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IGDA関西、LEDZONE京都にて特別セミナーを開催
「ユーザーコミュニティを巻き込んだ北米型ゲームの今」

12月3日開催

会場:LEDZONE京都

 国際NPO団体の国際ゲーム開発者協会(IGDA)関西は、ナムコの全面協力のもと、LEDZONE京都にて米Valveの「Half-life 2」開発者ロビン・ウォーカー氏を招き、スペシャルセミナー「ユーザーコミュニティを巻き込んだ北米型ゲームの今~『カウンターストライク』はユーザーが生みだした」を開催した。

 ウォーカー氏は、既存のゲームを開発キット等を用いて自由にモディファイするMODクリエイターの出身。今回のイベントは、DICE2005のために来日したウォーカー氏を交え、Mod開発に関する一歩踏み込んだ紹介が行なわれた。他にもModの基礎知識や、コミュニティーの紹介などが行なわれ、さらにセミナーの後、「カウンターストライク ネオ」の体験会も行なわれた。

IGDA日本の代表、立命館大学講師など様々な肩書きを持つ新清士氏。Modの基礎知識を来場者に説明した
 IGDAは、世界のゲーム開発コミュニティを構築するために設立され、80の都市や地域に支部を持つ。IGDA関西は関西でのゲーム開発者間の交流を目的として活動しているIGDA日本の派生組織であり、開発者セミナーなどを積極的に行なっている。

 イベントではまずIGDA日本の代表であり、立命館大学の講師でもある新清士氏による「Modとは何か?」をテーマに講演が行なわれた。新氏は基本的な知識として、Modは「Modify(改造する、改修する)」を語源とすること。世界的なヒットとなり現在も多くのプレーヤー人口を抱える「カウンターストライク」は、もともとは「Half-life」のModとしユーザー達が制作し、ユーザコミュニティーの中で改良が加えられ、Valveが権利を買い取り、商品化されたことなどを説明した。

 新氏は、Mod文化は言語の問題があり、これまで日本ではそれほど活発ではなかったが、「Half-life 2」に付属する開発ツール「Source SDK」によって、「カウンターストライク エンジニアリングセンター」といった日本のコミュニティーも活発になりつつある状況を報告。さらに「Half-life 2」のユニークなModとして、ゲームとしてではなくソースを使って作成したムービークリップ「I'm Still Seeing Breen」や、大量のNPCが撃ち合いをする「Massive Fight」、物理エンジンを体験できる「G-Mod」などを紹介した。

 続いてマイクを握ったウォーカー氏は、“「Half-life2」から見るModコミュニティの姿”というテーマで講演を行なった。ウォーカー氏は「Half-life」の代表的なModの1つである「TeamFortress」を学生時代に制作し、それが縁となってValveに入社したという経緯を持つ。今回の講演では、「Half-life2」の開発者という立場と共に、Mod開発者の先輩として自らの体験を語った。


■ 優れた作品はセンスと早いリリース、ユーザーの声が重要

 ウォーカー氏は、Modの制作はゲームを作るために必要な知識を学ぶことができると語る。ゲーム開発には、科学や技術など総合的な知識が必要となる。Modの制作は、ゲーム開発者への道を開いてくれるものだという。

 ウォーカー氏によれば、Modを開発するためには、必要不可欠なものと、そうでないものがあるという。必要なものはデザインセンスとツールであり、必要ないものは“人数”だというからおもしろい。氏は「カウンターストライク」を作ったのは、2~3人のスタッフであることを例に挙げ、Mod開発には必ずしも大規模なチームは必要ないと語った。

「Half-life2」開発者ロビン・ウォーカー氏。大学生の時に「TeamFortress」を制作した
「Half-life」の代表的なModを制作したチームの人数と、アップデート回数。少人数が、多くのアップデートを繰り返し開発していったのがわかる
 続いてウォーカー氏が触れたのは、ゲームデザインでの注意点である。「なぜ多くのModから自分のModを選ぶか? なぜ遊びたいと思ってくれるのか?」、「いかに新しい体験を人々にさせられるか? その体験をわかりやすく伝えられるか?」、Mod制作者はこれらを常に自問し、明確な答えを見つけなくてはならない。そのためにも、自分の得意な、好きなジャンルを選ぶことが重要となる。他の人に負けないもので勝負を挑む事が大事なのだ。

 デザインをする上で大事なことは、そのデザインの面白さであるとウォーカー氏は語る。ボリュームや内容の複雑さで戦おうとしても、世界にはプロのチームのような大人数で作ったModも存在しており、この点で勝負をしようとすると勝つことは難しい。また、独自性を出すために、ユーザーインターフェイスを変えようとする人もいるが、既存のものから手を加えるのは必要性において疑問だという。またウォーカー氏は、既存の商品を真似をしてModを作る人はどうしても完成した作品と比較されるので不利であり、「ドラゴンボールZ」などのキャラクタが登場するModは、著作権侵害で必ず最後はシャットアウトされてしまうというポイントも指摘した。

 Modを作るためには、まず、エンジンの選択が必要となる。ウォーカー氏は「私の立場から言えば『Half-life2』のSourceエンジンがもっとも優秀だと言うべきだが(笑)、他にもいろいろなエンジンが存在している。自分が考えたコンセプトを実現できるエンジンを選ぶことが必要だ」と語る。リリースされていて、内容も公開されているものが望ましく、ツールも充実しているものが望ましい。マイナーなエンジンを選んでしまうと、プレーヤー人口そのものが減ってしまうことも忘れてはならないという。

 ウォーカー氏は、「Half-life 2」のSourceエンジンの優位性についても言及した。Sourceエンジンはモジュール化が進んでおり、新しい要素を入れやすい設計になっている。新要素は常にメーカーが検証をしていくので、Mod開発者への負担は少ない。Valveは開発キットのアップデートも積極的に行ない、バグフィックスや、ユーザーコミュニティーで議論されている必要な要素を取り入れているという。実際に「Half-life2」の開発に使用されたNPCのAIなどを公開するなど、Mod開発者が使用しやすい環境に注意を払っているという。「なによりも、ゲームを楽しんでいるユーザーの数が、このエンジンの最大の魅力だ」とウォーカー氏はSourceエンジンの優位性を強調した。

 ウォーカー氏はModを制作を決意した人がよくやる失敗の例として、「多くの人に制作の協力を要請してしまうこと」を挙げる。スタッフが多いと開発の行程は遅れてしまいがちである。まずは、プログラマーやデザイナーなど実際に作る作業をする人だけで構成し、できるだけ少ない人数で、とにかく動くものを作る。人を追加するのは、Modを作っていて、もうこれ以上作業を進められない、このままではだめになるという時にすべきであるという。「この人もチームに入れておこうか」と人を入れていると、チームはだんだんおかしくなってしまうとウォーカー氏は語る。

 ウォーカー氏は、「制作は可能であるならばすべてを1人でやるのもいい。デザインが成功すれば1人でも成功する場合もある」と言う。大事なことは、できたものをすぐリリースする姿勢だという。プロは数年をかけて完成度の高いものを作らねばならないが、アマチュアにその制約はない。フットワークの軽さは大きなアドバンテージである。

 ウォーカー氏が制作した「TeamFortress」は、最初はクラスだけが明確で、タイトルになっているチームの概念は少なかった。ゲームバランスが取れた時点ですぐにリリースし、コミュニティーの声に答える形でアップデートを繰り返していった。アップデートはModの人気を左右するとても大事な要素であり、継続的なアップデートこそが、PRとしても一番効果的だという。

 リリースし、コミュニティーなどを通じてプレーヤーの声に耳を傾け、自分たちのModがどう遊ばれているかを理解する。「制作前よりも、意見を聞いた上で生まれるアイデアの方が重要である」とウォーカー氏は断言する。継続的にアップデートを繰り返すことで、ユーザーの嗜好やゲームの要素などを繰り返し問うことができ、優先順位なども決めることができ、よりよい作品にしていけるというのだ。

 「カウンターストライク」は2人で開発されたが、1年で21回のアップデートが行なわれている。ユーザーの声を聞き、改良されたからこそ、大きな人気を獲得したのである。自分たちの人数で何ができるかを見極め、コアができた時点でリリースし、積極的にアップデートをする。1年制作にかけるよりも、6カ月でリリースをして、それから毎月アップデートをした方がいいものができる。自身の経験を交えた氏の言葉からは、成功者ならではの自信も感じられた。

 ウォーカー氏は最後に、「『Half-life2』はMod開発者達の意見交換などが日夜行なわれており、Wikiには日本語のページも用意されており、Valveも協力をしている。こういった環境を利用し、多くの人にMod制作に挑戦してもらいたいと思う」とセミナーを締めくくった。

【「Half-life2」の代表的なMod】
美しいグラフィックスが特徴の「Insurgency」 ユニークなマップデザインの「Kreedz Climbing」 姿の見えない1人のプレーヤーを相手に対戦する「The Hidden」
よりSF的な要素を強調した世界観を持つ「Dystopia」 物理エンジンを活用し、サッカーのように楽しめる「Crazy Ball」 銃を使わず、間接的なトラップで敵を倒す「Fl3x DM」


 ウォーカー氏の講演は、Mod制作のみならず、モノ作り全般に通じるものがあって、筆者も、頷かされることが多かった。DICE2005とは立場を変えた、ウォーカー氏の体験談を交えたMod制作の姿勢も興味深かった。

ナムコのLANエンターテイメントプロジェクトディレクターの土屋哲夫氏。来場者に、「カウンターストライク ネオ」の概要を説明した
土屋氏は、「Half-life」のModの展開や、「カウンターストライク ネオ」がいわば“ModのMod”であること、PCのゲームではなく、アーケードゲームとして設計されていることをスライドでわかりやすく解説した
 なによりも感心させられたのは来場者の熱心さである。LEDZONE京都はゲームセンターであるワンダータワー京都の一角にある。店内のアナウンスや、他のゲーム機の音がひっきりなしに聞こえるという、セミナーの会場としては決してベストとはいえない場所であったが、来場者は一言も聞き漏らさないといったような、真剣な表情で話に耳を傾けていた。

 セミナーの後に行なわれた「カウンターストライク ネオ」体験会では、スタッフが積極的に来場者に声をかけプレイをサポートしていた。来場者の中には「カウンターストライク」はやったことがあるが、「カウンターストライク ネオ」は初体験という人もいて、本作ならではの見やすいメニュー画面などに注目している人の姿も目立った。

 本誌でも何度か取り上げているが、「カウンターストライク ネオ」はナムコが「カウンターストライク」をアミューズメント向けにチューンナップしたアクションシューティングで、光ファイバネットワークを介し、ナムコのサーバーに接続され、全国規模でのリアルタイム対戦を実現している。現在筐体の設置店は39店舗に上り、今後も数を増やしていく予定である。

 スタッフ達は、時には指示を出し、プレーヤー達がうまいプレイをしたときは、拍手をし、声を上げる。プレーヤー達もそんなスタッフに笑顔で答えるなど、とても楽しそうな雰囲気であった。

 LEDZONE京都は2005年8月にスタートしたばかり、現在は対戦で勝つテクニックよりも、まず楽しんでもらうための雰囲気を作ることにスタッフは努力しているという。定期的な大会の他、1人のスタッフを“悪役”にして銃を持たせ、5人の来場者がナイフで狙う、という突発的な対戦イベントも開催しているという。

 今後はクランの設立や、関西での大会、全国大会なども開催していきたいとのことである。Modの制作者が増える事と共に、「カウンターストライク ネオ」の盛り上がりにも期待したいところだ。

来場者はセミナーの後、無料で「カウンターストライク ネオ」を体験できた。スタッフのフォローにより、初めてでも熱い対戦を楽しむことができたようだ

(C) 2005 Valve Corporation. All rights reserved. Valve, the Valve logo, Half-Life, the Half-Life logo, and the Lambda logo are trademarks and/or registered trademarks of Valve Corporation.Sierra and the Sierra logo are registered trademarks or trademarks of Sierra Entertainment Inc., in the U.S. and/or other countries. Vivendi Universal Games and the Vivendi Universal Games logo are trademarks of Vivendi Universal Games Inc.

□IGDA日本のホームページ
http://www.igda.jp/
□VALVEのホームページ(英語)
http://www.valvesoftware.com/
□LEDZONEの公式サイト
http://www.ledzone.com/
□「カウンターストライク ネオ」の公式サイト
http://www.csneo.com/
□関連情報
【7月15日】ナムコ、「カウンターストライク ネオ」のβテストを実施
LEDZONE蒲田店を皮切りに、順次、先行設置店舗にて運営開始
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050715/csneo.htm
【8月15日】IGDA日本、「ルールズ・オブ・プレイ」の著者による
ゲームデザインに関する特別講演会を開催
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050822/igda.htm

(2005年12月5日)

[Reported by 勝田哲也]



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