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China Digital Entertainment Expo現地レポート

中国オンラインゲームメーカー訪問レポート
中国オンラインゲーム市場の現状と今後の展望を探る

7月21日~23日開催(現地時間)

会場:Shanghai New International Expo Center

 China Joyは、いかにもアジア圏のゲームショウらしく、未来のユーザーに向けてアピールする場というより、日頃から自社のゲームをプレイしてくれているユーザーのための感謝祭といったニュアンスが強く、試遊はおろか、一片の映像すら見られないこともしばしばだった。話を聞こうにも耳栓必須の大音量で会話が成り立たず、取材を受ける担当者すら存在しないこともあった。そういう状況下でも場内のあらゆるエンターテインメントを堪能しようとどん欲に歩を進めるゲームファンの姿勢には驚くべきものがあった。

目覚ましい発展を遂げる経済都市上海。現地在住者でも「1月単位で風景が変わるほど」だという
 こうしたアジアスタイルの出展光景は、日本を含む欧米式のショウに慣れた我々にとって異文化地域へ進出することの難しさを実感させてくれるが、ソニーやセガ、NC Soft、Gamaniaといったワールドワイドで展開しているメーカーは、試遊台やシアターなど、しっかり欧米式のスタイルで出展を行なっており、China Joyは現状世界唯一のアジア圏と欧米圏という異なる文化圏の共演の場とも言える。

 アジア圏の圧倒的な勢いを見ていると、最終的にどちらがスタンダードになるのかはわからなくなってくるほどだが、China Joyがゲーム文化的に特異な環境にあるゲームショウであるのは間違いなく、それだけにChina Joyの活況を支えている中国ゲーム市場の実態は、我々ゲームメディアならずとも注目されるところだろう。

 そこで今回、中国で展開するメーカー3社を訪問し、中国ゲーム市場の実態について取材してきた。今回訪問したのは、中国、台湾、香港で展開する台湾のゲームメーカーSoftstar Entertainment、携帯コンテンツの大手パブリッシャーである中国のコンテンツプロバイダーLinktone、携帯コンテンツの開発を行なっているシンガポールのデベロッパーAvantouch Softwareの3社。

 本稿では、つい先日、コーエーと業務提携し、「大航海時代 Online」のアジア展開(台湾、香港、マカオの3地域で中国本土は含まない)を正式発表したSoftstarで伺ってきた中国オンラインゲーム事情を紹介する。


■ 政府の意向が複雑に絡む中国オンラインゲーム事情

Softstar Mobileの事務所があるビル。もともとスクウェア・エニックスとの合弁会社が入居していたビルだという
スライドの解説を行なうSoftstarのBusiness Development部門のマネージャーである卓実齢氏
オンラインゲームユーザー数の変遷を示したスライド。2007年には、日本の人口を超える1億4000万に達すると予測している
「Dream of Mirror Online」のゲーム画面。トゥーンシェーダーによる武侠MMORPG。ちなみにこれは剣の上に乗って空を移動しているシーン
 今回話を伺ったのは、SoftstarのBusiness Development部門のマネージャーである卓実齢氏、オンラインゲーム開発部門を担当するLightening Starの林正欣氏、モバイル部門を担当するSoftstar Mobileの林嘉裕氏の3名。いずれも台湾からの出向で、仕切り役となった卓実齢氏は、担当者の説明を私見を交えつつわかりやすく説明してくれる豪放磊落といったタイプの女性マネージャーだが、中国語のほか、英語、日本語に堪能で、通訳まで務めて頂いた。

 Softstarは、2001年にスクウェア・エニックスと合弁会社を設立し、「クロスゲート」のアジア展開で急成長を遂げた台湾のゲームメーカーである。2005年1月にスクウェア・エニックスが北京に100%子会社(SQUARE ENIX WEBSTAR NETWORK TECHNOLOGY 董事長 本多圭司氏)を設立したことを受け、3月1日に合弁関係を解消。Softstarがこれまで台湾と中国で展開していた「クロスゲート」やモバイルコンテンツは、すべてスクウェア・エニックスの子会社に引き継がれることになっており、現在、12月末までを目処にサービスや上海事務所の明け渡しといった各種の移管手続きが行なわれている。

 Softstarはこれまでの運営ノウハウや「Joypark」というゲームポータルのブランド力を軸に、完全独力で台湾、中国ゲーム市場に再展開を果たすといった状況になっている。「クロスゲート」というドル箱タイトルがなくなってしまうとビジネス的に相当厳しくなってしまうのではないかと思いきや、実際に話を聞いてみると意外とそうではなく、スクウェア・エニックスがSoftstarとの合弁会社で、中国展開のノウハウをたっぷり学んだように、Softstarもオンラインゲームやモバイルコンテンツの分野で、QA(品質管理)のあり方や、セキュリティ対策に関するノウハウなどをしっかり学んでおり、合弁会社で得たノウハウを今後の展開に活かしていくという。

 Softstarの調べによれば、2005年のインターネット利用者数は約1億800万人。このうち、30%がオンラインゲーム利用者で、30%のうちの半分がポーカーや花札といった無料ゲームをプレイし、残る半分が有料のゲームをプレイしているという。つまり、ビジネス対象となるオンラインゲームユーザー数は約1,500万人となる。少々多すぎる気もするが、いずれにしても中国が世界でもっとも大きなゲーム市場であり、まだまだ潜在需要が眠っているという状況なのは間違いない。

 ゲームの決済は台湾と同様、プリペイドカードが主流。WebMoneyのような共通の電子通貨は存在せず、各社がそれぞれ独自のカードを発行している。カードの値段は10元(約150円)から40元(約600円)で、10元で立派に食事が取れる中国では、10元のカードすら高級品だが、中国ではそもそも遊びが少ないため、飛ぶように売れる。

 販売先はネットカフェや街頭に点在するブックスタンドなどで、書籍等の流通を介して中国全土に流されている。この流通ルートを自社で持っているか否かは、中国ゲーム市場では極めて重要な要素で、大手はすべて自社で流通を確保しているという。ちなみにプリペイドカードは台湾のようにコンビニでは取り扱っていない。その理由を聞くと「中国政府がコンビニで扱っていいかどうか明確にしていないため」だというから驚いた。

 このように話の中でたびたび政府のライセンスの話が出てくるのが印象的で、中国政府は国策の一環として、5年計画で100タイトルの「民族ゲーム」をリリースするという計画を立てている。「民族ゲーム」というのは、China Joyレポートでも触れたように、三国志や水滸伝といった中国の歴史をモチーフにした武侠的ストーリーを採用したゲームのことを指す。

 武侠的ストーリーについて、もう少しかみ砕いて説明すると、宦官の圧政のような横暴や不義にこぶしで立ち向かい、仲間と共に数々の難関を乗り越え、時には互いに修行しあったライバルを打ち倒し、時には生涯の伴侶を見つけるといったたぐいの幸運も手にするといったストーリーである。システムとしては、PvPが大前提であり、RvRも欠かせず、結婚や師弟、親子、親友システムは確実なニーズが存在する。俗にハック&スラッシュが根底にあり、その頂点としてRaidシステムが存在するような欧米文化圏のファンタジーMMORPGとは、明らかな文化的なズレが存在するわけである。

 Softstarが新たに展開するMMORPG「Dream of Mirror Online」も民族ゲームのひとつ。武侠小説「軒轅剣」をモチーフとしており、オフラインゲームから作を重ねてきた同社の人気シリーズのひとつだ。卓実齢氏は「中国政府が奨励する10本のうちのひとつに選ばれました」といいながら顔をほころばせたが、中国で展開するメーカーは、ユーザーと投資家に加えて、政府まで満足させる必要があるわけである。

 中国では、国産タイトルを内資タイトル、国外タイトルを外資タイトルと呼び、これはメーカー単位ではなく、タイトル単位でそのどちらかが決まる。単一メーカー内の両者の占めるシェアにも厳しい設定があり、Softstarによれば、その比率は内資タイトルが70%、外資タイトルが30%だという。原則として税制上の優遇など、中国政府のお墨付きを得られるのは、内資タイトルに限られるが、台湾製のタイトルについてはいわゆる“グレーゾーン”になっており、各社とも内資の認定を受けるのに懸命だという。日本製タイトルは、言わずもがなで一律、外資タイトルで、今回の「大航海時代 Online」の提携で中国本土が含まれていないことからもわかるように、中国市場への参入は依然として厳しいどころか、今後ますます厳しくなる雰囲気がある。

 最後に各社の新作への感想も聞いてみたが、THE9が展開する「World of Warcraft」については、「オープンβで50万人、正式サービスで35万人を集めたが、最近大規模な不正行為が発生して問題になっている。このままではゲーム経済がめちゃくちゃになる。1カ月以内に対処できなければこのゲームは終わるだろう」と答え、Gamaniaの「EverQuest II 東方版」については「チャンスは余りないと考えている。アジア向けのカスタマイズは行なっているが、いかんせんPCの必要スペックが高く、またヘビーユーザー向けの内容でルールが複雑すぎる。中国ではマウス1本で最初から最後まで遊べるゲームを好む傾向があるから受け入れられないだろう」といずれも手厳しい答えが返ってきた。

 政府とのライセンスまわりの交渉を知り尽くしているからこその苦言とも言えそうだが、この背景にはすでに中国市場でMMORPGは飽和状態に陥りつつあるという現実がある。また、今後、政府の支援で100タイトル以上の民族ゲームが確実に生まれ、その上でさらに、外資の大作タイトルに入ってこられてはたまらないという、中国政府と内資タイトルを持つメーカーの間で、一種の利益の一致による排他的な思想も見え隠れする。今後も中国政府主導による大きな波乱が待ち受けていそうな雰囲気だが、あらゆる意味で大変興味深いゲーム市場である。

□China Digital Entertainment Expoのホームページ
http://www.chinajoy.net/
□Softstarのホームページ(中文)
http://www.softstar.com.tw/
□「Dream of Mirror Online」のホームページ(中文)
http://domo.joypark.com.tw/index.aspx

(2005年7月24日)

[Reported by 中村聖司]


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