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Taipei Game Show 2005現地レポート
Gamania Digital Entertainment本社取材レポート |
会場:遠東世紀廣場A棟
初日のレポートでもお伝えしたように、今年のTaipei Game Showには、台湾最大手のゲームメーカーGamania Digital Entertainmentは出展していない。出展を見送った理由として公式コメントとしては、2005年上半期に目立った新作が存在しないことを挙げているが、実際はそうではなく、もう少し複雑な政治的事情が背景にあったことを伺わせる。
事実、Gamaniaは、Taipei Game Show 2005の開催に先駆けて19日と20日にプレス向けのプライベートショウを開催している。主な出展内容は、「EverQuest II」のアジアバージョン「EQII 東方版」を筆頭に、韓国NEXONの主力タイトルである「Mabinogi」、「Maple Story」、そして韓国CyberStepの「Get Amped」。それ以外に詳しくは後述するが「仙魔道 Online」という自社開発タイトルも存在する。要するにネタはたっぷりあったわけである。
タイトルラインナップもアジア全域で展開するオンラインゲームパブリッシャーとしては、まことに手堅い印象で、すでにライセンス先が存在し、出る幕のない日本を除けば、Gamaniaは今年もアジア全域で堅調なビジネスを展開していくことが予想できる。それだけに今年出展を見送った事に関して残念だと思わざるを得ない。
そうした事情から、今年は2年ぶりにGamania本社を訪れてみた。日本で他社が展開しているタイトルは除き、自社タイトルである「EQII 東方版」と「仙魔道 Online」に絞って取材を行なった。毎年恒例のAlbert Liu CEOへのインタビューは、別稿にてお伝えするとして、本稿ではまず「EQII 東方版」と「仙魔道 Online」の内容について紹介していく。
■ 「EQII 東方版」はいよいよ2005年4月からクローズドβテスト開始
今回取材に応じて頂いたSOGAの開発スタッフ。左から順にアートディレクターの栗原一啓氏、プロデューサーのBrian Yueah氏、CEOのJohn Laurence氏 |
現在開発が進められている「EQII 東方版」の最新スクリーンショット。一部英文が残っているが、ローカライズは相当進んでいることが伺える |
開発はGamaniaのフロアを一部間借りする形で進められている。今後、引っ越しを行うという |
このプロジェクトのユニークなところは、SOEの世界戦略から脱却し、独自路線を歩むことを開発着手時点で公言していることだ。これは前作「EverQuest」が、アジアテイストの前に欧米クオリティが屈したことを踏まえた上での決断で、8年という短くないMMORPGの歴史を振り返ってみても前例のない前代未聞のケースといっていい。
サービス対象地域は、今のところ台湾、中国、香港、韓国の4地域で、ローカライズそのものはGamaniaが行ない、現地運営もGamaniaグループが担当することになる。念のために触れておくと、日本では公知のとおり、「EverQuest II」のライセンスはスクウェア・エニックスが全面的に保有しているため、Gamaniaの日本法人が「EQII 東方版」を運営することや、ましてや日本語版を展開する可能性は、まったくない。
日本でプレイできないにも関わらずあえて紹介する理由は、ひとつはいかにもGamaniaらしいチャレンジであるということと、もうひとつは、現在MMOパブリッシャー各社が取り組み始めた“カルチャライズ”という試みのテストケースとして非常に興味深い内容であることが挙げられる。こうした点を踏まえた上で、以下の記事を読み進めていただきたい。
さて、SOGAが「EQII 東方版」の4月のクローズドβテスト開始に向けて、現在開発を進めているのは、同社が“第一階段的東方化”と呼称しているものだ。具体的にはキャラクタデザインのアジア化、インターフェイスのアジア化、そしてゲームそのものの一部アジア化の3項目で構成されている。
Gamania本社の開発ルームでは、それぞれ別のサーバーに繋がった2台のPCが設置され、キャラクタメイキングシーンを通じて「EverQuest II」と「EQII 東方版」のキャラクタデザインの違いを見ることができた。「EQII 東方版」も実際に社内にあるテストサーバーに接続されて中文によるプレイシーンも見ることができた。
現時点で確認できたのはヒューマンの男女とハイエルフの男女の2種族のみだったが、その違いは一目瞭然だった。「EverQuest II」のキャラクタデザインは、欧米ハイファンタジーのメインストリームを地でいく、彫りが深くややふけ顔のいわゆる“濃い”顔立ちだが、「EQII 東方版」はアジア圏の美男美女を原型としつつ、台湾で好まれるジャパニメーションのテイストも取り入れたすっきりとした顔立ちになっていた。
EQIIのキャラメイクは、髪型、頭部、目、ボディといったパーツを、複数の候補やカラーパレットから選んでいく方式を採用している。ただし、テイストそのものは上記で触れたような濃いパーツに統一されているため、どうカスタマイズしてもある程度濃い顔になってしまうわけだが、「EQII 東方版」では、このパーツそのものをそっくり入れ替えている。
SOEが制作した既存のパーツは全部廃棄し、髪型から鼻筋から瞳の形からすべて一から作り直されている。髪や顔などに取り入れられているバンプマッピングについては、EQIIではテクスチャマップにより擬似的に表現されているケースが多いため、これも全面的に手を入れたという。具体的なケースとしては、ガサガサした肌などをすっきりさせたりしているということだ。世界中からMMOがやってくる日本人としては、「何も捨てなくても……」と思ってしまうところだが、このあたりの思い切りの良さもGamaniaらしいところである。
ちなみに入れ替えの対象となっているのは、プロポーションも含まれている。既存のボディデザインは、中高年風のイメージが強すぎるため、成人男女ぐらいのイメージで全面的に再設計されている。このためキャラクタのイメージが、既存のものとはまるで異なっている。何がどう変わったかは、言葉で説明するより、画面を見て貰った方がはやい。
【表情の違い】 | ||
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上段左から、ハイエルフ男、ハイエルフ女、下段左からヒューマン男、ヒューマン女。顔についてはまさに好みの問題で、一概にどちらがいいとは言えないが、個人的な意見としては「EQII 東方版」で“やっと瞳に魂が宿った”ように感じてしまう側面は否定できない。私もアジア人のひとりということだろう |
ただ、キャラクタのモーションは、制作に膨大な時間と費用がかかり、すでにSOEがモーションキャプチャを利用して制作したモーションが存在するため、この部分に関しては英語版とまったく同じとなっている。このため、キャラクタのボーン数もまったく同じとなっている。つまり、見た目が異なるだけで、内部処理そのものはほとんど変わらないわけである。
こうしたキャラクタデザインの変更は、実は日本人が携わっている。デザイナー、アートディレクター共に日本人で、日本を除く、アジア人が好むテイストのキャラクタを創造するという難しい仕事を引き受けている。デザインはともかく、実際のディレクションに関しては、3Dゲーム開発のノウハウはもちろんこと、テクスチャマッピング技術やシャドウ技術の知識が必要不可欠であるため、これに長けている日本人開発者を選んだというのは、客観的に評価して最良の選択のように思われる。
次にインターフェイスは、WASD+マウスという欧米式の操作体系を一新し、アジア式ともいえるポインタで移動先指定、右マウスドラッグで視点変更というスタイルを新たに採用している。いずれも日本ではポピュラーな操作体系で、その修正内容もあまりに自然だったため、指摘されるまで気がつかなかった。
また、アジア圏では一般的ではないスラッシュを使ったチャットシステムも、クォーテーションマークを利用するアジア式に変わっている。こうしたインターフェイスの修正に関しては、キャラクタデザインのように全面差し替えではなく、「EverQuest II」本来のカスタマイズ性の高さを残すために、オプションのひとつという扱いになっている。つまり、上記の内容はデフォルト設定であり、WASDスタイルが好みのユーザーはオプション機能で戻すこともできる。
最後にゲーム内容のアジア化については、企画としてはすでに進行しているようだが、具体的な内容についてはまだ公開できないということだった。第一段階ではクエスト、アイテム、NPCが対象になるということだ。アジア特有のお祭りなどに即したイベントなども現在検討しているというから楽しみである。
気になる運営スケジュールは、4月よりクローズドβテスト、5月にオープンβテスト、7月より正式サービスが予定されている。サーバーをどこに置くかについては現在検討中ということだが、テストサーバーはGamania内に置かれたことを考えると、台湾に設置されると見られる。
気になる“第二階段的東方化”については、正式サービス後にスタートする予定だという。その内容は、新系統のアイテム、NPC、そして完全オリジナルの新マップ。これが拡張ディスクという形になるのかどうかは不明確だが、いずれにしても非常に楽しみなビッグプロジェクトだ。
【最新スクリーンショット】 | ||
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中文がうまくウィンドウにとけ込んでいるのがよくわかる |
■ Gamania初の自社開発MMORPG「仙魔道」
今回インタビューに応じて頂いたAlibangbang Digital Entertainmentの駱宏志プロデューサーと、Gamaniaで開発を総指揮する郭開発長 |
台湾にこれまでなかったタイプのMMORPGを提供したいと語る駱氏 |
「仙魔道」のタイトルイメージ。キャラクタデザインは、「巨商」のイラストを担当した日本人が描いているという |
「仙魔道」に関しては、サービス開始時期が2005年第3四半期ということもあって、まだテストサーバーでようやく稼働している段階だった。外部に提供できるスクリーンショットもないため、あまり効果的にゲーム内容を伝えられない恐れがあるが、こちらは日本市場も視野に入れているため、現時点で得られた情報を簡単にまとめておきたい。
「仙魔道」は中国神話をモチーフに、仙族と魔族というまったく異なるふたつの種族の生活を描いている。プレーヤーはまず中立の人間として誕生し、数々のクエストの分岐を経ていくうちに仙族か魔族かのいずれかに属性が近づいていく。一定の成長を遂げたキャラクタは、仙族か魔族になるためのクエストを受けられ、新しい世界での冒険がスタートしていくという仕組み。最終的には仙族と魔族による戦いも展開されるという。
ここで注意したいのは、「仙魔道」は、中国神話とはいえ、仙族=神の使徒、魔族=悪魔に魂を売り渡した人といういかにもな設定ではないところだ。このあたりのニュアンスは日本人にはわかりにくいところがあるが、要するに善人、悪人の道を歩む部族ということになる。仙族の人々は、平和を希い、明るく楽しい人生を送れるという。一方、魔族の人々は、完全に力が支配する世界で、PKは常に可能という危険なシステムになっているようだ。
この2つの部族は、基本ルールも異なれば、棲む世界、登場するモンスターも異なる。習得できるスキルや法術(魔法のたぐい)も違うという。要するに2種類の味付けの世界観が用意されたMMORPGというわけである。開発側としては、自分の好みに合ったプレイスタイルを選んでほしいということだ。
各プレーヤーは、初期キャラクタの行動の積み上げによって仙族もしくは魔族になるわけだが、その後は、独自の世界でファンタジーアドベンチャーを楽しみつつ、それぞれの部族でコミュニティを深めていく。そして最終的には仙族と魔族の間で戦争が行なわれるという。こうして見ていくと、基本的なアプローチとしては「Dark Age of Camelot」に近いといえるかもしれない。
そのほか目立った要素としては、キャラクタの頭の後ろにぼんやり浮かんでいる光環の存在が上げられる。これは装備品のひとつで、台湾人は誰しもこの光環に、中国神話らしさを感じるという。10種類前後のバリエーションがあり、光環の種類によってそのキャラクタの地位がわかるという。また、法術も中国神話に即してユニークなモノが多い。聞いた限りでは、キツネに変身して高速移動したり、相手を木に変えたり、金縛りにしたりといったことが可能だという。
課金システムについては正式決定ではないということだが、月額課金+アイテム課金を採用することを検討しているという。サービス対象地域は台湾を皮切りに、中国、韓国、そして日本。日本で情報が入ってくるのははやくても2005年末ぐらいになりそうだが、中国好きには要注目のMMORPGと言えそうだ。
□Taipei Game Show 2005のホームページ
http://tgs.tca.org.tw/
□Gamania Digital Entertainmentのホームページ
http://www.gamania.com/
(2005年2月26日)
[Reported by 中村聖司]
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