテンツを売るだけでなく、ユーザーニーズを調査したり、ニュースレターを配信したり、小規模コンテンツの配信などが可能になるなどの大きなメリットがあり、結果として小売業界のセールスにも結びつくはずだという見解を示した。 Canessa氏は、まずXbox Live! Arcadeについて、サードパーティーのためのカジュアルゲームプラットフォームであると定義し、業界からカジュアルゲームのデジタル流通に関してXbox Live! Arcadeに大きな期待が寄せられていることを報告。その期待に答えるために、ガイドラインを制定し、サードパーティーにより多くの情報の提供を求めるなど、各カジュアルゲームタイトルの品質管理をしっかりしているとした。また、Xbox Live! Arcadeの基本的な考え方として、プレイアブルデモやトレーラームービーではなく、あくまで高品質なカジュアルゲームの配信に第一義があると説明。 カジュアルゲームのデジタル流通に関しては、北米最大手のカジュアルゲームメーカーであるReflexive EntertainmentのLars Brubaker氏とIntroversion Software DirectorのThomas Arundel氏がコメント。 「我々は8年前からデジタル流通のビジネスを展開し、現在は450タイトル、250メーカーがタイトルを配信するカジュアルゲームポータルに成長することができた。現在カジュアルゲームは4億ドル程度の市場だが、ポータル、パートナー、コンテンツも充実してきており、2011年には60億ドル規模の市場に成長するだろう」と明るい予測を示した。 カジュアルゲームのビジネスモデルは、同社の場合で、年間35本を作ってそのうちの20本で収益を上げており、全体のトップ10に入ると大きな収益が望めるという。つまり、うち15本はトントンか赤字であり、自社タイトルも含めてうまくいかないタイトルが無数に存在することを伺わせる。最後にBrubaker氏「我々のビジネスの場合、小売の存在感はまだない」とコメント。“まだ”という部分に一定の配慮が伺えるが、実際は今後も交差することはないだろう。
Thomas Arundel氏は、独立系小規模デベロッパーの立場から、デジタル流通のメリットをアピール。カジュアルゲームの開発に大金は不要であり、デジタル流通を使えば、十分な予算がなくてもPRや販売が可能。流通、開発体制を自由に組み替えられる独立系の強みを活かすことも大切だとした。 ■ デジタル流通に関して経営側と開発側の間に横たわる温度差
ReflexiveのBrubaker氏は、「ウォルマートで置いてくれなくても、デジタル流通なら売ることができる。仮に置いてくれても棚の制限があり、在庫も限りがある。デジタル流通なら機会損失を防ぐことができる。ニッチな市場を狙ったビジネスができるという意味でもメリットが大きい」とコメント。 この意見にMSのCanessa氏も全面的に賛意を示し、「数人、数カ月、数百ドルの規模でもゲーム開発が可能なのがカジュアルゲームのメリットであり、ゲームで重要なのはイノベーションだが、小規模体制なら常にそれを意識しながら開発することができる。(MSのような)大手ではリスクを考えてなかなかそれができない。デジタル配信を前提としたカジュアルゲームは独立系のメリットが大きい分野である」と、プラットフォーマーとして独立系小規模デベロッパーの新規参入に期待を示した。 この意見にBioWareのRay Muzyka氏が反論。「数百人のスタッフがいる大手メーカーでも小さなプロジェクトチームを編成すれば、カジュアルゲームの開発可能。大手のメリットは、納期に合わせた開発パイプラインの構築であり、様々なゲームジャンルに対応できること」とした。 一方、ValveのGabe Newell氏は、「デジタル流通で予約受付を行なうことによって、小売業者の関心を引きつけられるだけでなく、発売前に売り上げが予測できるため、予約が多ければプロジェクトにより多くの予算をつけることができる。これはデジタル流通ならではの考え方で、デジタル流通の成功が小売の成功の要因になりうる」と独自の見解を披露した。 「デジタル流通ポータルにおける効果的なハイライトの仕方」についても各社独自の見解が提示された。 Reflexiveでは、サードパーティー間で公平にするため、自社のソーティングアルゴリズムを導入しているという。具体的な内容は開示されなかったが、セールス、ダウンロード数、新しさなどが一定の基準となるようだ。 ValveのGabe Newell氏は、「Steamを経由したプロモーションは、TVCMを含めた伝統的なプロモーションより50倍の効果がある」と報告。Valveでは、Steamやゲームそのものを一種のプロモーションツールとして活用しているようだ。 MicrosoftのCanessa氏は、ポートフォリオマネジメントの視点から、「複数の要素から効率を考えて検討されなければならない」とした。大前提として客のニーズに合っていること、それから同種のゲームを10個並べるのは意味がなく、その中から優れた1つ2つをユーザーに提供するのが望ましいとした。また、ゲームデザインのイノベーション性、マルチプレイ機能も重要だとした。 拡張コンテンツをオンライン販売するBioWareのRay Muzyka氏は、「スタジオの強さが成功の基準」という見解を示した。ゲームに関しては、没入感があり、キャラクタのたった、ストーリーがしっかりしていることを挙げ、もっともっとやりたくなるようにユーザーに最大の価値を提供することと、お金を払う価値があると思って貰えることが重要であるとした。 質疑応答では「エンドユーザーが有料コンテンツを配信することについてどう思うか?」、「小売でパッケージを見て買いたい人も多いのではないか?」、「追加コンテンツは続編ばかりだが、開発者は満足しているのか?」といった質問が出た。 エンドユーザーのコンテンツ配信については、「もうすでに行なっている。エンドユーザーのコンテンツ制作は利用価値の高いビジネスモデルだ(Reflexive)」、「ユーザーのクリエイティビティを信じているが、必ずしも売る必要はない。我々が開発ツールを無料で提供し、ユーザーに好きなコンテンツを制作してもらう。それによって開発とユーザーのギャップを埋めることができる(BioWare)」という回答が出た。 小売のニーズに関しては、「Steamでは新しいコンテンツを配信する際に、コミュニティが待ってくれて、ユーザーサポートまでしてくれる。小売だとそうはいかない(Valve)」、「リサーチ結果によると、小売とダウンロードのユーザー側の認識は、所有とレンタルほど大きな差はでていない(Microsoft)」、「私は映画も音楽もインターネットで購入している。デジタルエンターテインメントがそうなるのは必然(Introversion Software)」と予想通りの一刀両断の回答が出た。 最後の続編偏重については、「続編ならば開発期間も短縮でき、開発者の人生も楽になる。実際、開発者も『Half-Life』よりも『Half-Life 2』のほうが幸せだったという意見が多い(Valve)」、「新作だと1500万ドルの予算と膨大な人員が必要になるが、続編なら圧縮できる(Microsoft)」、「ファンのニーズが重要。続編を望むユーザーはロイヤルカスタマー(BioWare)」、「トリプルAタイトル(新規の大作)のデジタル流通は、来年のGDCではもっと取り上げられるテーマになるだろう(Valve)」と、いずれも明確な回答を避けた。
個人的に最後の質疑応答で場内がざわめいていたのが印象的で、開発者の総意としては、「現状のデジタル流通とは、とどのつまり既存資産の使い回しであり、まったくイノベーティブではない、だとすれば、デジタル流通の導入はゲームテクノロジーの退行を促進することにしかならないのではないか」、ということだと思う。現状、「Half-Life 2」などの一部の例外を除いて過半がそうなのだから、開発者がそのような疑念を抱き、業界の未来を不安視するのは当然のことで、この疑問を解決するのがGDC本来の役目だといえる。来年のGDCでは、デジタル流通時代のゲームデザインについて深く踏み込んだ議論を期待したいところだ。
□Game Developers Conference(英語)のホームページ (2006年3月25日) [Reported by 中村聖司]
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