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Game Developers Conference 2005現地レポート鬼才Peter Molyneux氏、異色RPG「Fable」の制作秘話を語る |
GDCでは常連スピーカーであるPeter Molyneux氏。氏の講演は常に満員になるが、もちろん今回も同様であった |
会場:Moscone West Convention Center
Xbox向けとして北米市場で昨年9月に発売された、鬼才Peter Molyneux氏監修の異色RPG「Fable」。発表当初から、その奇想天外で壮大なストーリーが話題となっていたが、その開発過程では様々な問題に直面していたようだ。今回GDC 05のゲームデザインセクションでFableの開発秘話がMolyneux氏によって語られた。ここでは、そのMolyneux氏の講演について紹介していくことにしよう。
■ 1つのきっかけでアイデアが膨らみ、壮大なストーリーへと進化
Fableは、'98年にMolyneux氏が開発を始めようとした「Wishworld」というPC向けゲームが起源になっている。「Wishworld」は、主人公が魔法使いで他の魔法使いと戦うというゲームで、最大8人でのマルチプレイが可能という設定となっていた。しかし、当時このゲームを発売してくれそうなパブリッシャーが存在しなかった。数カ月かけてプロトタイプを制作したり、内容の調整なども行なったそうだが、結局はこの内容で発売するのは難しいという結論に至り、大幅な仕様変更を施すことになった。それが'99年のことになる。
特に大きな変更となったのが、ゲームの内容をRPGにするということ。そして、プラットフォームを家庭用ゲーム機にする、という部分も同様だ。これらに関しては開発チーム内で、RPGは難しいし初めてチャレンジするジャンルなので厳しいのではないか、家庭用ゲーム機のゲームは作ったことがないので不安だ、といったような異論もあったそうだが、最終的にはこの路線で行くことに決定となった(セッションでは話されなかったが、おそらくパブリッシャーであるMicrosoftとの絡みもこの決定の大きな要素になったのではないだろうか)。
初めて制作するRPGで、かつ初めて制作する家庭用ゲーム機のゲームということになった「Wishworld」。そのためにMolyneux氏はこのゲームに、なにか新しいものを盛り込まなければならないと思ったそうだ。そして思いついたのが「Morphing(モーフィング)」というものだった。
キャラクタがレベルアップすることで容姿が変化していく。また、ゲームの状況の変化に応じてゲーム内の環境が変化していく。さらに、ゲームプレイにも変化を持たせる。これを思いついたとたんに、このゲームの内容に関してどんどんとアイデアがわいてきたそうだ。「主人公であるヒーローは、プレーヤーの思いのままに成長し、プレーヤーがなりたいものになれる。そして、プレーヤーがどのようにプレーしたかによって容姿が変化していくようにしよう。そう、このゲームは、デザイナーである私が作り上げるRPGではなく、プレーヤーが作り上げるRPGなんだ。」そう考えたMolyneux氏。Morphingというアイデア1つが、このゲームを大きく変えることになったのである。
そしてこのアイデアを、キャラクタの容姿を変化させるという以外の部分にもどんどんと盛り込もうと考えた。主人公であるキャラクタはもちろんのこと、主人公以外のキャラクタもMorphingさせよう。街の様子や樹木などもMorphingさせよう。ゲームストーリー自体もMorphingさせよう。最初は1つの小さなアイデアだったものが、どんどんと大きく成長していったわけだ。
さらに盛り込もうとしたアイデアが、「善悪」だ。これは、Molyneux氏の代表作である「Black & White」が考え方のベースになっているそうだ。当時Molyneux氏がプレイしていたRPGは、どれも主人公がヒーロー(善人)のものばかりで、飽き飽きしていたそうだ。たまには悪人でRPGをプレイしてみたい。そこで、このゲームに善悪の要素を盛り込むことにしたそうだ。
2000年になり、このゲームはさらに大きく膨れあがっていくことになる。ゲームはプレーヤーが操作するヒーローが主人公のRPGだが、とにかく精密なシミュレーション要素も盛り込もうということになった。ゲーム中の時間の流れ、それによってキャラクタが年を取っていく様子、樹木の変化など、とにかくありとあらゆるもの、実際の世界に存在するあらゆるものをシミュレートして盛り込もうということになったそうだ。これによって、このゲーム(2000年の時点で、名前が「Project EGO」というコードネームとなっている)は、これまでにない壮大なストーリーが展開される、非常に魅力的なタイトルだというイメージができあがった。
ただ、ゲームの規模は当初と比べて15倍にも膨れあがっていたそうだ。セッション中にもMolyneux氏が、「これは私の悪い癖なのですが」と言っていたが、とにかく一度考えが浮かんでそれに没頭してしまうと、とめどもなく考えが膨らんでしまい、しかもそれを全て盛り込もうとしてしまうそうなのだ。確かに、これまでのMolyneux氏のゲームを見ていると、どれも発表当初は非常に壮大で斬新なゲームという印象を与えるのだが、制作時間が長くなって発売時にはやや色あせてしまっているということが多いように思う。そして、「Fable」もそれらと同様の道を歩む可能性が高くなっていたというわけだ。
2002年、制作チームは23人となり、Project EGOはプロトタイプ制作の段階に入った。ここでは、子供や大人、善人の雰囲気のものや悪人の雰囲気のものなど様々なキャラクタを制作しつつ、ゲームのコンセプトを組み上げていったそうだ。ゲームをどういったキャラクタでスタートさせるのか、キャラクタの性格(善悪)はどうするのか。そしてその過程で、12歳ぐらいの子供でスタートさせればいいのではないか、というコンセプトが浮かんできたそうだ。まだ善悪の性格付けがなされていない子供が成長していく過程での様々な行動、つまりプレイ内容によってキャラクタの善悪の性格を決定づけてストーリーを膨らませていけばいい。そして、徐々にゲームコンセプトが発展していったのだ。しかし、このあたりから徐々に開発が悪い方向へと進んでいくことになる。
2003年には制作チームは27.5人となり、ゲームのエンジン部分はほぼ完成して、ゲームのコアとなるシナリオ部分の制作に突入。また、ゲームの名称も「Fable」に変更されている。ただ、ゲームのコンセプトがあまりにも肥大化してしまっていたために、ゲームのスケジューラから、このままでは「Fable」の発売時期が03年のホリデーシーズン、それも2003年ではなく2103年のホリデーシーズンになってしまう、という報告を受けてしまった。いくら何でもそれは無理ということで、ゲーム全体のビジョンの見直しや、制作スタッフを増やしてもらうなどの措置を行なわなければならなくなったそうだ。
そうこうしているうちに、初のプレイアブルバージョンができあがってきた。通常、初のプレイアブルバージョンでは、ゲームの主要な要素が盛り込まれている必要がある。「Fable」の場合を考えると、キャラクタのMorphingや戦闘シーンは確実にプレイできる必要があるだろう。しかしその時点では、戦闘シーンに相当する要素が全く盛り込まれておらず、さらに3,000ページに及ぶシナリオもほとんどが反映されていなかったそうだ。つまり、本来の「Fable」の世界観が全く体験できないようなものだったわけだ。とはいえ、2004年には作品を仕上げる必要がある。そこで、比較的順調に制作が進んでいたLionhead Studiosの他のプロジェクトからリソースをまわし、50人を超えるチームにして制作のピッチを上げることにしたそうだ。しかし、結局2003年のE3にプレイアブル版は間に合わず、発表できずに終わってしまった。
ただ、ここで転機が訪れる。このままでは2004年にゲームを発売できなくなってしまうという深刻な危機感から、開発元のLionhead Studiosに加え、パブリッシャーであるMicrosoftも加わって、ゲームのコンセプトを根本から見直し、大幅にスリム化するという決定がなされた。当初の構想のままではクリアまでに20年もかかってしまうような壮大なシナリオを見直したり、実際に盛り込む予定だったマップの一部を省いたり、ムービーシーンを全てカットするなどの変更を行なうことになった。しかし、その過程では、「Fable」の壮大な世界観や独特のゲーム性などが失われることがないように、また制作チームの熱意が失われることがないように細心の注意を払って行われたそうだ。実際に「Fable」においてはこの意志決定がうまく進んだそうだが、これはLionhead StudiosやMicrosoftが、このゲームの成功を信じ、情熱を常に持ち続けていたからだ、とMolyneux氏は指摘した。そして2003年12月19日に、ついに本来の意味通りのプレイアブルバージョンができあがった。
ただ、ゲームのスリム化の過程でカットされた要素の中で、Molyneux氏がカットしたことを今でも後悔している部分が、マルチプレーヤーの要素だそうだ。「Fable」は、最終的な段階まで、4人で同時プレイが可能なマルチプレーヤーモードが存在していたのだ。マルチプレーヤーモードでは、1人がヒーロー役を、他の3人がそのサポート役となってゲームを進めるようになっていた。そして、シナリオを攻略するときにサポート役がヒーローを助けたり敵を攻撃するといった行動によってポイントが加算され、100ポイントになったらその人がヒーロー役とサポート役の立場が入れ替わる、といったものだったそうだ。しかし、時間もなくなり、テストもシングルプレーモードのみの場合の4倍もかかってしまうということもあって、泣く泣くカットに至ったそうだ。
このような紆余曲折を経て「Fable」は完成した。当初の構想からかなりの仕様変更となってしまったものの、Molyneux氏自身がこの「Fable」の開発過程について「とてもいい冒険だったし、すばらしいことが達成できたと誇りに思っています」と語ったように、もともとの壮大なコンセプトを崩すことなく、うまくまとめあげられたゲームだと思う。ゲーム制作の過程では、内容の見直しを行なわなければなければならないといった紆余曲折はよくあるかもしれない。しかし、そういった場合でも、クリエイターとパブリッシャーとの間できちんと意思疎通をし、このゲームで何を表現したいのか全員がしっかり理解し、「これはすばらしいゲームになるんだ」という情熱を失わなければ、当初の構想通りの魅力のあるゲームを完成できる。Molyneux氏がこのセッションで語りたかったのは、この点に集約されると言っていいだろう。
ところで、セッション終了間際のQ&Aにおいて、Molyneux氏自ら「Fable」のPC版の制作についての発表を行なった。すでに制作が進行中で、Xbox版で省かれたマップや要素の多くが盛り込まれた形で発売されることになるそうだ。Xbox向けの「Fable」日本語版はまさに発売直前であるが、PC版のほうも大いに期待したい。
(2005年3月13日)
[Reported by 平澤寿康]
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