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★PS2ゲームレビュー★

伝説のアクションゲームは、PS2でも伝説たりえるか
「プリンス・オブ・ペルシャ ~時間の砂~」



 '89年、Broderbund社より発売された「Prince of Persia (以下、「PoP」)」。さらわれたプリンセスを救うためにトラップ満載の迷宮を突き進む2Dアクションで、当時としては非常に滑らかに動くキャラクタや一筋縄ではいかないトラップの数々、主人公プリンスの切ないまでの死にっぷりに、世界中で多くのファンを生んだ。筆者もMacintoshに移植されたモノにハマったクチで(ファーストリリースはApple II)、「音楽の勉強のために」と親にねだって買ってもらったMacは、ほぼ「PoP」専用機と化していた。

 そんな「PoP」が3Dになって復活(実際にはPCで発売された「Prince of Persia 3D」に続いて二度目だが……)、しかも、そのPoPを創り出したジョーダン・メックナー氏が脚本、ゲームデザイン、監修を行なっているとあってはプレイしない理由が無い。PCゲーム業界に燦然と輝く伝説のアクションは、プレイステーション 2という新たなプラットフォームを得てどう進化したのだろうか?


■ 多彩なアクション、邪魔にならない演出

 「プリンス・オブ・ペルシャ ~時間の砂~」は、中世の中東アジアを舞台としたアクションゲーム。インドの大臣の策略により流出した永遠の命が手に入るといわれる「時間の砂」を元に戻し、時間の砂でモンスターと化してしまった人々を救うために、ペルシャの王子プリンスとインドのマハラジャの娘ファラが、互いに協力しながら大臣の居る塔を目指す。

 多彩なアクションがウリの本作だが、キャラクタの操作はいたって簡単。左アナログスティックで移動、×ボタンでジャンプ、前転、□ボタンで剣を抜いて攻撃するなどの基本アクションに加え、R1ボタンを併用した特殊アクションが用意されている。例えばR1ボタンを押しながら壁に向かって真っ直ぐ突っ込むと壁を駆け上がり、斜めに突っ込むと壁を走る。また、棒にぶら下がっているときにR1ボタンを押すと大車輪をして、その状態でジャンプすると反動を利用して遠くへ跳ぶ……など、プリンスの状況によって行なえるアクションが変わってくるのだ。

 最初の内は、どのオブジェクトに対してどのようなアクションが行なえるか迷うこともあるが、システム設定で「チュートリアル」をONにしておけば「×ボタンでジャンプしてバーにつかまる」、「R1ボタンを押しながら壁づたいに走り、×ボタンで壁からバーへジャンプする」などといったヘルプが表示される。慣れてくれば、「あっ、ここは飛び移れそうだ」というのが感覚的に分かるようになってくるだろう。

 このアクションがとにかく面白い。壁を駆け上がりそのまま壁を蹴って反対側へ飛んだり、柱から柱へとテンポよく飛び移ったり、棒上で大車輪をしつつひねりを加えて加点を狙ってみたり、3D空間を最大限に活用したアクションを繰り広げられる。また、操作のレスポンスも極めてよく、イメージした通りにアクションしてくれるのもよい。キャラクタの動きに徹底的にこだわってきた「プリンス・オブ・ペルシャ」シリーズの伝統を受け継ぎ、3Dとなることでさらにパワーアップしたという印象だ。

 ところで昨今の3Dゲームでは、ジャンルを問わずハイクォリティCGを使用したムービーや、ポリゴンキャラクタの会話シーンなどを多数盛り込んで、プレーヤーを楽しませようとしている。しかし、時にはその「演出」がわずらわしく感じられることもある。特に「テンポ」を重視するアクションゲームではなおさらのことだろう。本作でもそういったシーンは数多く用意されているが、どれも最低限にとどめているし、プレイの最中にプリンスがモノローグを語ることで、ストーリーの背景をうまく説明している。

 また、ステージが一区切りするごとに用意されているセーブポイントでは、その先のトラップのヒントが断片的に映し出される「ビジョン」というものが用意されている。時間の砂の力による現象というストーリー的なものと、ゲームを進めて行く上で必要な情報の表現をうまく融合させたシステムだ。

 グラフィックのクォリティに関してもかなり高いレベルで、独特の「空気」を感じさせる柔らかな雰囲気で統一されている。この「アラビアン・ナイト」の世界をイメージした雰囲気というのも、シリーズの伝統となっていて、ハードが進化し描画性能が進化することで、旧作をプレイしていたときに頭の中でイメージしていたアラビアンな世界を想像した通りに再現してくれている。まさに、マハラジャの宮殿という箱庭を完全に再現したと言っても過言ではないだろう。しかし、ステージ毎にマップが完全に分断されており、自分が宮殿のどの位置にいるのかが分かり辛いのはもったいないと感じた。ストーリーは基本的に一本道で行ったり来たりする必要は無いため実際のプレイに支障があるわけではないが、例えば全体マップのようなものを表示して、自分がこれまで進んできた道のりを確認できると、より達成感を強く感じられたかもしれない。

独特の「空気」を感じさせる絵作り。どこか「アラビアン・ナイト」を彷彿とさせる雰囲気だ。この雰囲気もシリーズの伝統を受け継いでいる
慣れるまではヘルプを頼りにルートを探そう。腕に自信があるならもちろん最初からOFFで! 「ビジョン」によって先のステージを断片的に確認することが可能。先を見たくなければボタンでキャンセルできる
非常に多くのモーションが用意されており、動かしていて飽きない



■ 「時間のダガー」の力

 本作の大きな特徴として、「ダガー」を使った時間の巻き戻しがある。ストーリー序盤で手に入るダガーを持った状態でL1ボタンを押し続けることにより、画面左上の砂の器を一つ消費してタイムサークル1周分(約10秒)の時間を巻き戻すことができるのだ。これにより、穴の向こう側に飛び移ろうとして失敗したときや、戦闘で敵に大ダメージを受けたときなどに、「やり直し」が可能となった。少し高いところから落ちただけで死んでしまう本作において、やり直しが可能な時間巻き戻しは非常にありがたいシステムといえる。なお、ダガーの力には回数制限があり、ダガーで敵にとどめをさす事で補充する事ができる。

 トラップを回避して進んでいくタイプのアクションゲームの場合「落下死」は必ずつきまとう避けられないもので、失敗する事により解法を見つけていくというものだった。しかし、ミスというのはそれだけでネガティブなイメージを想起してしまい、同じところで何度も死んでしまうことによって、プレイを続ける気をそがれてしまうという危険性もあった。それが、死ぬことなくやり直しが可能なこのシステムによって、ネガティブなイメージを感じさせることなく失敗した場所に再挑戦できるようになった。比較的敷居の高い3Dアクションゲームを手軽に遊べる位置まで下げ、なおかつ従来のアクションゲームファンにも物足りなさを感じさせない程度の難易度を保っているという点で、この「時間巻き戻し」は非常に有効なシステムとなっている。もちろん「死ぬことで覚えるのが面白い」と感じるならば、「時間巻き戻し」を使わなければいいだけで、それはプレーヤーのプレイスタイル次第で選択できる。

 ただ、勿体ないのはミスのパターンが基本的に落下(と戦闘)のみとなってしまっている点。シリーズの伝統として、凶悪なトラップの数々による一撃死の恐怖というものがあり、その緊張感がプレイにより没頭させてくれていた。今回もトラップは残っているが、ダメージを受けるのみにとどまっているし、その点では「普通の」アクションゲームになってしまったなという残念な思いが少しある。だがこれは、トラップによる死の恐怖よりも進行ルートを見つける楽しさをより重視した結果だと思われるし、その試みは成功していると感じた。

 戦闘シーンでは「力の器」の力を使い周りの動きを遅くする「フリーズ」や、周囲の時間を完全に停止させ、高速で移動して敵を消滅させる「メガフリーズ」を使用することが可能。特に敵に囲まれた状態での「メガフリーズ」はその演出とあいまって非常にカッコイイものとなっている。その爽快感はぜひともプレイしてその目で確かめてみて欲しい。

失敗して落下してしまっても、ダガーの力で時間を元に戻す事で再びやり直しを行なえる。このシステムのおかげで怪しい場所へ失敗を恐れずトライすることが可能
フリーズによって周囲の動きが遅くなった状態。画面にもやがかかったような表現となる メガフリーズは力の器が満タンの状態からでないと発動できず、発動後は力の器をすべて消費してしまう。しかし、制約に見合った力を持っている



■ 頭を使う謎解きの数々

 プリンスの進む道は困難を極めている。柱を飛び移っていったり、壁のヘリを伝っていくなど、「本当にこんなところを進めるのだろうか」という場所をどんどん進んでいかなければならない。

 狭い通路を進んでいくときにはそれほど悩むことも無いのだが、広い部屋で上へ上がらなければならないときなど、どこをどう進めば分からなくなることもしばしば。そこで、ステージ全体をよく見てつかまれそうな場所、飛び移れそうな場所を注意深く探索する必要がある。この、「進むべき道が見つけられないもどかしさ」や「ルートを発見したときの喜び」は、最近の戦闘のカタルシスを最重要視したアクションゲームにはあまり無いものではないだろうか。

 ステージをクリアするにあたって必要な技術の要求度もよく考えられている。崩れ落ちる床を走り抜けてそのまま壁を走り、壁を蹴ってスイッチを踏み足場を出現させ、その足場を利用して壁を駆け上がり、さらに壁を蹴って反対側にあるはしごに到達する……こういった、言葉でだけ説明すると一見無茶なアクションも、序盤からプレイを続けていけば自然とできるようになる。

 この、難易度のバランス調整は開発者の頭を悩ませるところだろうが、非常にうまい落とし所を見つけていると感じた。これは、操作のレスポンスのみならずマップのデザインも非常に重要で、そのデザインが秀逸だからこそ、ストレスをほとんど感じることなくプレイを続けられるのだろう。

 こういったマップデザインの秀逸さや解法に対する難易度上昇のバランスなどもまた「プリンス・オブ・ペルシャ」シリーズの伝統で、この点へのこだわりもまたシリーズの血を色濃く受け継いだものとなっている。

R2ボタンを押す事で一人称視点に。周囲を見回して移動できそうな場所を探す
L2ボタンでは逆に遠方視点に。マップ全体を把握するのに役立つ 危険な場所をものともせず突き進んでいく王子。まるで軽業師のようだ



■ 簡単操作で迫力の戦闘シーン

 戦闘シーンでは、時間の砂によってモンスターと化してしまった人々と戦うこととなる。斬撃を繰り返してダウンを奪い、ダガーの力でとどめを差すというのが基本的な流れ。敵の頭上を飛び越したり、壁を蹴って後ろに回り込んだり、敵の斬撃を弾きつつ連続攻撃を決めたりと、戦闘でも非常に多くのモーションが用意されており、3D空間を最大限に利用して暴れ回ることができる。また、敵を飛び越すときや壁を蹴りつつ剣を構え相手に突進するときなどに、カメラワークが変化し若干スローモーションのようになる。こういった演出も邪魔になるほどではなく、プレイのアクセントとして優れている。

 本作ではほとんどが1対多での戦闘となる。基本的には近くの敵をオートロックし、ロックした敵を中心に移動するのだが、アナログスティックを任意の方向に倒す事でいつでも倒した方の敵への攻撃や任意の方向への回避が可能。ロック切り換えなどのわずらわしい操作を必要とせずに、一体の敵に切りつけてひるませつつ後ろから迫ってきている敵の頭上を飛び越えて背後から切りつける、といった映画さながらのアクションを手軽に行なうことができるのだ。

 ただ、敵のガードが硬くどうしても頭上飛び越しを多用することとなり、いささか単調になりがちな印象を受けた。中盤以降では飛び越しを叩き落としてくる敵も登場するが、壁を蹴って飛び越すことで叩き落としを簡単に回避することができる。無論、飛び越しを多用して戦ってもモーションの豊富さから十分楽しめるし、ガードしながら敵の攻撃に合わせて攻撃ボタンを押す事で繰り出せるカウンターによって動きにメリハリをつけることができるが、「必然」としてもっとバリエーション豊富な戦闘を楽しみたかったといったら要求しすぎだろうか。

 この戦闘のバリエーションの豊富さや楽しさは、これまでのシリーズの相手の攻撃を弾くか斬りつけるかしか無かったいささか単調だったものから大きく進化し、「プリンス・オブ・ペルシャ」シリーズの新たな一面を見せてくれている。とはいえ、前述のように不満が全く無いわけではないので、そのあたりは海外ですでに発表されている続編でのさらなる進化に期待したい。

敵の後ろに回り込んで斬撃を放つ王子。複雑なアクションもワンボタンで簡単に繰り出せる
ダガーの力で敵の動きを止めることもできる。囲まれたときに特に有効な手段 戦闘で負った傷は水を飲んで回復する。噴水の水・風呂の水など何でもOK。たくましい王子様だ



■ 再び「伝説」は生まれたか

 グラフィックのクォリティ、操作の楽しさ、謎解きの充足感、どれを取っても高いレベルでまとまっている本作。ステージを進めて行くことの純粋な楽しさや独特の世界観、動きへのこだわりなど、シリーズの伝統はキッチリと受け継ぎつつ、3Dというフィールドを得て新たなステップへと昇りつつある印象はある。その点では初代「PoP」のファンは新たな「プリンス・オブ・ペルシャ」の世界を楽しめるし、旧作を知らない人にも「プリンス・オブ・ペルシャ」という作品のイメージをつかんでもらうことができるだろう。

 ただ今作は、アクションゲームとして十分満足できるだけのクォリティには達しているが、どれもが「そつなく」まとまってしまっている点が少し気になった。

 無論、時代が違いプレーヤー層も違うため、ニーズが変わってくるのは当然。今のニーズにもマッチしているという点に関しては間違いないと断言できる。事実、海外では様々な賞を受賞しており(受賞歴の詳細は公式サイトで確認できる)、それだけの高い評価を受けていることもその証明だろう。

 ただ、こと初代「PoP」にあったような「とんがった」感覚を期待する向きには今作は少々物足りない気もする。「プリンス・オブ・ペルシャ」の名を冠するならば、何かヒリヒリするような緊張感を感じさせるモノであって欲しかったというのは初代ファンのわがままだろうか。

 なお、ステージのどこかに全ステージ完全収録の初代「PoP」が隠されている。当時を知る人は懐かしんでプレイし、知らない人はその理不尽なまでの難易度とトラップをうまく回避できたときの喜びをぜひ一度体験して欲しい。

常に死と隣り合わせの初代「PoP」。この緊張感や死にっぷりこそが「PoP」の本質だと言う人も多いのではないだろうか


(C)2004 Ubisoft Entertainment. Based on Price of Persia created by Jordan Mechner. All Rights Reserved. Ubisoft and the Ubisoft logo are trademarks of Ubisoft Entertainment in the U.S. and/or other countries. Prince of Persia and Prince of Persia The Sands of Time are trademarks of Jordan Mechner used under license by Ubisoft Entertainment.

□ソニー・コンピュータエンタテインメントのホームページ
http://www.playstation.jp/
□Ubisoft Entertainmentのホームページ
http://www.ubi.com/
□「プリンス・オブ・ペルシャ ~時間の砂~」のページ
http://www.playstation.jp/scej/title/persia/
□関連情報
【8月10日】SCEJ、「プリンス・オブ・ペルシャ ~時間の砂~」
初代の攻略マップが付く予約キャンペーン実施
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040810/persia.htm
【4月23日】SCEJ、PS2「プリンス・オブ・ペルシャ ~時間の砂~」
4月28日から全国店頭で体験版を無料配布
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040423/prince.htm
【4月2日】SCEJ、Ubisoft開発の名作アクションを今夏発売
PS2「プリンス・オブ・ペルシャ ~時間の砂~」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040402/prince.htm

(2004年9月29日)

[Reported by 黒鉄タカスエ]


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