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会場:明治学院大学 白金キャンパス
「甲虫王者ムシキング」は、小学生男子を中心に全国的な大ヒットを記録したアーケードゲーム。小学生にも馴染みの深い“ムシ”同士の戦いをテーマに、カードコレクション要素を加味、インターフェイスが“ジャンケン”ボタンのみというわかりやすさもあって、親も巻き込んで大ブームを呼んでいる。 リリースされて早3年目を迎える「ムシキング」だが、今回のセッションは、2005年6月にゲームボーイアドバンス版を発売したことをふまえ、アーケードゲームの必然的展開であるコンシューマへの移植に際し、コンテンツにとってもっとも理想的な相乗的展開方法を「ムシキング」を例に紹介するという内容。そもそも“アナログ的連動”とは何か、タイトルからして大いに惹かれるものを感じるセッションである。
■ 開催された大会は3万300回!! 大会を軸としたユニークなアーケード展開
続いて植村氏は、「ムシキング」の現状を、具体的なデータを示しつつ紹介。植村氏の口からぽんぽん飛び出す数字をメモしながら驚嘆してしまったが、タカラのベイブレードやタミヤのミニ四駆、少し古い例でいえばバンダイのガンプラ、あるいはキン消し(キン肉マン消しゴム)のような、子供総取り状態のムーブメントが完成しており、とてつもなく巨大な市場ができあがっていた。 設置店舗数5,000店舗、総設置台数13,200台。カードの売り上げは3年間で2億3000万枚、セガ公認の大会が3万300回。セガではユーザー数を150万人と推定し、ひとり当たり1万円から2万円程度を使っていると予測。コアユーザーは小学生だが、カードが認識でき、ジャンケンが理解できれば楽しめるゲームデザインのため、下は4歳から、上はスーツ姿のビジネスマンまでと実に幅広い。 植村氏は解説しながら、TV放映された映像やプロモーション向けに撮影された映像など、各種映像資料を披露した。映像には、熱心にゲームをプレイする子供、カードホルダーいっぱいのカードを見せびらかす子供、大会に負けて泣く子供など、無数の喜怒哀楽が示されており、印象深かった。 植村氏は、アーケード版「ムシキング」のヒットの秘訣として、子供が好きなムシをそのまま使用したこと、そして親に嫌われず、親に「これなら遊ばせてもいい」と思わせ、リピートのサイクルをうまく完成させたことだと説明。加えて、全国に90人いるムシキングリーダーの存在も大きいという。
常にヒザ立ちで子供と同じ目線で応対する彼らは、戦術のアドバイスをしたり、対戦相手にもなるという。彼らは全員セガの社員で、こういった地道な努力が「ムシキング」人気の下支えになっており、こうした展開が可能なのが「アーケードである」と強調。アーケード屋としての強烈な自負を感じさせるコメントに感心させられた。
■ GBA版が売れるとアーケード版が売れる「アナログ的連動」とは?
ここで植村氏は、GBA版発売後の売れ行きの推移と、アーケード版のカード販売数の相関グラフを見せた。GBA版は、初週で半分以上が売れ、1カ月で結果がわかるといわれるコンシューマゲームの売れ方とは異なり、「ダラダラ売れており、減衰率が低い」と分析。一方、アーケード版のほうは、コンシューマ版の影響で売り上げが鈍るどころか、むしろさらに売れ行きが伸びている。なかなか驚くべき結果である。 植村氏はGBA版の狙いを「自信を付けて貰うこと」だとした。何の自信かというと、地元で開催されている大会への自信だという。息子が「ムシキング」ファンだという植村氏によれば、子供はやる能力は持っていても自信がなかったり、大舞台への恐怖心で、実力を発揮できない、あるいは参加そのものを見送ってしまう傾向があるという。 それを裏付けるように、GBA版ユーザーのアーケード版体験率は99%なのに対し、大会参加率は10%程度に留まる。しかし、参加を希望するユーザーは75%にもおよび、実は過半数が大会への参加意欲を持っている。植村氏は、アーケード版とGBA版のマルチ展開のひとつの理想型として、大会への練習をGBAでやる、アーケード版の順番待ちの間にGBAをプレイするといったケースを挙げた。実際、そのような遊び方をしている子供たちも増えており、思い通りの展開になりつつあるという。 植村氏は、ゲームセンターは特殊な空間であり、利用者は自分だけでなく、騒音も大きく、ペースが乱されてしまうと、アーケードのネガティブな側面を紹介しつつ、「GBA版なら自分のペースでゲームを理解したり、場所を問わず友人と対戦したり、家族の共通の話題にしたりして、プレイに自信を付けることができる」とコンシューマ版のメリットを紹介。GBA版で十分自信を付けた上で、ゲームセンターというパブリックな場で、専属スタッフとふれあったり、ゲーム大会に参加したりすることで、より「ムシキング」を楽しめる。結果として、コンシューマとの連動は可能であり、さらに相乗効果も期待できる、とした。これが植村氏の提唱する「アナログ的連動」である。
「ムシキング」は、いわゆるオンラインゲームではなく、基本的にスタンドアロン型のカードコレクション+対戦ゲームである。ただし、人気継続のためのコアとしてコミュニティの発展維持を強く意識しており、しかもそれがリアルコミュニケーションであるというところに、事業モデルとしてのユニークさと、揺るぎのない盤石さを実感させた。
■ 「大人が本気で作った子供向けのアーケードマシンがまだまだ少ない」
「魚をカード化してどうするんだ、まぐろカードといわしカードで、バトルはどうすんだ」といった具合に、植村氏の冗談を交えた絶妙なトークで大いに場が湧いたが、GBA版開発のきっかけとして、小児ガンに冒された子供のエピソードなども公開。子供の親から手紙が来たことがきっかけとなって、励ましの手紙やオリジナルグッズなどを送り、現在は無事快方に向かっているという。 植村氏は、「子供は大人のように病気と闘えない。日々楽しくないと生きる気力が湧いてこない。『ムシキング』が少年の生き甲斐になるコンテンツになった以上、子供達を裏切るようなことはできない」と断言。「ムシキング」と心中する覚悟を表明した。コンシューマ版については、「当初はコンシューマ版は渋っていたが、少年のようにやりたくてもできない子供がいることを知り、ケータイゲーム機向けを前提に開発を決めた」という。 質疑応答では、質問者のほとんどが講演内容に賛辞を示しつつ、ハード、ソフト両面からさまざまな質問が相次いだ。中でも印象的だったのは、アーケード市場の現状に対する質問で、「子供と一緒に遊びに行って実感することだが、大人が本気で作った子供向けのアーケードマシンがまだまだ少ない」との認識を示し、「高額を使うマニア向けのゲームが多いのは問題」と、自社を含むアーケードメーカー各社に暗に反省を促した。
日本はほぼ世界唯一のアーケードゲーム大国だが、CEDECではアーケードをテーマにした講演は意外なほど少ない。今回植村氏のセッションを聞いた限りでは、アーケード市場にはまだまだ知識を共有すべき情報が眠っているような感触を覚えた。来年はアーケードをテーマにしたセッションが増えることを期待したい。
□コンピュータエンタテインメント協会(CESA)のホームページ (2005年8月30日) [Reported by 中村聖司]
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