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【不定期連載第6回】 eスポーツの“いま”を伝える熱血コラム


POLYGON犬飼のeスポーツ博士がゆく

楽しかったぜ!! WCG2005グランドファイナル



著者近影。シンガポールといえばマーライオン。意外と小さかったぞ!?
 11月16日から20日までの約1週間、私、犬飼は秋風が冷たくなってきた日本を離れ、赤道直下のシンガポールに行って来た。毎年1回開催されるeスポーツの祭典「World Cyber Games(WCG)」の世界決勝戦を観戦するためだ。

 私は過去6年すべてのWCG決勝戦を現地で観てきたが、今年のWCGは大成功といって間違いない。久しぶりに日本選手団のチームリーダーという立場以外だったので、自由な時間もかなり取れたこともあり。今回は1人の観客として非常に楽しくWCGを満喫した。今回のWCGはどんなイベントだったのかみんなに紹介していきたい。


 World Cyber Games概論とシンガポール雑感

空港内に張られたWCGの垂れ幕
会場周りにもWCGの装飾がたくさんある
 WCG2005の話に入る前にまず簡単にWCGを紹介しよう。

 WCGは2000年サイバーコリア政策の真っ只中、韓国のサムスンの子会社、インターナショナルサイバーマーケティング(ICM)が始めたeスポーツの世界大会。年に一度世界中の国で予選大会を開催、その後世界の大都市に国家代表たちを一同に集めて巨大な大会を行なうのだ。

 主催者はWCGをコンピューターゲームで当たり前のように楽しむ世代の新しいオリンピックと位置づけている。過去2000年から2003年までは韓国で決勝戦を行ない、2004年はアメリカのサンフランシスコ、そして今年2005年はシンガポールで開催された。

 シンガポールという国はとても面白い国で、アジアの国でありながら英語を第一公用語としている。ゲームの雑誌もすべて英語。アメリカやイギリスのゲーム雑誌も毎月コンビニに並び、WEBサイトも英語で普通に読まれている。ちなみに人口の70%以上占める中国系の人たちは家庭で中国語も使っている。英語と中国語のバイリンガルであることが当たり前の国なのだ。

 うわさどおりゴミひとつ落ちていない大通りからそれて、すこし入りくんだ路地を歩くと、ところどころにサイバーカフェと呼ばれるPCゲームセンターがある。一番多くプレイされているのは「Warcraft III」だった。またアーケードゲームセンターでの一番人気はSEGAの「三国志大戦」で、日本語そのままの画面で稼動していたものの、さすがは中国系、問題なく漢字を読み取ってゲームを楽しんでいた。

 ちょうどクリスマス前でにぎわう街中のマーケットではPS2やXboxの売り出しも目に付き、シンガポールのゲーマーの1人に尋ねたところ一般家庭ではPS2やXboxのほうがPCゲームよりも広く普及しているとのことだった。

 若い世代は、ほぼ日本と同じようにコンピューターゲームを楽しんでいるといっていいだろう。1年ぶりにアジアで開催されるWCGだが、PCゲーム大国の韓国とはちがい比較的日本に近いゲーム文化の中で開催されるWCGになったのだ。この点も私にとっては興味深い点であった。

サンテックシティのWCG会場入り口 開会式の様子。全参加国67カ国のの国旗がステージに並ぶ


 大いに盛り上がったメイン会場とTV放送

「Warcraft III」が大人気のサイバーカフェ
 空港から街中まで車で移動すると、あちらこちらにWCGの垂れ幕が目立ち、国中がWCGを歓迎しているよう感じられる。メイン会場であるサンテックシティに近づくにつれてWCGの旗がより多くなっていく。サンテックシティは国で一番栄えたシティと呼ばれるエリアの一角にあり、買い物客でにぎわう絶好のロケーションにある。巨大ホールに入るとまず目に飛び込んでくるのが、1,000人分ほど並べられた観客席と大きなステージだ。そのステージの右側には、種目ごとに仕切られたトーナメントエリアがあり、左側にはスポンサーたちが出展するエキシビジョンエリアがある。

 いままでのWCGでは各種目ごとやエリアごとに、建物がいくつかにわかれることが多かった。今年はすべて同じ1つのホール内に設置されており、来場者は一目ですべてを見渡すことができるレイアウトになっていた。

 特に今までのWCGと違うことはトーナメントエリアに一般入場者が近づけることだ。過去のWCGでは選手、審判、記者以外は入場できない隔離されたホールで試合が行なわれ、一般入場者は離れたところに用意されたスクリーンで見るしかなかった。これは試合の公平性を保つことやトラブルをなくすことからの配慮であったが、一般客が十分に楽しめるものではなかった。

 今回は低い塀で囲まれたところまでは誰でも行くことができ、手を伸ばせば選手に届きそうなところで観戦することができたことは観客を楽しませる大きなポイントになっていた。種目の中では特にシンガポールで人気の「Warcraft III」の試合エリアに常に人垣ができており、大きな歓声や拍手がたびたび湧き上がっていた。

 スポンサーブースにも工夫がなされていた。IntelやRazerといった常連メーカーはプロゲーマーを呼んで対戦をさせたり、飛び入り参加型の大会を開いたりと一般入場者を楽しませるイベントを開いて多くの参加者を集めていた。

 数年前までは自社の製品をただ並べて見せるだけのブースが多かったが、今年は積極的に来場者とコミュニケーションをとる工夫がされ、かなり成果を上げていたように見えた。どのブースも本戦の試合同様歓声があがるような場面が何度もあり、来場者の顔にも笑顔がたくさんみられた。このようなイベントが次世代のゲームファン、eスポーツファンを作っていき、しいてはIntelやRazer等の製品を購入する人たちを増やしていくことになるのだと私は思う。

 ステージでは主催者が選んだ注目の試合が行なわれる。この試合には英語の実況中継がつきホール全体に聞こえるほどの大きな音で試合が行なわれる。ステージからアナウンサーの声が聞こえ始めるとトーナメントエリアやエキシビジョンエリアで楽しんでいた一般来場者たちはステージ前に続々と集まってくる。

 ステージの試合は「TVマッチ」と呼ばれ、試合の日の夜TVで放送される試合でもある。このTV放送は試合の中継であるのと同時に視聴者にWCGに興味をもたせる広告の役目も大きく果たしていた。こんなに盛り上がっている会場をTVで見せられたらどんな人でも会場に足を運びたくなってしまうだろう。

 シンガポールという国は40分も車で走れば国の端から端までいけてしまうほど小さな国なので、TVを見た次の日にはシンガポール国民全員が時間さえあれば会場に来ることが可能なのだ。TVの力はやはり大きい。実際に日を追うごとに来場者数が増えていたように感じる。

 日本でも広くeスポーツのすばらしさを伝えるためには、やはりTV放送ができるようにならなければいけないなと深く考えさせられた。今年はこの一体感が感じられる会場レイアウトとTVを使った広報のおかげで盛り上がり、過去最高のエキサイティングな雰囲気をWCGにもたらしたのだ。

CS1.6の1on1イベントを行なうRazerブース インテルブース。「DOOM 3」が軽々動くノートPCなどが注目を集めていた


 「Counter-Strike: Source」の採用が招いた混乱

予選が進行中のカウンターストライクエリア
試合が終わり握手でお互いの健闘をたたえあう4dnとVirtus_pro
 日本からWCG代表を送り込んでいる種目のひとつに「Counter-Strike: Source」がある。「Counter-Strike: Source」の日本代表はチーム4dn.psyminの5人。この連載でも何度か登場しているPSYMINがマネジメントする「Counter-Strike」国内最強のプロチームだ。

 今回のWCGでは、「Counter-Strike 1.6」ではなく、続編に当たる「Counter-Strike: Source」が採用された。この決定は世界中で混乱を招いた。というのも競技種目としてみた場合、Sourceのほうはいまだに完成度が低く、まだまだ世界中のeスポーツコミュニティでは1.6がメジャーだからだ。その証拠に、ほとんどの国ではSourceではなく1.6で予選を行なうような変則的な事態も発生していた。

 日本はというと、まじめな国民性からかSourceで予選を行なった。4dn.psyminもSourceの試合を勝ち上がって日本代表になった。しかし4dn.psyminはさほどSourceで練習をしないまま勝ち上がってしまった。Sourceをメインに練習していたチームが負けてしまったことにも驚いたが、観戦している者としてはどうも十分な練習のないまま試合が行われることに引っかかる部分がある。

 他国の状況はどうなのかと気になってたずねてみたところ、優勝候補と目される国の代表もSourceでの練習は1週間から3週間程度しかしていないとのこと。こうなってくるとこのSourceでの世界大会にどれほどの価値があるのか怪しくなってくる。このこそばゆい感覚は観客だけではなく選手本人、各国予選運営者も同じだったろう。

 私はプレーヤーの鍛え抜かれた技術と才能が化学反応し、試合の中でめりめりと結晶化していく様子が大好きだ。愛国心から日本代表を応援していながらも、そんな美しい結晶が見られそうもないことにはがっかりしていた。

 われらが4dn.psyminの結果は、予選リーグにてベラルーシ代表には勝ち越したもののロシアの強豪Virtus_proに敗北し決勝リーグには進めず終わってしまった。選手たちも負けた悔しさと、Sourceに本気になれない状況へのわだかまりと日本代表としての責任感の間で、なんともいえない気持ちのままこのWCGを終えたように見えた。

 4dn.psyminは12月に開催されるCPL2005冬季大会への出場も決めている、本気の種目である1.6でぜひ日本の旗を世界に向かって広げてもらいたい。そしてSourceをプレイしているプレーヤーたちは、なんとしても来年は4dn.psyminを倒して日本代表権を獲得してほしい。世界中が練習していない今こそがメダル獲得のチャンスだろう。

CS:S ロシアVirtus_proと試合中の4dnの選手達 CS:S 4dnと試合中のロシアVirtus_pro


 初の格闘ゲーム採用。日本選手たちの活躍は?

格闘ゲーム発祥国の日本の代表選手の試合に観客が群がる
決勝戦に進出を決めた瞬間吼える。活忍犬選手
 今回のWCGでは初めて格闘ゲーム種目として、Xboxの「デッドオアアライブ・アルティメト(DoA)」が選ばれた。初の日本ゲームの採用でもある。

 日本代表に選ばれたのはWCG日本予選過去最高の人数185人の中から勝ち抜いた、山口県の戌亥“活忍犬”知行選手と東京の小西“コニダッシュ”哲夫選手。彼らは4dn.psyminとは違い海外で試合をすることが初めての新人選手だ。会場についたコニダッシュ選手は「想像していた4倍以上はありますね。」とWCGグランドファイナルの規模に驚いていた。

 DoAに参加した国は日本、シンガポール、韓国、ポルトガル、イギリス、台湾、オランダ、ドイツ、スイス、ブルガリア、メキシコ、フランス、オーストリア、アメリカの14カ国20名。他の種目に比べればかなり小規模だ。機材もXbox6台分なのでトーナメントエリアはこぢんまりと小さかったが、我々日本応援団にとってはこの一角が一番熱いエリアになった。

 DoAもCSと同じく予選リーグを行ない、各グループ上位2人が決勝トーナメントに勝ち上がる方式。日本選手2人がほぼ負け知らずでガンガンと予選を勝ち上がってくれるおかげで、我々は大きな声を出して安心して応援を楽しむことができた。彼らの余裕勝ちしていく姿は大変気持ちがよかった。

 このトーナメントの中で注意をすべき相手は韓国、台湾、シンガポールの3カ国。格闘ゲームはFPSとは対照的にアジアが強い。その他の国は駆け引きのスキルが数段低い状態だった。ちなみにドイツ予選は参加者が6人しかいなかったそうだ。ポルトガルにはXbox Liveがないので対戦をする環境すらないそうだ。

 2人は当然のごとく予選を1位通過した。結局決勝トーナメントに残ったのはシンガポール1人、台湾2人、日本2人、韓国2人、アメリカ1人の合計8人になった。

 決勝までくると試合の内容ががらりと変わり格闘ゲームらしい2択3択の読み合いが始まった。実はWCGが始まって以来、数日間の練習で、どの選手もお互い何度も手合わせをしている状態になっていた。この練習の間にそれぞれのプレーヤーにあわせた戦い方にいち早く対応できるようになっていることが勝敗を決める大きな要素になっていた。

 その点で秀でていたのは韓国のshinobi選手とシンガポールのtetra選手。特に試合になると急に厳しい人格を見せてくるshinobi選手は決勝戦1回戦で当たったコニダッシュ選手の癖をつかみ、徹底的にコニダッシュ選手の弱点を突いてきた。コニダッシュ選手は癖をつかまれていることに気がつきながらも対応する手段を見つけられず敗北してしまった。

 一方、活忍犬選手は2回戦目のshinobi選手との試合でキラリと光り始めた。1試合目で自分の手が読まれていることを察し、2試合目からは相手との距離、タイミングなど変えるなど試合中にいくつもの引き出しを開けはじめたのだ、追い詰められるほど冴えてくるゲーム強さを持つ活忍犬選手はshinobi選手を下し決勝に進んだ。勝利の瞬間活忍犬選手が拳を突き上げ吼えた。

オーストリア代表のseeN_Noob選手(左)と日本代表の活忍犬選手(右) ドイツ代表のEmssiOne選手(左)と日本代表コニダッシュ選手(右)


 ステージで交差するナショナリズムのぶつかり合い

DOA決勝直前の様子。ステージ前にはお客さんがあふれた
大画面に活忍犬選手が写しだされる
 決勝戦はトーナメントエリアではなく、会場のセンターにあるステージで実況放送つきのTVマッチとして行なわれる。決勝戦の相手は開催国シンガポール代表のTetra選手だ。シンガポールの選手の試合であることが大きくアナウンスされ観客席はあっという間にシンガポール人でいっぱいになった。我々は完全にアウェイだ。私たち日本応援団にも責任感が生まれてきた。少ない人数でも応援で負けてはいけないのだ。活忍犬選手もこんなアウェイの状況下で試合をするのは初めてであろう。私たちがここで応援しなければいけないのだ。

 アナウンサーが試合前に選手の紹介をし始めた。日本の国旗とシンガポールの国旗が画面に映し出された。会場から大きな歓声が上がり始めた。もちろんシンガポールの選手への声援だ。活忍犬選手にこの声を聞かせてはいけない私もできる限り大きな声を張り上げた。

 審判の合図で試合が始まった。1試合目からぎりぎりの駆け引きが続く。腹の探りあいだ。探りあいの合間にもダメージメーターはへっていく。最後の1撃を当てたのは活忍犬選手だった。日本、金メダルにリーチ。2試合目が始まる。さすがTetra選手も決勝にまであがってくるだけある。引き出しの数が多い。お互いの引き出しの探りあいがもつれたまま今度はTetra選手が試合を取った。会場中が歓声の轟音に包まれる。両国が金メダルへリーチだ。

 この試合が最後だ、3試合目が始まる。私はカメラを構えながら怒鳴っていた。何を怒鳴っているのかもはや自分でもわからなかったが、怒鳴れば怒鳴るほど巨大スクリーンが私の上に降って来るような気がした。走査線の隙間の黒がどんどん大きくなって、その奥から何か獰猛な生物がこちらに向かって噛み付いてくる気がした。

 活忍犬選手の闘争心とシンガポール人の愛国心が、なぜかびびっている私を飲み込もうとしている錯覚に落ちたのかもしれない。愛国心と愛国心。闘争心と闘争心。プライドをかけた直接的な戦いはプリミティブな人間の本能をこんな形でも呼び覚ましてくる。私は怖くなっていた。遊びではない。なんちゃってではない。むき出しの生きる力がコンピューターの画面を通して伝わってきたのだ。

 試合は続いているが探りあいは終わっていた。完全に活忍犬選手がTetra選手を撃破していた。tetra選手に活忍犬選手を封じ込めるほどの手口も闘争心も残っていなかった。tetra選手はアスリートにしてはやさしすぎるのかもしれない。3試合目はストレートで活忍犬選手がとった。日本が金メダルだ。シンガポールが銀メダルだ。会場は拍手であふれていた。よかった。大げさかもしれないがシンガポール人が負けた腹いせに暴れださなくてよかったと思った。

ステージ上で静かに試合開始を待つ活忍犬選手 決勝戦後。シンガポールtetra選手と活忍犬選手 試合に負けたコニダッシュ選手と韓国shinobi選手

ステージでポーズを決める活忍犬選手。観客はみなシンガポール人 DoA決勝戦。シンガポールの1勝に盛り上がるシンガポールサポーター


1位の表彰台にのぼった活忍犬選手。優勝賞金は1万5,000ドル(約180万円)
 WCGも6年目になってきて、私も毎年WCGの会場で遭遇する友人たちが増えてきた。彼らは中国やメキシコ、カザフスタン、ロシア、フィリピンなどのIT企業やメディアの人だ。数年前に出会ったころは、はっきりいって素人で、ただeスポーツというキーワードに引かれてわけもわからずマーケティングをしにきている感じだった。それがいまでは独自のeスポーツメディアを立ち上げたりPCカフェをオープンさせたりとすっかりeスポーツのプロになっている。

 今回のWCGで感じたことは世界のあちらこちらでeスポーツをビジネスにできるほど理解して扱える人が増えてきたのに、日本はまた遅れをとっているなということだ。今回のWCGは金メダルのこともあって楽しかった。楽しいからこそこの楽しさが日本に十分報道されないことが残念でならない。今回日本のメディアの人間は我々ともう1社だけだった。なぜ日本が金メダルをとったことがもっと報道されないのか。なぜゲームの楽しさを伝えるメディアがこの楽しさを伝えないのか。

 来年2006年のグランドファイナルはイタリアのモンツァで開催されることが決まっている。ぜひ来年からはこの楽しさを日本のみんなに伝えてもらいたいと思う。私も必ずいくので一緒にパスタでも食べながらeスポーツ談義に花を咲かせましょう。

「Counter-Strike: Source」部門の優勝は2年連続でアメリカのTeam 3Dに決まった WCG2005の総合優勝はアメリカ。主催国の韓国は惜しくも2位。韓国は2002年以来、総合優勝から遠ざかっている

□World Cyber Gamesのホームページ(英文)
http://www.worldcybergames.com/

(2005年11月30日)

[Reported by 犬飼“POLYGON”博士@GoodPlayer.jp]


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