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Game Developers Conference 2005現地レポート
ピーター・モリニュー、ウィル・ライトら大物クリエイターが |
会場:Moscone West Convention Center
著名クリエイターを集めて各人のゲームデザインを紹介していく名セッション「Game Design Challenge」は、2年連続の開催となる。昨年は3人のクリエイターがラブストーリーをテーマに、自由な発想とアイデアによるオリジナルゲームデザインを披露した。正直なところ、このセッションはあまり実用性のある内容ではなく、むしろ出演者たちの天才性、奇抜性にリアルタイムで触れることで、一種のブレインストーミングの場となっている感がある。
今年のテーマは、「The Emily Dickinson License」。Emily Dickinsonは、北米ではポピュラーな存在である19世紀の北米で活躍した女流詩人で、仮に彼女のライセンス(使用許諾)が取得できたらどうゲームビジネスに役立てるか、というゲームデザインからさらにひとつ上のフィールドでのディスカッションが行なわれた。会場は、用意された席は開始10分前には満席となり、講演開始時には三方壁際の立ち見に加えて、イスを挟んだ通路や講演席側の空間にも座り込みの参加者がギッシリと陣取るなど、キーノートやビジョントラック並みに盛況となった。
場内はこのとおりギッシリ。講演席側まで埋まってしまっている |
テンポのいい語り口で、一気にゲームデザインを紹介したClint Hocking氏 |
Hocking氏はこの難題に対して純粋にゲームデザイナーとして正面から取り組んで見せた。イントロダクションでは、果たしてどういう対象でもゲームになりえるのか、(ライセンスに)制限のないゲームデザインのやりにくさ、ゲームデザインとマーケティング戦略の兼ね合い、ゲーム開発上の制約はどこにあるのかといった問題点を羅列。
このまま真面目なゲームデザイン論を展開するのかと思いきや、やはり当セッションの“お約束”はしっかりわきまえているようで、続くゲームコンセプトの紹介では、北米でヒットした対戦格闘ゲーム「Mortal Combat」ライクなアクションゲーム「Emily Dickinson's Poetry Slam!!」や、「American McGee's Alice」のパロディーである「American McGee's Emily」を提案して場内を大いに沸かせた。
「Emily Dickinson's Poetry Slam!!」の紹介では、キャラクタにEmily Dickinsonに加えてMark Twainなどの文豪も登場させ、わざわざスペシャルムーブのコマンドも紹介するなど、ジョークにしてはなかなか手が込んでいる。
Hocking氏は、ここで詩歌→ライティング→ペン→スタイラスと発想を繋げ、ニンテンドーDSによるEmily Dickinsonらしいエンターテインメントの可能性を提案。具体的には、1,800にも及ぶ詩歌をシンタックスレベルでシンボル化し、これを集めて詩歌をひとつずつ完成させていくというもの。世界観は、季語に対応して春、夏、秋、冬の4つに加えて、Emily Dickinsonのイマジネーションの世界である“Fancy”の計5ワールド。スタートは、彼女の生年である1853年春とし、彼女が死ぬまでとなる。つまり、彼女の創作仮定を、中小世界で追体験するアドベンチャーゲームというわけである。
Hocking氏は、この基本コンセプトから、さらに具体的なシステムにまで踏み込み、観客を驚かせた。たとえば、いくつかのシンボルを得ることで新しいシンボルのロックが解除されるというシステムを組み込むことで彼女の創作上の苦悩を表現したりといった具合で、NDSならではのファンクションとしては、完成した詩歌をビジュアル化するVisual Montageを共有するアイデアを挙げている。そのほかにもいろいろ感心させられるアイデアがあったのだが、さすがは第一線のプロだけあるといった感じである。
「Emily Dickinson's Poetry Slam!!」と「American McGee's Emily」。アクションゲームクリエイターらしいジョークである |
ジョークのあとはニンテンドーDS向けにしっかりしたゲーム企画を提案。さすがはと思わせる内容である |
両手を大きく広げてゆっくり訴えかけるという独特の話術で講演を行なったピーター・モリニュー氏 |
ゲームタイトルは「The Room」。プログラムを起動すると、まずはライトアップされた屋内をバックにプロローグシーンがスタートした。光と影が怪しい雰囲気を醸し出している屋内をカメラが舐めるように移動しつつ、画面中央には「This is a mighty room」という一文が踊る。
このシーン、てっきりプログラマブルムービーかと思いきや、実は起動した直後からいつでも操作可能な状態になっていて、時折マウスポインタを表示させては、カゴの中の果物を床に転がしたり、ソファを揺らしたり、物理エンジンを駆使したインタラクティブアクションを実演して見せた。見ていた限りでは、操作はマウスのみで行なっており、ポインタの位置に合わせて動的にアイコンを変えることにより、複数の操作を実行し分けているようだ。メニューはもちろん、ゲーム世界とポインタ以外の情報は一切表示されないという、いかにもモリニュー氏らしいインターフェイスデザインである。
シーンは、扉を開けて奥の部屋へと移動していく。扉の開け方も当然「Myst IV」のようにマウスドラッグによるアナログ開閉。部屋の壁には鏡が立てかけられており、鏡の表面には修道院の構内のような情景が映し出されている。ここで鏡の中の世界に突入するという、モリニュー氏のいう「Incredible Things」のひとつが実践された。
構内は、被写界深度が極端に浅く、近視のように数メートル先がすでにぼやけて見える。ここでは白色のキューブを出現させ、キューブをドラッグしてポンポン引き延ばして、椅子型にしたあと、魔法のようにポンと背もたれ付きの木椅子に変身させてみせた。
続いて、構内中央にある石棺を押し開くと、石棺の中にはなんと一番最初にいた部屋が収まっている。その石棺の中の小部屋にぐんぐん押し進み、先ほどの扉を開け、さらに奥の部屋の鏡をくぐると、先ほど完成させた木椅子が置かれた構内に戻っていた。今度は、石棺の脇に置かれた大小2つの鏡の片方に、長く引き延ばしたキューブを押し込むと、片方から押し込んだ分が出てきた。
以上が「The Room」のデモンストレーションの全貌だが、“いかにも”的な設定でありながら、デジタルエンターテインメントの特性を活かし切ったインタラクティブ世界に、会場からはおしみのない拍手が送られた。
モリニュー氏独自のゲームデザインが詰め込まれているプロトタイプ「The Room」。ゲーム化するつもりはまったくないようだ |
繰り返し場内を爆笑の渦に巻き込んだウィル・ライト氏。自身も笑いをこらえきれない様子だった |
最後のネタは、他の偉人を使ったフランチャイズ。よくもまあこんなネタが思いつけるものである |
ライト氏の企画タイトルは「USB Emily Dickinson XP compatible」。タイトルからしてすでによくわからないが、ライト氏はまず、Emily Dickinsonをビジネス化するにあたり、コンテンツとしてのEmily Dickinsonの再確認と懸念点を洗い出した。
ライト氏のセッションのおもしろいところは、その思考過程をパネルに書き加えていくことだが、ライト氏はその中でマスマーケットにおけるEmily Dickinsonに着目。ここで何故かライバルとして「Grand Theft Auto SanAndreas」や「たまごっち」、「Stupid Paper Clip」、「シーマン」を挙げ、そのたびに爆笑をさらったのだが、ともあれこうしたライバルたちの特徴を踏まえた上でライト氏が提案するアイデアが「Unstable Synthetic Brain(USB) Emily Dickinson(不安定な人工頭脳エミリ・ディキンソン)」である。USB Memoryと引っかけているのは明らかで、販売形態はやはりUSBメモリだった(笑)。
「USB Emily Dickinson」の基本機能は、インスタントメッセージ、E-Mail、デスクトップアシスタント、そして作詩。いずれのケースに置いても、わざわざ凝りに凝った実例を紹介し、大いに場内を沸かせてくれた。真面目な対象もひとたびウィル・ライトに料理されるとこうなってしまうという楽しくも恐ろしいセッションだった。
最後に付け加えておくと、この3者の企画内容の優劣は、参加者の拍手の大きさによって決定されるのが「Game Design Challenge」の決まり事となっている。今回の「Game Design Challenge」でもっとも多い拍手を得たのはやはりウィル・ライト氏。ゲームの話でもなければ、デザイン論でもなかったのだが、それで支持が得られてしまうところが、名セッション「Game Design Challenge」らしいところである。来年もあったらぜひ参加したいと思った次第である。
ウィル・ライト氏らしいジョークの利いたセッションで、会場でも大ウケだった |
□Game Developers Conference(英語)のホームページ
http://www.gdconf.com/
□Game Developers Conference(日本語)のホームページ
http://japan.gdconf.com/
(2005年3月10日)
[Reported by 中村聖司]
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