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価格:5,229円
■ 日本で育ってこなかったFPSをあえてPSPで実現
大海氏 弊社で、オリジナルで新しいタイトルを立ち上げるチャンスがあり、チーム内でいくつか候補が上がった中で、FPSをやることになりました。やはり、映画的なゲームが増える中で、映画以上のインタラクティブなことができるとなると、FPSにたどり着くと思うんですね。FPSは、次世代機の時代が来たら必ず、日本も含めてさらに主流のジャンルになっていくのではないか、ということで、早い段階からFPSを手がけたいという意見がありました。 ――プラットフォームにPSPを選んだ理由は? 大海氏 立ち上げ当初は、次世代機を目指して制作したかったんですが、当時、それはまだかなり先のことで、その前にPSPがローンチされることになっていたんです。FPSは世界的に大きな市場があるにも関わらず、日本ではさほどこのジャンルに取り組んできていなったので、日本のチームが「FPSを作る」と言ってもなかなか信用を得られなくて、とにかく早く作って見せたいと。そこで、携帯ゲーム機で挑戦することになりました。当初はチームサイドにも不安はありましたし、「それは無謀な挑戦だ」とアメリカのスタッフからも言われましたが(笑)。でも逆に「できなさそうだから、できたらすごい」と。 ――PSPで作るにあたっての苦労は? 中川氏 最初の苦労としては、「東京ゲームショウ2004」までは開発環境の整備が遅れたため、PC上で動作する環境を作っていたんです。機材をうまくチーム内で回して使うところがネックになって、どこまでパフォーマンスを検証できるか、結構苦労しました。後ほど環境整備が進みましたが、最終的なパフォーマンスやスペックで仕様を切るのはかなり後にずれ込みました。 大海氏 東京ゲームショウ2004(TGS)のタイミングで、FPSを制作しているということを1度世界にアピールしよう、ということになって、ツールがない状態からPSPに着手して、2カ月半くらいでTGSバージョンを作ったんです。TGSでは、並んでプレイしてくれたのがほとんど外国の方で、一定の評価をいただきましたし、海外メディアでも好意的に取り上げていただけたので、私たちとしてもある程度自信を持てました。それから、更に良い物にして期待に応えようとやってきた感じです。まぁ、これから市場に出すので、プレッシャーはすごく感じていますが。 ――逆に、海外デベロッパーからPSPのFPSが出てくるかもしれないというプレッシャーはありましたか? 大海氏 早いタイミングで海外からも絶対FPSタイトルが出てくると思っていたので、めちゃくちゃプレッシャーがありました。ところが意外に、まだ今のところは海外の他社さんからは出てきていません。 ――開発中、PSPではなく、PS2がいいかな、という話にはなりませんでしたか? 大海氏 それもチーム内で意見が分かれたところです。過去に私自身も失敗してきていますが、ある程度定着しているゲームがたくさんあるハードの末期に、オリジナルの新しいものを出しても認めてもらえないことが多いんです。今回は、これまでの携帯ゲーム機の中で1番スペックが高いPSPというハードが出てきたので、新しいものは新しいハードの最初に出した方がいいのではないかと。 また最近の新ハードは、最初に既存のシリーズものが出てくる傾向があるので、ハードの発売から早いタイミングで「すごいことができるようになったな」と言われるゲームを出したいという意図がありました。FPSはハードスペックが要求されるという認識はユーザーの皆さんにもあると思います。そういうものを早い段階で出せば、「携帯ゲーム機でもここまでできるようになった」ということが伝えられるかと思いまして。 ――PSPで気になるメモリの管理や仕様などで、具体的に苦労された点は? 永山氏 PS2とPSPでは、同じポリゴンを出すにしてもサイズもテクスチャも違いますから、まずメモリに収まるかどうかがわからなかったんです。CPUパワーもわかりませんし、出せるポリゴン数、画面エフェクトをかけることで落ちるパフォーマンスもわからず、苦労しました。デザイナーにも見切りでしか発注できず、最初はリッチなものを組んでも、最終的に落としてもらうということもありましたね。また、後半になると仕様がどんどん出てきましたが、残り少ないメモリの中でどうやりくりしていくかに苦労しました。
そして今回、もっと不確定な要素として、マップがランダム生成のため、マップ全体、そして画面に表示すべきポリゴンの総数がわからないので、ディテールの細かいレベルは最終的に何ポリゴンになって、メモリは大丈夫なのか、バランス調節が厳しかったです。
■ 自動生成ダンジョンでこれまでにないFPSの楽しみを追求する
中川氏 僕たちの開発の文化が、エンジンを使うことに慣れていないので、エンジンがなくて作りづらいことは全くなかったです。ただFPSに特化したエンジンのノウハウは当然なくて、イチからになるので試行錯誤は大きかった。今回は特に自動生成のマップということで、普通のエンジンを使うのが難しいところがありまして。 ――自動生成でダンジョンを作るという話は最初からあったんですか? 永山氏 そうでもないですね。PS2での実験段階では自動生成という選択肢はなくて、企画の方から新しい要素を入れるため、「自動生成でダンジョンができたら面白いよね」という一言があったときに、面白そうだということで、その時からすぐに研究を始めました。 大海氏 携帯ゲーム機ということもあって、これまでのFPSではできなかった遊び方の提案ができたらなおいい、というのもありました。繰り返し遊んで面白いというのは、携帯ゲーム機のゲーム性とマッチするんじゃないかと。また、覚えて攻略していくのが基本的なスタイルのFPSで、マップが毎回変わったらどうなるか、想像すると面白いような気もしたので、「やる価値はあるんじゃないか」と考えました。 自動生成については、チーム内でも「危険すぎる」、「本質から外れるんじゃないか」と、かなり意見が分かれました。しかし、みんなが驚くようなことをやっていかないと、オリジナルとして意味がないと、見切り発車でやって今のような形になりました。 ――自動生成ダンジョンは、フロアの大きさが何タイプかあって、その連結で構成するといった方法で作られているのでしょうか? 永山氏 自動生成のエンジンは、完全ランダムでダンジョンを生成することが可能です。空間の中に部屋も通路も、自由に組めるシステムになっています。壁や床単位で、部屋の数も任意、通路の数も任意、複雑さも任意で、フルで生成できるエンジンを先に作ったんですよ。敵の配置や、アイテムを自動生成するエンジンもあります。ただ、そのままゲームを走らせて楽しいかというとそれは別の問題で、最終的にはエンジンを元に、部屋の数やアイテムなどにある程度ゲーム的な調整が入っています。 ――自動生成ということになると、プレイすることでマップを覚え、そこから攻略するという学習効果が役に立ちませんよね。同じマップで精度を上げて緻密なプレイに磨き上げていくというあたりが従来のFPSのひとつの達成感でもあると思うのですが。 大海氏 まさにそうです。しかし今回に関しては、PSPのコントローラでマウスのような緻密なプレイがしにくい部分は否めないんですよね。そこで、もう少しシンプルに遊べるように、地形が常に変わる中で、敵との駆け引きに焦点を当てようと。
最初は、「マップが毎回変わっても、AIがマップ上でうまく行動すればAIとの関係でパターンができていくんじゃないか」という方向性を打ち出して、できるだけAIにバリエーションを持たせる、言わば「マルチプレイ的な感覚を、シングルプレイで遊ぶ」ような感じを狙って進めました。
中川氏 地形に基本情報を埋め込む作業から始めて、どんな地形が生成されても、その情報からルート検索という基本のロジックが使える形にしたんです。その中で、プレーヤーとの位置関係を見て物陰に隠れたり。スクリプトベースのFPSのような感じの動きではなく、作られた地形に対して全くロジックだけで動くAIになります。 ――自動生成となると、デザイナーさんの仕事もちょっと特殊な形になると思うのですが? 大海氏 自動生成というと、決まった箱や通路の組み合わせが変わるだけとか、作り込まれた背景に比べてあっさりしたものを想像しますが、それだけは絶対にしたくない、と。そこで、自動生成と普通に作り込んだマップとの中間案で、プリセットでパターンを持った方が作り込めるのではないか、という話も出たんです。しかし、自動生成であっと驚くレベルのマップにならないと意味がないので、背景のメインのデザイナーと永山君の方で、細かく打ち合わせてもらいました。その段階でかなりクオリティを追求してくれまして、「これが自動生成でできてるの?」というところまでいけたかなと思っています。 永山氏 今回、デザイナーにもプログラマ的な思考を要求したのは確かで、今回特に苦労していたのは彼らです。バラバラのパーツをつなぐだけでは絵になりませんが、デザイナーはビシッと決まった絵を出したいということで、エンジン側(プログラマ)と、デザイナーとのやり取りが頻繁にありました。我々はロジックに落とし込むにはどうすればいいのか、デザイナー側はどういうパーツを作ればいいのか。 そこで、初期のうちに社内ツールをいくつも作りました。デザイナーがまず作って、それをある程度組み込んだもので、パターンを変えればどんなマップができるかをどんどん試行錯誤できる環境を用意したんです。 ――ツールができ上がった段階で、かなりいけるという感触が出てきたんでしょうか? 大海氏 一番最初に出たときは「うわ、これはヤバイな」と、ちょっと思いましたけど(笑)、そこからみるみるよくなってきました。 永山氏 ツールでできたものを見てもらって、デザイナーが納得した段階で、「これはいける」とは思ったんですけど、その後も不安がありました。PSP本体で最終的に発揮できるパフォーマンスが読みきれず、本当にできるのか、といったあたりが見切りに近いところがあったんです ――ランダム生成はかなりチャレンジな仕様ですよね。ゲームデザインのバランスの落としどころも気になります。 大海氏 ランダム生成ということで、探索やアイテム集めに照準を置くということも模索したんです。しかし、そうすると、「何かが集まるまで何かができない」とか、「何かを集めないとパワーアップの効果が得られない」とか、FPSとしてはあまり気持ちよくならなかったんです。そこで最終的にゲームの原点的な、シューティングの部分に重点を置いてバランスを見直しました。基本的にこのゲームの最初の方向性は、FPSとして気持ち良くて楽しいこと、そして操作しにくいと思われているPSPのFPSですが、触った感触がとてもいい、そういうところを目指していたんです。
ゲームを進めれば新しい武器が手に入り、パワーアップアイテムを探して武器を強化していく楽しさがあったり、先に進めば新しい敵が現れて、今までと違う攻撃をしてくる楽しさがあります。また、自動生成という特徴を活かした無限のダンジョンで、どこまで進めたかチャレンジすることもできます。シングルプレイでパワーアップしたアイテムをマルチプレイに持っていけますので、シングルをやり込めばマルチで他の人よりも強力な武器が使えて楽しいと、そういうシンプルな方向です。
■ 携帯ゲーム機であることを細部まで考慮したゲームの中身
中川氏 PSPのデジタルの4つボタンでは、マウスで操作するほどの精度は出ないので、そのサポートの意味合いは大きいです。しかし最終的には、武器の性能を絡めることでPSPに合ったFPSの操作に落とし込めたと思います。 大海氏 武器によって精度も違いますし、基本は敵に照準が合うように微妙な調整が入るようになっていますが、オプションで切ることもできます。逆に爆発する配置物にもカーソルが合うようにもできますし、そこはユーザーの方々の好みでカスタマイズできるようにしつつ、初めてプレイする方にもある程度プレイしやすいようにしています。 ――単体の武器の調整に加えて、カーソルの追従性の調整もあると、かなり複雑な感じがしますが? 中川氏 確かに武器の数が多くて、その分の調整は必要です。基本的な武器、ハンドガンや、アサルトライフルなどを気持ちよく使えるような仕様で調整をしていますが、逆に強力な武器はカーソルの追随性のサポートを切って、しっかり狙わないと当たらないように割り切っています。 ――マルチプレイはハードの仕様が固まる前から考えていらっしゃったと思うのですが、今の形に落ち着いたのはどのくらいの時期ですか? 中川氏 最初は無線のパフォーマンスもわからず、実際に実験を始めたのがTGS以降なのですが、その頃はちゃんと通信できているように見えて、実は片方がずれている、というところがありました。通信上、実際にどのデータを送ってどのデータを送らないかといった仕様固めは、わりと悩んだところで、実は固まったのは最近だったりします。 一同 (笑) 中川氏 内部的に送りっぱなしの無線や、ちゃんと通信が繋がっているか検証できる無線など、また、それらのハイブリッドな形ももしかしたら上手くいくのかもしれません。検証できたら、対戦人数を増やすこともできるのかな、という感じです。 ――ホストを作って、そこに3人が参加するという仕様も、そういう検証の中から出てきたんですか? 中川氏 その形は比較的マッチングしやすいというメリットがあります。たぶん、お互いにホストではない人同士がぶつかり合ってやることもできるんですが、ゲームの中にいろんな待ち受け状態が入って煩雑な仕様になるので、基本的にホストは1人、あとはゲームに参加するという仕様に落ち着きました。 ――現状、4人までのマルチプレイが可能ですが、突き詰めていくと4人以上でも遊べるようになったりするのでしょうか? 中川氏 そうですね。ただ通信の問題のほか、4人以上で全員が火力の高い武器を使うとCPU負荷が一気に上がるので、そっちの方がきついかもしれません。
大海氏 将来的にもし、もっと多人数でのマルチプレイができるとしても、「武器に制約を付けなくてはならなくなったらどうしようか」といった悩みが出てくるでしょうね。
大海氏 最初は、PSPでやるということと、自動生成が先でした。早くリリースしたかったので、短い時間の中で最高のものを求めるため、内容に凝縮してボリュームを出していく必要があって、世界観は語らずともイメージが伝わる方向性が理想的だったんです。そこで出てきたのが、未来のデバイスに見立てたPSPから仮想世界の中に入っていくアイデアでした。PSPのハード自体が近未来的な格好良いデザインですし、PSPと一体感があるという設定は、新ハードに早い段階で出すタイトルとして面白いということになりました。だったら、サイバーな設定であれば、ゲームと画面のイメージの相性もいいかもしれないということで、今のような設定になったんです。 ――PSPだと、画面の明るさが見る環境でかなり変わったり、画面比率がワイドですが、ゲームに影響は出ましたか? 大海氏 明るさに関しては、デザイナーがすごく気にしていましたね。世界観的にちょっと暗かったところを、最終的には若干明るめに調整しました。画面がワイドとは言え小さいので、あまり暗いと遊びづらいので。あと画面比率に関しては、TGSの時とは銃の出ている位置が全然違っていました。最初は普通の感覚で画面に銃を出したので、画面端にあったんです。 永山氏 PCの画面比率では、画面内に表示される手と画角のバランスがしっくりくるんですが、ワイド画面ではそうならないので、デザイナーが何人も張り付きで、銃ごとに画角やカメラを少しずつ調節して一番しっくりくるところに設定しました。最終的に落ち着くまで、かなり長い間繰り返してましたね。 ――今の段階でPSPでのリリースというのはどんな印象を持たれましたか? 大海氏 そうですね。正直言うと、チームとしては当初据え置きの次世代機に興味があって、PSPは最初「やってみるか」という感じでしたが、想像よりも意外といけるという実感が得られ、TGSで「期待している」というご意見を頂き、最終的には大人数がかりの全力投球でやりましたね。海外のユーザーさんにも期待していただいて、本当にやって良かったと思っています。 ――最後に、皆さんから「CODED ARMS」の見どころを教えて下さい。 中川氏 手の中でフルサイズのFPSができる、なおかつマルチもできるというのは、これまでにあったようで初体験だと思います。また、シングルゲームをやって武器を集めたりパワーアップしたりして、それをマルチに持ち込むという繰り返しの遊びも、体験したことがないものになると思うので、それを実際にやってみて、「面白い」と思ってもらえたら1番かなと思います。 永山氏 地形の自動生成によって今までになかった面白いシチュエーションが生まれることがありますので、そこから新しい遊びを見つけて頂ければと思います。 大海氏 今回は私たちも、やってみないと見られないものにチャレンジしました。それでなくても没入感が高い携帯ゲーム機で、没入感が高いFPSをプレイする体験や、相手が見える状況での画面分割じゃない4人対戦の感覚など、新鮮な体験が得られると思います。チームの方のバグチェックでも、対戦プレイは非常に盛りあがってますので(笑)。
携帯ゲーム機が進化したことで可能になった初めての体験を詰め込んだタイトルなので、そこは是非皆さんに体験して頂きたいという気持ちで一杯です。
(C)2005 KONAMI
□コナミのホームページ (2005年5月16日) [Reported by 河本茉澄]
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