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Game Developers Conference 2005現地レポートPS3やXbox2のゲーム開発はこうなる? |
EPIC GAMES代表のTim Sweeney氏。UE3が登場して以来、彼は表舞台にも立つようになってきた |
会場:Moscone West Convention Center
技術セッションながら立ち見や通路への座り見も出るほどの人気ぶりで、ビデオカメラもそこかしこに設置される有様 |
Tim Sweeney氏といえば、id softwareのJohn Carmack氏に並ぶ、3Dゲームグラフィックスの最先端テクノロジストで、彼が携わっている現在のプロジェクト「Unreal Engine3.0(以下UE3)」は次世代ゲームグラフィックスを予感させるものとして世界中が注目している。
「UE3」の基礎技術は、Microsoftが提唱する統合ゲーム開発フレームワーク「XNA」にも組み込まれることが確定しており、その意味ではUE3のビジュアルはXbox2のグラフィックスを先取りしているということができるかもしれない。
さらに付け加えれば、EPIC GAMESはNVIDIAとの関係が非常に深く、EPIC GAMESのソフトウェア思想はNVIDIAに対してかなり強い意見力がある。そしてNVIDIAといえば、2004年12月末に電撃的に発表されたSCEとの技術提携発表を思い起こす人も多いことだろう。ソニーの次世代プレイステーション(仮称、以下PS3)のグラフィックスプロセッサにはNVIDIAの技術が導入されることが発表されたのだ。つまり、UE3のビジュアルはPS3のグラフィックスを先取りしていると言えなくもない。
そんなわけで、このセッションは、プログラミング技術者向けであったにもかかわらず、非常に多くの来場者が集まった。
■ Unreal Engine3.0とは?
Unreal Engineは、もともと、EPIC GAMESが自社開発した一人称シューティング(FPS)ゲーム「Unreal」のためのゲームエンジンとして開発されたものだ。汎用性に優れていた事、開発ツールが充実していたことから、外向けへのライセンス事業も後に開始され、これまでに、総勢50タイトル以上が発売されている。注目すべきは、その多くが著名作となっている点で、最近では「Splinter Cell」シリーズや「Lineage2」などでの採用が有名だ。
マルチプラットフォーム展開も果たしており、現世代Unreal Engineでは、PCの他、プレイステーション 2、Xbox、ニンテンドーゲームキューブなどの現行ゲーム機や、ドリームキャストにも移植されたことがある。
ION STORMなどは初代のUnrealエンジンを独自拡張しており、同社の最新作「DeusEx2」や「Thief3」などはこの派生版Unrealエンジンで動作している。我々ユーザーの立場からすると次世代ゲームプラットフォームといえば「PS3だ、Xbox2だ」という最新ハードウェアをさすわけだが、Unreal系開発サイドの視点ではUnrealエンジンが新しくなることが「次世代」なのである。
第3世代のUnrealエンジンである「UE3」の開発が始まったのは今から2年半(30カ月)前から。注目されるグラフィックス部分で、最も注目すべきは完全100%のプログラマブルシェーダアーキテクチャベースのレンダリングパイプラインを採用しているのが特徴だ。それもプログラマブルシェーダ3.0仕様が大前提(動作最低条件)となっており、現時点で動作させられるのはNVIDIAのGeForce 6シリーズしかない。とはいっても、完成予定が2006年目標なので、そのころにはATIやNVIDIAももしかしたらプログラマブルシェーダ4.0仕様に到達している可能性もあるわけで、今から心配することではない。
UE3では、超多ポリゴンで構成された3Dモデルを、そのディテールを法線マップに落とし込むことでジオメトリの大幅なダイエットを行なっている。写真のモンスターは3DsMAX上の200万ポリゴン状態。そのディテールを法線マップに落とし込んでしまう | ディテールをそぎ落として約5,000ポリゴン程度までポリゴン数を削減 |
実際に5,000ポリゴンのモデルを法線マップ付きでUE3にてリアルタイムレンダリングした例。HDRライティングの効果もあってリアリティはかなりのものだ | こちらのモンスターは、モデリング時のポリゴン数は600万。この画面ショットは、そのディテールの大半を法線マップに落とし込んで、実ポリゴン数はわずか8,000。法線マップはUE3の表現の根幹とも言える |
さて、これまでの3Dゲームグラフィックスではどうしても限定的になってしまっていた影生成も、UE3では、最重要事項として取り組んでおり、ステンシルシャドウボリューム技法とシャドウマップ技法の両方に対応。ゲーム内容やシーンの状況に応じて使い分けたり、両方同時に組み合わせて使うことができる。
今回、紹介されたグラフィックス面のテクノロジーデモのほとんどは去年のE3のものと同じであったが、1つグレードアップしていたのは、ライトマップがハイダイナミックレンジに対応したという点。ライトマップとは明暗の分布を表したテクスチャで、これを投射した際、ただそのテクスチャがポリゴンに載るのではなく、その明暗情報に従ってピクセル単位のライティングがなされる技術。ライトマップ自体はクラシックな技術なのだが、これがハイダイナミックレンジな光源として処理される点は新しい。
現在のDirect3Dの……というか現在のGPUの仕様では、浮動小数点実数テクスチャフォーマットの圧縮形式がなく、どうしてもビデオメモリを圧迫してしまう。「3Dゲームファンのための『AGE OF EMPIRES III』エンジン講座(前編)」でも触れているように、やっと一般化してきたHDRレンダリングではあるが、まだまだHDRテクスチャ関係にはまだまだ制限は多く見られるのだ。しかし、UE3は、そもそも将来のGPUでちゃんと動作すればよいので、こうしたインプリメントにも積極的な挑戦を果たしているのだろう。
プロジェクタで投射されている映像を撮影した物なので非常に見にくいが、キューブマップ状のHDRライトマップを照射しているシーン | 去年のE3では、このような通常のダイナミックレンジのキューブマップ状ライトマップを照射していた。ステンドグラスの模様がライトマップで、モンスターに投射ライティングされている |
ユーザーサイドから見れば、UE3のすごさは直接視覚に訴えてくるビジュアルなわけだが、開発サイドから注目されているのは、むしろUE3を取り巻くツール群の方である。UE3システムでは、新作ツールが開発された他、従来のUnrealエンジン関連ツールがバージョンアップを果たしている。
まずは新ツールの方から見ていくことにしよう。
●KISMET
ゲームデザイナから熱い視線が注がれているのが、KISMETと呼ばれる、ビジュアルベースでゲームスクリプト(シナリオ)制作が行なえるシステムだ。
これは、ゲームがどのように進行するかを設定していく物で、具体的には「プレーヤーがこの敵を倒したら次にこの敵を出す」、「敵が死んだら断末魔のサウンドを再生する」といったことを作り込んでいけるツールだ。
通常こうしたシナリオ進行は変数やコマンド列を並べたテキストベースで作り込んでいく形態が多かったのだが、KISMETでは、フローチャートを作成するような完全GUIベースで制作できる。
しかも、凄いのは、そのフローチャートを設定後、画面を切り替えることもなく、すぐにその場で設定したシナリオをテストプレイできることだ。
フローチャートを描くようにしてゲーム進行を制作できるのがKISMET | 単なるイベント記述だけでなく、サウンド再生までをGUIベースで作り込みが可能 |
MATINEEは、ゲーム中のカットシーン(ムービーシーン)を作り込むためのツールだ。
カメラがどう動くか、どういうセリフをいつしゃべらせるか…といったことを時間軸ベースで設定していくことができる。もちろん、ムービーシーンもUE3によってリアルタイム描画&処理されるので、シーン中のオブジェクトは物理エンジンに基づいた挙動を示すことになる。
このMATINEEさえあれば、UE3エンジンベースのリアルタイムレンダリングCG映画を作ることも十分可能だろう。
こちらも設定したスクリプトは、画面を切り替えることなく直接再生が行なえる |
グラフィック・デザイナーにとっては救世主となりそうなのがこのMATERIAL EDITORだ。
これまではテクスチャの重ね合わせだけでごまかせてきていた材質表現も、プログラマブルシェーダ時代に突入したことで、より高度な物が要求されてきている。ただ、シェーダプログラムを書いて、その素材らしい反射モデルを実現するのは、普通のアーティストにはまず無理な話だ。
そこでUE3のMATERIAL EDITORでは、無数に用意した基本となる素材表現のテクスチャ、様々なライティングを実現するシェーダ、その他のプロシージャルテクスチャ同士を畳み込むように組み合わせて、新しい素材を表現するシェーダを生み出すことができるようになっている。
例えば、水面のシェーダの透明度を調整して、赤から黄へ周期的なカラーシフトを起こすように設定し、さらに凹凸の法線マップが流れるようにスクロールするように設定してやれば、マグマのような素材シェーダーのできあがり…といった具合になる。
アイディア次第では、非常にユニークな質感のシェーダーを作り出せそうな手応えがあり、これだけ単品売りしても受けるのではないかと思ったほど。
このように基本素材を畳み込むようにして組み合わせていくことでオリジナルの素材表現ができる | 左はテクスチャのアニメーション、右は色が玉虫色にカラーシフトしていく特殊な素材シェーダ | 左が液体透過シェーダ、右はネオンシェーダ |
こうした基本素材はかなりの数が提供されるようだ |
CASCADEはパーティクルアニメーションを作成するツール。パーティクルとは簡単に言えば3D座標管理下で動かせるスプライトのようなもの。現在の3Dグラフィックスではパーティクルを煙や火花や爆発時の破片、炎や煙などに活用することが多いが、いずれにせよ、数10から数1000個の大量のパーティクルをまとめて動かすことで独特のビジュアル表現を行なうことが多い。
CASCADEでは、このパーティクルをどう動かすかをリアルタイムに実験でき、作り込んだパーティクルアニメを保存してゲーム中に活用することができる。MATERIAL EDITORで作り込んだ素材シェーダを適用したパーティクルも利用でき、また各パーティクルの挙動は物理エンジンに従えさせることもできる。こちらも強力なツールだ。
これまでならばプログラマが面倒を見る範囲だったパーティクルの挙動などをアーティストがデザインできる |
当たり判定や、骨格モデルの各関節の耐久値や折り曲げ制約を設定するツール。この設定次第で、ゲーム中の一連のアクションやインタラクティビティで、キャラクタがバラバラになったり、壊れて分解したりといった挙動を制御できる。こちらもGUIベースで動作するのがすごい。
物理属性までもアーティストがGUIベースで設定できる。そしてその設定がどういう物理挙動へ結びつくのかをオンザフライでその場で実験が可能 | 剛体物理、軟体物理、Rgdoll物理など多様な基本物理の面倒を見てくれるUE3。基本物理をさらに応用レベルに相当する車両物理のようなものも実装されている |
次期PC用GPUにしろ、次世代機にしろ、グラフィックスの表現能力は格段に向上するのは明白だ。解像度も次世代ゲーム機ではHD解像度(ハイビジョン解像度)になることが約束されており、ゲームに求められる表現の緻密さはより高いレベルのものになるだろう。
となると重要になってくるのはゲームの開発にかける人的コストや開発期間の問題。時間と金をかければよいものはできるかもしれないが、それではゲーム開発という作業が非常に敷居の高いものになってしまう。
より一層複雑さを増すゲーム開発を、高度なインターフェースと透過的なデータパスで、従来レベル程度にまで敷居を下げようとしているのがUE3という“開発プラットフォーム”なのだ。
今回は紹介はされなかったが、UE3はオープンフィールドな屋外シーンにも対応する。写真はUE3の地形レベルエディタ | EPIC GAMESのTim Sweeney氏。講演後、EPIC GAMESのスイートブースにて実際にゲームとして動作しているUE3ベースのゲームを見せて頂いた。これは撮影禁止だったので、残念ながらここで映像は見せられない |
これらの映像はプリレンダーではなくリアルタイムに動作している映像をスクリーンショットとしてキャプチャしたもの。EPIC GAMESの展示ブースではPentium 4 3.2GHzとGeForce6800Ultra×2基をSLI動作させたマシンでデモンストレーションを行なっていた |
「Unreal Engine3.0」動画 | ||
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(2005年3月14日)
[Reported by トライゼット西川善司]
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