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【不定期連載第5回】 eスポーツの“いま”を伝える熱血コラム


POLYGON犬飼のeスポーツ博士がゆく

東京ゲームショウ2005 プロゲーマーMs.X奮闘記
eスポーツにおけるゲーミングマウスの課題



筆者近影。プロゲーマーMs.Xと試合の合間のツーショット
 今年の東京ゲームショウは出展者のひとりとして参加してきた。場所はPCゲーム向けに開発されたマウスCopperheadを出展したRazerブース。一般の方が来場できる17日と18日の週末に開催されたイベントの司会を行なった。

 イベントの内容はカナダ出身のAlana “Ms.X” Reidという女性プロゲーマーと「Quake 3」の対戦を行ない、勝てば新製品のマウスCopperheadがもらえるという内容だ。私はこの仕事を大変楽しくやらせていただいた。それというのも私が数年間ずっと知らせようとしてきたeスポーツの楽しさを、大会などに参加してくるコアなeスポーツファンだけでなく、今までeスポーツという言葉すら聞いたことがなかった層のより多くのゲームファンに伝えることができたからだ。

 しかし、今回プロゲーマーの試合を間近で触れたことで、ゲームとマウスの関係についてひとつ大きな課題を痛感させられた。今回はそのことについても触れておきたい。


 女性最強のプロゲーマーMs.XとRazerと私の関係

試合が始まるとRazerのブースは人だかりで埋まり、良いプレイには歓声があがる
カナダ出身の女性No.1プロゲーマーMs.X
 Ms.Xは女性ゲーマーだけのクランGirlz of distructに所属するプレーヤーだ。「Quakecon 2004」では「Quake 3」女性部門で優勝、「Quakecon 2005」では同じ種目で準優勝を果たしている。「Quake 3」の世界では最も価値のある経歴を手にしている女性プレーヤーだ。彼女はRazerからスポンサードを受け、今回と同じようなイベントを今年のE3やシンガポールでも行なってきた。E3では108人と対戦し無敗の記録を残してきている。彼女の右足首にはRazerのトレードマークである3つ首蛇の入墨が掘り込まれており、Razerに対する思い入れが伺える。

 Razerは、あまり日本では馴染みのないメーカーかもしれない。このメーカーはeスポーツ用のマウスやマウスパッドを専門に開発・販売し、現役最強のプロゲーマーFatal1tyがデビューしたての頃から使っていたことでも有名だ。また、CPLやWCG等の世界的eスポーツイベントにも積極的にバックアップしている。近年はスウェーデンのプロクランSKや日本の4dN.psymin等、沢山のプロゲーマーたちとも契約をしている。

 私がRazerのことを知ったのもFatal1tyのおかげで、2000年に韓国で行われたWCGCの決勝戦ボールマウス時代の製品Boomslangを使って優勝したFatal1tyの姿を見て「これは特別なマウスだな」と大変なインパクトを受けたのが最初だ。その後すぐにWCG日本代表の選手達とアメリカから直輸入して入手。私が過去に何回か行なったeスポーツを紹介する公演でも毎回このBoomslangとRazerのことを紹介して来た。今年になってついに日本でもRazerのマウスが販売されるようになり、日本の正規代理店の株式会社ASKの紹介で今回のイベントの司会を行なうことになったのだ。

 東京ゲームショウでのブースの司会はとても重要な仕事だ。話し方ひとつでブランドのイメージが左右される。どうやったら来場者にeスポーツを意識したマウスがあることを知ってもらえるのか。どうやったらその裏にあるeスポーツシーンの面白さが伝わるのかを真剣に考えた。特に今回はXbox360やPS3を目当てにやってきたコンシューマーゲームファンに興味を持ってもらえるようにするのが私の責任だと考えていた。

 イベント当日、私は会場へ向かう電車の中でもまだ責任の重い仕事に緊張していた。会場に到着し、大会用ステージに置かれた2台のPCをセッティングをしていると、Razerの社員につれられてMs.Xがやってきた。彼女は金髪で青い目。なぜかゴムぞうりを履いており、どこも飾るところがない普通の24才の女性だった。挨拶をした時の彼女の笑顔はとてもやさしかった。私の緊張は、彼女のキャラクタ性のおかげで幾らかほぐれた。

 Ms.Xは、Razerのロゴと自分の名前が背中に大きく刺繍された白いパーカーに着替えると、バッグの中からスウェーデン語バージョンのキーボードと今回展示する新マウスCopperheadを慣れた手つきで取り出した。イベントで使用するPCは日本語OSのため、彼女はダイアログが読めないので、私がセッティングを手伝った。これまでに世界大会に日本の選手を引率していって英語OSでセットアップを手伝う経験はあったが、日本語OSを海外の選手に説明するのは初めての体験だった。

 Ms.Xは椅子の高さを調節し、キーボードやマウスパッドの位置、モニターに対する体の位置をあわせると、「Quake 3」を立ち上げウォーミングアップを開始した。実際に「Quake 3」の中でマウスを振って、マウスの感度や加速に間違いがないか確認する。マウスの感度はWindows上の設定にゲーム側の設定がかぶさる形で設定されるので、この2つを丁寧に確認して自分の思ったように操作できるまで調整をしていかなければならない。

 これはゲームによってはもちろん、Windows XPとWindows 2000でも微妙にこの設定は変わってくるし、英語ドライバと日本語ドライバで速度が微妙に変わってくる場合もある。この設定は非常に繊細なもので自分のベストな設定にすることはなかなか難しいものなのだ。プレーヤーからみれば「今日のこのマシンはどんな癖があるのかな?」とマシン個体差の癖を読み取っていくようなものだ。マウスの設定が終わると、いつもゲーム中でやっている動作を確認しながら、体をマシンとゲームになじませていく。

オプティカルからレーザーへ進化したRazerの新ゲーミングマウスCopperhead 試合前に挑戦者のマウスやキーボード、ゲームの設定を手伝う筆者


 Ms.Xは日本の強豪を相手にいかに戦ったか!?

Razerブースとコンパニオン。人通りの多い場所にブースを設置できた
試合中、大声で試合を解説する筆者
 ブースにも徐々に人が集まり始めていた。おそらく日本のゲームファンたちはMs.X本人を見ることも、彼女のプレイを見るのも始めてだろう。もっと言えばプロゲーマーを直接見るのも初めての人が大半だろう。気がつけば事前にWebで登録をした参加希望者の数人も、すでにMs.Xのウォーミングアップ画面を睨み付けて待っていた。

 実は、私は彼女の腕前に関して少し不安を抱いていた。事前に彼女が優勝したQuakecon等のDEMOファイル(試合の記録ファイル)やムービーをダウンロードして観たところ、正直「めちゃくちゃ強い!」とは思えなかったのだ(といっても私の腕では到底勝てないのだが)。男性の世界トッププレーヤーたちの圧倒的強さに比べると数段格下に見え、ひょっとすると日本のトップランクの「Quake 3」プレーヤーなら勝てるのではないかと思えてしまったのだ。

 もし負けてしまうようなことがあれば、私はこの2日間eスポーツの説明も、マウス説明もしづらくなるなと心配していた。その一方で、Razerの担当者は挑戦者が勝つとは夢にも思わないようだった。「負けた人」に進呈するTシャツやドッグタグ等のノベルティを準備していた。

 今回イベントの種目に選ばれたのは「Quake 3」。このソフトは発売されてから6年がたったとても古いソフトだ。東京ゲームショウでこんな古いソフトを大画面に映しているブースは他にない。だが私もこの選択は正しいと思う。なぜなら「Quake 3」はQuakeconやCPLでも長年採用されてきたソフトで、参加するプレーヤーたちを本当に熱くさせ、ゲーム大会からeスポーツというジャンルを切り開いた中心的ソフトウェアだからだ。現在でも世界中で大会が開かれ続けており、Ms.Xはなんといってもその大会で連勝する「Quake 3」のプロゲーマーなのだ。Razerはゲームソフトではなく、とても上手くプレイするMs.Xの姿を見てもらい、彼女の使っているマウスに注目してもらいたいのだ。

 今回のイベントはeスポーツ大会でよく採用されるルールをアレンジして行なわれた。1対1で制限時間6分間の間に相手を体力を0にしてダウンさせた回数が多いほうが勝ち。マップもpro-q3dm4やHub3aeroq3といったよく大会で採用される比較的狭いマップを選んで行なわれた。狭いマップのほうがプレーヤー同士が頻繁に出会い、打ち合いの数が増えるから観客に取ってはエキサイティングな試合になるからだ。

 最初の挑戦者がMs.Xの対面にすわりセットアップを開始した。Ms.Xの顔から笑顔が消え、eスポーツアスリートの真剣な顔になっていた。挑戦するプレーヤーも勝つために必死だ。納得できる設定で試合は行ないたい。私はできる限り挑戦者の納得する設定ができるように時間をとった。できるだけ平等になるように努力するのもeスポーツイベント運営側の責任だからだ。

 また、Ms.Xが負けるとイベント運営上、私も困るのだが、彼女を倒せるようなプレーヤーが現れてくれることも半分期待している自分もいるのだ。いったいどっちが勝つのだろうかというドキドキ感はeスポーツの試合を観戦する人にぜひ味わって欲しい楽しさでもある。

 挑戦者の設定が終わり、私は試合を開始した。ブース内の大画面にカウントダウンが表示されて試合が始まった。開幕してすぐにお互い武器とダメージを軽減するアーマーを拾い集めるために、マップの中を高速で移動し始める。当てれば一撃で大ダメージを与えるレールガン、爆風で相手を吹き飛ばすことができるロケットランチャー、沢山の体力を一気に獲得できるメガヘルス。お互い相手より早く必要な武器を拾いながら、相手の行動を読んで早くダメージを与えたい。

 Ms.Xはロケットランチャーをいち早く拾い相手の足元にロケットランチャーを爆発させ爆風でダメージを与えはじめた。20秒を経過したあたりでMs.Xが1フラグ(FPS用語で点数、相手のダウンを奪った数)を相手から奪った。これをキッカケにMs.Xはロケットランチャーでフラグをどんどん稼いでいった。1試合目は相手に1フラグもとらせることなくプロゲーマーと呼べるようなスコアで勝つことができた。挑戦者はMs.Xと握手をしてRazerグッズが沢山入ったバッグを受け取り笑顔で帰ってくれた。

Ms.Xと挑戦者。両者とも試合中は真剣 試合後健闘をたたえあって握手をするMs.Xと挑戦者


 FPSにおけるマウス調整の難しさ

2日目のスコアボード。25試合目の時点で、なんと1フラグしか取られていない!
 パーフェクト試合達成という最良のスタートを切ったかに見えたイベントだが、私の不安はさらに大きくなっていた、今の試合内容はとても女性といえども世界の大会で勝つ人のプレイではないのだ。移動するときも少し壁にぶつかったり、ちょっとテクニックが必要なジャンプ箇所を失敗してアイテムが取れなかったり、そのほかにもたくさんの細かいミスを繰り返していた。一番安全で容易にダメージを与えられるロケットランチャーしか使わないのもおかしかった。何かが上手くいっていないのだ。自分の席に戻ったMs.Xも厳しい表情をしながら、マウスの調整や座る位置を再び調整し始めた。彼女自身も何が上手くいっていないのかわかっていない様子だ。

 そうしている間にも2番目の挑戦者が席につき、セッティングを終えて試合を開始を待っていた。お客さんである挑戦者を待たせるわけにもいかず、再調整も半ばで試合を開始する。先ほどとあまり大差はないものの少し失敗が減ってきているように見えた。制限時間の6分が経過し2試合目もフラグだけは圧倒的な差でMs.Xが勝利をした。

 次々に挑戦者が現れ彼女は圧倒的なフラグ差で勝っていった。そして試合が終わると引き続きマウスの設定を繰り返した。だいぶ原因が特定できてきた。マウスの設定が上手くいっていないのだ。私も日本語OSと英語OSの違いでなにか設定が違うのかもしれないと思ったが、今からOSを英語に変える時間が取れるわけもないので、何とか彼女が設定を完璧にしてくれるのを待つしかなかった。

 こういう時の選手の気持ちというのは、かなりあせっているもので、今はマウスの設定が悪いのであろうと思い込み、少しづつ設定をいじってはいるが、実は本当にいじらなくてはならない設定箇所がぜんぜん思いもよらない場所にあったりすることがよくあるのだ。そうなるといつまでたっても設定は完璧にはならない。複雑な設定箇所の山に思慮を膨らませ、膨らむほど広がる不安を抱えながら今の自分の判断信じて設定をつづけるしかないのだ。

 要するに、今の彼女にやれることは2つだけ。設定を完璧にすることと、もう一つは自分の体を今の設定に早くなじませること。試合を続けながら体をなじませつつ試合の合間に設定をいじっているのだ。

 私から見て彼女はとても頼もしいプロフェッショナルな選手に見えはじめた。彼女は一言もこのトラブルに関して運営の私に文句をいうことはなかった。実はこんなトラブルはeスポーツの大会ではよくあるトラブルなのだ。審判から与えられた設定制限時間の中で最高のセットアップをし、結果を残さなくてはならない。彼らプロ達は、どんな負け方をしたとしても、負けたという事実しか記録されない事をよく知っているのだ。彼女は圧倒的なスコアで勝ち続けながら、もう一つのプロフェッショナルとしての自分の中の戦いを続けていた。

 15試合くらいを終えた頃だろうか、彼女のプレイの様子が変わってきた。ダメージの与えやすいロケットランチャーではなく、当てるのが難しいがより多くダメージが与えられるレールガンを使いはじめるようになってきたのだ。「Quake 3」ではトップクラスにいけばいくほどこのレールガンをいかに早くしかも正確に当てるかという試合になってくる。レールガンを当てるためには、照準の役割をしているマウスの設定が上手くいっていないといけない。そのレールガンが当たるようになってきたのだ。つまり彼女はマウスの設定をなんとか克服したということだ。

 彼女の顔に笑顔がもどってきた。彼女の生き生きしたプレイにつられ、私も実況の声もどんどんと大きくなっていった。声が大きくなったからか彼女のプレイが輝いているからか、ブースの前に立ち止まり試合を観戦する人たちが増え始めた。しばらく観戦していた観客の中からも挑戦者が次々に現われた。展示してあるマウスを手にとって見てくれる人たちも多くなってきた。ブースは活気にあふれ始めた。

 私は必死でこの女性のプロゲーマーのすばらしさ、彼女が使っているマウスがゲームをやるために生まれてきた魅力的なマウスであること、そしてこれがeスポーツの楽しい世界であることを大きな声で伝えようとした。

 「Quake 3」を見たことがなく、PCでもゲームをしたことがないという3人組みの女の子は、何試合も彼女の試合を見続け、彼女のかっこよさに歓声を上げ最後にはMs.Xに握手をもとめていた。Razerブースの近くで出展をしたゲーム専門学校の学生たちも笑顔でやってきて、ユニフォームにMs.Xのサインをもらっていた。

 こうして、あっという間に1日目が終了した。2日目の日曜日はMs.Xにも問題はなく、さらに沢山の人がRazerブースを訪れて彼女のプレイを楽しんでくれた。終わってみるとMs.Xの試合結果は65戦全勝という素晴らしい成績を残していた。

 イベント終了後、マウスのトラブルの件をMs.Xをたずねてみると、なんと彼女は新製品のCopperheadを使ったことがなく今回初めて受け取ったそうだ。普段はひとつ前の世代のDiamondback 1600を使っているという。おそらくRazerにスポンサードを受けている以上は今後はCopperheadに変えていくのだと思うが、今日の時点では対戦者と同じように初めて使ったマウスで、ずっと対戦をしていたのだ。

 適応能力のない私は、恥ずかしながら新しいマウスに慣れるのに1週間ほどかかる。その時間がもったいなくてなかなか新しいマウスに切り替えられないのだ。初めて使ったマウスであそこまで試合を行ないながら適応していくのは凄い。恐るべき適応能力。これがトップのプレーヤーの才能なのだなと、いまさらながら関心してしまった。私も彼女のファンになっていた。

Ms.Xのプレイを見た後、早速マウスとマウスパッドを試してみる姉妹 インタビューを受けるMs.X。彼女のクランに入いるのはオーディションが必要なのだそうだ


 今回のこのイベントを通じてひとつRazerを含めてマウスメーカーに提案したいことも生まれてきた。今回のMs.Xの試合の様子を見ていてもわかるとおり、マウスの設定にはOSの種類、ドライバ、ゲームの中の設定など複雑な段階が存在している。この複雑な設定をそれぞれのメーカーが協力して簡単に引き継げるようにできないのだろうか? これが解決できればもっと気軽に新しい高性能なマウスを買って試してみようと思う人も出てくるだろうし、もっとプレイそのものに集中できるようになると思う。

 今回の司会の仕事では、RazerのシャープなコンセプトとMs.Xのすばらしいプレイのおかげで、eスポーツのすばらしさをまた少し伝えることができたのではないかと思う。観戦してくれたみんなの笑顔で私はそんな実感がわいてきたのだ。ゲームをプレイすることは決して非生産的なことではなく、突き詰めれば人の心を動かすクリエイティブで生産的なことなのだ。

 Razerは来年も東京ゲームショウにブースを設置してイベントを行ないたいと言っていた。その時はMs.Xを倒すような女性プレーヤーが現れて欲しいと思う。ぜひ日本のハードメーカーやゲーム業界関係者の皆さんも、海外のメーカーに負けないようにeスポーツのソフトやグッズをどんどん開発してほしい。そしてeスポーツイベントを開催するときにはぜひ犬飼に声をかけてください。声が出なくなるまで司会・実況しますから!

□Razerのホームページ(英文)
http://www.razerzone.com/

(2005年10月13日)

[Reported by 犬飼“POLYGON”博士@GoodPlayer.jp]


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