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IGDA新氏、MODの視点からゲームの未来像を提示
ユーザーの創造力に隠された飛躍の可能性

2月9日、10日開催

会場:日本教育会館



 IGDA日本支部代表を務める新清士氏は、ゲーム開発者とユーザーの橋渡し役を広くつとめ、デジタルエンターテインメントアカデミー(DEA)の非常勤講師としては、授業でMODを取り上げるなどユニークな試みをしている。また、ゲームイベントにも積極的に参加し、先月お台場で行なわれたLANPARTY『BIGLAN#2』ではMOD開発コミュニティの1プレーヤーとして、3日間かけて1からカウンターストライクソースのカスタムマップを製作し、その過程をユーザーに紹介するといった活動もしている方である。

 ご存じの通り、MODとはModificationの略であり、特定のゲームを一部でも改造、改修すればそれはMODであるといえる。今回のセッションで新氏は、1つの問題提起から次々に問題が提起されるというツリー式の非常にユニークなメモを用意して講演を行なった。


■ ユーザー自身がゲーム製作に参加するMODの“未来象”とは?

 講義ではまず「MOD」とは何か? というところからスタートし、欧米のゲームメーカーの中にはMODの制作ツールそのものをゲーム内に織り込み、ユーザー自身が比較的簡単にゲームを改造しやすい環境を提供していることを紹介した。氏は、「ウルティマオンライン」や「スター・ウォーズ ギャラクシーズ」等のゲームデザインで知られるラフ・コスター氏の「オンラインゲーム発展の歴史は、インターネットと同じ」とするコメントを引用し、「MODの特性も同じだ」と語る。

IGDA日本支部代表を務める新清士氏
どんどん広がっていく講演に使われたメモ。下記リンクからダウンロード可能である
 初心者でも簡単に情報を発信できる“ブログ”の登場が、インターネット利用の敷居を下げ、創造性がいっせいに開花した。新氏は、それと同じようにMODにより敷居の低くなった開発環境へのアクセスが、ユーザーのゲーム開発に対する創造性にブレイクスルーをもたらすと主張するのだ。

 これを証明する事例として、新氏は「HalfLife」がユーザー自身の手によって、ゲームタイトルの魅力が常にリフレッシュされている現状を指摘する。ユーザーが開発したMODである「カウンターストライク」の爆発的な人気により、10年前の作品でありながら「HalfLife」は現在も販売本数を伸ばし続けている。ユーザーにゲーム本体への改造を積極的に勧めることによりゲームタイトルが陳腐化を免れるだけでなく、原作を上回るゲーム作品がいくつも生まれ、プレイされているのである。

 優秀なMOD製作者にはゲーム業界へのキャリアパスがあるという点も紹介された。「Half-Life」シリーズを提供しているValveでは、MOD制作コミュニティから、20~30人ほどの人材を雇い入れているという。ゲームが好きなユーザーなら一度は憧れる、「ゲーム会社でプロとしてゲーム開発に携わる」という道がアメリカのゲームコミュニティでは実現している。会社側から見れば、彼らは既に自社の開発環境に習熟している、プログラマーとして即戦力となる人材を、コミュニティからピックアップできるという点で、非常に魅力的だ。

 しかしMOD制作には難点も多い。MODを自由に制作できる環境は無償提供されてはいるものの、商用利用には制限が加えられているため、自分が作った作品でビジネスをするのは難しい。また、制作物の著作権の所在についても問題が発生する。「Half-Life」には原作を非常にうまく再現した“ドラゴンボールMOD”や、“ガンダムMOD”といったものがある。新氏は“ドラゴンボールMOD”のスクリーンショットを紹介、原作の雰囲気をうまく再現した人造人間18号の登場に会場は驚きと笑いの声が上がった。これらは人気は高いが著作権という点では完全にアウトである。

   MOD開発にはその作品の評価が必要不可欠ではあるが、ファイルのダウンロード、インストール、プレイ、フィードバックといった過程に時間がかかる。このため、MOD作品に期待するプレーヤーたちも、よほどいいものでない限りフィードバックの協力などに手が出しにくい。また、制作自体にも非常に手間がかかる。間口は大きく開かれているものの、実際作りこむ作業となると大変だ。ゲーム開発者と同じような労力を注がなくては、よいMODは完成しないのだ。

 新氏はMOD制作のモチベーションを上げるための試みとして、ゲーム内にMODシステムを有している「SecondLife」というタイトルを取り上げた。この作品では、「ユーザーの作ったMODの著作権はユーザーに帰属する」というユニークな運営方針を採っており、ユーザーがMODで作成したゲーム内のアイテムを作品或は商品としてみなし、ユーザー間で売買されているのだ。RMTも公式に認められている。「SecondLife」では、ユーザー間のやりとりでこれまで約12億円の取引があるという。新氏は、コミュニティの創造性を活かしていく上に、ユーザーが具体的に物を作って販売できるという枠組みがもたらされた時に、さらなるブレークスルーがおきるであろうと語った。

 ユーザーのクリエイティビティがこれほどゲームに寄与しているということを踏まえたうえで、新氏はなぜこのクリエイティビティを日本や韓国の開発者は利用しないのかということを問いかける。例えば、「スカッとゴルフ パンヤ」ではイラストコンテストが頻繁に行なわれ、ユーザーから集められた優れたイラストが紹介されているにもかかわらず、なぜそれらを商品化しないのか、ユーザーは喜ばないと思わないのかということを問いかけた。ルールをもってキャラクタモデルやテクスチャといった技術情報を公開し、ユーザー自身が制作できる環境を提供できれば、それはユーザーからの満足が得られないのか? と強く訴えた。

 さらに新氏は次世代のゲームとして、ウィル・ライト氏が制作している「Spore」を例に上げた。まだゲームの姿は完全には明らかになっていないが、この作品は、ユーザーの創造性が活用できる要素を積極的に盛り込んでいることが予想されている。こういったユーザーの創造性を刺激するベクトルは欧米の作品での大きな流れになっていくだろうと新氏は語る。そして、今までのMODはPCゲームだけの話として語られることが多かったが、PS3でハードディスクが搭載されれば、コンシューマでもその環境が開かれるであろうという言葉で、講演をしめくくった。セッション終了時刻は当に過ぎていたが、氏が答え切れないほどの質問の挙手があったのが印象的だった。

 新氏の、韓国で主流となっているアイテム課金システムが、ユーザーの創造性ばかりかプレーヤーに享受されるべき利益さえもかえって取り上げてしまっているという視点には、頷かされるものがあった。本来ゲームというひとつの世界を作りこむべき開発者達が、ゲーム性とは関連の薄いアバターや商品開発などにリソースを多く割く、現状のオンラインゲームの開発環境に警鐘を鳴らしたのでは、と感じさせられた。また、今後ユーザーの創造性を発揮する場がコンシューマ機でも与えられるようになるだろうという新氏の見通しは、コンシューマユーザーの多い日本でのMOD戦略に大きな可能性を感じた。近い将来の、よりインタラクティブなゲーム像とそれを取り巻くユーザーの姿を垣間見たように思う。

□ブロードバンド推進協議会のホームページ
http://www.bba.or.jp/
□「AOGC 2005」のページ
http://www.bba.or.jp/AOGC2006/
□IGDA日本のページ
http://www.igda.jp/
□IGDA日本で公開された当セッションの講演資料
http://www.igda.jp/modules/news/article.php?storyid=746

(2006年2月11日)

[Reported by 三浦尋一]



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