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会場:明治学院大学 白金キャンパス
3日間の会期を終えてみての感想としては、マイクロソフトやNVIDIAといった今後の行く末を左右する、いわばキャスティングボートを握るメーカーが、自社戦略をふまえつつ次世代の展望を語るセッションが目立った一方で、ワークショップを初めとした実学的なセッションは抑えめになっており、GDCや昨年のCEDECに比べ、対象となる受講者のグレードが1段高くなっている印象を受けた。プロデューサークラスとまではいかないが、少なくとも一般の開発者や学生層には無縁の、経営に絡む戦略的な内容のセッションが多く、誰のためのカンファレンスなのか、一考してみる必要があるのではないか。 さて、本稿では、最終日に実施された中では、投資家からプロジェクトリーダー、そして一般開発者までの幅広い層に次世代像を提案したという意味で画期的なセッションだった「次世代ゲーム機と3Dグラフィックスに関する今後の課題」を取り上げてみたい。
■ Electronic Artsは次世代機でさらに50%成長を見込む
経歴を見ると、日本シンボリックスの3DCGアプリケーションの技術担当を皮切りに、スクウェアの3DCG技術統括('95年)、米SquareLAの技術担当VP('96年)、スクウェアの研究開発担当執行役員(2000年)、米Squareの上級副社長兼最高技術責任者(2000年)と、一貫して3DCG畑を担当してきた3DCGのスペシャリストであることがわかる。 代表作はTV向けのCG映像から、3Dコンテンツ制作ツール開発、SIGGRAPH向けの技術デモ、FFシリーズのCGスーパーバイザーなど、ゲームそのものより3DCGを軸としたプロジェクトに数多く携わっている。一般読者にもピンと来る代表作としては、スクウェアのCG映画「ファイナルファンタジー」のR&Dスーパーバイザー('01年)が挙げられる。 EAのプロフィールについては、北米とヨーロッパでNo1パブリッシャーであることを紹介し、売り上げが3,000億円に達し、社員が5,500人、内開発者が3,500人といった具体的な数字を挙げ、世界最大のゲームパブリッシャーであることを報告。タイトルの傾向としては「ハリーポッター」、「007」、「ロード・オブ・ザ・リング」などライセンス物が中心で、ジャンルとしてはスポーツゲームがメインであることなどを紹介した。 欧米ではNo1であるEAだが、よく知られているように日本では7位(PS2版のみ)と苦戦している。橋本氏は苦戦の理由について、「日本は成熟度が高く、ユーザーは多様なタイトルを求めるようになってきている。対してアメリカはメジャータイトルを好み、状況としては4~5年前の日本に近い。日本のゲームは絵的にも綺麗で、ゲームも作り込まれており、レスポンスも優れている。北米のタイトルをローカライズしてもなかなかうまくいかない」と、米EAのVPらしい率直な見解を披露した。 その一方で、会社そのものは、まさに盤石の一言で、「The Sims2」などのオリジナルタイトル、「タイガーウッズ」などのスポーツタイトル、そして「ハリーポッター」などの映画タイトルという3つの柱で、2005年度は実に31本のミリオンセラータイトルを生み出している。ちょっと日本ではファーストパーティーでもありえないほどの成功ぶりである。
EAのプロフィール紹介の最後に、'79年から2005年までの売り上げグラフを提示した。ファミコンに代表される8bit機から、16bit機、PS、PS2と、次世代機が出るたびに50%成長の山が4つできている。橋本氏によれば、これはアナリスト、投資家向けのデータ資料とのことだが、「つまり、このグラフで言いたいのは、次世代機でEAはまた50%伸びるよってことが伝えたいんだと思いますよ」とコメントし、場内の笑いを誘った。メディア的な視点では、EAは次世代機の展望について比較的楽観的な構えを示していることがわかって興味深い。 ■ 次世代機はデュアルコアの有効活用とメモリのシェアが重要
続いて橋本氏は、過去のゲーム機から次世代機までのCPUクロックやMIPS値、バスの帯域幅、メモリなどを折れ線グラフを紹介し、「こうして表にしてみると、意外とリニアな成長をしており、その意味ではやっぱりメモリが足らなくなるかもしれない」とコメントした。 また、橋本氏は「各世代のゲーム機には必ず不満点があり、次世代機でその不満を解消することがチャンスに結びついている」という。たとえばスーパーファミコンの不満点は、3Dグラフィックスと動画再生、PSはポリゴン数と色解像度、PS2はシェーダー、テクスチャ・サイズといった具合である。次世代機ではこれらの不満を解消するためにメモリが増やされ、結果、解像度も上がり、クオリティも向上するというわけである。 さらに橋本氏は、周辺のテクノロジーにも着目。例としては、スーパーファミコンでは3DCGをプリレンダーして2Dに落とし込むテクニック、PSではモーションキャプチャ、PS2では物理シミュレーションやラグドール等の人体物理モデル。多くは映画業界からの転用だというが、現在はもうそれほど有望なテクニックは残されていないという。いずれにしても橋本氏は、「現存の技術をいかにスケールダウンしてゲームに取り込んでいくか」が重要だとした。 次世代機では、AI、ネットワーク、P2Pモデルをキーワードとして取り上げた。ただ、AIについては、AIのような探索型のパターンマッチングのアプローチはCellプロセッサには向いておらず、パフォーマンスは必ずしも良くならないかもしれないという。ネットワークについては、「サーバー(そのもの)が高い」と切り出し、今後は各クライアントがサーバーの機能を兼ねる「サーバーレスのゲーム」が増えるのではないかとの予測を示した。橋本氏の見解でユニークなのは、大胆だが提言そのものに新鮮味は薄く、むしろ原点回帰的な側面が目立つところだ。
特に印象的だったのは、ミドルウェアの重要性について言及した話。ゲーム開発は常にハードの機能に制限されるのが常識だが、これに捕らわれていてはダメで、ハードが持たない機能も「ソフトウェアエミュレーションで経験しておき、ソリューションを考えておく必要がある」と強調。それゆえにミドルウェアの導入が重要だと説く。もっとも早い段階からマルチプラットフォーム展開を果たしてきたEAらしい発想といえるが、ハードとゲームを繋ぐ、基本ソフトウェアレイヤ部分の自社開発の重要性は、年々高まってきており、時代のニーズに合った提言といえる。 ■ 次の3DCGはラスター型を提唱 実現は10年後か!?
続けて、オーサリング、レンダラーといったテーマでさまざまな提言がなされたが、基本的な方向性は、プロシージャル的なパラメータによる自動生成によって、データ量を減らすという考え方だ。その一方で、時代が要求する3DCGは、高性能ワークステーションレベルなのに、それらがすでにビジネス的に破綻しており、それにつられコンシューマ機ビジネスも破綻するのではないか、またはメインフレーム時代が復活するのではないか、という懸念も示した。 技術的なテーマとしては、ポリゴンによる3DCGが、いまだにNTSCビデオの再現性に勝てない現実、そしてもうクオリティの向上は見込めないという見解をふまえ、ラスター型の3DCG生成を提唱した。 ポリゴンが三角形の集合体で3Dモデルを生成しているのに対し、ラスター型というのは、点の集合体でモデルを生成するアプローチ。かつて3D表現技術のひとつとして使われていたボクセル系のさらにベーシックな考え方で、点の集合体で3DCGを生成しようという考え方である。メディカル分野の3DCTスキャン等に一部実用例があるが、途方もない量の頂点が存在するため、リアルタイム処理が大前提である3Dゲームでの実用例はない。推定される必要メモリ量は、最低でもギガバイトレベルになる。次世代機でもとうてい無理である。 3DCGはトータルバランスがもっとも重要であり、自動生成オブジェクトにリアリティはなく、ポリゴン世界にもはや感動の向上はないという橋本氏の見解には同意する。原理としては写真と同一であり、さらにZ軸を加えた情報を取り込むことにより、NTSCビデオを上回る水準の3DCGが実現できるというのは確かに可能性は感じられるが、「技術的にそろそろ可能」という判断の根拠を示してほしかった。EAの技術担当VPらしく、5年、10年先の予測というとらえ方をしたほうが良さそうだ。
なお、来るべきHD(ハイデフィニッション:高解像度)時代については、HD画像が単純にNTSC画像の6倍の画素情報を持っていることをふまえ、文字情報の多様化と、実写取り込みゲームの再来を予想。その上で、映画のように、実写の上に特殊効果として3Dグラフィックス(パーティクル等)を使うといった活用できるとした。次世代機の3Dグラフィックスがどうなるのか、橋本氏の予測がどの程度的中するのか、時代の推移と新たなトレンドの誕生を注意深く見守りたいところだ。 (2005年8月31日) [Reported by 中村聖司]
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